閑話:妹、襲来! 8
⋇ケーキを食べよう、の巻
⋇性的描写あり
「お待たせしました、ご注文の品です」
「わあぁっ……!」
「では、ごゆっくりどうぞ」
そんな丁寧な言葉と共に、僕の着いてるテーブルにデカいケーキが一ホール丸々置かれる。それを目の前にしたレキの表情は期待と幸福に輝いてて、あまりにも眩しくて目を背けたくなるくらいだった。ヴァンパイアがここにいたら浄化されてたかもしれんな?
それはさておき、今日はド田舎の村娘にケーキを食べさせてあげようとカフェに連れてきてあげたんだ。何か僕とレキを二人きりにするのは怖いからって、ミニスも一緒にね。クソ犬も来たがったけどうるさそうだから置いてきた。
「こ、これ! これ、本当に食べていいの!?」
「もちろん。おかわりもいいぞ!」
「わああああぁぁぁっ……!」
恐らく初めて目にするであろう本格的かつ豪華なケーキ。しかも一ホール丸々という夢のような状態。誕生日にケーキとか作って貰った事はあるかもしれないけど、プロが作ったものかつおかわり自由っていう状況に勝てるわけがない。最早レキの目はケーキに釘付けで、握ってるフォークを投げ捨ててそのまま齧り付くんじゃないかってくらいに大興奮してたよ。
「いただきまーすっ!」
しかしさすがにそこまで知能低下は起こしてなかったみたいで、レキはちゃんとフォークでケーキを食べ始めた。あるいはお義母さんの教育の賜物かな? 意外と厳しいもんね、あの人……。
「……おいしーいっ!」
「それは良かったねぇ?」
口の周りどころか鼻の頭までクリームで汚したレキは、ケーキの美味しさをこれでもかと笑顔で表現する。何故か同意を求めるように僕にもその笑顔を向けて来たから、とりあえずポケットに入ってたハンカチで口周りと鼻の頭を拭ってやったよ。どうせいつから入ってたかも分からんハンカチだし。
「あむあむ、もぐもぐ……!」
汚れを拭われて嬉しそうにしたのも束の間、再びケーキをがっつくレキ。一ホールくらい余裕で行きそうな勢いだなぁ? やっぱ獣人って大食らいなんだろうか?
「……何て言うか、あんたレキにはだいぶ甘くない?」
と、ここで僕の優しい対応を見てたミニスが胡乱気な瞳でそんな風に尋ねてくる。心なしか警戒してるように見えるのは、レキを狙ってるとでも思ってるんだろうか? いや、さすがにリアよりも幼い子にそんな劣情を催すなんて……まあ、イけなくもないが? ぶっちゃけ顔が良くて穴があれば良い的な?
「当たり前だろぉ? 餌付けして僕への好感度を上げておくのは重要じゃないか。確かに僕は手を出さないと約束はしてるけど、レキの方からそれを望んできた場合はその限りじゃないからね。姉妹丼実現のためにも労は惜しまないさ」
「想像以上にクソな事考えてるわね……」
薄汚い性犯罪者を見るような目で吐き捨てるミニスに、思わずちょっとゾクリとくる。
だいぶアレなお話をレキの前で繰り広げるのはどうかと思ったけど、今は美味しいケーキに夢中で何も耳に入ってないっぽい。相変わらず凄い勢いでガツガツと食らってるよ。すでにケーキは三割ほど消滅しました。
「ていうか仮に僕が連れて来なくても、お前が連れてきていっぱい食べさせてあげたでしょうよ。見ろ、この幸せいっぱいの顔を。お前これを見ても甘やかしすぎは良くないなんて言えるのか?」
「いや……それはちょっと、無理ね……」
優しくも厳しい所があるミニスお姉ちゃんも、妹が至福に満ちた笑みでケーキをもぐもぐ食べる姿には勝てないらしい。途端に見た事も無いくらいデレっと表情を崩して、自分の分のケーキはそっちのけでレキを眺めてたよ。
ただレキは五割ほど食べた所で周囲に目を向ける余裕が出てきたみたいで、未だ食べ始めて無いミニスとそもそも注文してない僕を見て目をパチクリさせた。
「……あれ? おねーちゃんたちは食べないの?」
「ううん、もちろんちゃんと食べるわよ。いただきます」
「僕はいいよ、甘い物そんなに好きじゃないし」
「えー!? こんなに美味しいのに!?」
「年を取るとね、甘い物を食べると胸焼けがするんだ……」
「まだ十代の癖に何言ってんのよ、このアホは……」
ウィットに富んだジョークを面白みのないツッコミでぶった切ってくるミニスちゃん。まあ甘い物がそこまで好きじゃないのは確かなんだよ。男ならやっぱ肉でしょ。味の濃い肉と白米があれば無限に戦える。
「でもレキ、おにーちゃんとも一緒に食べたいな……?」
なんて事を考えてると、切ない顔でそんな事をのたまうレキ。さっき拭ったばっかりなのにさっきよりも口周り諸々汚れてるけど、本気で言ってるのは簡単に分かる。
しゃあない、気乗りしないがここは一緒に食べるか。幼女を泣かせるわけにはいかないもんね!
