表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第15章:同盟会談
418/527

セレスの特訓

「おぉう、とんでもないな……」


 地下闘技場はまるで地獄のような有様だった。凄まじい暴風が吹き荒れる音が絶えず響き渡り、アリーナどころか屋内通路にまでその余波が来てる。位置的には屋内かつ闘技場の端にも拘わらず、吹っ飛ばされそうに思えてちょっと身構えるくらいの風が身体を襲ってくるよ。

 隣を見れば一緒についてきたレーンの銀髪と狐耳も滅茶苦茶になびいてるし、ローブが捲れそうになってるのを必死に手で押さえてる感じだ。別に恥ずかしそうにはしてないんだが……捲れそうになるスカートを押さえる子って、どうしてこんなにエロく感じるんだろうね?


「んー、この調子だと上手く行ってない感じかな?」

「これは、凄まじいね……」


 自分とレーンを結界で包んで暴風をシャットアウトすると、滅茶苦茶になびいてたローブや髪の動きが収まる。

 しかしお礼を言われる事は無く、代わりにどこか期待と好奇心に輝いた瞳がアリーナの方に釘付けになってたよ。僕よりセレスが良いってか! 焼きもち妬いちゃうぞ、この野郎!

 なにはともあれ暴風が平気になった僕たちは、その発生源へ悠々と歩みを進めて行った。中心はもちろんだだっぴろいアリーナの中央。近付くにつれて耳をつんざく風の音がより激しくなり、アリーナの地面を全て抉る勢いで土砂が舞い上がり渦巻いてるのが目に入る。相変わらず自然破壊の化身みたいな破壊力してんな?


「むーん……!」


 その地獄絵図とアリーナの中央にいるのは、皆ご存じセレス。

 そこだけ無風地帯かつ安全な場所になってるから、鮮やかな緑髪や衣服が風になびく事は無い。暴風に抉られた地面もここだけは手付かずだから、何かお立ち台みたいになってるよ。

 おかげでセレスは何も気にせず集中できるようで、座禅を組んで瞳を閉じて難しい顔で唸ってた。この嵐を上手く制御しようと頑張ってるんだけど、上手く行ってないのは周囲の惨状で一目で分かるね?


「やっほ、セレス。調子はどうよ?」

「わっ、クルスくん!? びっくりした!」


 周囲の風の音だけを魔法で消してから声をかけると、セレスは驚きのあまり飛び上がった。セレスはミニスカートだし、お立ち台みたいになってる所にいたから、しっかりパンツが見えました。今日は黒か……。


「ごめんごめん。集中してて聞こえて無さそうだったから。でも見た感じ、集中してても駄目っぽいね?」

「うん……どうしてもこの暴風を保ったまま範囲を狭めたり、特定の場所だけ凪にするなんて器用な事は出来ないんだ。そうすると何かそよ風みたいになっちゃうし……」


 セレスが悲しげな顔で僕らの方に指を向けると、途端に周囲を暴虐してた大嵐が消失する。

 いや、消失はしてないな? 音を消してるから分かりにくいだけで、扇風機の『弱』の一割くらいの風が吹いてるわ。こんなもの凧揚げにも使えんよ。


「なるほど。話には聞いていたが、実に興味深いね。トラウマの克服による力の獲得か。恐らく君の中で『大嵐』とは『こういう物』と形が完全に定まってしまっているのだろう。故にその形から逸脱しようとすればするほど、大いに劣化してしまうというわけだ。これを自由に扱えるようにするのは簡単な事では無いね」

「うん、そんな感じかな。でも今まで訓練が出来なかっただけだから、こうして毎日続けてれば少しは上手く行くかも――あっ、駄目だぁ……!」


 セレスがちょっと気を抜いた途端、再び猛烈な暴風が生み出され、さっきまでの地獄絵図が戻ってくる。そよ風か台風しか搭載してない扇風機かな? せめてその中間があればねぇ。いや、その中間だったらわざわざこの魔法に頼らず、普通に風の魔法を使った方がコスパも良さそう。本当に扱いが難しいな……。


「うぅ……クルスくんの役に立つためにも、この力を使いこなしたいのに……」

「こんな男に健気だね、君は……」


 ちょっと涙目になって大嵐を一旦消し去るセレスに対し、呆れたような物言いをするレーンさん。

 まあ確かに僕も健気だとは思うけど、意外とセレスもヤバい子じゃない? ちょっと見かけただけの僕を尾行するストーカー気質があったし、サンドイッチに何かを混入させるヤンデレ疑惑もあったしね。

 あと今現在、僕にスカートの中が見えてる事に気付いてて隠そうとしてないな。ちょっと頬を赤くしてむしろ膝を開いてるぞ、この女……。


「健気だと思うなら何か指導してやってよ。このままじゃ味方諸共吹っ飛ばすだけで、全く使い物にならない奥の手にしかならんぞ」

「指導しろと言われてもね。自分が持っていない才能に対して、偉そうにアドバイス出来るほど厚顔無恥では無いよ。むしろ君がアドバイスをしてあげたまえ。君の世界の知識か何かで」

