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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第14章:恋する乙女の末路
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愛と憎悪は表裏一体

⋇クルス視点に戻る


 さあ、遂にセレスが僕の事を邪神だと理解してくれたぞ! 

 邪神がとても身近にいたっていう事実はあまりにも衝撃だったみたいで、セレスは剣を取り落としてる事すら気付かず、驚愕に瞳を揺らしながら僕を見つめてるよ。

 まあそれもしょうがないよね。大好きな人と初めてのエッチをする直前で邪神の城に拉致された挙句、その大好きな人が実は邪神だったんだもん。受け入れ難いのも無理はないか。


「どうして……どうして!? クルスくんが邪神だっていうなら、世界を滅ぼそうとしてるのはクルスくんなんだよね!? ううん、それだけじゃない! 奴隷たちを殺したのも、お姫様たちを拷問したのもみんなクルスくんなんだよね!? どうしてそんな酷い事をするの!?」


 セレスは感情がだいぶ乱れてるみたいで、涙ながらにそんな事をのたまう。怒ってるのか悲しんでるのか、あるいは僕を軽蔑してるのか、正直どれなのか表情からじゃいまいち分からない感じだ。たぶん自分でも分かってないんじゃないだろうか。


「どうしてって言われても、みんなくたばった方が良い存在だからだよ。だってそうでしょ? 邪神っていう世界を脅かす脅威が存在するっていうのに、クズ共はクズ共同士で争いあって潰しあって醜い事この上ないしさ」


 やっと正体を暴露できたから、最早演技をする必要はどこにも無い。だからこそ僕は紛れも無い本音を口にした。この世界に生きる奴らは醜くて堪らないから、一人残らず皆殺しにしたいってね。

 実際は世界平和を実現するためにも皆殺しは駄目なんだけど、それに関しては今この場で言う必要も無い。だからここは徹頭徹尾、邪悪極まる存在として行こうと思う。その方がセレスの反応も面白そうだしね!


「ああ、奴隷たちを殺したのは少しずつ抵抗する力を削いでいって、じわじわと苦しめるためだね。両種族のお姫様を攫って公開拷問ショーをしてるのもその一環だよ。僕の大切な伴侶――女神カントナータを傷つけたクソ共を楽に滅ぼすわけないよねぇ? 生まれてきた事を徹底的に後悔させてあげないといけないでしょ?」

「そん、な……!」


 自分の大好きな男が邪悪な本性を垂れ流す姿に、セレスは絶望の面持ちで膝から崩れ落ちる。

 良いよー、その反応。その光を失った瞳。丁寧に好感度を上げてきた苦労も報われるってもんだ。


「いやぁ、当然と言えば当然だけど、誰も僕の正体に気が付かないんだもんなぁ? 僕が邪神だってバラした時の反応が楽しみで楽しみで、正直ずっとバラしたくてうずうずしてたんだよ。あー、スッキリした! 最高っ!」


 とりあえずもう必要無いから出してた翼を消して、エクス・マキナも引っ込める。

 一人の女の子の心を丁寧にぶち壊すのは非常に楽しい反面、最高に手間と時間がかかる娯楽だ。だからこそこんな期待通りの反応をしてくれるセレスには感謝しかないね? ほらほら、俯いてないでその絶望に染まった瞳をもう一度見せて? 


「……あたしたちを騙して、楽しんでたの?」

「うん、滅茶苦茶楽しんでたよ! 君らときたら傑作だよね。邪神が目の前にいるっていうのに、当の邪神を信頼のおける仲間として接してくれるんだもん。いつも腹が捩れそうで笑うのを堪えるのが凄く大変だったよ。アハハッ」


 最早感情のこもってないセレスの問いに、満面の笑みで頷く。

 カレンもラッセルも、そしてもちろんセレスも、僕を大切な仲間として扱い接してくれてたのが滑稽な事この上無い。演技とかよりも込み上げる笑いを堪えるのが一番大変だったね。『ここは僕に任せて先に行け!』の時とか、一匹だけ残してもらった奴隷がドン引きするくらいに笑ったし。


「特に一番笑えたのは君だよ、セレス。僕の事を好きだとか愛してるだとか、本気だったのが心底滑稽で笑えたね。挙句に僕が作り上げた肉人形を丁寧にお世話して大切に扱ってくれるとか、もう感動で涙が出そうなくらいだよ。もしかすると真の仲間や協力者以外で君が最も邪神を手助けしてくれた人なんじゃない? いやぁ、本当にありがとうね? 感謝してるよ」


 そう、セレスは僕の恩人だ。何といっても僕が作り上げた肉人形のお世話をして、屋敷までしっかり届けてくれたんだからね。セレスならそうしてくれると分かってたからこその肉人形だけど、実際にやってもらえると感謝と愉悦が同時に沸き上がって変な気分になっちゃうよ。

 何にせよセレスのおかげで、僕は一月以上も自由に行動できた。そうとは知らずとも、邪神に大いに貢献してくれた子なのは間違いないよね。マジで感謝感激雨あられ。


「……ふ……るな……」

「うん? 何か言った?」


 素直に感謝を伝えると、何やら聞き取れないほど小さな呟きが耳に届く。聞き返してみると、セレスはガバっと顔を上げた。大量の涙が零れるその瞳と面差しを――憤怒に歪めて。


「ふざけるなっ! あたしは! あたしは、本気でお前の事が好きだったのにっ!」

「あーっ! そうそうそうそう! そうだよその表情! その反応! それが見たくて今までくだらない仲良しごっこに付き合ってあげてんだよ! いやー、今までの苦労が報われる最高の瞬間だね!」


