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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第14章:恋する乙女の末路
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イエローアパタイト



 皆で邪神との再戦を誓った後、適当に駄弁ってたらいつの間にか夕方になってた。まさか昼食で夕方まで居座るなんていう非常識な真似をしちゃうとは思わなかったね。おやつとかも色々注文はしてたから大丈夫だとは思うが。


「では俺たちはそろそろ行くとしよう。この街に来て観光どころかまだ宿すら取っていないからな」


 そんなこんなで割り勘で支払いを終えた後、店を出た場所で現地解散という流れになった。すでにだいぶ日は傾いてて、オレンジ色の夕焼けが実に美しい。

 どうやらおねショタコンビは僕の安否が相当気がかりだったらしく、宿すら取らずにまずはお見舞いに来てくれた様子。僕ったら愛されちゃってるなぁ? まあずっと目覚めなかったわけだし、まともな精神を持ってる人なら心配して当然か。


「あいよ。何かあったら僕の屋敷に来てよ。僕が留守でも必ずメイドが一人はいるはずだから、言伝を頼んでも良いしね」

「了解した。冒険者ギルドで会う事があれば、共に依頼でもこなそう。邪神相手ならともかく、ギルドの依頼程度ならお前の足を引っ張る事にはならんだろう」

「そだね。機会があればそうしようか」


 そんな誘いをかけてくるカレンに、社交辞令を返しておく。

 正直みんな忘れてるかもしれないけど、冒険者ランク的にはカレンはAで僕は未だCに下がったままだからね。たぶんランクに差がありすぎて二人で受けるとか無理なんじゃない? そこまで規約覚えて無いから断言はできないが。


「あー、ずるい! あたしもクルスくんと一緒に依頼をこなしたいのに!」

「む、すまない。ならばいっそ俺達全員ではどうだ?」

「それも良いけど、あたしはクルスくんと二人きりの方が――」

「……あの、クルスさん。ちょっと良いですか?」

「おん? どうしたの?」


 カレンがセレスと何やら語り合ってる所で、不意にラッセル君が小声で声をかけてきた。夕日に照らされてるから分かりづらいけど、何やら頬を赤らめてる気がする。お、まさか告白か? 駄目だよ、僕には五人も恋人がいるんだ……!


「あなたと二人だけでお話がしたいのですが……今夜、お時間は空いていますか?」

「ん? んー……まあ、空いてるよ」


 何やらとても真剣なご様子。凄く面倒そうだけど茶化したら怒られそうだし、ここはやむなく頷いておいた。どうせ何か相談でもあるんでしょ。相談相手に選ばれるほど信頼されてるって考えれば愉快痛快だし、乗ってあげるのもやぶさかじゃないな。


「そうですか。では、七時頃にあなたの屋敷に伺っても?」

「良いよ。何の話か知らないけど」

「ありがとうございます」


 簡潔に予定を決めた所で、ラッセルは素早く僕から離れる。カレンたちが会話してる隙を狙ってた事からも、相談があるっていう事実も誰にも知られたくなかったっぽい。

 何だよ、それなのに僕には相談するのか? めっちゃ頼られてるじゃん。嬉しいねぇ?


「では達者でな、二人とも」

「またお会いしましょう。さようなら」

「さいならー」

「またねー!」


 そんなこんなで、ダブルデートらしくコンビで別れる。もしかしてあの二人、同じ宿に泊まるんだろうか。さすがに同じ部屋とかは無いだろうけど、そうなったらラッセル君もの凄いドギマギしそう。


「クルスくん! 暗くなるまではまだ時間があるし、良かったら一緒に散歩でもしよ!」

「散歩? まあ良いか。付き合ってあげるよ」

「えっ、本当!? お付き合いしてくれるの!?」

「違う、そっちの意味じゃない」


 どうやらセレスはまだ僕と一緒にいたいみたいで、そんな風に散歩を提案してきた。セレスの好感度を限界まで上げたい僕としては断る理由も無いし、当然頷いたよ。何か拡大解釈というか言葉狩りされかけたけどね。やっぱ恋する乙女は積極的だなぁ? 

