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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第14章:恋する乙女の末路
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閑話:妹、襲来! 3

⋇お姉ちゃんに会いに行く、の巻




 可愛い可愛いレキを大好きなお姉ちゃんに会わせてあげるため、歩いて街の外へと向かう僕たち(+変態一匹)。

 結果的に僕の屋敷に一人で辿り着いたアグレッシブなレキだけど、どうも道中は観光しながらっていう余裕は無かったっぽい。僕らと一緒にいる今はだいぶ安心してるから周囲に目を向ける余裕も出て来たみたいで、まん丸なお目々を輝かせて町のそこかしこを興味津々に見て喜んでる。


「ねぇねぇ、おにーちゃん! アレ何!?」


 そうしてトゥーラに肩車されてるレキが、近くのお店を指差して尋ねてくる。ド田舎と違ってここは首都だから、何もかもが初めて見るもので新鮮で堪らないんだろうねぇ。興奮しちゃってまぁ……。

 ていうかいつの間に肩車されてんの? 変態(トゥーラ)は理解し難い存在って事でちょっと引いてなかったっけ? 


「あれは本屋さんだねぇ。それも小難しい本ばっかり売ってる場所だから、レキには今のところ必要ない場所かな?」

「そうだね~。君にはまだ絵本が良いんじゃないかな~? 今度幾つか面白そうな絵本をプレゼントしてあげるよ~」

「本当!? ありがとう、トゥーラさん!」


 最初の警戒も完全に消えた感じで、トゥーラの肩の上ではしゃぐレキ。今や完全に懐いてる感じで正直危ない。そいつ高レベルの変態だぞ! 騙されちゃ駄目だ!


「あっ、おにーちゃんアレは何!?」

「あれはレストラン。美味しい料理を振舞ってくれる場所だよ。とはいえ母親の手料理には敵わないだろうけどね」

「だ~が~、その分とても凝った物が食べられるよ~? 君にはお子様ランチとかが良いんじゃないかな~?」

「お子様ランチ!? 美味しそう! 食べたい!」

「ハハハ、それじゃあ今度連れて行ってあげよ~!」

「やったー!」


 最早完全に懐柔されてるようで、レキは一切トゥーラに当初の反応を見せない。というかトゥーラ自身もかなり優しい対応してるし、普通に凄く仲良く見える。ミニスには悪いけど、年の離れた姉妹か若い母親と娘みたいに見えるレベルだ。正直違和感が凄い。


「何か、こう……意外だね? お前が子供をあやしてる姿は。嫌いとまでは言わないけど、てっきり子供はそんなに好きじゃないもんだと思ってたよ」

「酷いな~? 私は子供は大好きだよ~? ほ~ら、高いたか~い!」

「きゃーっ!」


 レキがいるので控えめかつ濁して尋ねると、トゥーラは笑顔でそう答えた後に肩車してたレキを腕の中に下ろし、上空にぶん投げる。身体能力の高い獣人かつ武闘派のトゥーラがそれなりの力でぶん投げたレキの身体は、優に二十メートルはありそうな高さまで浮き上がる。

 ちなみにレキは悲鳴を上げてたけど、もの凄い楽しそうな悲鳴を上げてたよ。ジェットコースター乗ってるみたいな?


「それに、これはちょうど良い予行演習の機会だからね~? 私と主の愛の結晶が生まれた時の事を考えて、たっぷりと可愛がる練習をしておきたいのさ~」

「あ、そういう……」


 そしてレキが滞空してる間に、もの凄い爛れた薄汚い本音をぶちまけてくる変態(トゥーラ)。これにはちょっと引いちゃうね。というか魔法で完全に避妊できるのに、僕との間に子供が生まれた時の事すらちゃんと考えてんの? 僕が言う事じゃないけど、随分とまあ生々しい事を考えてるなぁ……。


「ほ~ら! もう一回高いたか~い!」

「きゃーっ!」


 などと考えているとトゥーラの腕にレキが降ってきて収まり、再度その身体は跳ね上げられて宙を舞う。二人ともこれでもかと言うほど輝く笑顔を浮かべて最高に楽しそうだ。

 なるほど、確かにどう見ても娘と触れ合う母親の図にしか見えないな? クソ信じられないけど、トゥーラは意外と良い母親になりそう。だからって子種を与えて孕ませてやるかどうかは別の話だがな!





