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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第14章:恋する乙女の末路
392/527

セレスとデート2

⋇性的描写あり


「――お待たせ。もうゴミ掃除は終わったよ?」


 およそ十分後、チンピラ三人と遊んであげたセレスが帰ってきた。

 もちろん遊んであげたって言っても、チンピラたちに身体を差し出してエロい事されたってわけじゃない。どっちかというとキレた恋する乙女のパワーを分からせてやった感じだね。ニコニコ笑顔で何事も無かったみたいな顔してるけど、さっきまでチンピラたちの悲鳴と命乞いが聞こえてたし、頬にちょっとだけ返り血ついてますよ……もしかして殺ったの?


「あ、はい。お疲れさまです、セレスさん」

「あっ、何かまた距離を感じる……」


 引き気味になってる僕の内心を敏感に察したのか、ムッとした様子でジリジリと近付いてくるセレス。残念ながら僕は大木に背を預けてる上、腹が重いので立ち上がれず逃げられなかった。


「いやぁ、そんな事はないですよぉ?」

「本当ぉ……?」

「本当本当。ほら、頬に汚れがついてるよ」

「わぷっ……えへへ」


 吐息がかかりそうなくらいにまで寄ってきたセレスに対し、ハンカチでその頬の返り血を拭ってやる。まあそれじゃあ塗り込んだだけで落ちたわけじゃないだろうし、魔法で汚れを綺麗に分解してあげた。さすがに自分が親しくしてる女の身体に、他の男の体液を塗り込むのは嫌だなって。

 何にせよ僕の反応を疑ってたセレスも、頬をハンカチで拭ってあげるとそれで満足したらしい。途端にデレデレと表情を崩して、もう一度僕の隣にぴったりくっつく形で腰掛けた。そこはかとなく血の臭いがするぅ……。


「……そういえばふと思ったんだけど、セレスはどうしてそこまで風の魔法が得意なの?」


 まだ腹も重くて動くのが億劫だし、せっかくなので気になる事を尋ねてみる事にした。

 セレスは風に関する魔法を使うのがとても上手い。その精度も舌を巻くほどだ。ただ考えてみると、何故そこまで風に関する魔法が得意なのかを尋ねた事は無かった。雷に関する魔法が得意なカレンには以前聞いてたけどね。

 さっきのキレた様子を見た限り、感情の高ぶりに合わせて無意識に風を操るレベルだと思われる。果たして何故そこまで得意なのか。もしかして変な戒律とか設けてない? この恋する乙女のぶっ飛び具合ならやっててもおかしくないぞ。


「それは、うーん……あんまり楽しい話じゃないけど、クルスくんが知りたいって言うなら教えてあげるね」


 少し悩む様子を見せたものの、最終的には相手が僕だからこそ教えてくれる事にしたっぽい。さり気なく僕の右手を握り指を絡めると、セレスはどこか遠くを見るような目で語り始めた。


「あたしね、テュエラっていう小さな村の出身なんだ。クルスくんは聞いた事ある?」

「いや、ないな。どの辺にあるの?」

「もう無いよ。あたしが子供の頃に、無くなっちゃったんだ。凄い嵐が来て、それで全部吹き飛ばされちゃったの」


 おっと、何か重い話になってきたぞ? 村が吹き飛び無くなるほどの大嵐っすか。てことはセレスはその村の生き残りって感じか。天真爛漫で明るい性格からは予想もつかないほど過去が重かった件。


「本当はあたしも、村の人たちと一緒に死ぬはずだった。だけどパパとママが、身を挺してあたしを守ってくれたの。あたしを暖炉に押し込んで盾になるみたいに覆い被さって、崩壊する家の瓦礫や、飛んでくる色々な物から、あたしを……」


