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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第14章:恋する乙女の末路

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修羅場リターンズ




 役立たずで敗北者のクソ犬は玄関前に捨て置き、代わりに執事たるヴィオくんにセレスの対応を任せた後。僕と同じく外面は大変整ってるだけあって、ヴィオは完璧な対応をしてたよ。

 まずは応接間にセレスを通し、僕の肉人形をソファーの一つに横にならせ、セレスをお茶とお菓子で歓迎しつつ真面目に話を聞いてくれたからね。変な勝負を始める事も無く。これなら最初からヴィオに任せれば良かったかもしれんな?


「――そういうわけで、あたしはクルスくんを連れ帰って来たんだ。クルスくんの恋人たちに説明もしなきゃいけなかったし」


 セレスもさすがに執事には嫉妬する事も無く、流暢にここまでの事情を話してくれた。

 ただ背負ってた僕の肉人形が無くなった事が寂しいのか、あるいは世話に慣れた弊害か、ちょくちょく背中に視線を向けては肉人形が無い事に微妙な反応をしてたよ。


「そうでしたか。クルス様を連れ帰ってきて頂き、誠にありがとうございます。セレステル様」


 お互いにソファーに腰掛けて会話してた二人だけど、ここでヴィオはわざわざ立ち上がって深く頭を下げて感謝の意を捧げる。

 やっぱり外面は素晴らしいね。これで中身は猟奇趣味のクソ野郎なんだから恐れ入るよ。

 えっ、クソデカいブーメランが刺さってるって? またまたぁ……。


「でも、クルスくんが一体どうして目を覚まさないのかは分からないんだ。もしかして、このままずっと目覚めないのかな……?」


 それはさておき、セレスが酷く不安そうな顔でぽつりと呟く。

 まあ軽く一ヵ月以上は昏睡状態なんだから、不安に思うのも当然だよね。何よりセレスにとっては大好きな人が一向に目覚めないって状態だからね。僕にとっては掌の上で転がしてる状態でめっちゃ愉快だけど。

 何にせよこれ以上不安にさせて肉人形に張り付いて離れなくなっても困るし、ここは安心させてあげないとね。そんなわけで、ヴィオの頭に思念を送り込んで言うべき事を指示しました。


「心配ありません。クルス様は膨大な魔力を持つ代わりに少々特殊な体質の持ち主でして、魔力の回復が非常に遅いのです。そのため限界まで魔力を消耗するとその回復を図るために、無意識的に昏睡状態に陥ってしまうのです。今のクルス様は魔力の回復を亢進するために、最低限の生命維持のみを行っている状態ですね」

「そ、そうなの? じゃあ、魔力が回復すれば……」

「はい。魔力が五割程度まで回復すれば、自然と目を覚まします。この屋敷の一室にはクルス様の魔力回復を更に亢進させるための設備がございますので、あと三日もすればお目覚めになるでしょう。なので何も心配はございませんよ」


 などと色が濃すぎて目が痛くなるほどの真っ赤な嘘を、ヴィオが実に誠実な笑みで以て口にする。

 かなりセーブしてたとはいえ、それでもセレスたちには凄まじい魔力を持ってる事を見せつけちゃったからね。せっかくだから膨大な魔力を持つ代償って感じにして、良い感じにお茶を濁しておいた。


「そっか……良かったぁ……!」


 セレスは心の底から安堵したようにじわりと涙を浮かべ、ソファーに横たわる肉人形を見る。

 至極尤もな理由と代償、更には人当たりの良さには定評のあるヴィオの微笑みも相まって、完全にこの与太話を信じ込んでるっぽい。実際は僕の掌で踊らされてるに過ぎないのにねぇ? 可愛いねぇ?