 好感度を上げるにはプレゼントが一番だし、せっかくだから何か見繕ってあげようかな。どうせならこう、たっぷりと含みを持たせたものなんか楽しそうだよね。さーて、何にするか……。






「あー、今日も楽しかった! クルスくんが一緒にいてくれるから、幸せいっぱいの時間だったよ!」

「それは良かった。セレスが楽しんでくれたなら僕も嬉しいよ」


 それからしばらくして、夕日も沈みかけで夜の帳が降りてきた頃。僕は屋敷の門の前でセレスと別れ前の会話をしてた。

 本人も口にしてる通り、めっちゃ幸せそうで満足気な顔してるよ。もう僕の隣にいるだけで幸せで仕方ない、って感じ? やっぱり狙い通り好感度大幅アップに成功したみたいだ。プレゼントの力は偉大だね?


「それから……これも、ありがとね?」


 うっとりとした表情で、自らの首元を見下ろすセレス。

 そこにあるのはついさっき僕が購入してプレゼントしてあげた、宝石で彩られたペンダントだ。下品にならないように装飾の宝石は一つだけ、それもかなり小さ目なものだけど、紛れもなく高級な装飾品。こんなものをセレスの前で深く吟味した上で買ってあげたんだから、そりゃあ好感度も上がるってもんだ。


「クルスくんがペンダントを、しかも綺麗な宝石付きのペンダントをプレゼントしてくれるなんて……これはもう、結婚式の日取りを決めないといけないよね!」

「早い早い。しかも段階飛ばしてる」


 ちょっと予想以上に効果があったような気もするけど、効いてるようなら別に良いか。

 そういえば結婚式かぁ。さすがに真の仲間たちはそんなの挙げる必要ないよね? 興味のある奴もいなさそうだし。あ、でもクソ犬はちょっとうるさそう……うん、気付かなかった事にしよう!


「まあ、告白の返事を待ってもらってるのは完全に僕の都合だしね。だからそれくらいはプレゼントしないと男じゃないよ。それに――」


 そこで一旦言葉を切り、セレスとの距離をぐいっと詰める。

 お互いに吐息がかかりそうな距離まで近付いたせいか、途端にセレスの顔が恥じらいで真っ赤に染まる。自分から近付くのは良いのにこっちが近付くと恥ずかしくなっちゃうの? やっぱ恋する乙女は攻撃力全振りの狂戦士なんだなって。


「――このペンダントを付けてれば、セレスがフリーじゃないって事は誰の目からも分かるだろうしね?」


 そんな風にキザったらしい事を口にしながら、ペンダントの宝石――透き通った綺麗な黄色に輝く、イエローアパタイトを指で弄んで見せる。

 本当はセレスの目と髪に合わせてエメラルド辺りにしても良かったけど、予め含みを持たせたプレゼントをしようって決めてたからね。だからイエローアパタイトっていう宝石にしました。えっ? 何故それを選んだのかって? ヒントは石言葉だ。


「も、もうっ。クルスくんったら独占欲強いんだ……えへへ」


 しかしそれを知らないセレスはデレッデレに蕩けた笑顔で喜ぶ始末。挙句独占欲を示されてもむしろ幸せそうだね。

 うーん、もしかして含みには全く気が付いてないんだろうか。いや、気が付いてても普通に喜びそうだな、これ。まあ大好きな男から独占欲も露わに宝石をプレゼントされたんだ。石言葉が何であろうと女の子なら気にしないか。これは失敗だったかな?


「で、でも、欲を言えばペンダントよりもクルスくんとの婚約指輪が欲しかったなぁ……な、なんてね! えへへ!」


 うん、やっぱ石言葉なんて気にしないなこれ。むしろ宝石貰っておいて滅茶苦茶貪欲で浅ましいな? いや、金欲とか物欲以外の欲なところは好感持てるんだけどさ……。


「――すまない、ちょっとそこを通らせてくれ」

「あ、ごめんなさい! って……え?」


 なんて風にだらしなく照れ笑いを零すセレスを眺めてると、唐突に僕らの間に割って入り通って行く人影。これにはセレスも正気に戻って謝ってたけど、すぐさま首を傾げて闖入者を驚きの目で見つめてた。

 まあそれも仕方ない。だって僕らが立ってるのは屋敷の門の前。そして闖入者は屋敷の門を開けて当然のように入ろうとしてるんだもん。もちろん僕はそれが誰か分かってるし、何なら近付いてきてる事も知ってたよ。しかしまさか間に割って入る形で通って行くとは思わんかったけどさ。