 愛情が憎悪に裏返る瞬間っていうのかな? その一瞬の輝きを見られたことで僕のテンションはうなぎのぼり。今まで散々僕に好き好きアピールしてきたセレスが、今は憤怒と憎悪に満ちた

醜いツラしてるのが最高に愉快だ。きっと僕は今、もの凄く醜い嬉しそうな笑顔を浮かべてるだろうなぁ。自分でも滅茶苦茶顔が緩んでるのが分かるし。

 なんてはしゃいでたら……あら、びっくり。セレスの手がさっき落として床に転がってた長剣へと伸びる。そして柄を力の限り、それこそ手から血の気が失せるほどに強く握りしめる。おやおや、これはこれは。


「……許さない。よくも今まで、あたしの心を弄んでくれたな!」

「お? 僕とやるっての? この場で僕に掠り傷一つ与えられなかった事を忘れた?」


 固く剣を握りしめ、僕に向けて突きつけるセレス。あれほど僕の事好き好きアピールしてたのに、今や親の仇でも見るようなキマった目をしてるよ。良いねぇ、ここまで丁寧に好感度を稼いできた甲斐があるってもんだ。


「そうだね、もちろん覚えてる。でもそういう自分こそ覚えてないの? お前はあの後、大天使と闘った。そのせいで更に弱体化したって、ご丁寧に世界中に教えてくれたでしょ。今なら、あたしの攻撃も通用するかもしれない。そして仮にアレも嘘で通用しなかったとしても――もう、そんな事は関係ない! 絶対に、報いは受けさせてやるっ!」


 叫ぶセレスを中心に、轟々と暴風が渦巻く。それはまるで漲る憤怒と殺意が具現したみたいな激しさだ。

 素晴らしい。できないよーとか日和ったりせず、愛する男をしっかり敵と認識して殺意をぶつけてくる。これは今まで見られなかった、セレスの全力(・・)を見る事が出来るんじゃないかな? 


「アハッ、アハハハハッ! いいねぇ! その殺意と固い意志! やっぱ女の子はそうでなくちゃ!」


 愛情が反転したとびきりの憎悪をぶつけられて、ますますテンションが上がる。そうそう、やっぱり意志力の強い女の子って素敵だよね。こんなに激しいダンスの誘いを叩きつけられたら、つい一緒に踊りたくなっちゃうよ。


「よし! 本当は一瞬で捻り潰せるけど、特別に付き合ってあげるよ! 今の僕は気分が良いからね!」

「っ!?」


 僕は玉座から立ち上がると、指パッチンして転移を発動。セレスも巻き込み、この戦いに相応しい場所へと移動した。セレスが心置きなく全力(・・)を出せる場所に、ね?


「ここ、は……!?」


 転移を果たした後、周囲の光景が激変した事でセレスは動揺して辺りを見回す。

 まあそれも当然だよね。お城の中から一瞬で外に移動させられたんだからさ。


「ここは君らの住んでる大陸から五千キロくらい離れた場所にある別の大陸さ。あ、さすがに大陸があそこだけとは思ってないよね? だとしたら見識が狭すぎるぞ」


 そう、ここは邪神のお城を創ったり、レーンと無人島デートした事でお馴染みの別大陸だ。別にここで無くても条件が合えばどこでも良かったけど、あまり思い当たらないしここで良いかなって。

 向こうの大陸は晴れた夜で綺麗なお月様が見えてたけど、こっちの大陸は生憎と曇ってる感じだね。今僕たちが立ってる砂浜もかなり薄暗くて、何だかちょっとエッチな雰囲気が漂ってる感じだ。夜に女の子と二人きりの砂浜とかエッチ……エッチじゃない?

 

「ここは無人島。聖人族も魔獣族も住んでない。この大陸にいる人間は僕らだけだ。だから――ここなら君だって全力(・・)を出せるでしょ?」


 そんな風に、何気ない感じでセレスに問う。

 本人に確認したわけじゃないけど、恐らくセレスは(クルス)の前で全力を出して戦った事は無い。(邪神)の前では本気を出してただろうけど、アレは恐らく全力じゃない。僕の考えが正しければ、ここでならセレスはその力の全てを見せてくれるはずだ。


「……そうだね。ここなら、大丈夫。周りを気にする必要も無く、あたしの全力を出せる。全力で、お前と闘えるっ!」


 そして、僕の考えが正しい事はすぐに証明された。

 長剣を構えて言い放つセレスを中心に、さっきを遥かに上回る激しさの暴風が渦を巻く。それこそ森の木々がひしゃげて吹き飛ぶレベルで。まるで嵐をその身に纏ってるみたいな状態だね。

 しかもそれだけじゃ飽き足らず、三つくらいの小型の竜巻が生じ、砂や海水を巻き上げながらセレスの周囲を巡る。暴風を纏い竜巻を侍らすその姿は正に風神。以前にそう下した評価は間違いじゃなかった感じだ。


「さあ、僕と愛し合おう(殺し合おう)! 君の全力でかかってきなよ、セレスぅ!」


 そんな惚れ惚れする全力と憎悪を漲らせるセレスを前に、僕は大興奮しながらそう叫んだ。愛情が裏返り憎悪の狂戦士となった恋する乙女の憤怒と殺意、是非とも見せつけてくれ!

 可愛さ余って憎さ百倍。ブチ切れたセレスが叩っ斬りにくる。次回、セレスの全力がお披露目。

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