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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第15章:同盟会談
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会談に向けて

「お、そろそろ始まるな?」


 三人の馬鹿の誤解を解いたりして時間を潰してると、いつのまにか王様同士の対談の時間になってた。

 お互いにデカい水晶玉みたいな魔道具を手にした魔将と大天使が進み出て、一定の距離で足を止める。その背後にはそれぞれの兵士たちが完全武装で待機。物々しい雰囲気が広がってて、何だかお肌がピリピリしちゃう。


「ここから争いの無い平和な世界が生まれるのかな? 何かドキドキするね!」

「やれやれ、小娘は楽観的だな~? ご破算になる可能性だってあるだろ~?」

「大丈夫! そうなったらまたご主人様がねちねち苛めるだけだもん!」


 ただし見えない見学者である僕らの空気はゆるゆるだ。まるでこれから始まる映画を楽しみにしてる感じの空気だよ。

 しかも壁際に座ってる僕の左右にトゥーラとセレスが腰かけ、それぞれ僕の腕をぎゅっと抱き込む形でくっついてるんだわ。そして膝の上にはリア。正直メチャメチャくっつかれてて暑くて煩わしいけど、両の二の腕に伝わってくる柔らかな感触で黙らされてる感じ。コイツら分かっててやってんじゃねぇかな……?

 なんて考えてると、対談の場に動きあり。竜人魔将の方が魔道具をポイっと空中に投げたかと思えば、それが大体地上三メートルくらいの位置に浮遊する。そして真下に向けて赤い光を照射し、円錐形の謎の空間を作り出す。

 対する痴女大天使の方も魔道具をポイっと放るも、こちらは突然浮かび上がったりはしない。代わりにその場で浮遊したかと思えば、真ん中から二つに分かれて左右に広がる。そして間の空間に向けて二つの半球が青白い光を照射。こちらも謎の空間を作り出す。

 何だなんだと思って見てたら、まずは青白い光の中に一人の男が現れた。霊体みたいに透けて見える辺り、あれは立体映像の投影装置って感じかな? 無限の魔力を持たない奴らはそんな方式取らないとビデオ通話みたいな事も出来ないんだね。可哀そう……。


『まずは初めましてかな? 俺様の名はゼクス。ほんの少し前に親父を玉座から引き摺り下ろして、出来た兄様たちを脅して無理やり即位したばかりのケツの青い王様さ。だから無礼なのは多少大目に見て貰えると嬉しいね?』


 青白い光の中でヘラヘラ笑いながらそんな事をのたまうのは、王位を簒奪した元・第三王子。どう見ても遊び人が大層な衣装を着こんで王冠被ってるコスプレ染みた姿にしか見えないが、顔はイケメンなのが腹立つ。


『……一体どういう風の吹き回しだ? 勇者とかいうアホみてぇなもんを送り続けてきたテメェらが、停戦だの同盟だの。一体何を企んでやがる?』


 次いで赤い光の中に現れたのは、イケメン遊び人とは対照的な筋肉の塊。豪華な衣装や装飾品、マントなどを身に着けて、これぞ魔王って感じの威圧感ある様相だ。ぶっちゃけ衣装が窮屈そうに見えなくも無い。

 そんな魔王の凶悪なツラは、現在もの凄い疑念と敵対心に歪んでる。まあそれも当然か。使い捨ての生体兵器を散々送り込んできた相手が、ここに来て突然『同盟結ぼうぜ!』なんて言ってきてるんだもん。むしろよく対談に応じたって感じだよ。


『別に何も企んじゃいねぇさ。ただこのままだと俺らの国だけじゃなく世界がマズイって事で、邪神の件が片付くまでは手を結んだ方が良いんじゃねぇかって思ったわけよ』

『手を結ぶ? テメェらが、俺達と? ふざけた事抜かすな。誰がテメェらみてぇな屑と同盟なんて結ぶかよ』

『んじゃ、このお話はおしまいだな。あんたの可愛い娘さん、助け出せる事を祈ってるぜ? じゃあな』


 元々断られる事は想定してたみたいで、聖人族の新たな王であるゼクスはあっさりと引き下がる。今も地獄の苦しみを味わってるであろう魔王の娘の無事を祈りつつ。そうしてこの話は終わりって感じに背を向け、青い光の中から消えようとして――


『……チッ、待ちやがれ』

『お、どうした?』


 それを他ならぬ魔王に呼び止められ、ひょこっと顔を出してしたり顔。何か滅茶苦茶腹立つな、コイツ。玉座に据えるならもっとまともな奴いなかったのぉ……?


