恋する乙女でギャンブル
⋇性的描写あり
「……警告を受けても気持ちは揺らがない、か。やるねぇ?」
ミニスに警告を受けながらも気持ちが変わらないセレスの様子を遠隔から眺め、その素晴らしさに僕は感嘆の吐息を零す。
いやー、それにしてもさすがはミニスちゃん。まさかセレスが帰った後、こっそり警告に行くとは思わなかったわ。トゥーラが教えてくれなかったら全然気付かなかったよ。まさか真の仲間になっておいて裏切るような真似をするとはねぇ……これは今夜はお仕置き決定だな。触手に一晩耐久凌辱でもさせようか。一晩中触手に犯されるミニスちゃんの姿とか見たーい!
「やはりマズいよ、主~! これは主にゾッコンだ~! 例え邪神だと告白したとしても、あの小娘ならきっと受け入れてしまうよ~!」
なんて珍しく慌てた様子を隣で見せるのは、ミニスちゃんの裏切りを教えに来てくれたトゥーラ。セレスとミニスの会話内容も隣で聞いてたから、相変わらずそんなバカげた事を言ってるよ。
「心配性なクソ犬だなぁ? そうはならないから大丈夫だってば」
「い~や、間違いない~! 乙女の勘がそう言っている~!」
「僕の目の前には乙女どころかマゾのクソ犬しかいないんですが……」
この僕が断言してるって言うのに、頑として自分の意見を変えない。ここまで頑ななのは珍しいね? いつもは僕が一声かければ意見を百八十度変える事はざらなのに。
確かにセレスはかなり真実に近い愛を持ってるっぽいから、もしかしたらっていう可能性もあるよ? それこそヴィオとリリィのカップルみたいにね。ただ今回ばかりは相手が悪いって言うか、僕の悪行がデカすぎて比較にならない。僕がただの殺人鬼くらいならともかく、実際は世界を滅ぼす(表向き)ために活動してる邪神だもんよ。たかが個人単位の殺人鬼と比べられるとか、ちょっとプライドが傷つくね?
それにセレスが僕に惚れた理由は、僕がニカケの悪魔なのに傍若無人でクソ強かったからだしね。その前提条件が本当は何もかも間違ってる事から考えても、セレスが本当の僕を受け入れる可能性は万に一つも無いんだよ。
「とはいえそこまで言うからには自分の考えにさぞ自信があるんだろうね。面白い。だったら一つ賭けをしよう」
まあそれはそれとして、トゥーラがここまで自分の意見を変えないのは面白い。だから一つ賭けをして遊ぶ事にしたよ。せっかくだから他の皆も誘うため、真の仲間たちの脳内に声を届ける魔法を行使する。
「――僕の親愛なる仲間たちに通達だ。今から全員で賭けをしよう。内容は簡単。僕がセレスに全てをバラした後、セレスが僕を受け入れるか否か。この賭けに勝ったら……そうだねぇ、何でも一つお願いを聞いてあげよう。ただし、あくまでも常識的な範囲だからな!」
「な、ななな、何でもだって~!?」
最後の注釈は聞いてなかったのか、興奮にヤバい表情をして叫ぶトゥーラ。お前、どんなお願いをする気だ……!
それはともかく、賭けってのはセレスの選択がどうなるかを予測しようって感じのもの。人の心が絡む上に乙女心まで絡むから、僕ら異常者には一見クソほど難しい内容だ。でも確率は半々だし、そこまで難しくは無いと思う、常識的に考えれば『受け入れない』だって分かるはずだしね。
えっ、その常識が無い奴らばっかりだろって? うーん、それを言われたら困るなぁ……。
「深く考えたい人もいるだろうから、締め切りは明日の夕食の席までだ。各自、よーく考えて決定すると良いよ。僕は『受け入れない』に一票入れる」
「ふ、フフフ~……ならば私は『受け入れる』に一票だ~! 主のような強く賢く魅力的な男性、正体が世界を滅亡に追い込まんとする邪神だろうと見逃せるはずがな~い!」
「前から思ってたけどお前には僕がどんな風に見えてるの……?」
目が曇ってるどころか見えてるかすら疑わしいレベルのトゥーラに対し、思わず僕がツッコミに回る。別にそこまで賢いわけでもないし、魅力的なのは自己犠牲精神溢れるツラだけだし、強さは完全に女神様から賜った無限の魔力由来なんだよなぁ。
あれ? もしかして僕本体って死ぬほど外道でクズなだけで、何の価値も無いクソッタレなのでは……?
