閑話:妹、襲来! 5
⋇遂に再会、の巻
ずっと監視してたけど、孤児院への寄付を済ませた後のミニスの行動も、全く以て面白みのないものだった。
ショッピングに行ったから無駄遣いでもするのかと思いきや、故郷の家族に贈るプレゼントとかお土産的なものしか買わない。物欲が無くても食欲くらいはあるだろって思っても、たまに屋台か何かで少しだけ買う程度で、暴飲暴食のぼの字も出さない。あまりにも品行方正が過ぎて、『実は僕らのストーキングに気付いてるんじゃないか?』って思える程だった。
良い子の仮面が剥がれる瞬間を大事な妹ちゃんに見せて幻滅させてやろうって画策してたのに、自分の心の醜さが浮き彫りにされていくだけで凄い精神にダメージが来るね。最終的にはちょっと吐きそうになってきたくらい。
とはいえ実際に吐く前に日が傾いてきて、ミニスもようやく帰路に就いたから何とか助かった。とりあえず僕らは先回りして屋敷でミニスをお出迎えして、サプライズ的にレキの姿を見せて驚かす事にしたよ。
「――やあ、ミニスちゃん。おかえりー」
そんなわけで、僕は玄関前でにこやかに笑いながらミニスをお出迎えした。
とはいえそこはミニスちゃん。屋敷の正門を潜る段階で僕が玄関前に立って待ってる事に不信感を露わにしてて、距離が縮まるごとに疑いの目が酷くなってたよ。
「……今度は何を企んでるわけ?」
そして『ただいま』とかは一切無くこの発言である。何だよ、確かに企んでるけどそんな風に決めつけるのは良くないぞ?
「ひっど。どうしてお出迎えしてあげただけでそんなに警戒するんだ」
「あんたがそんな事するような奴じゃないからでしょ。しかもわざわざ外で待ってるし。絶対何か変な事企んでて、私に何かするつもりなんでしょ。知ってるわよ」
「こんなに信頼されてないなんて、僕ったらなんて可哀そうなんだ……よよよ……」
「白々しい……」
その場に崩れ落ちてウソ泣きをしても、ミニスの心には毛ほども響かない。見上げてみればただただ冷めた目で僕を見下ろしてきてるよ。こんな絶対零度に近い冷たい目で見下ろされると、ちょっと興奮しちゃう……。
「さて、茶番はこのくらいにしよう。今日はミニスちゃんにサプライズがあるんだ。はい、というわけで目を閉じてー?」
「……閉じなかったら?」
「自分で目を閉じるのと、キラに視界を奪って貰うのどっちが良い?」
「これでいい? 全く、何なのよ……」
さすがに目を抉られるよりは大人しく瞼を閉じた方がマシみたいで、ミニスは素直に目を閉じた。ただ音で周囲を警戒してるみたいで、長いウサミミがピクピク動いてる。ガッと握りしめたい衝動に駆られたけど、今回のサプライズはそういうのじゃない。
というわけで僕はそーっと玄関を開けてレキを招き、突撃するようジェスチャーで指示しました。聞き分けの良いレキは無言ながらも楽しそうな笑顔を浮かべ、一緒に出てきたトゥーラに背中を押され推進力を得る形で姉に向かって突撃した。
「うわっ!? ちょっ、何!? 外で抱き着いてくるんじゃないわよ! このクソ馬鹿――あれ、何か小さい? 何……?」
突然抱き着かれて汚い言葉を吐いたミニスちゃんだけど、抱き着いてきたのが僕じゃない上に妙に小さい事に気付いて困惑顔。未だ目を開かず、抱き着いてきた人が誰なのか両手を彷徨わせて探ろうとしてる。だけど予想以上に小さいからか見当違いの場所を探ってるよ。
「よし、目を開けて良いぞ」
「――えっ」
僕が許可を出すとすぐに瞼を開け、視界に写った幼女の姿に驚きの声を零してた。
まあ当然だよね。滅茶苦茶遠く離れたド田舎にいるはずの妹が何故かこの場所にいて、自分に抱き着いてきてるんだから。偽物か幻の類だと疑っても仕方無いレベル。僕だってそう思ったし。
「おねーちゃん、久しぶり! 会いたかったよ!」
だけどそれは間違いなく本物。幼女特有の穢れの無い純心極まる笑みを浮かべ、大好きな姉のお胸に頬ずりするレキ。
ただでさえお姉ちゃん大好きっ子だったのに、ストーキング中に見た善行だの働ける女だのな光景のせいで更に好感度が上がった様子。クソッ、こんなはずじゃなかったのに……!
