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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第2章:勇者と奴隷と殺人鬼
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レーンカルナ先生の魔術講義、その2

「さて、少し脱線してしまったから話を戻そう。二つ目の問いは大気に満ちた魔力を魔法に使えないのか、だったね。結論から言えばそれは不可能だ」


 僕が犬耳っ子の首をへし折ってから、その首を治して綺麗な死体に戻し、異空間に放り込んだ後。何事も無かったかのように授業が再開された。

 そして質問の答えは不可能だってさ。良かった、僕を脅かすような存在はいなさそうだ。


「波長、あるいは色、属性……何と表現するべきか迷うところだが、とにかく魔力の質には個々人での違いが存在する。ここではあえて色と表現させてもらおう。赤い魔力を持つ者が、青い魔力を用いることができると思うかい? 当然ながら答えは否だ。自分と同じ色の魔力しか扱うことはできないんだよ」


 なるほど。魔力ごとに異なる色や波長的なものがあって、それが自分に合わないと使えないってことか。となると魔力を人に貸したりもできなさそうだな。指紋認証システム的な感じ?


「ということは、生き物は自然の魔力とは色が合わないってことなの?」

「その通りだ。理論的には色さえ合えば、この世界に満ちる膨大な魔力を好き放題に使える。とはいえ、生憎とそんな真似が可能な者は見たことが無いよ。尤も疑似的な無限の魔力を持つ彼は、そんな真似をする必要も無い存在だがね」

「へー、ご主人様って本当に凄かったんだぁ。ただの頭のおかしい危険人物だと思ってたぁ……」


 レーンからはジト目。リアからはちょっと尊敬っぽい目が向けられる。

 これだよ、これ。この純粋な賞賛に満ちた目。僕に向けられる視線はこうあるべきだね。


「そうだ。僕は凄いからもっと褒めろ。敬え。崇め奉れ」

「女神から授かった力が素晴らしいだけで、君自身は頭のおかしい危険人物でしかないだろう? そんな君を崇め奉る必要があるとは露ほども思えないね」

「うんうん。ご主人様自身は危ない人で、凄い力を持ってるから何とかつり合いがとれてるってところだよね」

「お前らさぁ、ちょっと主人に対する口の利き方がなってなくない……?」


 いい加減にしないとそろそろ本気で尻をぶったたくよ? ヒィヒィ言わせてやるよ?

 というか今気づいたんだけどさ、魔力が魂から生み出されるものなら、僕の疑似的な無限の魔力は一体どこから来てるんだろうね? まさか僕の魂に負荷をかけて無理やりに生産させてる、とかいう恐ろしい原理だったりしないよね? これは後で女神様に問いたださないとな。志半ばでいきなり魂が壊れて廃人になりました、とか全然笑えないし。

 僕はこの世界を平和にするために、欲望の限りを尽くさないといけないんだ! そんな死に方は認めないぞ!

 






「さて、魔法についての触りはこんなところだ。私は武装術に関してはそこまで詳しくは無いから、そちらは後でクラウンやキラにでも聞くといい。少なくとも私よりは詳しいだろう」

「これだから魔法ガチ勢は。知識に偏りがありすぎる」

「うーん、教えてもらえるかなぁ……?」


 それからおよそ二時間かけて、魔法に関しての触りの授業が終わった。ただし武装術に関しては完全に放り投げてるね。確かに魔術特化の魔術師に接近戦の技とかは必須じゃないだろうけどさぁ。

 そして僕はもう完全に飽きてるのに、リアはすっごい真面目に授業受けてるんだよね。いつのまにかノート用意してしっかり書き記してるし。お前メスガキの癖に真面目に勉強するとかキャラがブレブレじゃないか。さては同族が何も教えてくれなかったから勉強に飢えてるな?