「ふむふむ……これは面白い結果になったなぁ?」
その日の夜。今晩のお相手を部屋のベッドでゴロゴロしながら待ってた僕は、現在の賭けの状況を頭の中で纏めて愉悦に浸ってた。
幸い若干一名を覗いて突発的かつ非常識な賭けにみんな参加してくれたし、ほとんどの奴はもう賭けの対象を決めて報告しに来てくれたんだ。そもそも賭けに参加しなかったのは安定のミニスちゃん。まあわざわざセレスに警告に行くくらいだし、こんな人の心が無い賭けに乗ったりはしないよね。
えっ、ミニスちゃんは今どこにいるって? ちょっと地下牢で触手と戯れてるよ(有言実行)。
「僕を含めて『受け入れない』が四人。これは良いとして、『受け入れる』に賭ける奴らが二人もいるなんてね。レーンはともかく、やっぱりトゥーラはハニエルと別方面で頭お花畑か?」
賭けに参加してるのは仲間たち(ミニスを除く)に僕を含めて七人。僕は当然の如く『受け入れない』に一票。そしてリアとバール、それからベルも同じ側だ。
ちなみに理由を聞いた所、リアは『ご主人様の本性は普通は受け入れられないくらいカスだから』という酷く失礼だけど否定できない内容。バールに関しては『真の愛を謳っていようと、女などその程度』という非常に心の傷が伺える内容でした。コイツら夢が無さすぎない?
ベルに関しては『悪行が大きすぎて普通は受け入れられない』っていう、至極全うで面白みのない理由だったよ。何で神話生物みたいな化物が一番常識的な考えをしてるんですかねぇ……。
そして『受け入れる』に票を入れたのはご存じクソ犬、そしてレーンの二人。クソ犬はすでに散々理由を語ったから脇に置いて、問題はレーン。相変わらず話が長かったから要約しても長いけど、それでも短く纏めると『セレスという少女の事を君ほど知らない私たちは不利。しかし君が酷く自信満々なので、恐らくその逆を行った方が可能性が高い』との事。一番論理的な奴がまさかの決めつけと逆張りで参るよ。僕が自信満々だとそんなに信用できないのか?
何にせよ、これで若干二名を覗いて真の仲間全員が投票済み。触手と朝まで仲良しコースのミニスちゃんはともかく、あとはキラだね。まあどうせあいつも『受け入れない』に一票でしょ。
「お、噂をすれば。というかノックくらいしてよぉ……」
なんて事を考えてたら――ガチャ。ノックも無しに扉を開けて、ショートパンツとタンクトップっていうラフな格好のキラが現れた。
まあ今晩のお相手なんですがね。ちなみに今晩は触手と仲良しこよししてるミニスちゃん眺めて楽しみたいって言ったら、殺意のこもった目で睨まれました。どうしても僕とヤりたいようで……。
「別に良いだろ。お互い腐った本性を見せ合って、エロい事も散々してる仲じゃねぇか。今更隠す事なんて何もねぇだろうが」
「確かにその通りと言えばその通りなんだけど、それでもプライバシーは大事っていうか……」
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ。おら、さっさと脱げよ。それともあたしに引き千切られんのが好きなのか?」
「きゃあっ、エッチぃ!」
ズカズカとベッドに上がってきて、ニヤニヤ笑いながら胸倉掴み上げてくるキラちゃん。そして僕はまるでお風呂覗かれた女の子みたいに身をくねって抵抗する。
「――なんて寸劇はさておき。始める前に聞いておきたいんだけどさ、キラはどっちに賭ける? セレスは僕を受け入れる? それとも拒絶する?」
「チッ、あの泥棒猫か」
「猫はお前なんだよなぁ……」
嫌そうな顔で舌打ちするキラだけど、そのまま斜め下に視線を向けて何やら考えてる様子。どうやらちゃんと真面目に考えてるみたいだ。珍しい。
「そうだな、あたしは……滅茶苦茶に怒り狂って拒絶すると思うぜ」
「ほうほう、という事は『受け入れない』が五人と――」
「――で、散々暴れた後に受け入れる。これだな」
「おん? 不思議な選択したね、君ぃ……」
キラの答えがかなり不思議なもので、これにはさしもの僕もちょっと驚きだった。
何だろね。他の皆がルーレットで赤か黒かに賭けてるのに、一人だけ単色かつ数字にオールインした感じ? 乙女心どころか人の心すら理解できない感じの猟奇殺人鬼が、一体どうしてそんな結論に至ったんだろうね?