「………………」
「……あれ? おねーちゃん?」
「おや、ミニスちゃんがエラー起こして停止しちゃった」
「衝撃が強すぎたんだろ~。本来ならこんな場所にいるはずの無い実の妹が抱き着いてきているのだからね~」
どうやらミニスはこんな場所に妹がいるっていう驚愕のあまり思考が停止しちゃったみたいで、驚きの表情を浮かべたまま固まってたよ。今なら何やっても反応しないかな? どうだろ……。
「おねーちゃん、もしかして……レキに会いたくなかったの……?」
「えっ、あ、いや、も、もちろん会いたかったわよ? でも、その……レキはどうしてここにいるの? もしかして、誘拐……?」
とはいえそこは妹が大好きなお姉ちゃん。傷ついたような顔でじわりと涙目になるレキの姿を目にして、即座に再起動を果たしてたよ。そして何故か僕を怪訝な表情で見ながら『誘拐』とかいうワードを口にする。やだなぁ、誘拐なんて僕は十数回くらいしかした事ないよ。
「おねーちゃんとおにーちゃんに会いたくて、村に来てた冒険者さんにお依頼して連れてきて貰ったの!」
「お依頼」
「え、えぇ……まさかとは思うけど、レキ一人でここまで来たの? お母さんとお父さんと一緒じゃなくて……?」
「違うよ! レキは一人でここまで来たの! 凄いでしょ!」
お依頼とかいう謎の丁寧語を口にしたレキは、妹の飛び抜けた行動力にドン引きするミニスに満面の笑みを向ける。幼子特有の全能感に浸ってる感じかもしれないけど、護衛がいたとはいえこの幼女が一人で来たのはマジで凄いから困る。
さすがにこの答えには喜ぶ前にまず注意しなきゃって思ったのか、ミニスは目を鋭くしてレキを見据えた。
「……レキ、それは――」
「はいはい。気持ちは分かるけどお説教はもう僕がしたから、お前は褒めてあげればそれで良いんだよ。お前に会いたくて長旅してきた可愛い妹を泣かせる気か? んん?」
とはいえお説教はもう済んだので、今は甘やかす時間だ。
僕としては叱られて涙目になる幼女も普通に興奮するし、何なら無意味に引っ叩いて更に泣かせたいけど、僕とミニスに会いたくて馬鹿みたいな行動力を発揮したレキに敬意を表しておこうかなって。
さしものミニスもできればお説教はしたくないみたいで、少し悩む様子を見せてたよ。あと『本当に説教なんてしたのか?』って感じの疑わしい目を向けて来てる……いや、これどっちかっていうと『テメェ、レキに何しやがった!?』って感じの目だな。普通のお説教しただけなのに信用無いな、僕……。
「危ないからもう二度と同じ事しちゃ駄目って、おにーちゃんに怒られちゃったんだ。でも、レキはそれだけおねーちゃんたちに会いたかったの! もしかしておねーちゃんには……迷惑、だったかな……?」
しかしそこは他ならぬレキが擁護してくれた。良かった、これ幸いとばかりに頬を引っぱたいたりしなくて……。
「……そんなわけないでしょ? 会いに来てくれて嬉しいわ、レキ。お姉ちゃんも、会いたかったわよ」
「おねーちゃん……!」
妹の言葉は信じたみたいで、ミニスは僕に向けてた疑いの目を断ち切るとそのままレキを優しく抱きしめた。レキは姉の腕の中で嬉しそうな声を上げてるよ。長旅の苦労が報われた感じだね。
「冒険者たちがいたとはいえ、よく一人でここまで来れたわね。本当に凄いわ。レキが大人に近づいて、お姉ちゃんとっても嬉しい」
「えへへ! おねーちゃん、大好き!」
「うん。私も大好きよ、レキ」
そうして二人は幸せそうに笑い合い、お互いのウサミミを絡ませるように触れ合う。本当に何なのアレ。凄くエッチだから僕も混ぜて欲しい。二人のウサミミで僕のニンジンをこう、ね?
