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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第14章:恋する乙女の末路
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全力、解放


 何故セレスは今まで本気を出しても全力は出さなかったか。その理由は極めて単純明快。周囲に仲間がいたからだ。

 セレスの力の源泉は過去のトラウマを乗り越えた事。激しい大嵐によって住処も故郷も、そして家族も奪われた。しかし目を背けたくなる悲惨な過去を受け入れ、捻じ伏せ、力に変えた。言わば自分の全てを奪った大嵐を、そっくりそのまま自分の力にしたようなもの。

 ではそんな破壊的な力を、トラウマになるほど深く鮮烈に刻まれたイメージのまま、全力で振るえばどうなるか?


「はああああぁああぁぁぁっ!!」


 その結果は正に地獄絵図。暴風を纏い竜巻を従えた風神のようなセレスが、森の中を駆ける僕を憤怒の形相で睨みつけながら、全てを斬り裂き吹き飛ばし宙を駆けて追いすがってくる。それは正に大嵐の具現化。セレスを中心として生み出された一つの災害。

 激昂するセレスの様子と、その全力を見たいからこうして森の中を駆けてるわけなんだけど、これはマジでとんでもないな? 大体セレスから五十メートル圏内に入った辺りで、森の木々は半ばからへし折れて吹き飛ぶレベルの超暴風。そうしてあらゆる物がセレスの周囲を巡る竜巻の中に吸い込まれ、微塵に切り刻まれながら天高く舞い上がり、バラバラとその破片が流星群のように降り注ぐ。

 セレスが長剣を一振りすればその軌道上に巨大な風の刃が走り、軌道上の全てが真っ二つに斬り裂かれる。技巧派のスピードファイターかと思ったら、その本性は広範囲長射程のパワーキャラだったよ。

 こっちはわざわざ木々を躱して走ってるのに、向こうは当たり前のように直進してくるから始末に負えないね。障害物となる森の木々はセレスの剣が届く間合いに入るよりも早く、竜巻と暴風に煽られて吹っ飛ぶからね。まるで迷路の壁を破壊して進むみたいな理不尽な事してんなぁ?


「アハハハハハッ!! いやぁ、容赦ないねぇ!? 僕の事愛してるんじゃなかったっけ!?」

「うるさい、黙れっ! あたしの気持ちを裏切ったのはお前だっ!!」


 もちろんただ眺めながら逃げるだけじゃ面白くないから、しっかりと会話(精神攻撃)もする。

 ただしそれで飛んでくるのは憤怒のこもった言葉だけじゃなく、音速に迫る勢いで飛んでくる馬鹿デカい風の刃。躱すのは簡単だったけど、そしたら僕の後ろにあった木々が数十メートルくらいに渡って真っ二つに斬り裂かれ吹っ飛んだよ。とんでもねぇな?


「裏切るぅ? すでに何人も女がいる男に横恋慕してきたのは自分じゃん? そんな自分を棚に上げて僕を裏切り者呼ばわりとか、何を被害者面してるのさ。これだから女ってやつは」

「黙れええぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「アハハハハハッ! いやー、楽しいなぁ!」


 そして乱れ飛んでくる超大型の風の刃。ポンポン切り飛ばされて宙を舞った木々が竜巻に吸い込まれ、更に木っ端微塵に斬り裂かれて天から霰の如く降り注ぐ。

 何て言うか、あれだね。このまま一時間も戦えば無人島の森林を全て更地に出来そう。そんくらいの勢と激しさの大嵐だもんよ。


「愛と憎悪は紙一重。愛が強ければ強いほど、それが裏返った時の憎悪は凄まじい。その具体例をこうして体験できるなんて夢みたいだなぁ? 僕ってすっごく愛されてたんだね!」

「ふざけるなぁ!! 許さない……絶対に許さないっ……!」


 僕の挑発を受け、宙に留まったセレスが両手で長剣を突き出してくる。瞬間、周囲を巡ってた竜巻の一つが解けるようにして気流と化し、長剣に螺旋を描きながら吸い込まれてく。

 あ、これアレだ。以前見た事ある奴だ。でもその時とは規模と威力が段違いになる感じ。まかり間違っても個人に対して使うような攻撃じゃないでしょ? さては本気でキレてるな?


「食らえ――ハリケーン・キャノン!」


 そして――ドンッ! 放たれるのは圧縮された空気の大砲。それだけ聞くと大した事無いみたいに思えるかもだけど、凄いよこれ。放った瞬間の衝撃波だけで、周囲の木々が半ばからへし折れて吹っ飛んでったもん。

 そして空間が歪むほどに超圧縮されたデカい空気の塊が、竜巻の尾を引きながら僕に向かって突っ込んでくる。横方向に竜巻を放つ、って言えば分かりやすいかな? 触れた物は一切合切一瞬で削り壊されて消滅する、人なんか簡単に飲み込む巨大なミキサーが迫ってくる感じ?


「おおっ、すっごい。やっぱり屋外で周囲に人がいない所で本領を発揮できるタイプだね――空圧障壁プネマティック・バリア


 僕は正面から食らっても大丈夫だけど、それだとさすがにセレスの戦意が挫けそうだからこっちも空圧の壁を作って適当に防ぐ。僕の作った障壁にセレスが放ったハリケーン・キャノンとやらがぶち当たり、貫く事が出来ず横方向にその破壊を撒き散らす。

 あーあ、地面ごと木々が引っこ抜かれて宙を舞ってる……自然破壊が著しいな?