「店員さーん、チョコのショートケーキをお願いしまーす」
「はい、かしこまりましたー!」
「やったっ!」
「……手の平返すの速すぎない?」
はしゃぐレキと、前言撤回の速度が速すぎて呆れ気味のミニス。
そんな事言われても、僕は好感度上げはしっかりとやるタイプだからね。レキが大きくなった時を見据えて、姉妹丼実現のためにしっかり仲良くしないと!
「でも届くのに時間がかかるから、それまではレキが食べているのを一緒に食べたいなぁ?」
「は?」
というわけで更にレキとの仲を深め、なおかつミニスをからかうためにそんな提案を口にしてみた。これにはお姉ちゃんも『何言ってんだコイツ?』みたいな反応してたよ。
とはいえ僕の本性を知らないレキはそんな反応する事も無く、むしろ嬉しそうに頷いてくれた。
「うん、いいよ! じゃあおにーちゃん、あーん!」
「あっ!?」
「あーん」
「ああっ!?」
お姉ちゃんがちょいうるさいけど、気にせずレキが差し出してきたスプーンをぱくり。んー、甘ったるくて吐き気がする。よくもこんなもん大量に食えるな? 糖分が必須栄養素のモンスターか?
「おいしい? おにーちゃん、おいしい?」
「うん、もちろん。レキに食べさせて貰ったから更に美味しいね。じゃあ今度は僕が食べさせてあげよう」
「わーい!」
というわけで、今度はレキからスプーンを受け取って僕が『あーん』をしてあげた。何の疑いも無く雛鳥みたいに口を開けるレキが実に愛しいね? あと絶句して固まってるミニスが心底笑える。
「……美味しい?」
「うん!」
そしてにぱっと邪気の無い笑みを浮かべるレキ。あー、穢れの無い幼女って良いなぁ? 滅茶苦茶に穢して二度と純真に戻れなくしてやりてぇ……。
「ちょっ、おま、何やってんのよ!?」
ここでようやくミニスちゃんが再起動。もう一回レキに『あーん』をしようとした直前、腕をガシっと掴んで止めてきた。
「何って……食べさせあいっこしてるだけだが? ねー?」
「ねー!」
「『ねー?』じゃないわ! 気持ち悪い!」
実際それだけなんだけど、ミニスは心底お気に召さなかったらしい。掴んだ僕の手首を締め上げる勢いで力を込めてきたよ。僕が防御魔法かけてなかったら手首が絞った雑巾みたいになってただろうな……。
とはいえレキから見れば、お姉ちゃんが突然情緒不安定になったようにしか見えない。それが怖かったのかレキは僕にピトっと寄り添い、怯えたような目を向けてきた。
「おにーちゃん、おねーちゃんはどうして怒ってるの……?」
「きっと仲間外れにされて悲しかったんだよ。僕たちだけ食べさせあいっこしてるから。ほら、お姉ちゃんにも食べさせてあげよう?」
「あ、そっか! 分かった! はい、おねーちゃんもあーん!」
「いや、ちが……あ、うーん……あ、あーん……」
純真なレキは僕の言葉を信じて疑わず、渡したフォークでケーキを一欠けら突き刺し、ミニスに向けて満面の笑みで差し出す。これにはミニスも毒気を抜かれ、困ったように視線を彷徨わせた挙句パクリと口にしてたよ。妹に甘いなぁ!?