『話だけは、聞いてやる。さっさと続けろ』


 愛する娘の事を引き合いに出されては、さしもの魔王も一蹴するわけには行かなくなったらしい。何か滅茶苦茶溺愛してるらしいしね。そんな奴が自分の娘を助け出せる可能性を無視できるわけが無いでしょ。

 ていうかもしもここで蹴ってたら、可愛い娘の公開触手凌辱映像を全世界に無修正で配信する所だったよ。感情のままに行動しなくて良かったね、魔王?


『話っつっても、さっき言った事が全てなんだよ。邪神をぶっ倒すまでは手を組もうぜ、って感じのな。お互い本能で生きてるだけの下等な獣じゃねぇんだ。それくらいはできるだろ?』

『ハッ。散々俺たちを畜生だの何だの見下してきたテメェらが、どの口でそれを抜かしてやがる。一体何様のつもりだ、テメェ?』

『何様っつったら王様よ。つーかそれこそお互い様じゃね? あんたたちもどうせ捕まえた天使使って色々やってたんだろ?』

『チッ……!』


 脳筋らしく舌戦は不得意みたいで、言い負かされた魔王は一つ舌打ちする。

 実際色々やってたもんね。捕まえた天使を孕ませて産ませてを繰り返して、洗脳教育や拷問教育の果てに種別の違う奴隷を作り出したりしてさ。まあその聖人族牧場は僕が潰したからもう無いけどね。過剰な量のエクス・マキナを送り込んで物量で圧殺しました。


『本人たちからすればたまったもんじゃねぇだろうけど、お互いその辺は水に流そうや。ガキじゃあるまいし、いつまでも過去の事引きずって前に進めないとかダサいぜ? 世界が滅びてから後悔しても遅いだろ?』


 尤もな事を言うゼクスに、僕は少し感心したね。自分の同胞が人権も尊厳も踏みにじられてるのに、多数を救うためにそいつらは無視する。思ったよりも上に立つ者の気概があるじゃないか。支配者ポイントプラス三十点。


『……一つだけ、聞かせろ。テメェは何のために王になった?』

『そんなもん国も世界もヤベーからに決まってんだろうがよ。そりゃあ親父らがまともな判断下せんなら、わざわざドラ息子の俺様が王位を簒奪するまでもなかったぜ? けど話聞いてりゃどいつもこいつも魔獣族憎しで現実見えてねぇし、こいつらに任せてたら駄目だって思ったわけよ。俺様はその辺の視点は腐ってねぇし、仮にも王族として生まれて甘い汁啜ってきた身ってのもあるからな。やっぱこういう時には責務を果たすくらいの甲斐性は見せないとならんわけよ』


 魔王に問われ、信念とかそういうのは欠片も無い発言を口にするゼクス。

 うーん、コイツ王で大丈夫? でも先を見据える事は出来てるし、自身の感情より国と国民の安寧を優先出来てるし、ギリギリ及第点って所かな? 前の王が酷すぎただけな気もするが。地味に責任感だけはありそうだしね。


『それにほら、王様になれば今までよりも派手に女の子と楽しめそうってのもあるし? むしろ跡継ぎを作るために合法的に何人も抱けるとか最高じゃん?』

『……ケッ。仮にも王とは思えねぇくらいの俗物だな』


 おっと、魔王と同じ感想を抱いちゃったぞ? ていうかやっぱそこなのね。この発情期の猿がよぉ? コイツ平和になったら魔獣族もたっぷり抱きそうだな……。


『こんな俗物でも玉座に付かないと駄目なくらい、世界の現状がヤバいって事よ。んで? そちらさんは停戦と同盟に関してどう思う?』

『………………』


 魔王は腕を組んで目を閉じたかと思えば、背を向けて一旦光の外に消える。たぶん投影範囲外に出て、嫁とでも話してるんでしょ。何か魔王にはうちのレーンと似た感じの嫁がいるらしいよ。策謀奸計はお手の物っていう、なかなかの曲者だとか。魔王が脳筋だからそれを支える奴が必要ってわけだね。理に適ってる。