「ううっ、お願いしますぅ……!」

「うーん、そう言われてもなぁ……」


 涙目でパンツをチラ見せしつつお願いしてくるセレスにムラっとしつつ、何かいいアドバイスが出来ないか一応考える。

 もしセレスがこの魔法をある程度自由に扱えるようになったなら、邪神一派の戦力は爆増だからね。出来れば是非ともそうなって欲しいんだが、なかなか難しそうだなぁ……。


「……そもそもの話なんだけど、セレスは範囲を狭めたり部分的に安全な場所を作ろうとして、何を考えてどのようにやってるの?」

「えっ? それはこう『狭まれー!』とか『ここは安全になれー!』くらいの事だけど?」


 んー、なるほど。滅茶苦茶曖昧な事イメージしてんな?

 でも無意識に風を起こす程のレベルで風を操るのが得意なセレスだし、普段はその程度のイメージでも大丈夫なのかもしれない。このマップ兵器の大嵐にはそれじゃ駄目なだけで。


「よし、じゃあアレだ。発想を変えてみよう。嵐を圧縮して更に強めて、その結果として範囲を狭めるんだ。それなら出来る?」

「あ、圧縮して強める? そんな事して大丈夫かな?」

「どうせ今のままじゃチームプレイには使えないし、もっと酷い有様になっても変わらないよ。ほら、試してみて?」

「わ、分かった。じゃあやってみるね――フィアフル・ストームっ!」


 ちょっと光明が見えた気分なのか、比較的明るい表情で再び大嵐を生み出すセレス。もう地下闘技場は観客席も含めて滅茶苦茶だ。何で皆して地下闘技場を一番使ってんのかな? たぶん一日に十回以上は使われてるし、大体毎回どこかしら破壊されてるからね?


「むむむ……!」

「確かにこれを外で訓練するのは無理があるね。自然災害そのものじゃないか」


 難しい顔をして唸り集中するセレスを前に、レーンが尤もなツッコミを入れる。こんなもの外で使ったら最早テロだよ。これを練習するにはそれこそ遥か彼方の無人島みたいな人のいない場所か、この地下闘技場みたいな隔絶された広い空間が必要だ。


「くおおぉぉぉぉっ……!」

「おっ、風が更に強まった」

「どうやら範囲も狭まったようだ。彼女、なかなかやるね」


 どうやら成功したようで、暴風が体感二割くらい強さを増した。同時に範囲も狭まり、方向性は間違ってない事が証明された。まあセレスは相当無理をしたみたいで、頬や額に汗をかいてたけどね。


「――出来た! 出来たよ、クルスくん!」


 手応えもしっかりあったみたいで、セレスはお立ち台から飛び降り僕に抱き着いて喜びを露わにしてきた。あっ、汗かいてるせいでメスの匂いが凄い……!

 またしてもムラムラ来たけど、さすがに馬鹿みたいな大嵐の中で行為に走る程イカれてはいない。それに何より、護衛ミッションに備えて色々準備しないといけないからね。夜はともかく、まだ明るい時分からそんな行為に耽る余裕は無いよ。

 だから僕はあくまでも普通にセレスを抱き返し、ぽんぽんと軽く頭を撫でてあげた。


「おめでとう、セレス。それじゃあ後は剣の形と大きさにまで圧縮しような」

「えっ」

「ほう……」


 そして、理想の形を伝えて更なる頑張りを求めた。

 さすがにこれにはセレスも呆気にとられたような声を零して笑顔を忘れてたよ。レーンは興味深そうにしてたけど。

 まあほんのちょっと圧縮するのに汗かくほど集中してたし無理も無いよね。でもそこまで難しいとは思えないんだよなぁ。無人島で僕と戦った時は似たような事してたし。とはいえあれは上方向にめっちゃ長かったし、愛憎が反転した事で意志力に補正でも入ってたんだろうけど。


「それが出来ればセレスは滅茶苦茶強くなれるぞ。何せあの大嵐を圧縮した剣を振るって戦うんだ。破壊力なんか想像もつかないね?」

「あの大嵐が剣の大きさにまで圧縮される……それが叶った時、君が得られる力は莫大な物となるだろうね。たったの一振りに凝縮された大自然の脅威。その力が振るわれた時の事を考えると、恐怖で身震いしてしまうよ。是非とも頑張ってくれたまえ」


 無茶苦茶言ってると理解してる僕と、その辺は度外視してただ好奇心に身を任せてるレーン。二人の異常者に猛烈な期待を寄せられ無茶ぶりをされ、セレスはちょっと泣きそうになってたよ。


「が、頑張るよぉ……!」


 しかしそこは攻撃力全振りの恋する乙女。僕の期待に応えようと、涙目になりながらも必死に笑顔を浮かべて応えてくれたよ。その反応に正直ちょっと興奮しました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