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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第2章:勇者と奴隷と殺人鬼
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自己紹介(表と裏)

「というわけで、これが僕の買った奴隷だよ。みんなよろしくね」

「ふぇ、フェリア、です……よろしく、お願いします……」


 抱き枕もあって気分爽快の目覚めだった翌朝。僕は朝食の席でリアを皆に紹介した。

 しっかり首輪やら手錠やら足枷やらを付けさせてるのに、宿の食堂に連れて来るまでにすれ違った一般聖人族たちは、ゴミを見る目をリアに向けてたよ。これだから奴隷の良さが理解できない低俗で野蛮な奴らは困るね。

 というかリアが完璧に気弱な奴隷を演じてやがる。僕の後ろに隠れるようにして、服の裾を掴みながらたどたどしい口調の自己紹介してるよ。無知で見た目は幼くても、紛れも無く本質は女か……怖い……。


「はい! よろしくお願いしますね!」

「サキュバスの幼体とはまた随分珍しい奴隷を手に入れたね。大銀貨一枚で死にかけの奴隷を購入したと聞いた時は気でも狂ったのかと思ったが、こうして実物を見るとあえて死にかけを選んだのも納得だね。とても可愛らしい子じゃないか」

「あ……ありがとう、ございます……」


 好意的な感想を零すのはハニエルとレーン。

 ハニエルはにっこり笑顔でパタパタ翼をはためかせて、レーンはどこか優しい微笑みを浮かべてたよ。僕にもそういう顔を向けて欲しいなぁ、とか思ってみたり。


「うわぁ。ロリコンかよ、勇者様。引くわー」

「違う。まだ手は出してないよ」


 そして否定的な感想を口にするのはキラ。

 いや、どっちかっていうと僕に対する否定的な意見かな、これ? でもどうせ奴隷として傍に置くなら男より女、老人より若人、若人よりは子供が良いでしょ? 別に僕がロリコンってわけじゃないよ?


「ちゃんと調教しとけよ、クルス? お前の奴隷だから殺しはしねぇけど、あんまりイラつくことされるとぶん殴っちまいそうだからな」


 すっごい不快そうな表情をしながらも、渋々認めてるのは筋肉ダルマことクラウン。

 いきなりリアに斬りかかってくるんじゃないかと思ってたけど、一応理性はあるみたいだね。脳筋みたいな見た目してるから心底意外だ。


「まあそれくらいなら別にいいよ。でもこいつは大人しいから生意気言ったりはしないさ。だよね、リア?」

「は、はい……リアは、絶対服従です……」


 問いを投げかけると、酷く素直で従順な答えが返ってくる。

 何だろう。元がクソ生意気なメスガキだったから刺激が足りないぜ……。


「……あの、勇者様。この子、昨晩と随分性格が――」

沈黙(サイレンス)

「――? ――っ!? っ!!」


 でもまあ、この場には絶対に真の仲間にはなれないクラウンがいるから仕方ない。

 それに二人きりとか真の仲間しかいない場所なら、素で接して構わないしね。それまではこの違和感と物足りなさを覚えるリアで我慢しよう。そしてハニエルはしばらく黙っていような?


「こいつに色々と常識やら何やらを教え込んで調教してやりたいんだけどさ、僕もこの世界に来たばっかりだから知識量はコイツとあんまり変わらないと思うんだよね。というわけでレーン、良かったら今日は僕とコイツに色々教えてくれない? できれば魔法に関しても」

「構わないが、君こそいいのかい? 君の嫌いな長話になるよ?」

「まあ今回は頑張って聞くよ。昨日は僕のために健気に頑張ってくれたみたいだしね?」


 僕のために一日中街中を駆けずり回ってくれたとか、泣かせる話じゃないか。僕は優しさには優しさで返す性質だからこれくらいはね? もちろん裏切りには暴力とかで返すけどさ。


「ふむ、そうか……では朝食を摂ったらすぐに私の部屋で勉強会だ。昼食や夕食の時間までに終わるなどという希望的観測はやめておいた方が賢明だよ。今夜は容易に寝かせはしないから、覚悟しておきたまえ」

「うわー、こんな形でそんなエロい言葉聞きたくなかった……」


 何やら瞳を鋭くして言うレーンに、僕は若干後退る。

 どうやら予想以上に長い話になるみたいだ。何かちょっと前言撤回したくなってきた。というかコイツ、やっぱりおしゃべりが大好きなのでは……?


「――っ! ――っ!!」

「いたっ!? 何すんだお前! 天使が暴力振るっていいと思ってるのか!?」


 レーンに対する疑念を深めてると、突然ハニエルが泣きそうな顔で僕のことをポカポカ叩いてきた。どうも魔法で黙らされたことがお気に召さなかったみたい。

 しかしなかなか嗜虐心をそそる素敵な表情するじゃんか。興奮させてくれるねぇ? その堪らない表情に免じて、魔法は解いてあげるよ。いつかもっと盛大に泣かせてやるからなぁ?

