ダブルカップル
⋇性的描写あり
「――っていう訳なんだ。だから滅亡はしない程度に小突き回して、危機感を煽ってるってわけ」
宇宙猫状態なセレスに事の始まりから説明して、邪神の行動の理由や裏事情もしっかり説明しておよそ十分。
さすがにこれだけ懇切丁寧に説明したら分かってくれたようで、セレスも宇宙から帰ってきてくれたよ。ただ何故か徐々に渋い顔したり、怒りに打ち震えるような顔してたのが不思議だったね。今も何か俯いてプルプル震えてるし。
「……クルスくん」
「はい、何でしょう?」
「何で!? 何でそれを先に言ってくれなかったの!? それ先に言ってくれてたら、あたしきっとあんな風に暴れなかったよ!?」
そして顔を上げたかと思えば、涙目で僕の両肩を掴んでくる。さしずめ黒歴史を暴かれた中二病患者の如く、顔を耳まで真っ赤に染めながらね。
どうやらセレス的には無人島での大暴れは黒歴史みたいな扱いらしい。まあとんでもないレベルの自然破壊をもたらした暴虐だったもんなぁ。それはそうと、やっぱり真実を語ってたら大暴れが見れなかった可能性があったのか。じゃあ話さなくて正解だな!
「いやぁ? その暴れた姿を見たかったていうか、世界を滅ぼす邪神に想いを寄せてたっていう絶望に嘆き悲しむセレスの姿が見たくてさ」
「この破綻者! 人でなし! 最低のクズ!」
「アッハッハ。そういう反応も見たかったんだ。アッハッハ」
掴んだ肩をガクガクと揺さぶってくるセレスに、愉快痛快な笑いを零す。怒りと恥じらいに顔を真っ赤に染め、涙目で罵倒してくる姿も実に堪らないんだわ。今まで黙っていた甲斐があるってもんだぜ!
「もうっ! もうっ! 本当にもうっ! でもあたしはそんな君が好きっ!」
「ブレねぇなぁ……」
しばらく僕を揺さぶってたセレスだけど、不意にぎゅっと抱き着いてくるんだから凄いよね。さすがは恋する乙女で真実の愛の持ち主。世界の滅亡が目的として振舞っていた邪神にさえ、自分の全てを捧げた女だ。心構えが違う。
「でも、そっか。そういう事なら、首都を滅ぼしたりはしないんだね。あたしそれくらいはやるつもりだったのに」
「覚悟が極まり過ぎてる。最早モンスターの類では?」
「世界が平和になるなら、それに越した事は無いよね。あたしも君のおかげでこの世界は凄くおかしいって気付けたし、この調子でクルスくんが色々やっていけば、きっとあたしにみたいに目覚める人はたくさん出てくると思うよ」
「目覚めるとか、言い方が何か性質の悪い宗教っぽいな?」
あまりにもセレスの意志と心が固いので、何故か僕がツッコミに回ってしまう。とりあえず恋する乙女は狂戦士どころか怪物の類って事でOK? あと僕を怪しげな宗教団体の教祖みたいに言うの止めて。確かに人々の意識を改革してそういう風に誘導してるのは否めないけどさ。
「それにしても、あたしの初恋って凄いなぁ……同族のニカケかと思ってたのに、同族どころかこの世界の人でも無いなんて。挙句にその正体が邪神なんてびっくりだよ。何か壮大な恋愛小説書けそうだよね!」
「そう? 禁書指定入りそうなエログロ小説になりそうな気もするけど」
「もーっ! そんなの需要どこにも無いよ!」
品の無い事を言ったせいか、セレスはぷりぷり怒りながら僕の胸板をぽこぽこ叩いてくる。
でもさ、僕は日常的に女の子を拷問してるわけだし、すでにして肉体関係のある女が何人もいるよ? しかも大概頭のネジの外れた奴。そこに横恋慕してハーレム入りを目指すとかどういう客層を狙った恋愛小説なの……?
「……さて、それじゃあこれからどうする?」
まあそれはさておき、愛し合って真面目な話も終わった。それにそろそろ宿の延長料金取られそうな時間が近付いてる。だからこの後どうするかを尋ねたんだけど――
「えっとね……まだもうちょっと、このままでいたいな? 今だけはクルスくんを独り占めしていたいの」
当のセレスはごろんと横になって、僕の膝を枕にして甘えてくる始末。そして確かな独占欲を滲ませる。クソう、昨晩まで生娘だった癖に、男の心をくすぐるのが上手い奴だ……。
「仕方ないなぁ。色々楽しませてくれたお礼に、特別にもうちょっとだけ独り占めされてあげるよ」
「えへへ、ありがとう。クルスくん、大好き……」
頭をナデナデしてあげると、セレスは幸せそうに頬を緩めてにっこりと笑った。
まあお金は偽造できるから延長料金くらい痛くも痒くもないもんな! あと屋敷に朝帰りしてメイド長に怒られるのも嫌だし、仲間たちに女一人増えたって言うのも居心地悪いから、しばらくこのまま過ごそうかな!?
そうして僕らはだらだらと三十分くらい、ベッドの上で乳繰り合ってから宿を出ました。今は出来る限り遠回りするルートで、屋敷への道をダラダラ歩いてる所。もちろん手を繋ぎ指を絡めて寄り添いながらね。遠回りしてんのは決してメイド長に怒られるのが怖いからじゃないぞ。本当だぞ?
