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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第14章:恋する乙女の末路
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積極的なセレス



 結局、セレスが落ち着くには五分くらい時間がかかった。その間ずっと抱きしめて頭を撫でてやってたから、居心地悪い事この上なかったよ。

 とはいえ僕の屋敷はある意味では高級住宅街に建ってる。場所柄か人通りが多いわけじゃないし、野次馬がいなかったのは幸いだね。ずっと花壇越しにこっちを睨んでたマゾ犬や、屋敷の二階から窓越しにスゲェ冷たい視線を送ってくるバカ猫がいたのは仕方ないけど。何なのアイツら、怖い……。


「――それでクルスくん、体調は大丈夫なの? 執事の人が、クルスくんは魔力が不足して昏睡してるだけって言ってたけど……」


 犬猫の視線が鬱陶しいから、場所を一階の方の応接間に移した僕ら。セレスは僕がソファーに腰掛けるなり当然のように対面じゃなくて隣に座って、そっと僕の肩に触れながら体調を気遣ってきた。さりげないボディタッチとかやりますねぇ?


「体調は大丈夫――とはいえ、かなり身体がだるいかな。まあ魔力をアホほど使ったし、未だに全回復してないからね」

「そうなんだ。やっぱりクルスくん、凄く特殊な体質してるんだね。あれから一ヵ月以上も経ってるのに、魔力が回復しきらないなんて……」

「元々の魔力が極端に多い弊害か何かだと思うよ。そもそもそんな僕が魔力を枯渇するほど使うなんてまず無い事だから、基本的にあんまり気にしてないけどね」


 そもそも全部嘘だけどな! 女神様からの祝福と寵愛を賜り、深い所で繋がり合い魔力を譲渡して貰ってる僕に魔力切れなんてありません! 

 でもどうなんだろうな? 無限の魔力を持つ女神様の魔力を枯渇させる事ってできるんだろうか? ブラックホールとか超新星爆発とかやっても魔力の供給が途絶えた感じは一切無かったし、仮に枯渇するとしたらそれこそマジの宇宙規模、何百もの銀河に干渉するくらいの事しないと駄目かもしれないね。いや、やるメリットが無いからその気は無いけどさ。


「そっか……でも良かった。クルスくんが無事に目覚めてくれて。もしかしたらあのままずっと目覚めないんじゃないかって心配だったんだよ?」

「それはマジでごめん。予め言っておけば良かったね?」


 すでに泣き腫らした目にまた涙を浮かべるセレスに対して、深く頭を下げて詫びる僕(形だけ)。

 いやぁ、こんな風にマジで心配して貰えると騙す甲斐があるってもんだねぇ? まして僕の肉人形を大切に丁寧に看病して面倒を見てくれたんだ。あまりにも傑作で腹が捩れそうになって来るよ。下の世話に関してはあんまり考えたくないけど。


「全くその通りだよ! でも――無事に目を覚ましてくれたから、もう全部許してあげる♪」


 なんて僕がクソの極みみたいな事を考えてる事も露知らず、上機嫌で額を指で突いてくるセレス。あー、何もかもバラして絶望のドン底に叩き落したいんじゃあ~。


「ありがとう、セレス。それで? 僕と別れてから今に至るまで、君たちには一体何があったの?」

「うん、実はね――」


 というわけで、ここからは今までの経緯を説明して貰う時間。裏で暗躍してた僕は大体何もかも知ってるけど、表向きは肉人形として昏睡状態だったからね。さすがに知ってるのはおかしいでしょ。

 だから僕はセレスが語る邪神の城突入から始まるお話を、まるで初めて聞くみたいに耳を傾けました。都合上かなり長い話だったけどこれは仕方ない。レーンに知られたら自分の話はぶった切る癖に、って拗ねそうな気もする……。


「――それでギルドへの報告とか諸々はカレンとラッセルくんに任せて、あたしは君をここに運んできたんだ。それが三日前の事だよ。ここまでで全部かな?」

「なるほどねぇ……」


 途中途中でセレスの感想とか僕への溢れる想いがちょくちょく挟まれたせいで、出した紅茶が完全に冷めるほどの時間が経った頃。ようやくセレスの語りは終わりを迎えた。これならまだレーンの長話の方が短いな? まあだからって長話に付き合うかは別問題なわけだが?