 

「えーっと……ミニスはこっちの方だね?」


 三人で首都を出て、近くに存在する森の中。僕らは草木を掻き分け、ミニスがいると思しき場所へと向かっていた。探索(サーチ)の反応は確かにこっちだから、間違いなくミニスはこの森の中にいるね。何でこんな所にいるのかは分からんけど。


「ねぇねぇ、おにーちゃん。おねーちゃんはこんなところで何をしてるの?」

「それは、えーっと……」


 邪気の無い瞳でレキにそんな事を尋ねられ、こっちが聞きたいって台詞を飲み込むしかない。残念ながら僕も分かんないんだよなぁ、チクショウ。かといってここで素直に分かんないって言ったら『ふーん、おにーちゃんその程度なんだね。がっかり。へっぽこ野郎』とか言われそうだしなぁ。うーん……。


「君のお姉さんは冒険者としての仕事をしているのさ~。魔物の討伐から採取依頼まで、基本的に幅広く精力的に受けているみたいだね~」

「そうなの!? おねーちゃん、すごーい!」


 などと悩んでると、レキの背後に立つトゥーラが助け舟を出してくれた。大好きなお姉ちゃんが冒険者として頑張ってるって事を知って、レキは瞳を輝かせて大興奮だ。

 というかトゥーラさん、さりげなくレキをいつでも魔物から守れる位置にいるな? 僕としてはレキを守るって面倒が無くて凄く助かるんだけど、さっきの予行演習って言葉が尾を引いてて正直気持ち悪い事この上ない。


「そうそう、ミニスは冒険者として頑張ってるんだ。うん……というか、何故お前がそんな詳しく知ってる?」

「おいおい、主~? 私が以前までどこで働いていたか忘れてしまったのか~い?」

「あー、そういえばお前は元ギルマスだったね……」


 変態のイメージが強すぎて完全に忘れてたけど、コイツは冒険者ギルドの元ギルドマスターだ。そりゃあ僕よりも冒険者界隈に詳しくて当然だよね。普段のマゾのメス犬ぶりを見てると絶対嘘だって思うけど。


「活動を始めるにあたって、ミニスから色々と冒険者の心得や注意を聞かれたよ~。一体どういった心境の変化があったんだろうね~?」

「んー……思い当たる節が無いわけでもないかな」


 少し前に、僕はミニスに何か趣味とか打ち込めるものが無いのか聞いた事がある。その時ミニス自身もちょっと自分の無趣味さに悩んでるような反応もしてたし、それから色々手探りで自分に合いそうなものを探した結果、冒険者稼業に行きついたのかもしれない。

 本人の戦闘力は低めだから決して向いてるとは言えないものだけど、持ち前の不撓不屈の精神と僕がかけた自動再生の魔法がある事を考えると、意外と冒険者に向いてるのかもしれないな。脚力はピカイチだから攻撃力と速度は申し分ないだろうしね。


「――お、いたいた。ミニスだ。薬草採取でもしてるのかな?」


 そうして森の中を歩いてると、ついにミニスの姿を見つけた。ちょっと開けた場所で木の根元に群生してる植物を前にしゃがみ込んで、何やら根っこごと引き抜いてる。近くに口の開いたデカいカバンを置いてるし、その中からちょっと植物もはみ出てるし、やっぱり薬草採取ですかね? よくもそんなつまらなさそうな仕事できますね……。


「本当だ、おねーちゃんだ! おねーちゃ――むぐっ!?」


 大好きな姉を見つけて飛び出そうとしたレキ。でも僕は咄嗟にその身体を抱きとめ、口を塞いだ。

 え? 姉の近くで妹を犯す気かって? そんなわけないだろ、僕を何だと思ってるんだ。確かにそういうシチュエーションは興奮するし、何なら姉妹丼をしたいけど、一応ミニスとは家族に手は出さないって約束だからね。無関係の姉妹ならともかく、レキには手を出さないよ。


「こらこら、ダメだぞ。ミニスは今お仕事の最中だから、終わるまで静かに見守ってよう。お仕事を頑張るお姉ちゃんのカッコいい姿、見たくない?」

「……見たい!」


 レキを止めたのは、このままミニスの行動を観察したい欲が生まれたから。どんな風に冒険者稼業やってるのかとか、この後何をするのかとか色々気になるしね。ちょっと僕は一般的な冒険者じゃないし、かといって他の仲間もある種化物揃いだからあんまり参考にならないし。その点ミニスはメンタルと脚力以外は普通だ。

 そんなわけで、お仕事頑張るカッコいい姉の姿を見れるという甘言でレキを言いくるめました。当然瞳を期待に輝かせて頷いてくれたよ。チョロいなぁ。


「……おっ、良いタイミングで魔物が来たようだよ~?」


 しばらくミニスを見守ってると、トゥーラが犬耳をぴくぴくさせてそんな事を教えてくれる。どうやら良い感じの見せ場が来たみたいだ。

 ワクワクしながら眺めてると、唐突にミニスが弾かれたようにその場を立ち、近くで揺れる草木に警戒の目を向ける。そこから現れたのは――


「わっ、わっ!? おにーちゃん、魔物だよ!? おねーちゃんが危ないよ!」


 二足歩行のデカいクマ。縦にも横にもデカく、縦に関してはミニスの三倍くらいはあるレベル。大きな鉤爪は触れただけで何もかもを切り裂きそうな鋭さで、尖った牙は小さな少女の身体なんか簡単に噛み砕けそうだ。これにはレキも顔を青くして僕の腕を引っ張ってくるよ。


「大丈夫大丈夫。ここは僕とお姉ちゃんを信じて、静かに見守ろう?」

「う……うん……」


 まだちょっと不安そうだけど、それでも僕を信じて頷いてくれるレキ。ぎゅっと服の袖をつかんだままなのが可愛らしいね? 伸びちゃうからあんまりそういう事しないで欲しいんだけど。