「おいしい?」
「う、うん、もちろん美味しいわよ?」
「よかった! じゃあ今度はおにーちゃんの番だね!」
「えっ」
そうしてレキは再び僕にフォークをバトンタッチ。目を丸くするミニスを尻目に、僕は渡されたフォークをレキに見えない所でベロリと丹念に舐め上げた。唾液を塗すように嫌らしくね。
もちろんそれを目にしてミニスは頬を歪めてわなわな震え始めたけど、気にせずそのフォークでケーキを一欠けら突き刺してミニスの眼前に持ってったよ。
「はい、ミニス。あーん?」
「だ、誰がそんな事するか! 気持ち悪いっ! 頭おかしいんじゃないの!?」
当然ミニスちゃんはこれを拒否。まあ唾液でベトベトのフォークで『あーん』とか普通は嫌だろうね。僕らは唾液以外の体液も交わす仲とはいえ、ミニスは僕の事大嫌いだし。
とはいえこれは織り込み済みの反応だ。だから拒否された僕はとてもショックを受けたような顔をして、目元を押さえて泣く真似をした。
「そ、そんな……ううっ、酷い。ぐすぐす……」
「おねーちゃん、酷い! どうしておにーちゃんにそんな意地悪するの!?」
純真なレキはわざとらしいクソみたいな泣き真似でも信じてくれて、僕を庇うようにぷんぷんと怒り始めた。もうそれだけで飼い犬に噛まれたみたいな情けない顔してるミニスがマジで笑える。
「ど、どうしてって、そんなの……!」
「仲良くしないと駄目だよ! おねーちゃん、ごめんなさいして!」
しかしレキの手前、僕がクソ外道の畜生だって事は言えない。だからミニスは何も言い返せず、ただただおろおろとしてたよ。愉快だなぁ!
「ぐすん……レロレロレロ……」
なのでレキの後ろで、フォークで突き刺したケーキの欠片にもたっぷりと唾液を塗す。
クソ犬なら尻尾振って喜びそうな唾液コーティングだけど、当然ミニスちゃんがこんなの好むわけがない。こめかみに目に見えて分かるくらいはっきりと青筋を立てて僕を睨んできたよ。
「こ、この野郎……!」
「おねーちゃんっ!」
しかし後ろが見えてないレキは姉がキレそうになってる理由も分からず、さっきよりも強めに嗜める。
これにはミニスもだいぶ堪えたみたいで、ウサミミをしゅんとさせながらにこりと微笑んでくれたよ。こめかみに青筋を立てたまま。
「ご……ごめん、ね? ちょっと、言いすぎたわ? 許して、くれる?」
そして怒りに震えながらのブツ切りの謝罪である。いやー、やっぱミニスちゃんは良い反応してくれるなぁ? これだから苛めるのが楽しいんだわ。
「うーん、どうしようかなー? ちゃんと僕が『あーん』ってしたのを食べてくれたら許してあげるかも?」
僕が笑いつつミニスの口元に近付けるのは、限界まで唾液でコーティングしたケーキの欠片。一瞬ミニスは頬を痙攣させて青筋の数が二つくらい増えたけど、僕の隣にいるのは何も知らず満面の笑みを浮かべたレキ。『これで仲直りだね!』的に喜んでる所に水を差すわけにもいかないよなぁ?
「あ、あーん……!」
予想通り、ミニスは口を開けて僕の唾液塗れケーキをパクリ。クソほど嫌なはずなのに、努めてそんな様子を見せずにもぐもぐと咀嚼。さすがのメンタルだぁ……とはいえ冷静に考えれば頻繁に咥えさせてるフランクフルト(比喩)よりはマシでしょうよ。
「……うん、美味しいわねっ!」
「良かった! これで仲直りだね!」
そうしてこの投げやり気味な食レポである。
まあレキはこれで満足してくれたみたいで、大好きなお姉ちゃんとお兄ちゃんが仲直りした事で嬉しそうに笑ってたよ。うんうん、やっぱりレキがいるとミニス弄りのバリエーションが増えて最高だね!
「これで、許してくれるわよね?」
「そうだね、許してあげるよ。さあ、ここからは三人で食べさせあいっこしようか」
「うん!」
なのでここからは三人で仲良く食べさせあいっこをして楽しみました。僕が唾液塗れにしたのをレキに食べさせようとすると、悔しそうな顔でミニスが横取りしてパクリとするから凄く面白かったよ。そんなに僕と濃厚な間接キスがしたいだなんて、ミニスちゃんはエッチだなぁ?
レキ=ミニスをからかって遊ぶための玩具