閑話:妹、襲来! 2
⋇レキ、変態に遭遇するの巻
「ただいまー。待たせて悪いね?」
腹黒お義母さんとの電話を終え、リビングへと戻る。大人しく待ってたらしいレキは僕が戻るなり顔を綻ばせ、あまりにも純真に過ぎる笑顔を浮かべてたよ。眩しい、浄化される……!
「ううん、大丈夫! だってレキが突然来ちゃったんだもん。おにーちゃんはとっても忙しい人なんだから仕方ないよ」
「まあ忙しいと言えば忙しいけど、休みが一切作れないほど忙しいわけでもない。だから今日は遠路はるばる会いに来てくれたレキのために休みにしてあげよう」
「ほんとー!? わーい!」
などと諸手を上げ、喜びを露わにするレキ。
うーん、正に子供って感じの反応だ。いや、実際子供だから当然なんだけどさ。でも普段のリアとちょっとキャラと口調が被るんだよなぁ。まあ向こうは闇を抱えてるし合法ロリだから、丸っきり同じ属性というわけではないが。
「しかし……ふむ……」
「どうしたの、おにーちゃん?」
少し悩んでると、レキが目の前で小首を傾げる。
本当は『よくも面倒な真似しやがったなメスガキが!』って言いつつ一発くらいはぶん殴りたいけど、それやっちゃうとミニスからの好感度が急降下しちゃうしなぁ。かといってこんなアポもなく突然訪ねてくるような真似をしておきながら説教も無しっていうのは、教育的によろしくないだろうし。うーん……。
「……ていっ」
「いたっ!?」
仕方ないので額にデコピン一発で勘弁してあげた。本当はもっと嬲って分からせてやりたいが仕方ないね。一応ミニスとは家族に手を出さないって約束をしてるからね。とりあえずそれっぽい説教だけはしておこう。
「幾ら冒険者の護衛を付けて貰ったとはいえ、村の外は危険がいっぱいだ。レキみたいな小さい子ならなおさらね? それなのに一人で僕らに会いたいがために旅を強行するなんて、レキはとっても悪い子だ。それはちゃんと理解してる?」
「はい……ごめんなさい……」
「もしも旅の途中で君に何かがあったら、きっとミニスも君の両親もとっても悲しむ。だからもう二度とこんな無茶な真似はしないって、僕と約束してくれる?」
「うん……レキ、もうこんな事しない……」
どうせなら反発してくれたら追加のお仕置きをする口実が出来るのに、レキはしゅんとして素直に謝り反省してくるから困る。ウサミミも罪悪感を表すように垂れさがって元気が無くなってるし、心から反省してるのは一目で分かる。クソッ、追加のお仕置きをさせろ!
「分かってくれたなら良いんだよ。それと、ごめんね? さっきは痛い事して。でもやっぱり誰かがちゃんとお説教しないといけないし、嫌われるならミニスより僕の方が適役だからさ」
「ううん! レキはおにーちゃんの事、嫌いになんてなってないよ! だっておにーちゃん、レキの事が心配だから厳しく叱ってくれたんだもん!」
「そっか、それなら嬉しいな?」
嬉しそうに僕に抱き着き、お腹に頬ずりしてくるレキ。ウサミミが首筋の辺りを撫でるから凄いくすぐったい。
この僕を全く悪だと思っていない、純粋に過ぎる反応……あー、裏切りてぇ! 信頼と愛情を裏切って絶望の底に叩き落としてぇなぁ!? でも駄目だ、我慢だ! クソぅ……!
「……さて! 湿っぽい話は終わったし、もっと明るくて楽しい話をしよう! 具体的には大好きなお姉ちゃんに会いに行こうか!」
「うん! おねーちゃんに会いたい!」
嗜虐心を隠した説教を終え、満を持して姉に会わせてあげると口にする。途端にレキは満面の笑みで頷き、喜びを露わにする。
ぶっちゃけさっさとミニスに引き渡して世話を一任したい、早く会わせるのが吉だね。これでも僕は色々忙しいし、万一変な事をレキに知られたら記憶処理とか諸々しないといけなくて手間だからね。
「ミニスはねぇ、今は――おっ、街の外にいるみたいだ」
「凄い! どうして分かるの!?」
「そりゃあ僕が凄腕の魔術師だからだよ。さあ、大好きなお姉ちゃんの所に行こうか?」
「うん!」
魔法で調べるとミニスは街の外にいるって事が分かったから、戻って来るまで待つのもアレだしこっちから会いに行く事を決めた。歩き出そうとした途端、レキがぎゅっと手を握ってくるのが堪らないね? この手を握りつぶしたらどんな声で鳴くのかなぁ……。
しかしそれはそうと、ミニスは何で街の外にいるんだろう。普段の動向は把握してないから分かんないな。これはその内、おはようからおやすみまでじっくりと監視するべきか……?