「ムフフ~。そんなにアレが羨ましいのなら、代わりに私と下半身をねっとり絡ませるのはどうかな、ある――あふんっ!」
表情から僕の内心を察したらしいトゥーラが横からぬっと出てきて、だらしねぇメスの顔でそんな提案をしてきたから――パァン! 容赦なく頬を引っぱたいてやりました。まあすげぇ嬉しそうな顔で吹っ飛んだけどさ。
とはいえ姉妹で乳繰り合ってた二人は凄く驚いたみたいで、絡ませてたウサミミをビクッと立ててたよ。邪魔しちゃってごめんね?
「……ちょっと? レキの教育に悪いからそういう光景見せないでくれる?」
「大丈夫だよ、おねーちゃん! トゥーラさんが変な人だって事は分かってるから!」
「もうすでに毒されてんだけど!? あんたら責任取れるわけ!?」
「責任? 良いよー、取る取る。ちょうど姉妹丼も悪くないなって思ってた所だから」
純真無垢なレキと、敵意バリバリで好感度最底辺のミニスとの3Pとかだいぶ面白そうだよね? 正直レキはリアよりも若干幼いけど、ギリギリ僕のストライクゾーン内だ。一緒に夜のお勉強する? たぶんお義母さんも許してくれるだろうし。
「そういう責任じゃないわよ! ていうかまた教育に悪い事言うのやめろ!」
「しまいどん、ってなーに? 食べ物? 美味しいの?」
「あー、何でも無いのよレキ。良い子だから今のは忘れて? ね?」
「えー? しまいどんって何なのー? レキ、気になるー」
「それはほら、もうちょっと大きくなったら教えてあげるから。ね?」
「むー……おねーちゃん、いつもそう言って教えてくれない……」
どうやらミニスは都合の悪い事は濁すのではなく、大人になってから教えるタイプらしい。姉妹丼が何なのか知りたいレキは教えて貰えず、ぷくっと頬を膨らませて拗ねてるよ。何なら僕が実演を交えて教えてあげようか? 手取り足取り教えてあげるよぉ?
「ご、ごめんね? でもほら、これからしばらくは――って、レキはどれくらいここに置いてくれるわけ?」
「十日くらいだね。お義母さんは迷惑なら即日で追い返して良いって言ってたけど、さすがにそれは可哀そうだし」
「お母さんの方があんたより厳しいのはちょっとびっくりよ……」
ミニスはちょっと苦い顔をして呻く。即日で追い返して良いって言葉を疑わない辺り、やっぱり意外と厳しい人なんだろうか? まあお義母さんがあの一家の支配者である事は疑うべくも無いが。えっ、お義父さん? そんな人いたっけ?
「――レキ。これから十日間はずっと一緒にいて、いっぱい遊んであげるわ。その代わり、知りたい事は大きくなるまで待ってね?」
「本当!? うん、分かった! いっぱい遊ぼうね、おねーちゃん!」
そうしてミニスは無垢な子供の好奇心を、目の前の幸せで騙して塗り潰すっていうなかなか非道な真似をしてた。
まあ騙された方が悪いって事で、僕は特に何も言わなかったよ。さすがにあんな幸せいっぱいの無垢な笑顔を前にしたらそういうのは野暮だしね。レキがミニスの妹じゃなくて、ミニスが家族の庇護を条件に仲間になって無かったら、容赦なく頬を引っ叩いて笑顔を破壊したかったけど。幼女の無垢な笑顔を陰らせるってのがまた楽しいんだわ……。
姉妹丼とか双子丼とかって……良いよね!