 それはさておき、ミニスとデカいクマだね。どうやらどっちもやる気満々みたいで、お互いに正面から睨み合ってる。身長差もあってその様子は正に蟻と象って感じだ。


「……良いわよ。かかって来なさい?」

「ガアァァッ!!」


 しかしミニスは不敵に挑発するっていう余裕の対応。別に言葉や態度から馬鹿にされてるって理解したわけじゃないだろうけど、クマ型の魔物は一つ雄たけびを上げながらミニスへと突進していく。

 そしてその鋭く巨大な鉤爪を丸太みたいに太い腕ごと水平に振り被り、渾身の爪撃を放つ!


「――遅い! アイツの鉤爪に比べたら止まって見えるわね!」

「グルアアァァァ!?」


 しかしそこは色々な意味で揉まれてるミニス。さっと横にステップしてその一撃をあっさり躱すと、一気にデカいクマの懐に飛び込んで猛烈な回し蹴りを叩き込んだ。『ズドンッ!』ていうとんでもない効果音と共に、体重五百キロ以上はありそうなクマの巨体が吹き飛び、近くの木の幹にぶつかって半ばから幹をへし折る。あの子いつもあんな脚力で僕の事蹴ってんの? 怖……。


「これで、トドメよ!」


 ふらつくクマさんに対し、ミニスは容赦なく仕留めに走る。その馬鹿げた脚力で近くの木の幹に飛ぶと、そこを足場にしてもう一度跳躍。文字通り空高く舞い上がり、くるくると縦回転しながら落下してくると――


「――うりゃあっ!!」

「ゴブッ……!」


 えげつない踵落としを決めて、クマさんの頭部を粉砕した。

 スゲェ、クマさんの頭が完全に弾け飛んだ……本当に毎回あんな脚力で僕の事蹴ってるの? 完全に殺す気じゃん。人を蹴って良い力じゃないよ、アレ。


「ふうっ。森の奥はおちおち薬草採取もできないわね……」


 ズシーンと倒れるクマさんの亡骸を前に、飛び散った血肉やら何やらを顔から拭って一仕事を終えた感じのミニスちゃん。

 ただの村娘のはずだったのに、随分とバイオレンスに育っちゃったねぇ? これを成長とみるか適応と見るか、あるいは僕らに染まったと表現するべきか……まあどんなに硬い鋼メンタルを持っていようと、ミニス自身は未だ成長の余地がある幼い女の子。硬いだけで不変なわけじゃないから、多少は影響が出るのも当然か。


「凄い! おねーちゃん凄い! あんなにおっきくて怖い魔物をすぐに倒しちゃった! 凄い!」

「うんうん、そうだね。凄いね?」


 大好きなお姉ちゃんが恐ろしい魔物をあっさりと倒した事で、レキはこれでもかと大興奮。

 ちなみにクマさんの頭が弾け飛ぶ瞬間だけはトゥーラに目隠しされてました。なのでレキはそれほどスプラッタなシーンは見てない模様。この気遣いもたぶんレキ当人に向けたものじゃなくて、子供が出来た時のための予行演習に過ぎないんだろうなぁ……キモい……。


「……で、あの魔物は?」

「ラ~ジグリズリ~。Dランクの魔物~。魔法も使えない、ちょっとデカいだけで特筆すべきものも無い雑魚だよ~」


 はしゃぎ回っててこっちの会話が聞こえそうにないレキの様子を確かめてから、さり気なくトゥーラに魔物の情報を尋ねてみる。そしたら腐っても変態でも冒険者ギルドのギルドマスターらしく、あっさりと情報が返ってきたよ。どうやらあのクマさん、たいして強くも無い雑魚だったらしい。


「見掛け倒しだったかぁ。まあ一般村娘だからその辺が限界だよね」

「ん~。それでもあの年頃の子供が相手をするのはちょっと厳しい相手だね~。そこは兎獣人の身体能力が遺憾なく発揮された感じかな~」


 ほうほう。だとするとやっぱりミニスちゃんは頑張った感じだね。まああれだけ恵まれた脚力持ってて倒せませんでした、とかは完全に甘えだもんね。もしもミニスがあのクマさんを倒せず泣きじゃくりながら逃げ出してたら、後で僕が直々にしばく所だよ。ミニスもクマさんも。


「凄い! 凄ーい!」


 そんな裏事情を何も知らないレキは、恐ろしい魔物を大好きなお姉ちゃんが圧倒的な力で捻じ伏せた現実に、ただひたすら興奮してた。無知な子は本当に可愛いねぇ……。


 人の妹で子育て予行演習をしている生々しい気持ち悪さのあるトゥーラ。そして主人公より冒険者してるミニスちゃん。

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― 新着の感想 ―
[一言] 馬車の後を紐付きで走らされていた 弱弱奴隷ミニスもちゃんと成長してるんやなぁ。 狂人と変態の子供がレキみたいに大人しいわけないんだよなぁ。
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