「まーた歩きながら本読んでるし。危ないし行儀悪いからやめろって言ったじゃんよ」

「私は周囲に気を配りながら読書をしているから、別に危険では無い。それに行儀が悪いどころか、むしろ知的な雰囲気を醸し出していて魅力的という評価を貰ったよ」


 なんて本から目を離さずに答えるのは、みんなご存じカルナちゃん。モフモフのデカい狐尻尾と、ピンと尖った狐耳が実に愛らしいね。

 そう、闖入者とはレーンだ。まあ本人には邪魔する気とかは一切無いだろうけどね。帰宅のタイミングがかち合ったのも恐らくは偶然。どうにもレーンは偽装の姿が定まってからというもの、街に繰り出しては色んな書物を買い漁って日が暮れてきた辺りで帰ってきてるからね。コイツ、魔獣族としての生活をエンジョイしてやがる……。


「何それ。誰からそんな評価貰ったの?」

「道すがら声をかけてきた男性たちからの評価さ。読書の邪魔をしてきたので丁重にお帰り願ったがね。君もあまり私の読書の邪魔をしないでくれたまえ」

「はいはい、分かったよ。でも夕食の時には読書をやめてちゃんと席についてね?」

「………………」

「返事しろや、おい」


 返事を返さず再び歩き出し、無言で屋敷へと帰って行くレーン。

 好奇心と知識欲の塊だから、魔獣族の国っていう新天地で得られる知識が死ぬほど魅力的で手放し難いんだろうなぁ。正直読書以外の事をしているシーンをあんまり見た事が無いし。何なら僕にたっぷりねっとり抱かれて疲弊しきった後でも読書しようとしてたからね。大概そのまま寝落ちしてたけど。


「全く、あの魔術狂いはよぉ……」


 とはいえとても充実した感じの日々を送ってる事は想像に難くないので、あまり強く止めろとは言えないのが困る。

 それに気付いてるのかどうかはさておき、読書中は尻尾がゆっくりフリフリされてて目の保養なんだわ。あんな風に嫌らしく尻(尾)を振って歩いてたら、そりゃあナンパされるのも当然でしょ。


「クルスくん、今の女の人……誰?」


 なんて嫌らしく振られる尻(尾)を遠目に見送ってたら、唐突に隣から冷たい感じの声がかけられる。見ればそこには光を無くした瞳、かつ無表情で佇むセレスの姿。おっ、ヤンデレかな?

 でもそっか。セレスが見た事ある僕の女たちは、闘技大会の時にいた奴らだけだっけ。あの時のレーンは別行動中だったし、本当は僕の女は五人いた事知らないのか。何か面倒な話になりそうだなぁ……。


「あー、うん。アレは何ていうか、その……アレも僕の女っていうか……」

「五人目!? 五人目だよね!? あの闘技大会の時はいなかったよね!? あれからまた一人増えたの!? それともあの時からいたの!?」


 やっぱり面倒な事になり、セレスは泣きそうな顔で僕に掴みかかって来たかと思えば、ガクガク揺さぶりながら矢継ぎ早に尋ねてくる。そんな四人も五人も誤差の範囲じゃん? 今更そこまで取り乱すレベルぅ?


「うーん。それ言わないと駄目?」

「重要な事だよ!? まさか他にもいたりしないよね!?」

「……いない、よ?」

「今不自然な間があったぁ!?」


 ハニエルはたぶん無理だろうなぁとか、いずれ女神様を手に入れるから最低でもあと一人は増えるかなぁ、なんて考えてたせいで反応が遅れて一瞬の間ができる。そのせいでセレスも他に候補はいるって気付いちゃったらしく、涙目で僕の事をガクガクしてきたよ。

 んー、ちょっと面倒にはなったけど、ヤンデレみたいに刺しに来なかっただけまだマシか……?



 魔獣族生活をエンジョイしてる奴がちょっと通り過ぎました。好奇心が滅茶苦茶に刺激されているので仕方ない。


宝石:イエローアパタイト

石言葉:欺く、惑わす、戯れ、etc


愛情や真心では無く皮肉を込めて贈りました。

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