何故ミニスが街の外にいるのかは知らないけど、まあ僕にとっては子連れだろうと特に危険でも何でもない。そんなわけでレキとお手々を繋ぎ、外に向かうため屋敷の中を玄関に向けて歩いてたんだけど――
「お~、主~! おや~? その子は何かな~?」
道中で変態にエンカウント。顔を合わせるなりパッと表情を輝かせたのも束の間、僕が手を繋いでる幼女の姿を視界に収めるなり少し剣呑な雰囲気を漂わせる。
何だろ? まさか僕の子供とかそんな感じの存在だと思ってる?
「おっと。見ちゃ駄目だよ、レキ。教育に悪いから」
「ふわっ!? 何にも見えないよ、おにーちゃん!?」
「ハハハ、いきなりそれは酷くないかな~? しかしこんな扱いもなかなか滾るものが……」
とりあえずトゥーラの存在そのものが教育に悪いから、レキの目を塞いで純粋な瞳に映らないようにする。
レキは多感な時期だからね。まかり間違ってこんな変態に影響されて同じような性癖とかに目覚めたら目も当てられない。それはさすがのミニスもキレそうだし、お義母さんも――いや、うーん。お義母さんはあらあら笑って流しそうだな?
「この子はレキ。ミニスの大切な可愛い妹で、何にも知らない無垢な子供だよ」
「ほ~?」
トゥーラは意味深に深く頷く。どうやら『何にも知らない』って言葉だけで、レキが協力者でも仲間でもない一般人だという事を察してくれた様子。そういう察しの良い所とか頭の回転が速い所は好ましいのに、変態っていうデカいマイナス要素が全てを台無しにしてるんだよなぁ……。
「よろしく、レキ~。私の名はトルトゥーラ~。彼の最も信頼のおける最高の仲間にして、彼に最も相応しい至高の伴侶さ~? トゥーラで構わないよ~?」
そしてトゥーラはかがんでレキと視線を合わせ、ニコニコ笑いながら自己紹介を始める。何かやたら修飾が多かったし事実無根な言葉があった気がするな? 自己評価があまりにも高すぎる。
「はんりょ!? レキ、知ってる! お嫁さんの事だよね!? トゥーラさんは、おにーちゃんのお嫁さんなの!?」
「そうだよ~? 私と主は健やかなるときも病める時も、死が二人を別ったとしても未来永劫愛し合う夫婦なのさ~。いや~、思い出すな~? 主と二人きりで挙げた、夕日の差す砂浜での結婚式を~」
「レキに嘘を教えるな。あと勝手に変な記憶を捏造するな」
瞳を輝かせて嘘を信じ込んだレキに対して、トゥーラは嘘八百を並べ立てる。まさかこんな子供にも既成事実を教え込んで外堀を埋めるつもりだったのか、コイツ? 闘技場でもやってたし、僕の女として周知されたい欲が強すぎる。
「えっ、嘘なの? ダメだよ、トゥーラさん。嘘つきは針千本飲まされちゃうんだよ?」
「ん~、針千本か~。とても痛そうで苦しそうだが、主が手ずから飲ませてくれるのなら、私は構わないよ~?」
「えー……?」
ぽっと頬を染めてもじもじしだすトゥーラを前に、無垢なレキでさえ困惑して一歩後退る。
そりゃあ普通クッソ痛そうな針千本を恥ずかしそうに受け入れるとか、無垢で無知な子ほど理解し難いもんね。まあ穢れまくってて色々知ってる僕でも理解はできないけどさ。痛めつけられて喜ぶとか、加虐体質の僕には理解できないステージだぜ……。
「おにーちゃん、この人何だかおかしいよ……?」
「大丈夫だよ、レキ。この人はもうどうしようもないから。いつもおかしいから。これが平常運転だから」
「アハハハ~、二人してなかなか酷い事を言うね~? だがやはりこういった扱いもそそるものが……ムフフッ」
初めて見るであろう正真正銘の変態を前に困惑し若干の怯えを示すレキと、最早諦めの境地に至り可哀そうなものを見る目をトゥーラに向ける僕。それに対して当事者は気持ち良さそうな顔で身体を悶えさせ、怪しげな笑いを零すという度し難さ。ちょっとコイツの存在はレキには刺激が強すぎるな?
「さ、嘘つきの危ない人は無視してミニスの所に行こうか。きっとミニスもレキに会えたら驚くよー?」
「う、うん!」
あまりにもレキの教育に悪いので、僕はこの変態を置いてさっさとミニスに引き渡すことにした。レキもレキで理解できない悍ましい存在には恐怖を感じてるみたいで、僕の手を抱くような形で引っ付いてきたよ。さすがに胸の膨らみはほぼゼロっぽいから、良さげな感触はしなかったのがちょっと残念。まあそういうのも僕は好きだぜ……?
「あ~!? 置いて行かないでくれよ~、主~!」
などと思ってたら変態がついてくる! えー、コイツも一緒に連れてかないと駄目なの? 絶対教育に悪いよ?
ド田舎の時はクソ犬はまだ未加入だったのでレキとはここが初遭遇。真のヤバい奴を目の当たりにしてさすがのレキもドン引きである。