 






「よく来たね、二人とも。さあ、そこにかけたまえ。これから私が知る限りの魔術の知識とその神髄を、君たちの頭に叩き込んであげよう。フフフ……」


 朝食後、レーンの部屋をリアと一緒に訪れた僕は、怪しげな笑いを零す魔術のマッドサイエンティストに出迎えられた。

 四百年弱の知識や神髄が一日で頭に叩き込めるとは到底思えないんですが? 何日続ける気だ、コイツ。


「盛り上がってるところ悪いけど、その前に自己紹介しといて。表向きじゃなくて裏の方」

「裏の方? ああ、そういうことか。なるほど、この少女も君にとっての真の仲間というわけかな?」

「そうそう。お前に続いて二人目の仲間だよ。そういうわけだからお互いに自己紹介よろしく」


 今のやりとりでリアもレーンの前じゃ猫を被る必要がないって分かったみたいで、僕の後ろからぴょんと前に出てきた。

 弱々しくて儚げだったはずの表情も、今やメスガキらしい生意気な笑顔を湛えてるよ。やっぱりさっきまでの方が良かったかもしれんな。


「では改めて、私の名はレーンカルナ。この世界の終わりなき争いに終止符をもたらし、平和へと導くためにそこの外道に魂を売った哀れな魔術師さ」

「誰が外道だ。失礼な」

「リアはフェリア。リアを除け者にして長年酷いことをしてきた、サキュバスの年増たちに復讐する力と機会を手に入れるために、この頭のおかしなご主人様に従属してるサキュバスだよ」

「お前ら何でそんなに僕の評価が辛辣なの? 僕だって傷つくんだよ?」


 顔合わせが上手く行きそうなのは何よりだけど、二人揃って僕に対する敬いが毛ほども感じられないのが何か泣けてくる。

 一応僕はこの世界に平和をもたらす予定の救世主だぞ? 敬え、崇めろ、奉れ。


「なるほど、復讐のためか。もう手遅れだとは思うが一応聞いておこう。本気でこれに従属する気なのかい? これは誠実な関係を築きたいとうそぶきながら、過剰なまでに性的な触れ合いを求めてくるケダモノだよ? 私はすでに唇を奪われ、二人での入浴を強制されるという恥辱の極みと言える仕打ちさえ受けたよ」

「リアはもうご主人様に買われちゃったし、嫌でも今更どうしようもないよ。それにリアにとって一番重要なのは復讐を遂げることだし、そのためならエッチなことだって我慢できるよ? リアも昨日、ご主人様と一緒にお風呂に入って、身体をいっぱい触られたし……」


 そして二人して顔を赤くして、何やら身に覚えのない罪を示唆してくる。

 お風呂で楽しくスキンシップしただけだから、僕はそんな酷い事してないよ? そりゃ胸とか太ももとか、その間の付け根とかを素手で重点的に洗ってやったりはしたけどさ。危うく襲い掛かりそうになっちゃうくらい興奮したね、アレは。


「そうか……何か辛いことがあったら私に相談に来るといい。できる限り力になってあげよう」


 何か感じ入るものがあったみたいで、レーンはさしずめ慈母の如き慈愛に満ちた微笑みを浮かべて、リアの頭を優しく撫でる。

 僕にもそれくらいの優しさと愛を向けてくれると嬉しいなー? あとは上の頭じゃなくて下の頭をナデナデして欲しいとか思ったり?


「うん。ありがとう、おばさん」

「……私はまだ十八だ。おばさんではないよ」

「そうなの? じゃあ、えっと……カルナちゃん!」

「できれば呼び捨てにしてもらえるとありがたいんだが……まあ、いいだろう」


 天真爛漫な笑みを浮かべてはしゃぐリアと、その様子に呆れを見せつつもどこか穏やかな面持ちのレーン。

 一見仲の良い姉妹みたいな光景に見えるけど、この二人は実年齢と見た目が激しく一致しないんだよなぁ。リアは見た目幼女でも二十歳だし、十八歳のレーンは転生分も合わせると四百歳を越えるし。

 つまりこの場合どちらが姉でどちらが妹になるんだろう? いかん、深く考えると頭がバグりそうだ……。


「何か初っ端から仲いいね、お前ら……」

「君と言う鬼畜外道の下についた者同士、仲間意識というものを感じてね。君もそうだろう?」

「うん! カルナちゃんは仲間! それにあのムキムキのオジサンみたいに、リアを睨みつけてこないもん!」


 何はともあれ、真の仲間同士の顔合わせは無事済んだみたいだ。この様子なら二人が身も心も僕の女になっても、喧嘩は無さそうで安心だね!

 えっ、そもそも僕の女にはならない? ハハハ、そんなわけないだろ。僕はとっても心優しくて、世界のために身を粉にして働く努力家の正義漢だぞ? 超優良物件だろ?


「私は魔獣族に敵意が無いからね。尤も昔は君のような幼子だろうと、問答無用で血祭りに挙げていただろうが……」

「ご主人様から聞いてたけど、本当にそうなんだー。あっ、リアも敵意何て無いよ? リアを散々苦しめてきた、サキュバス以外にはね……」

「はいはい、お互いにちょっと闇が出てきてるからそこまでにしとこ?」


 仲良く和気あいあいしてたと思ったら、突然尋常じゃない闇を漂わせ始める二人。

 何だこいつら、頭おかしくない? ていうか本当にどうしてまともな仲間ができないんだろ? 類は友を呼ぶって言葉もあるし、僕みたいな清廉潔白で公明正大で謹厳実直な人間の類友なら、もっとまともな奴が来るはずなんだけどなぁ?  


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