「――それで、セレスは今後どうする? 僕の屋敷に住む?」
そんな風に二人で朝の街を歩きながら、同棲の提案を投げかける。
セレスが仲間になったなら一緒に屋敷に住むのはやぶさかじゃない。でもセレスは根無し草のキラやリアみたいな社会不適合者じゃなくて、普通に社会に適応して暮らしてる子だ。住む場所だってすでにあるだろうし、選択は自分でさせようかなって。
「うーん……できればそうしたいんだけど、まだ家のローンが残ってるんだよね。それなのに住まないっていうのは何かちょっと悔しいかなって……」
「何だ、そんな事か。じゃあ僕が払ってあげるよ。幾ら?」
「クルスくん、お金遣い荒すぎだよ!? 前から思ってたけどそんなんで大丈夫なの!?」
「平気平気。通貨だって魔法で偽造してるから毛ほども懐は痛まないもん」
「想像以上の悪だった!? 道理であんなに無駄に大盤振る舞いだったんだね!?」
正体が邪神だっていう事以外は取るに足らない事なのに、セレスはギョッとして驚愕を示す。偽造通貨をバラ撒いて経済を侵食してるって、そんなに驚く事かな? いや、ある意味物理的な侵略よりも性質悪いか……。
「ハッハッハ。屋敷の地下にはお姫様たちも監禁してるぞー」
「うわーっ!? それ外で言っちゃ駄目なやつだよ! 気を付けてぇー!」
他の悪行も口走ると、大慌てで僕の口を塞ごうとしてくる。
さすがに僕も何の対策も無しに外でこんな事言わないわ。獣人とかは耳が良い奴らが多いしね。だから会話を聞かれないようにちゃんと魔法で対策をしてます。はい。
「大丈夫だって。お外で会話する時はちゃんと魔法で――おや?」
それを教えようとした時、僕は進行方向正面から歩いてくる人影を目にして足を止める。普段ならそんなもん気にしないんだけど、相手が相手だったからね。
「あれ? どうしたのクルスくん――ありゃ?」
一拍遅れてセレスも足を止め、その人影を見て目を丸くする。いや、正確には人影たちかな?
それは僕らみたいに寄り添いあって手を繋いで歩く男女の姿。まるで僕とセレスみたいにね。
でも僕らと決定的に違う事が二つある。一つは寄り添うって言ってもまだ微妙に距離があって焦れったい事。そしてもう一つは男女間の身長差がかなりある事。それも身長低いのは男の方。まるでおねショタみたい――ていうかおねショタなんだよ。おねショタコンビのラッセルくんとカレンなんだよ。君ら何手を繋いで歩いてるの? まさか……!?
「おやおや、おやおやおや。これはこれは。奇遇ですねぇ、お二人とも?」
「うっ……」
声をかけると、ラッセル君は凄く嫌そうな顔をした。何だよ、苦楽を共にした仲間に声をかけられてそんな反応するとか酷くない? まあこっちはこっちでニヤニヤを抑えられないんだが?
「……その卑しい笑いをやめてください。聞きたい事があるのならいっそ素直に言ってくれませんか?」
「ヤったの?」
「ヤっ……!? ち、違います! まだお付き合いを始めただけです!」
「えっ!? ラッセル君とカレン、遂に恋人になったの!?」
顔を真っ赤にして言い放つラッセルくんに、隣でセレスも驚きのあまり目を見開く。
ただ僕としては予想してたけどね。そもそもラッセル君から相談も受けてたし。とはいえまさかここまで行動が早いとは思わなかった。てっきり何だかんだ理由を付けて告白を先延ばしにするもんだと思ってたのに……やはりショタでも心は漢か。やるな。
「ああ、そうだ。昨夜ラッセルから熱い告白を受けてな。まさかこの俺に対して劣情や独占欲を抱いているとは思わなかったが――」
「カレンさん、それは言わないでください!」
「――俺としても、ラッセルの事は非常に好ましく思っていた。コイツなら俺を幸せにしてくれるのは間違いない。だからこそ受け入れた、というわけだ」
特に羞恥の感情を見せたりはせず、冷静な声音と様子でそう説明してくれるカレン。一応はサキュバスだけあって、この手の話題でもさほど動じない様子。
しかしラッセル君、どうやらマジで告白の時に全部ぶちまけたみたいだな? ちょっと漢すぎん?
「はえー。良かったね、二人とも?」
「ありがとうございます。非常に不本意ですがあなたのおかげです」
「ラッセルを焚きつけたのはお前らしいな、クルス。感謝するぞ」
少し嫌そうな顔でお礼を述べてくるラッセル君と、変わらぬ無表情で感謝を口にするカレン。
まあ何にせよ、おねショタ実現にリーチがかかったんだ。これを喜ばないなんて事あるわけないね。この二人に限ってはどっちが優位でもかなり面白そう。
「どういたしまして。しかし奇しくも同じようなタイミングで僕らの仲が進展するとはねぇ……」
「その言い方から察すると、お前たちの仲も進展があったのか」
「うん。昨晩あっちの宿でヤってきた。とっても良かったよ」
「言い方にもっと気を付けてください! 隣にセレスさんがいるんですよ!?」
正直にゲロると、セレスじゃなくてラッセルが顔を真っ赤にして嗜めてくる。一応サキュバスであるカレンが特に気にした様子が無いのはともかく、怒るのは君なんだね……ムッツリとはいえ誠実で真面目な奴だなぁ?
えっ、セレスはどんな反応してるかって? そりゃあ君、決まってんじゃん?
「やだもう、クルスくんったら……でも、喜んで貰えてあたしも嬉しい……」
「それで良いんですか、セレスさん……?」
ポッと頬を染め、もじもじと満更でも無さそうに身を捩ってたよ。ラッセル君が控えめにツッコミを入れてたのが印象的だね……。
やったね、カップルが二組誕生したよ! なお、片方。