 話の中で知らなかった事と言えば、カレンとラッセルの事。あの二人はピグロの街に残って、冒険者ギルドで依頼失敗の報告や邪神についての情報提供をしてるっぽい。そんな事よりも僕が大事なセレスはそこで一旦二人と別れ、護衛依頼を出して最速で僕の肉人形をここまで運んできたらしい。

 そっか、あのおねショタコンビを二人きりにしたんかぁ……諸々片付いたら二人もこっちに来るらしいし、その道中で二人の関係が進展するのを祈るばかりですねぇ……。


「まずは君にお礼と謝罪をしないとね。うら若き乙女の君が、死んだように眠る男の世話をするとかかなり辛かったでしょ。ありがとう。そしてマジでごめん」


 とりあえず一番大事なのはお礼と謝罪だろうし、感謝の意を伝えつつ深く頭を下げる。

 もちろん心の中には感謝の気持ちも罪悪感も欠片も無いけどね。むしろセレスなら僕の肉人形を大事に守ってくれるって確信があったし、予想が見事に的中して良い気分だよ。ちょっと思った以上に大事にされてた節もあるが。


「ううん、良いんだよ。好きな人のお世話なら苦じゃないしね。それに、あたしは結局邪神相手に何も出来なかったし……」

「それは仕方ないよ。話聞く限り、例え僕でもどうにもできない感じだしね。奴隷を連れてくと無理やり契約を解除されて敵に寝返るし、<隷器>の攻撃は効かないんでしょ? そんなのどうしようもないじゃん」

「そうなんだけど……あれだけ大見得を切ったのに、結局邪神に見逃されただけとか凄く情けなくて恥ずかしいよ……」


 自分の力不足を恥じるように俯き、膝の上で拳をぎゅっと握りしめるセレス。

 実際擦り傷一つ負わせるどころか、玉座から立たせる事も出来なかったしね。正しく気まぐれで見逃されただけだから、無力感に打ちひしがれるのも無理は無い。それをやった僕が言う台詞じゃない気もするけど。


「でも命あっての物種だし、ここは恥ずかしい程度で済んだことを喜ぼうよ。それに邪神が気まぐれで見逃したおかげで、聖人族と魔獣族が協力しないと戦いにすらならないって情報を持ち帰れたんだ。少なくとも無駄な敗走ではなかったよ」

「うん……そうだと、良いな」


 慰めるためにセレスの手に僕の手を重ねると、途端に拳が解かれて手を繋ぐように指を絡めてくる。いや、温もりで慰めようとしただけで指を絡めるつもりまでは無かったんだが? マジで積極的だな?

 なんて思ってたのも束の間、今度は身を寄せて僕に身体を預けてくるんだから凄いよね。肩に頭を乗せるみたいにしてさ。傍から見たらすっごい甘い空気になってそう。これで恋人同士じゃないんだから恐れ入るわ。


「………………」


 そのまま甘ったるい空気が流れる中、沈黙の時間が続く。何だろう、凄く居心地悪い。いや、セレスからは凄い幸せそうな雰囲気が伝わってくるよ? 向こうは大好きな僕と手を繋ぎ、寄り添い合ってお互いの温もりを感じてるんだからね。もう目覚めないかもって思ってたんだし、そりゃあ幸せでしょうよ。

 でも僕の方は性的な目か猟奇的な目でしか見て無いからなぁ? ぶっちゃけこんなラブラブ時空みたいな領域を展開されるとむしろダメージ入りそう。早く終われこのスリップダメージ。


「……クルスくん。あの時言った事、覚えてる?」

「うん?」


 不意にセレスは穏やかな口調でそんな事を尋ねてくる。当然僕の肩に頭を預け、寄り添ったまま。

 何だろ、何の事言ってるのかさっぱり分かんない。『あの時』だけじゃ分かりません。もっと日時を明確にして、どうぞ。


「ほら、『僕の女になりたいなら、僕を信じて行ってこい』って言葉」

「……うん。もちろん覚えてるよ? 当然でしょ?」


 どうやらあの茶番での台詞の事らしい。そこまで言われればさすがに僕も思い出す。

 セレスたちと一旦別れないと邪神として迎え撃つ事が出来ないから、臭い三門芝居で以て自由を得るために口にしたあの時の台詞だ。そして何より、ある意味ではセレスを自分の女に迎え入れるみたいな台詞。うーん、忘れてたら良かったんだけど覚えられてたかぁ。


