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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第2章:勇者と奴隷と殺人鬼
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突然の決闘

 レーン先生と秘密の課外授業をするために、僕らは街の外に出た。

 座学は自習になったけど置いてかれるのが嫌だったのか、リアも普通についてきたよ。せっかくの先生とのイケナイ秘密の課外授業が、幼女連れてるせいで遠足みたいな感じになっちゃったじゃないか、全く……。


「では改めてルールの確認だ。一撃でも決定打を受ければその時点で敗北。お互い、相手に直接効果を及ぼす魔法は使用禁止。これで構わないね?」


 場所はだだっ広い草原。僕の目の前に立つレーンは全身から闘志を迸らせながら、ここに来るまでに話し合って決めたルールを改めて口にしてくる。

 過剰な威力の攻撃は禁止ってルールが無いのは、僕らには完璧な防御魔法がかけてあるから。レーンが考えて僕が張った、愛の共同作業による結界魔法のことね。考えられ得る限りの魔法や攻撃を防ぐのは実験済みだから、その辺りの心配は無いよ。むしろこういう決闘では遠慮なく殺す気でやれるから安心だね。


「もちろん。あ、そうだ。せっかくだから負けた方は勝った方の言う事を何でも一つ聞く、っていうペナルティを設けるのはどうかな? やる気がでるでしょ?」

「構わないよ。では私が勝利した暁には、君は私に大量の魔石をプレゼントしてくれ。工夫をせずともほぼ何でもできる君なら、それくらい容易い事だろう?」

「凄い欲が透けて見える上に、だいぶ根に持ってるぞ、コイツ……」


 せっかくの決闘だからそんなルールを追加したら、物欲塗れの答えと不機嫌そうな睨みが返ってきた。

 というか今思い出したけど、自然の魔力は使えないのに魔石の魔力は使えるんだね。実際この前殺ったあの冒険者の女の子――いかん、名前忘れた。とにかくこの世界で初詠唱聞かせてくれた子が使ってたし。

 まあその辺の疑問は後で聞けばいいや。今重要なのは僕が勝った時に何を命令するかだ。と言ってもそんなの決まりきってるがな!


「じゃあ僕が勝ったらお前の処女を頂くってことでよろしく」

「そんな願いを口にする君に、欲がどうこう言われたくないよ……」


 物欲塗れの要求をしてきた癖に、性欲に塗れた要求に対してどこかげんなりした顔をするレーン。どっちも同じ欲求じゃないか。一体何の違いがあるっていうんだ。


「カルナちゃん頑張れー! ご主人様なんかボコボコにしちゃえー!」


 僕らについてきたリアは、ちょっと離れた所で何故かレーンだけを応援してる。

 両手を振り上げて可愛らしい踊りを踊りながら応援の言葉を口にする姿は、正直凄く可愛いね。チアガールが持ってるポンポンを幻視しそうなくらいだよ。でもさ、普通はご主人様を応援するよね?


「ちょっとそこの奴隷、命令だ。僕を応援しろ」

「うっ……ご、ご主人様、頑張れー! 負けないでー!」

「やれやれ、大人げないね……」


 ちょっとイラっと来たから命令を出すと、リアは引き攣った笑顔を浮かべながら僕を応援し始めた。

 うーん、やっておいてなんだけど何か違う。魔法で無理やり笑顔にして強制的に僕を応援させるのは、やっぱり何かが違う気がする……。

 いまいち心に響かなかったから命令を取り消した後、僕は決闘に備えて最終準備に入った。まあ準備って言っても短剣を抜いて、自分の時間を弄るだけなんだけどさ。今回は通常時の三倍から五倍……いや、十倍くらいに反射神経を加速しておこう。

 えっ、幾ら何でも卑怯だって? バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ。そもそも僕は自分自身の時間を操れる力を持ってること、レーンにもリアにも話してないしね。バレる要素がそもそもないわ。クックック……。 


「さて、それでは始めようか。準備はいいかい?」


 準備を終えて尋ねてくるレーンの装いは、普段と特に変わらない魔術師のローブ姿。だけど手にしてる獲物が一つだけ違う。右手にはいつもの杖を持ってるけど、左手には古ぼけた革表紙のデカい本を抱えてた。たぶんこれに魔法陣を色々と仕込んであるんだと思う。

 ていうか鈍器にできそうなくらい分厚いな、オイ! 一ページに魔法陣一個でもかなりの数だぞ、アレ。


「もちろん。絶対ほえ面かかせてやるからなぁ? そして僕が勝利した暁には、後ろからガンガン犯してヒィヒィ言わせてやる!」


 だけど僕は弱気に何てならない。何故って? そりゃ負けても失うものが無いからさ! 向こうは負けたら僕に処女を奪われるがな! 

 でもこんな理不尽な条件を呑む辺り、本当に僕に勝てる自信があるんだと思う。いいね、気の強い女の子は嫌いじゃないよ?


「ふっ。その思い上がりを微塵に砕いてあげるよ。ではリア、合図を頼む」

「はーい! それじゃあこの銀貨が地面に落ちた瞬間から開始だよ!」


 そうして戦闘開始の合図はリアに任せて、僕らはお互いに下がって距離を取る。

 距離は大体五メートルくらいかな? 遠すぎず近すぎず、それでいて若干魔法が有利そうな距離か。まず間違いなくレーンは魔法で攻めてくるね。武装術に関しては興味ないから修めてないっぽいし。

 よし、決めた! ならこっちは接近戦だ! まさか無限の魔力を持つ僕がその利を捨ててインファイトしてくるとは思うまい!