「興味の無いことにはどうしても手を出せなくてね。では、ここからは魔法陣について説明して行こう」


 おっ、僕も興味のある話題が出てきたな。

 レーンが黒板に六芒星を描くのを見て、やっと新しい知識が得られるから僕も勉強に乗り気になってきたよ。すでに知ってることを何度も聞かされるのは心底うんざりするからね。もちろん知らないことでも長々話されるとイラっとくるけど。


「君たちも知っての通り、この世界の魔法は万能だ。膨大な魔力と詳細なイメージさえあれば、不可能なことなどごく僅かしか存在しない。だがどれほど緻密で精細な想像力を持っていようと、魔力が伴わなければ意味が無い。加えて想像力があろうとも、柔軟な思考力と発想力もまた必要だ。魔術師というのはどちらかといえば、芸術家に向いた職業だと言えるだろう」

「でも魔力があっても、下手に考えすぎる性質だと自分で限界を作っちゃうよね。負のイメージまで魔法に反映されるから、この世界の魔法って実はあんまり考えない感じのお馬鹿に向いてるんじゃない?」


 僕自身も感情よりは論理を優先する性質だから、実際に自分で魔法に限界を作っちゃってる。人の能力を数値化したり、武術の技量を数値で表せないのが正にそれだね。というか自分で魔法に限界を作ってる、というイメージがそもそも駄目なのかもしれない。

 だからこの世界の魔法に向いてるのは何も考えない馬鹿、あるいは論理よりも感情優先の馬鹿ってところかな。『チート貰ったから俺は最強だー!』って言う感じの奴が一番ぴったりだと思う。実際僕の推測は正しかったみたいで、レーンはこくりと頷いた。


「その通りだ。正確に言えば、この世に不可能など無いと豪語するような、傲岸不遜で無知蒙昧な輩に一番向いているだろう。一番遠いとまでは言わないが、私から遠い人種なのは確かだね……」


 そして何か残念そうに肩を落としてる。まさか魔法を極めるために馬鹿になりたかったんですかね? レーンの見た目で頭お花畑か……それはそれでアリかな?


「……だが、魔力の問題を解決する手段は存在する。それがこの魔法陣さ」


 見た目レーンで頭ハニエルな妄想をしてると、現実のレーンが右の掌を上向けてそこに小さな魔法陣を浮かび上がらせた。赤い光の線で描かれた、模様が独特な魔法陣だね。と言っても六芒星よりも若干描くのが難しいってくらいかな?


「この魔法陣は『魔力を込めることで、小さな炎を発生させる魔法を発動させることができる魔法陣』をイメージして創り出したものだ。その性質上、この魔法陣には魔力を溜めておくことができる。このように、魔法陣を使えば膨大な魔力が必要な魔法もいつかは使うことができるようになるのさ」

「へー、すごーい……!」


 言葉通り、魔法陣が光を放ったと思ったら数秒くらい火の玉に変わって、そのまま消え去った。

 リアは瞳を輝かせて、未だかつてない尊敬の目をレーンに向けて――ていうかそういう目を僕に向けろよ! 僕はご主人様だぞ!


「はい、質問。その魔法陣も魔法で作り出したものなんだし、維持する魔力が必要でしょ? そこんところはどうなってんの?」

「良いところに気が付いたね。そう、このままなら確かに維持するのにも魔力が必要だ。しかしこれを参考に何かに書き写せば――」


 またしても眼鏡の位置を直したかと思えば、さっきと同じ魔法陣を黒板にチョークで描いていくレーン。すげぇ、フリーハンドなのに何て綺麗な円を描きやがる……!

