おねショタコンビとの再会
三日ごとに遊びに来るっていう宣言通り、セレスはあれから三日ごとに欠かさず遊びに来るようになった。
とはいえ魔力不足で身体がだるい(演技)僕を心配してるのか、やる事は応接間で僕と寄り添ってお喋りをする程度。どっか一緒に行こうとか面倒な事は言い出さないから、僕も快くおしゃべりに付き合ってあげたよ。何かどっかの誰かが『私の話は聞かない癖に、あの少女とのお喋りは随分楽しんでいるようだね』って若干不機嫌そうになってるのがウケたから、煽るためにも嬉々としてね。
「――クルスくん、おはよう!」
そして今日もセレスが遊びに来た。エントランスに出迎えに来た僕に対して、眩しいばかりの笑顔を浮かべてる。
セレスが来たのはこれで計四回目。三日ごとに昼に来て夕方までお喋りしてるとか、Aランク冒険者は意外と暇なんだろうか? とはいえ今日はいつもと違う感じだ。だって普段は昼過ぎなのに、今日はお昼近くに来てるし。
「おはよう、セレス。今日はやけに早いね?」
「それはごめんね? でも今日は仕方ないよ。だって君にお客さんたちがいるんだもん」
「お客さんたち?」
「そう! ほら、二人とも入って!」
その言葉と共に、セレスは玄関の扉の方に声をかける。一拍置いて扉が開かれ、そこに姿を現したのは――
「――元気そうで何よりだ。久しぶりだな、クルス」
「失礼します」
褐色肌とワガママボディを惜しげもなく晒した男前なサキュバスと、神経質そうなショタ犬獣人。そう、僕と一緒に邪神討伐に向かったかけがえのない仲間たち(表向き)である、カレンとラッセルだ。
どうやらピグロの街でのギルドへの報告諸々も終わり、そのままこっちに来てくれたみたいだ。お見舞いに来てくれたとはありがたいね?
「おねショタコンビじゃん! 久しぶり!」
「待ってください。今何と言いました? おね……ショタ? 『おね』がどういう意味かは分かりませんが、ショタとは僕の事ですか? 喧嘩を売っているんですか?」
「いけね、つい口が滑った。気にしない気にしない」
男らしくない事を気にしてるラッセルはショタ発言に不快そうに眉を寄せる。悪いけどカレンとセットでおねショタコンビって認識なんだわ。ただこの二人の場合、どっちが優位になるかは意見が分かれる所ですね……。
「……まあ、良いでしょう。大人の男には余裕も必要です。年下の失言くらい大目に見て差し上げます」
「必死に背伸びしてるショタっ子ワンちゃん」
「失言は多めに見ますが暴言を見逃すとは言っていません。ちょっと表に出てください。拳で語り合いましょうか」
「えー、やだー。どうせ僕が勝つんだしやる意味なくない?」
「この人は……!」
軽く煽るとこっちをぎろりと睨むラッセル。だけどチワワに吠えられてる感じで全然怖くないね。そういえばチワワって結構気が強いんじゃなかったかな? だったら紛れもなくチワワじゃないか。
なんて僕がラッセル君チワワ説を心の中で考えてると、不意にラッセルは険しい表情を緩めて笑った。
「フフッ。お久しぶりです、クルスさん。無事に目覚めたようで安心しました。性根の方もお変わりはないようですね」
「そりゃあ変わったら困るよ。君も変わらずちっさいね?」
そして皮肉を交えつつも、僕の目覚めをどこか嬉しそうに祝福してくれる。
これこれ、この皮肉交じりこそラッセル君だよね。僕らもそれなりに仲良くなったし、これくらいの皮肉の応酬は挨拶みたいなものだよ。
「カレンも久しぶり。元気だった?」
「ああ、すこぶる快調だ。鎧を脱ぎ去ったせいで多少煩わしい事もあったが、幾分解放的な心地で清々しい気分で過ごせている」
「そりゃあ脱皮みたいなもんだったし、さぞ清々しいでしょうねぇ……」
などとカレンのタンクトップを押し上げる大質量や、くびれた見事なウエストにジロジロ視線を注ぎながら呟く。何かラッセル君から殺意にも似た視線を感じたけどそれは無視。
まあ、どう見ても悪魔の野郎にしか見えない全身鎧が実は褐色肌のサキュバスだったんだ。まともな男なら絶対絡みに行くだろうなぁ。でも大概は本人が千切っては投げ、千切っては投げしてそう。
「……ま、色々話もあるだろうし、とりあえず皆上がって――いや? お昼も近いし、せっかくなら皆で何か食べに行こうか」
「賛成! 二対二でバランスもちょうど良いし、これはダブルデートだね!」
「で、デート、ですか……」
僕の提案に対しセレスが諸手を挙げて賛同し、ラッセル君は顔を赤らめてカレンをチラチラ見る。だいぶ意識しちゃってますねぇ、これ……フヘヘ。
「ふむ。ダブルデートという事は、お前たちの関係は進展したという事なのか?」
「個人的には君らの方にも進展があるのか気になるんだけど、まあその辺の事も食べながら話そうよ。共に死地を乗り越えた仲間たちだ。赤裸々に語り合おうぜ!」
「一番胡散臭いあなたにそれを言われても困りますね……」
「ひっど。それが背中を預け合った戦友に言う台詞――」
「――ご主人様、どこか行くのー? じゃあリアも一緒に行くー!」
「おっと、激ヤバ」
エントランスで話をしてたのがちょっとまずかった。不意に二階から現れたリアが、にこにこ笑顔で翼をはためかせ僕の所に飛んでくる。
セレスたちと話してる最中に誰かが来るのは別に問題無いよ? そもそもここ僕の屋敷だし、誰か会話に混ざってきてもセレスたちは文句言わないだろうしね。ただちょっと人選が問題っていうか、致命的に折り合いが悪い奴らっていうか……。
「――あっ」
「ん?」
非常にマズい事に、サキュバスが憎くて堪らないリアが、同族であるカレンと鉢合わせ。もちろんリアの事情なんて何も知らないカレンは、自分を呆けたような目で見てくる同族の幼女に首を傾げてたよ。
どうしよう、これはマジでマズいかな? 幾らカレンが普通のサキュバスとは全然違うタイプとはいえ、その見事なスタイルは紛れもなくサキュバスの血がもたらしたもの。リリスの時と違ってリア自身に似てるわけでもないし、これは血を見る事になるのでは……?