「三日かぁ……あたし、それまでどうしようかなぁ。できればクルスくんが目覚めるまでずっと傍にいたいところだけど……」

「申し訳ありません。何分クルス様が昏睡状態で、僕はしがない執事でしかありませんので、貴女様を僕の判断だけでお泊めになる事は少々難しいのです」


 予想通りのとんでもねぇ事を何気なく口にしてくるセレスと、全く顔色を変えず遠回しかつ丁重にお断りするヴィオ。

 うんうん、話もしっかり進んでるようで何よりだ。クソ犬じゃこうはいかなかったな? 後で蹴りでも入れておこう。


「うん、分かってるよ。あたしもそこまで図々しくなろうとは思わないしね。勝ったとはいえ、ついさっきクルスくんの恋人の一人に喧嘩売っちゃったし。それに……クルスくんが目を覚ますっていうなら、ちゃんと綺麗で恥ずかしくない姿で会いたいな。ここまでほとんど碌に休まず来たから、ちょっと今の顔とかお肌とか見られるのは恥ずかしいもん……」


 などと言いつつ、赤く染まった両頬を隠すように手を当てるセレス。言うほど肌や身嗜みにダメージを受けてるようには見えないけど、まあそこは女の子だし色々あるんでしょ。僕が今正にバッチリ見てる事を知らなくて良かったねぇ?


「だから、そうだね……三日後のお昼くらいに、ここに来ても良いかな? それでクルスくんが目覚めるまで待たせて貰いたい。それくらいなら良いよね?」

「……かしこまりました。三日後のお昼にお待ちしております、セレステル様」


 僕が許可の意を思念で伝えた後、軽く頭を下げて頷くヴィオ。断られなくて安心したのか、あるいはもう肉人形の世話をしなくて良くなった事が嬉しいのか、セレスはようやく肩の荷が下りたみたいにスッキリした表情を浮かべる。

 でもたぶんこれは前者だろうなぁ。だって話が終わって立ち上がったセレスは、去り際に僕の肉人形に近付いて愛しそうに語り掛けてたもん。


「……またね、クルスくん。これ以上のお寝坊は、さすがのあたしも怒っちゃうよ?」


 そして鼻先をツンと指で一突き。まるで愛しい恋人にやるような事しちゃってまぁ……どんだけ僕に夢中なんだろうね?






「……よし、行ったか」


 屋敷の外までセレスを見送らせたヴィオがエントランスに戻ってきた所で、僕は消失(バニッシュ)を解除して一息ついた。

 これで三日後には表向きの身体で目覚めて良いから、大手を振って堂々と外を歩き回る事が出来るってもんだ。幾ら消失(バニッシュ)を使えば問題なく外出できるとはいえ、やっぱり吸血鬼よりもコソコソしてるのは性に合わなかったからなぁ。まあ引きこもって作業してたおかげで、エクス・マキナの在庫はだいぶ回復してきたが。


「さすがはご主人様ですね。行き摺りの少女をあそこまで夢中にさせるとは。心から尊敬します」


 セレスが僕にベタ惚れなのが一目で分かるせいか、ヴィオがそんな事をのたまう。尊敬してるだって、嬉しいね。

 でもぶっちゃけ僕からセレスにモーションかけたわけじゃないんだよねぇ。何か自然な感じに惚れられてあんな感じになっちゃっただけだし。


「そういうお前も三人も女がいたじゃんか。この色男め」

「ハハッ、ありがとうございます。ですが僕にはリリアナさえいればそれで良いので、正直後の二人は酷く邪魔でしたね。特に愛しているわけでもないのに、その振りをしなければいけないのが酷く苦しい毎日でした」


 僕と同じ人畜無害そうな顔で、とんでもねぇ外道な発言と一途な愛情を同時に口に出すヴィオくん。

 向こうは本気で好きだったっぽいのに、凄い邪魔に思われてたとか可哀そうだねぇ? 挙句今は地下牢に幽閉され、慰み者よりも酷い目に合ってるし……まあ、僕に喧嘩売って来たから仕方ないよね!