「どういう理由でそう考えた?」
「んー……ちょっと待て。今纏めっから」
キラは長い尻尾をふりふりクネクネさせながら考え始める。どうやら論理的なものではなく直感的なもので決めたみたいだな。
「……昼間、あたしはあの女と顔を合わせた時、ここでぶっ殺すって本気で考えてた。だからその気持ちを加減なく叩きつけてやったさ。けどあの女、ほとんど怯えやがらねぇ。お前もそれは見てたろ?」
「そうだね。真正面から受けて立ってたよね……」
生粋の殺人鬼による、手加減も遠慮も無い殺意の放射。これに耐えられる奴はなかなかいない。鋼メンタルに定評のあるミニスちゃんでも震えるレベルだからね。まあ震えるだけで行動不能になったりはしないんだけど。
しかしセレスはそれを真正面から受けて、むしろ迎え撃つように戦意を昂らせてた。たぶん恋する乙女補正で度胸も爆上がりしてたんじゃないかな? それにしたってクソ犬分の殺気にも耐えてたの、確かに頭おかしいな?
「挙句、あたしを返り討ちにしてやるって殺気で語ってお返ししてきやがった。可能ならお前の女を殺して数を減らそうと思ってたんじゃねぇか?」
「怖い事言うの止めて。セレスは僕に惚れてる以外はまともな子のはずだよ。たぶん」
「真偽は分かんねぇけど、あの女はかなりヤバい修羅場を潜ってんだろうな。あるいはあたしらの同類か……どっちにしろお前が思ってる以上に中身はかなりぶっ飛んでるぜ。そんな女を騙して弄んだらぶっ殺されてもおかしくねぇだろ」
「えぇ……」
セレスが実は僕らの同類かもしれないってマジ? そんなの嘘だって言ってよ。ミニスちゃんに次いでようやく見つけた、メンタルや度胸が飛び抜けてる以外は普通の女の子だぞ? セレスまでヤベー奴だったら、もう僕の周りにはミニスちゃん以外ヤベー奴しかいないじゃん。そんなのヤ!
しかし確かにそんな女を騙して弄んだらぶっ殺されても仕方がないな? 相手がキラちゃんみたいなもんだから、むしろ素直に殺して貰えればまだマシまである。愛と憎しみは表裏一体っていうし、裏返った時は凄い事になりそうだぜ……。
「まあ、確かに納得はできるよ。でもどうしてその後には受け入れてくれるって考えたわけ?」
「ハッ、そんなん決まってんだろ?」
「おうふっ!?」
キラはニヤリと笑ったかと思えば、唐突に身体を跳ねさせ襲い掛かってきた! 不意打ちを食らった僕はそのまま仰向けに押し倒される。
一瞬の混乱と戸惑いを経て視界に映るのは、僕に馬乗りとなって興奮したように舌なめずりしてるヤベー奴の姿。
「このあたしでさえ気に入ってんだ。だったら他の女が惚れねぇ理由がねぇだろ?」
そんな事をのたまいつつ、剥ぐように服を脱いでいく。
なるほど、納得の理由だね。生粋のイカれた殺人鬼が僕を気に入ったんだから、同類なら気に入らないわけがないってか。なるほどなるほど。
「……どいつもこいつも僕への評価高すぎない?」
まあ僕個人はコイツらの目が曇ってるか、頭がおかしいかの二択だって思ってるから、納得はできても受け入れる事は難しかったけどね。自分で言うのも何だけど、所詮は授かった力でイキリ散らしてるだけの小物だし。
それはさておき、セレスも同類かもしれない、ねぇ? 普段の様子を見る限りだとそんな事は無さそうに見えるが。あるいは乙女は恋をするとおかしくなるとか、そういう感じなんだろうか。やだなぁ? 協力者も含めて周囲におかしい奴しかいないのに、更に増える可能性あるの?
なんて他の女の事を考えてたのが駄目だったのか、この後キレちゃったキラに激しく貪られました。ケダモノめぇ……!
さりげなくミニスちゃんがシャレにならない目に合ってますが、まあミニスちゃんなので別に良いかなって。最初はさすがにやり過ぎかと迷ってたけど、冷静に考えたらそうでもないなという結論に落ち着いたので容赦なく執行しました。
⋇賭けまとめ
ミニス:不参加。触手でお仕置きされてる最中。
レーン:受け入れる。私は彼女の事を伝聞でしか知らないというのに、このような賭けが成立すると本気で思っているのかい? だが君が異様に自信満々で受け入れないと断言しているので、恐らくその逆をいけば(略)
キラ:拒絶して暴れまくった後に受け入れる。
トゥーラ:受け入れる。
クルス:受け入れない
リア:受け入れない。ご主人様の本性はわりとカス。
バール:受け入れない。女なんてそんなもの。
ベル:受け入れない。悪行がデカすぎて受け入れられるわけがない。