 そんな風に僕が驚いてると、描き終わった魔法陣にレーンが手を触れた瞬間、魔法陣を中心に黒板の一部が燃え始めた。数秒で炎は収まったけど、黒板がしっかり焦げちゃってるよ。教師がそんな真似して良いと思ってるのか。 


「――同様の効果を持つ魔法陣が、魔力の必要もなく作成し維持することができるのさ。私の転生の魔法も要求される魔力が途方も無く膨大だからね。魔法陣として身体に刻んで魔力を溜めているんだよ。転生初回の時は危うく魔力を溜める前に死ぬところだったがね……」


 そう言って、レーンはどこか疲れた感じの表情を見せる。魔獣族たちにたっぷり辱められた記憶さえ他人事みたいに語れるのに、こんな表情を見せるってことは相当ギリギリだったんだろうなぁ。

 というかこれはマジで凄い技術だし、かなり危険な技術でもあるね。もちろんモノによっては年単位で魔力を込めなきゃ発動できない魔法陣とかもあるだろうけど、この世界には寿命がめっちゃ長い種族がいる。特に魔獣族側がヤバそうな感じだ。

 考えてみれば聖人族側は相手を滅ぼすために勇者の召喚をやってるんだから、魔獣族側も何かしらの対抗策を考えててもおかしくないんだよね。魔獣族は人間と違って寿命がクソ長いみたいだし、たぶんこの魔法陣の技術を使って何かしらあくどい計画を進めてるんだと思う。頼むから僕に対処できないような類の計画はやめてよね?


「この魔法陣を刻んで作り上げた特殊な道具を魔道具と言う。例を挙げれば夜の街で明るさを提供してくれる街灯も魔道具だ。ちなみにアレは自ら発光しているわけではなく、昼の間に日光を蓄えてそれを夜中に放つという術式が刻まれているため、消費魔力はかなり低い。魔力の補充は一年に一回程度だったかな?」


 へー、何か虫がたかりそうな街灯あるなーって思ったら、電気じゃなくて魔力で光ってたわけか。

 正直一年に一回魔力を補充するとかコスパ悪すぎって一瞬思ったけど、冷静に考えてみると普通の街灯とかも定期的にメンテナンスが必要だろうしあんまり変わらないかな? むしろ電線が切れたり電力が落ちたりしたら光らない普通の街灯よりは信頼性高いかも。

 しかし、魔法陣を刻んで作る魔道具ねぇ。無限の魔力を持つ僕はそんなせせこましい事しなくても、直接魔法を付与すればいいだけだな!


「へー、そりゃまた随分と便利なもんだね。持たざる者たちの懸命な工夫ってやつか。いじらしくて泣けてくるよ」

「工夫を馬鹿にしないでくれたまえ。言っておくがこの魔法陣を使っても良いという条件で、なおかつ殺しあいではなくただの試合なら、私は君と戦って勝利できる自信があるよ」

「へぇ……」


 素直な感想を零したら、レーンはちょっとムッとした様子でそんな自信に満ちた言葉を返してきた。持たざる者たちが一生懸命頑張った工夫程度で、女神に祝福された僕を倒せるだって? おもしれー女。

 でもコイツ、転生期間を含めれば四百年弱も時間があったんだよなぁ。その上で殺し合いじゃなくてルールのある試合……あれ? マジで負けるかもしれんな、これ……。 


「だったら試してみようよ。そういえばお前の戦ってるところは見た覚え無いし、見てみたかったからちょうどいいね。ボコボコに叩きのめして泣かせてやる」


 だが逃げるわけにはいかないね! 何故かって? 自信満々な女の子の心をへし折るのが楽しそうだからに決まってるだろ! 


「良いだろう。ちょうど私も君を地べたに這わせ、見下ろして優越感に浸りたいと思っていたところだ。それに主の思い上がりを窘めるのも仕える者としての仕事だからね。全力でやらせてもらおうじゃないか」


 スッと眼鏡を外して、虚空から杖を取り出すレーン。

 一見静かで大人しい感じなのに、肌がピリピリするくらいの闘志を滾らせてて堪んないね。どうやら向こうも乗り気みたいだ。そしてなかなかのドS発言に痺れそうだよ。僕はむしろドSの子を苛める方が大好きだからね!


「……えっ? あれ、魔法の授業は?」


 そんな一触即発の空気の中、完全に勉強体勢のリアは目を丸くしてた。自習にきまってるだろ、自習!


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