 そこでセレスは辛い記憶に耐えるかのように、僕の右手を握る手にぎゅっと力を込めてくる――なんて事は無かった。ただ愛し気に、絡めた指を交わらせるだけだ。


「そのおかげで、あたしは生き残った。だけど、もう村には瓦礫と死体以外何も残って無かった。パパとママもいつの間にか吹き飛ばされちゃったみたいで、どこにもいなくて……子供心に思ったよ。今まで気持ち良いと思って浴びてた暖かな風が、吹き抜ける心地良い風が、本当はこんなに強くて怖いものなんだって」


 チラリと表情を覗き見れば、そこにあるのは恐怖や悲しみじゃない。ただ遠い昔の懐かしい記憶を語るような、懐古の微笑み。この僕ですら笑うシーンじゃないって分かってるのに、当の本人が微笑を浮かべてるっていう……。

 もしかしてセレス、あまりにもショックな出来事を体験して壊れちゃったんだろうか? いや、違うか。それにしてはびっくりするくらいまともだし。あと壊れたとしても風の魔法を操るのが得意な理由にはならないし。

 だとすると考えられるのは、トラウマを克服――いや、いっそ捻じ伏せて力に代えたって事か? だとするとこの悲惨な過去を懐かしむ微笑みも、そして風の魔法が得意な理由にも説明が付く。トラウマになるって事は、それだけ心に深く刻み込まれたって事。この世界の魔法の原理から言えば、それはむしろ魔法のイメージを強力にするっていうメリットになり得る。だとするとセレスは恐らく……いや、これは今は置いておくか。

 何にせよトラウマを乗り越え力に変えられるかどうかは、本人の意志力次第だ。実際にそれが出来てるセレスに惚れ惚れしちゃうね。やっぱ僕は精神的に強い女が好き……。


「……ごめん。悪い事聞いたね」

「ううん、良いよ。もう乗り越えた事だし、クルスくんにはあたしの事を知って欲しいから」


 乗り越えたって言葉に嘘はないみたいで、全く以て気にせず僕に密着してくるセレス。むしろ『私、悲しんでます!』って感じにアピールしてくっつく口実にすらしてる感じだ。恋する乙女は逞しいなぁ?


「なるほどねぇ。本来ならトラウマになるような体験を乗り越えて、むしろ力に昇華して身に着けたって事か。どうりで風に関する魔法が得意なわけだ」

「ふふっ、そうだよ。あとはほら、付け尻尾を揺らして本物感をアピールするのにも使ってたからね。おかげで風は手足みたいに扱えるよ」


 挙句に必要に迫られたとはいえ、小技も磨いて鍛錬もしてたみたいだ。それなら風切り音みたいな空気抵抗すら操れるのが得意っていうのも納得だね。

 しかし予想外に重い過去があったもんだ。天涯孤独のニカケの悪魔でありながら、今はAランクの冒険者にまで上り詰めてるなんて素直に尊敬するね。僕との出会いまでに色々辛い事もあっただろうに、全て乗り越えこうして隣で明るく笑ってるなんて……そんな、そんなのって……。


「……とても美しいね、セレス。悲惨な体験を乗り越えむしろ糧にするその意志力。惚れ惚れするよ。正に僕好みの女って感じだ」

「ふえっ!?」


 どうせ好感度を上げる最後の機会はこのデート中だけだし、包み隠さず本心を口にしてあげた。途端にセレスは顔を真っ赤にして恥じらう始末。反射的に僕から離れようともしてたけど、指を絡めて腕を抱いてる状態だから少しも離れられてなかったね。


「や、やっぱりクルスくんは、気が強い女の子が、好きなの……?」

「好き。でも正確には何ていうかこう、信念と言うか意志というか……とにかく精神的に強い子が好みだね」


 あと見た目も良くないと駄目。どっちか片方じゃ駄目だよ。ちゃんと両方兼ね備えてるからこそ、どっかのクソ犬も大らかに受け入れてあげてる節もあるしね。セレスも問題無く両方兼ね備えてるのはさっきの昔話で理解できたし。


「そ、そうなんだ……でも、あたしはそんなに強くないよ……?」

「まさか。弱い奴なら邪神に負けた時点でもう折れてるよ。でもセレスは違う。悔いを残さないように行動しながらも、いつか邪神と再び戦う事を諦めてない。それに僕の犬猫に対しても怖気づかず、真正面から挑もうとした。そんな強い奴は早々いないよ」