「あたしは、君に告白したい事がある。だけどそれを口にする勇気がまだ無かった。邪神を倒せたらきっと勇気だって出るから、その時こそ君に告白しようと思ってたの。でも、あたしは結局邪神を倒せなかった。戦いにもならなかった。だからそんなあたしには、きっと告白する権利なんて無いと思うんだ……」


 肩の上で、恥じらいと無力感の入り混じった複雑な言葉が紡がれる。

 まあその告白しようとしてる相手が邪神なんですけどね。その辺の事実を知ったらどうなるんだろう? やっぱ気になるよね。


「でも……でも、ね。あの時、ボロボロになって動かないクルスくんの姿を見た時、どうしてもっと早く想いを伝えなかったんだろうって後悔したんだ。今は無事に目を覚ましてくれたけど、あの時は死んじゃったのかと思って凄く怖かったし、その後もずっと、目を覚まさないんじゃないかって怯えてたの……」


 ここで声色に恐怖と怯えが混じり、握られてた手が力強くぎゅっと握られる。寄り添い触れ合う腕や肩からも、確かな震えが伝わってくる。

 強い女に思えたセレスも、所詮は一人の女の子。大事な人が死にそうになって、怖がってたのは明らかだった。想いを伝えられないまま死別を迎える事にもね。というかこの展開、もしや……?


「もう、あんな思いはしたくない。気持ちを伝えられないまま終わっちゃうのは嫌なの。だから、あたし……言うよ」


 そこまで口にして、セレスは手を離し僕から距離を取る。見れば顔を耳まで真っ赤に染めながらも、真剣な目でこっちを見つめる面差しがそこにあった。覚悟めっちゃ決まってる感じのね。あー、これは間違いなくアレだな……。


「――あなたの事が、好きです! あたしを、あなたの女にしてください!」


 そして、はっきりとその言葉を口にする。恥ずかしそうに、だけど気持ちに揺らぎはないみたいに自信を持って。

 向けられるのは紛れもなく恋愛感情。それもかなり熟成されて恋よりも愛に近い感じのそれ。こんなにピュアッピュアな告白をされるのは初めてだし、悪くない気分だね。

 え? クソ犬にだって告白されたろ、って? 逆に聞くけどアイツの変態的な告白をセレスの告白と一緒くたにして良いと思う? さすがにイカれた僕でもそれはセレスに失礼だって分かるぞ。

 まあそれはさておき、今はこの告白にどう返すかだ。セレスは今にも顔から火が出そうな感じに赤くなって俯いてるし、放っておいたらマジで燃え上がりそう。


「……セレス、僕は――んっ?」


 声をかけた瞬間、部屋がフッと暗くなった。灯りが切れたってわけじゃない。まだ昼間だから付けてないしね。窓から差し込む日差しだけで十分だ。しかし太陽が雲に遮られてもここまで暗くはならないはず。

 なので反射的に二つある窓の方に視線を向けると――バリィィィン! 二つの窓を外から突き破り、何者かが侵入してきた! どうやらコイツらが窓に迫ったせいで日差しが遮られたっぽいね!

 侵入者は割れた窓ガラスをぶちまけながら床を何度か転がると、即座に立ち上がり――


「ゆるさ~んっ! 主の女となりたいのなら、この私を倒してみるが良い~!!」

「人の物に手ぇ出そうとか、覚悟は出来てんだろうなぁ? 女ぁ?」


 それぞれの獲物を構え、セレスに対してバチバチに敵意と殺意を向けた。あーもうっ、この犬猫は本当に奔放だなぁ?



 甘酸っぱい告白からのイカれコンビダイナミックエントリー。

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[一言] 恋する乙女力は完全にセレスの独壇場
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