「じゃあいくよー! それっ!」


 可愛い掛け声と共に、リアが銀貨を空に投げた。太陽の光を反射してキラキラ光りながら上がっていった銀貨は、山なりの軌道を描いて僕とレーンの間の空間に落ちてくる。その光景をしっかり見ながら、いつでも飛び出せるように片足を引いて待ち構える。

 今の僕の反射神経は常人の十倍だ。レーンが反応する前にケリをつけるくらい訳ないね。真っすぐ走って行って短剣で斬りつける! これで決まり!


「――速攻で決めてやる!」


 くるくる回って煌めく銀貨がポトッっと地面に落ちたのと同時に、僕は地面を蹴って一気に駆けだした。

 もちろん身体能力を強化する魔法は合図の前からやってるよ。ルールじゃ合図前の魔法は禁止されてなかったしね。しっかりルールを決めない方が悪い。

 フライングは無かったし、たぶん僕が一歩踏み出すまでコンマ一秒も無かったと思う。常人、それも純粋な魔法使いならまだ反応できないはずの時間だ。実際レーンはまだ微動だにしてなかった。


「……甘いね。それで私の意表をついたつもりかい?」


 それなのに、しっかり僕の動きを捉えてるとしか思えない言葉を口にした。しかも何らかの魔法陣を起動してるみたいで、左手に抱えてる書物の中から微かに光が湧き出てる。

 コイツ、完全に反応してやがる! というかその本、開かなくていいの!?

 いや、でも大丈夫だ。僕の反射神経は十倍に加速されてる。どんな魔法だろうと冷静に対処できる――


「はっ!? え、なに、これ!?」


 ――とか思ってた瞬間が僕にもありました。

 いや、だって慌てるのも仕方ないじゃん。突然身体が動かなくなって、その場に停止しちゃったんだからさ。走ってる最中に一時停止受けたみたいな変な恰好で。

 別にそれだけならまだ混乱はしなかったよ? でも僕はあらゆる魔法を防ぐ結界を自分の身体の表面に展開してるから、例えレーンがルールを破って僕の身体に直接作用する魔法を使っても、何の効果も無いはずなんだよ。

 それなのに僕の身体は見事に拘束されてる。待って、何これ。本当にどうやってんの?


「――ライトニング・ボルト」

「ぐはっ!?」


 そして次の瞬間、しかも反射神経を加速してる僕にさえ次の瞬間って表現するしかない速さで、レーンの杖から放たれた光が僕を直撃した。結界のおかげで毛ほども痛くはなかったけど全然反応できなかったよ。

 魔法の名前から察するに、アレは雷とか稲妻ってところかな。そりゃ反射神経十倍程度じゃ捉えられんし反応できんわ。確か銃弾より百倍以上速いんじゃなかったっけ?

 よりにもよってそんな超高速の魔法をチョイスするあたり、レーンの嫌らしさが見て取れるね。全く、これだから頭の切れる女は……好き!


「……私の勝利だ。口ほどにもなかったね。イメージが足りないよ、勇者様?」

「カルナちゃんすごーい! ご主人様よわよわー! 何があったのか良くわかんないけど!」

「いや、正直僕も良く分から――うぐっ」


 身体を拘束してた謎の魔法が消されて、僕は敗北者らしく惨めに地面に倒れ伏す。

 これだよ、この謎の拘束。これさえ無ければ僕が勝ってたはずなのに……というか本当にどうやったんだ、これ……。


「工夫を馬鹿にしてはいけないと、これで君も理解できただろう? 無限の魔力にあぐらをかいていては、思わぬところで足を掬われてしまうよ。イメージと思考を研ぎ澄まし、あらゆる状況に対応できるように自分自身を鍛えるんだね、クルス」


 倒れたまま見上げれば、愉悦の混じった微笑みを浮かべて僕を見下ろすレーンの姿が目に入る。

 くそっ、敗者にアドバイスかけるとか余裕ぶりやがって! このままで終われると思うなよ? こうなったら最後の手段だ!


「はぁ? 何言ってんの、これは三回勝負だよ。一回勝った程度で喜ぶなんて幼稚だなぁ?」


 その名も後出し三回勝負。負けを認めたがらないガキが良くやる手だ。

 プライド? そんなものは家畜にでも食わせておけ! 男にはプライド何て捨て去ってでも、叶えたい夢があるんだ!


「ご主人様の方がもの凄い幼稚だと思う……大人しく負けを認めよう? ね?」

「はぁ……まあ、何となく予想はしていたから構わないよ。ただし私が勝利した暁には、今後私が魔石を求めた時には求めた分だけ提供してもらうとするよ?」


 何だか酷く可哀そうなものを見る目を向けられてるけど、知ったこっちゃないね。レーンを捻じ伏せて勝利する。それが達成できればこんな視線を向けられる心の痛みもすぐに和らぐさ。


「上等だ。僕が勝ったらお前は一生僕の性奴隷にしてやる。転生しても逃がさんから覚悟しとけ」

「こんなご主人様やだー……!」

「やれやれ、仕方ないね。ではもう一度、君に敗北を味わわせてあげよう」


 プライドをかなぐり捨てた事で、二度目のチャンスを掴んだ僕。その代償は大きかったけど、どんな世界でも勝ったものが正義だ。

 だから今度こそレーンの余裕に満ちた自信満々な心をへし折ってやるぜ! 覚悟しろ!


 


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