『……良いぜ。邪神とか言うクソ野郎をぶっ殺せるってんなら、テメェらと手を結んでやろうじゃねぇか』


 しばらくして、赤い光の中に魔王が戻ってくる。僕にとっても実に喜ばしい答えと共に。

 絶対何か含みがあるのは、その嫌らしい笑みを見れば一目瞭然だけどね。まあ表向きでも手を結んでくれるだけマシだよ。どうせ聖人族も似たような感じだろうし。


『おおっ、話の分かる奴で嬉しいねぇ。そんじゃまあ、魔道具越しじゃあカッコが付かねぇし? 直接会って話をする場所と機会を決めようじゃないの』

『良いのか? 顔を合わせた途端に俺がお前をぶち殺すかもしれないぜ?』

『やれるもんなやると良いさ。そうなりゃ遅かれ早かれ、お前さんの国も邪神に滅ぼされるまでだ』


 そうして二人の王様はヒヤヒヤするような挑発や牽制を挟みつつ、真なる対談のために話を進めてく。今まで敵対してた国同士が同盟を結ぶっていう超重要な内容の会談で、直接顔を突き合わせないとかさすがにありえないもんね。

 何にせよ特に目立った衝突も無く、無事に前座の部分は終わりそうだ。問題は本番である直接の対談だなぁ……。


「うんうん、良い感じに話が進んで嬉しいよ。邪神として働いてきた数々の悪行とその苦労が、これでようやく報われるなぁ……!」

「ご主人様、今までずっと頑張ってたもんね。みんなご主人様のおかげ! えらいえらい!」


 感動で涙を零す真似をしてみると、リアは膝の上から振り返って僕の頭をナデナデしてくれる。わぁい、ありがとう。

 もう本当に頑張りが報われて良かったよ。一体何度焼き払ったり大洪水を起こして全てを滅ぼそうと思った事か……。


「でも、本当に同盟なんて結んで大丈夫かなぁ? 大半の人は敵種族が憎くて堪らないって感じだし、国民からの反発が凄そう……」

「特に魔獣族は『力』を重視する傾向があるからね~。同盟などと言う惰弱な選択をした魔王を認めぬ者たちが、この機に乗じて新たな魔王になろうと色々仕掛けるんじゃないかい~?」


 僕の二の腕を相変わらず柔らかな膨らみでロックしつつ、まともに世情を予想するセレスとトゥーラ。

 それが困るんだよなぁ。こっちはさっさと手を結んで邪神を倒すために心を合わせて欲しいのに、敵種族への敵意の根が深いからなぁ。まかり間違ってトップが変わったら同盟もご破算。再び戦乱の世に逆戻り……僕、そんなのヤ!


「まあ向こうもそれは分かってるだろうし、発表はギリギリまでしないか同盟締結後に事後承諾の形にするでしょ。それこそ万が一の際は力で黙らせたりするかもしれないし。とにかく話が終わるまで僕らも大人しく聞いてようや」

「うーん。リア、何だかちょっと飽きてきたー。お散歩行ってくるねー?」

「はいはい、魔獣族の砦の方は行かないようにね。そっちにはサキュバスいるかもしれないから」

「はーい」


 お子様なリアは話に飽きたみたいで、僕の膝から離れるとポテポテ歩いて聖人族の砦の方に散歩に行った。少し心配だけど、サキュバスさえいなけりゃたぶん大丈夫でしょ。

 そんな事より、さっきまでリアが乗ってた僕の膝の上が自由席になったわけで……。


「……クルスくんの膝の上! あたしがもーらいっ!」

「させるか小娘~! そこは私の特等席だ~っ!」

「キャッ!?」

「んが~っ!?」

「何やってんだお前らは……」


 二人してそこを奪おうとして飛び込み、互いの額をぶつけ合ってそのままダブルノックダウンするアホ二人。

 何だろな、このシベリアンハスキーを二匹飼ってるような気分は……。

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