「んー、君もなかなか大変だったねぇ? 今は幸せ?」

「はい! ご主人様のおかげで、僕は何の気兼ねも無くリリアナと毎晩のように愛しあう事が出来ています。それに自分の暗い欲求を存分に満たすことも。ご主人様には感謝してもし切れません。本当にありがとうございます、ご主人様」


 その場に膝を付き、頭を垂れて最大限の感謝を示してくるヴィオ。一見執事としてかなり様になったカッコいい姿なんだけど、今の生活が抑えられないほど喜びに満ちてるみたいで犬尻尾がブンブンと振られてる。

 うんうん、純粋な感謝と忠誠がビシバシ伝わってくるね。そんなに喜んでもらえると復活させた甲斐があるし、リリアナを許した甲斐もあるってもんだ。


「なーに、同類として当然の気遣いさ。それにこっちも執事とか看守とかやって貰ってるし、ある意味ギブ&テイクだよ」

「そうかもしれませんね――では、ご主人様。僕は仕事に戻りますので、これにて……」

「ん? ああ、うん。頑張って」


 などと良い感じに親交を深めてる場面だったのに、何故かヴィオ君は唐突に尻尾を振るのを止めて足早にこの場を去って行った。

 何だろう、あの切り替えの早さ。途中まではヴィオも満更でも無さそうだったのにな? まるで何か危険を察知したような素早い去り方だったぞ……?


「――あ~る~じ~?」

「ひえっ!?」


 なんて思ってたら、突如として背後から悍ましい何かに抱き着かれる。一切気配が無かったし、今回は抱き着くまで無言だったから気付けなかった。

 恐る恐る首を巡らせて後ろを見ようとすると、そこには珍しくも病み――ではなく闇を漂わせたトゥーラの恐怖を誘う表情。地獄の底から響く亡者の呼び声にも似た声を出してた辺り、何やら相当精神状態がおかしいらしい。


「どういう事なのかな~、主~? あの女は壊すための玩具では無かったのかな~?」

「あ、いや、それはですね……」


 どうやら半ばイっちゃってるのは、以前の僕の発言とさっきのセレスへの対応の矛盾が原因だったみたい。僕の身体を愛しそうに、あるいは蛇が這うようにするすると撫でつつ、ぎゅっと抱きしめてくるトゥーラの行動があまりにもキショくてゾッとした。

 

「――しかも結構よろしくやってたみてぇじゃねぇか。情熱的なキス、だったか? その内ぶっ殺す程度の女を随分と可愛がってんだな。あぁん?」


 挙句、階段の影から現れるのはキラ。やっぱりコイツも話を聞いてたみたいで、酷く機嫌が悪そうだ。トゥーラに背後から抱きしめられて動けない僕の所まで歩み寄って来ると、正面から身体を寄せてこっちも蛇みたいに脚に脚を絡ませてきたかと思えば、抱き着くようにしながら僕の顔や瞼をするりと撫でてくる始末。

 一見美少女二人に前後からサンドイッチにされてる大変羨ましい光景に見えるだろうけど、されてる僕からすれば生きた心地がしない恐ろしい状況だ。ニトロ燃料が満杯のデカい容器をおんぶに抱っこしてる気分だよ。まだ物理的な衝撃だけを避ければ良い分、そっちの方がなんぼか安心できるかもしれない。

 とはいえ僕だってコイツらの扱いには慣れてるから、コイツらの機嫌を治す方法は普通に見当がつく。セレスを追いかけて首を刎ねて持ってくれば、コロッと機嫌を治してくれるだろうね。コイツらそういう奴だよ。


「……弁護士を呼んでくれ」


 でもそういうわけにはいかない事情があるから、僕は万人に許された弁護士を求める権利、あとは黙秘権を行使しました。悪人でも弁護士つけられるのってカスみたいな制度って思ってたけど、まさか感謝する日が来るとは思わなかったね!


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