「お、凄い。ヒビ入ってる」


 そしてあろうことか、僕の張った空圧障壁プネマティック・バリアに若干とはいえ亀裂が入ってた。無限の魔力で強引に創り出した超高強度の空圧の盾にヒビ入れるとか、やはりイメージ力や意志力でぶん殴ってくるタイプはわりと鬼門ですね。

 しかし本当に凄いな? これがセレスの全力か。そりゃあこんな周囲に大破壊を撒き散らす力、仲間が近くにいる状態じゃ使えんわな。たぶん本質が破壊の権化みたいなものだから、範囲を抑えようとすると威力も駄々下がりするんだろうね。範囲を抑えに抑えた結果が、風の威力そのものは死んだ無音剣術みたいな感じだったんだろうか。


「あたしたちを騙して楽しかった!? 罪悪感とか何も感じなかったの!? ほんの少しでもあたしたちに友情や仲間意識を感じたりはしなかったの!?」


 などと自然破壊をしている張本人が、涙ながらの憤怒の形相で訴えてくる。こんな状態でも精神性が極めてまともで笑っちゃうよ。まあもちろん馬鹿デカい風の刃をバンバン飛ばしながらだったけど。


「全然っすねぇ。僕はその辺歩いてる幼女を殴り殺しても罪の意識とか欠片も湧かないし。まあその場合、すぐに殺すとか勿体無かったなっていう後悔くらいは抱くけど」

「このクソ野郎っ! 性格破綻者っ! そこまでのゴミだとは思わなかった!」

「アッハッハ、よく言われまーす」


 超高速で体当たりを仕掛けてくるのをさっと跳んで回避しつつ、セレスを嘲笑う。

 何気に一番ヤバいのは風の刃でも竜巻でもなく、セレス自身を包む半径三メートルくらいの暴風領域だ。周囲の竜巻は内側に向けて吹きすさぶ風だけど、これに関しては違う。純粋にセレスを護るように暴風が高速で巡っていて、接触した物体を瞬く間に削り飛ばして弾き出す感じだ。竜巻がミキサーならこっちはチェーンソーだね。


「あたしたちに見せた笑顔! 気遣いや優しさ! あれも全部嘘だったの!?」

「ざーんねん。気遣いとか優しさは、そうした方が関係が円滑に回りそうだからやってただけだ。まあわりと素に近い状態で接してたから、笑顔はギリギリ嘘じゃないと思うよ?」


 まだ信じたくない部分があるのか、何やら叫びながらバカスカ風の刃を飛ばしてくる。

 実際の所は嘘よりも本当の所が多い。セレスたちとの旅や触れ合いを確かに楽しんでた部分も存在する。それに僕みたいなクズでなくとも、円滑な人間関係のために人に優しくしたりするのは珍しくないだろうしね。 


「君を拒絶しなかったのも似たような理由だね。できるだけ僕に夢中させてから全てをバラして、その落差による途方も無い絶望を与えてあげたかったんだ。そのおかげで今こうして、最高に面白い反応を楽しませて貰ってるよ」


 ただし、それを馬鹿正直に言ってやる必要はどこにもない。むしろセレスを煽り、より激情を引き出すための燃焼剤として利用する。


「ああああぁああぁあぁぁっ!!」


 案の定、キレ散らかしたセレスは再びさっきのハリケーン・キャノンとやらを放ってくる。しかも今度は竜巻二つ分の暴風を凝縮して。さすがに空圧障壁プネマティック・バリアだと破られそうだし、さっきから逃げ回るのも飽きてきたから反撃も兼ねてこれを使おう。


「――逆転障壁(リバーサル・バリア)


 迫る暴風の大砲の前に展開するのは、触れた物の運動ベクトルを反転させ、そっくりそのまま反射させてお返しする攻防一体の障壁。使いどころが特に無かったから初めて使えて嬉しい――あれ、何か前にも使ったような気がする……こんなのいつ使ったっけ?


「なっ!?」


 放った渾身の一撃が逆再生するみたいに戻ってくる光景を前にして、セレスは驚愕に目を見開く。そんな反応をしてたせいで避ける余裕が無くなり、圧縮された空気による砲弾が直撃した。


「うっ、ぐううぅぅぅぅっ……!」


 圧縮空気の砲弾と、セレス自身を取り巻く暴風領域がせめぎ合う。自身が放った攻撃とはいえ、強烈に圧縮された一撃だった事が災いしたね。砲弾は暴風領域を引き裂き周囲に突風として撒き散らしながら、少しずつセレスへと近づいてく。

 当然セレスはそれを防ぐため、歯を食いしばりながら暴風領域を強化して対抗しようと頑張る。まともに食らえば致命傷は免れないから当然だ。


「――だけどまあ、君がそれを捌くまで大人しく待ってあげる義理は無いよね?」

「っ!?」


 しかし僕は邪悪なる神(の演技をしている女神様の使徒)。盛大に隙を晒してる所を馬鹿正直に傍観してるわけもない。

 なのでセレスの横に転移して現れると、頑張ってせめぎ合いを続けてる所へ手を伸ばし――


「こうかな? 暴風大砲(ハリケーン・キャノン)

「きゃあああぁああぁぁぁぁぁっ!?」


 わざとセレスが使った魔法を用いて、横合いから痛烈な一撃を放った。正面の圧縮空気の砲弾を受け止めてる所に、横から同じような一撃を貰えばどうなるかなど自明の理。

 盾の役割を果たしてた暴風領域は一瞬で千々に消え去り、くらえば原形すら残らないであろう威力の暴風大砲(ハリケーン・キャノン)が炸裂した――

 セレスの本領は超高火力広範囲殲滅型なので、実はチームプレイに破滅的に向いていませんでした。仲間になると急に弱くなる敵と似たようなもの。仲間も吹っ飛ばしていいなら全力を出せます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何やこいつ(セレス)自分から縛りプレイするとかドエムか…?w
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