「……サキュバス、かなー?」
「疑うのも無理はないな。あまりサキュバスらしくないのは自覚している。だが俺は間違いなくお前の同族だ」
「んー……うーん……」
どうやらリアの方も反応にちょっと困ってるっぽい。わざわざ膝を付いて視線を合わせてくれてるカレンのデカい角や頬っぺた、そして見事な大きさの胸をぺたぺた触りながら悩んでる感じだ。
ちっちゃなお手々で巨乳を掴むどころか、巨乳にちっちゃなお手々が吸収されそうになってる感じの光景に普段なら羨ましさを感じる所だけど、リアがいつ爆発するか分からない状態だからヒヤヒヤしててそれどころじゃなかったね。コイツやる時は躊躇いなくやるから、対応を決めかねてる今は安心できないぞ……。
「んー……まあ、いっか! よろしくね! リアはフェリアって言うんだよ! リアって呼んでね!」
最終的にはカレンも対象外って事に決まったみたいで、リアは内に抱えた闇なんてありません的な純真な笑顔で挨拶をした。良かった。血を見る展開はならなかったな。
「可愛らしい名だな。俺の名はカレン。よろしくな」
「あたしはセレステル! セレスって呼んでね?」
「僕はラッセルと言います。よろしくお願いしますね」
「うん! みんなよろしくね!」
リアの抱えた闇を知らないセレスたちは、可愛い子供にしか見えないリアにそれぞれ挨拶をしてく。わりと一触即発の激ヤバ状態だったのになぁ? 知らないって幸せな事だよね。
「ふうっ。セーフで良かった」
「いいえ、アウトです。このフェリアという子はあなたの事を『ご主人様』と呼んでいました。あのような小さな子にご主人様と呼ばせるのはどう考えてもまともではありません」
思わず安堵の呟きを零した僕に対し、ラッセルくんが汚い物でも見るような酷い目を向けてくる。何か僕の発言を別の事と勘違いしてるみたいですね。ていうか合法ショタの君が合法ロリのリアにそんな事言う?
「大丈夫、リアも僕の恋人の一人だから合意の上だよ」
「それはそれで別の意味でアウトだと思います。まさかあの子は見た目通りの年齢ではありませんよね? だとすれば僕は通報も辞さない覚悟です」
「あれでも僕より年上の合法ロリだから問題無し! ていうか合法ショタが何を抜かしてるんだ。ちゃんちゃらおかしいぞ」
「ご、合法ショタとは何ですか! そんな不名誉な称号撤回してください!」
さすがにこの発言には顔を真っ赤にして怒るラッセル君。そんな事言われても本当の事だしぃ?
「ハッハー、誰が撤回するもんか! やーい、ムッツリスケベの合法ショタ~!」
「ふーん。ラッちゃんはムッツリスケベなのー?」
なので盛大に煽ってやる。そのせいで純粋な幼女に見えるリアにもムッツリスケベなのかと問われる始末。これにはさしものラッセル君も頬を引きつらせて怒りに震えてたよ。
「ふ、フフフ……良いでしょう。病み上がりとて容赦はしませんよ。覚悟してください!」
「お? やるか? やれるもんならやってみろ! 淫魔肉の盾!」
「キャー! たすけてー!」
「くっ、卑劣な……!」
何をする気なのか分からんけど、とりあえずリアを持ち上げて肉盾にすると途端にラッセルは動きを止めた。人質がいると攻撃できないとか善人のお手本みたいな反応ですね。僕なら容赦なく人質ごとぶち抜くけど。
ちなみにリアは嫌がるどころか凄い楽しそうに声を上げてます。高い高いしてるわけじゃねぇんだぞ!
「やっぱりクルスくんはあんな小さい子も好きなんだ。あたし小さくないけど、大丈夫だよね……?」
「ハハッ。仲が良いな、お前たちは」
なお、セレスとカレンは僕らの触れ合いを前にして思い思いの反応を零してたよ。着やせするタイプの胸を自分で揉んで複雑な顔してたり、微笑ましい物を見るような目をして笑ってたりね。
というか幼女を肉盾にするっていう畜生の極みな真似してるのに、本人が楽しそうにしてるせいか誰も突っ込んでくれない……。