「あぅ……!」


 ずいっと顔を寄せて褒め称えると、セレスは途端に頬を染めたまま狼狽える。

 やはり恋する乙女は攻撃力全振りの狂戦士タイプ。ちょっとこっちから攻めると途端にタジタジになっちゃってるな? そんな反応が実に可愛らしくて大いに嗜虐心をそそるね? 何か興が乗ってきた。


「それに君は過去のトラウマを乗り越え捻じ伏せ力に代えた。そんな事が出来る奴、一体どれくらいいると思う? 間違いなく君は強いよ、セレス。正しく僕好みの素敵な女の子だ」

「こ、好みぃ……!」


 更にずいっと顔を寄せると、顔は真っ赤になりお目々もグルグルになる。めっちゃ純真っていうか、防御力が無いなぁ? こんな初心な反応されると大いに悪ノリしたくなってくるじゃないか、全く。


「君に辛い過去を語らせた以上は、僕も過去を語るのが公平ってものだよね。でもそれは秘密と別件でちょっと困るから、君に選ばせてあげるよ。僕の過去を教えて欲しい? それとも――キスして欲しい?」

「あっ、あっあっ……!」


 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、セレスの顎先を指でクイっと持ち上げてやる。お互いの吐息が感じられるほどの至近距離で、その青い瞳を覗き込みながら。

 キザに過ぎる行為だけど僕のツラはそれなりな方だし、何よりセレスからの好感度が滅茶苦茶高い。知り合ったばかりの女の子にやったら引っ叩かれて憲兵呼ばれても文句は言えないけど、セレスには滅茶苦茶効いてたよ。幸福と恥じらいの狭間で揺れ動く顔してる。


「き……キス、してくださいっ……!」


 少しの間興奮と恥じらいに喘いでたセレスだけど、最終的には真っ赤な顔で目先の欲に飛びついた。自分でやってて何だけど、僕の過去よりそっちですか。いやしんぼめ!


「良いよ。どこにして欲しい?」

「えっ、あ……そ、その……!」


 しばし慌てて視線を彷徨わせるセレス。最後にその視線を僕に真っすぐ向けると、そのまま瞳を固く閉じてぷるぷると震え始めた。分かりやすくも顔を上向け、唇を僅かに突き出してね。さすがにこれを見てどこにキスして欲しいのか分かんないほど鈍くはない。

 だから僕はセレスの頬にそっと手を添えると、そのまま顔を近付けて――


「んっ――」


 躊躇いなく唇を奪った。

 緊張に少し硬くなってる事を除けば、相変わらずの瑞々しい唇だ。そして何より素敵なのは背徳の味。少なくとも現状では付き合ってもいない上、大いに嘘で騙しまくっている相手、それも場合によっては始末する女の子と交わす口付け。色んな意味で背徳的で、だからこそ素晴らしいキスだった。


「ぷはぁ……!」


 しばらく丹念に唇を重ね、たっぷりと偽りの愛と優しさを与えてあげた後、ゆっくりと唇を引き剥がす。お互いの混ざり合った唾液が糸を引き橋を作る光景は、いつ見てもエッチで堪らんね? まあ今は上気した頬でとろんと瞳を潤ませ、口の端から唾液を零してるセレスの顔の方がエロいけど。


「アハハ、トロ顔しちゃって可愛いねぇ? 大丈夫?」

「………………」

「あ、こりゃ駄目だ。夢の世界に旅立ってる……」


 どうやら向こうは僕以上に楽しんだみたいで、トロ顔のまま凍り付いて何の反応もしなかった。目の前で手を振ってみても、潤んだ瞳はどことも知れぬ真正面を見たまま揺らがない。あー、これはちょっと悪ノリしすぎた感じかなぁ……?


 やっとこさ出てきたセレスの過去話。実は天涯孤独の身。

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