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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第14章:恋する乙女の末路
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修羅場

⋇ここから14章

⋇初っ端からこれ




 奴隷の反乱(スレイブ・リベリオン)による奴隷たちの革命からおよそ一月後。世界全体では相変わらず歩み寄る姿勢を見せない両種族に辟易してる僕だったけど、今現在は別の意味で辟易してた。


「………………」

「………………」

「何やこの修羅場」


 僕の目の前で繰り広げられてるのは無言の睨み合い。片方はご存じクソ犬のトゥーラ、そしてもう片方は恋する乙女セレスだ。この二人が屋敷の玄関前で何故かバチバチに睨み合って修羅場を演じてるってわけ。消失(バニッシュ)で姿を消してるとはいえ非常に居心地が悪い。

 この状況からも分かる通り、一緒に邪神の討伐に向かった仲間であるセレスたちもようやく帰って来れたみたい。ちゃんと大事に看護してくれてるみたいで、セレスは今も僕の肉人形を背負ってるよ。コレがあるから僕が直接出迎える事はできず、姿を消した状態でいるってわけね。

 でもカレンとラッセルの姿が無いな? 死んだ……って事は無いか。別行動中かな?


「……初めまして。あたしはセレステル。クルスくんと一緒に邪神の城周辺調査の依頼を受けた冒険者だよ」

「これはご丁寧にどうも~。私の名はトルトゥーラ~。偉大なる主の信頼のおける仲間にして、深く愛し合う情婦の一人さ~?」


 ピリピリとひりつく感じの敵意をぶつけ合いながらも、表面上は丁寧かつにこやかに挨拶を口にする二人。でもトゥーラの『愛し合う情婦』っていう台詞に、セレスの眉がぴくりと震える。同時に作り笑いに近かったトゥーラの笑顔が、勝ち誇るような超腹立つ笑顔へと変貌した。

 あ、これアレだ。マジで修羅場だ。僕の事が好きなセレスはトゥーラに対して嫉妬してるし、トゥーラは僕との関係の深さでマウント取ってやがる。二人が顔を合わせたのはこれが初めてのはずなのに、何で初対面でこんな事してるんだ、コイツら……。


「……よろしく、トルトゥーラさん。あたしの事はセレスって呼んで良いよ?」

「こちらこそよろしくだ~。私の事もトゥーラと気軽に呼んで構わないよ~?」

「内心でバチバチに敵意向けまくっててマジ受ける」


 にこやかに握手を交わす二人だけど、セレスは自分の手がミシミシ言うほどの力を込めてトゥーラの手を握り潰そうとしてる。反面トゥーラは涼しい顔してそれを容易く受け流す。そいつはドMだからそういうの一切効かないんだよ。やはりこの勝負はセレスが不利か……?


「ところで~……私の主は一体どうしたのかな~? 何故君が背負っているんだい~?」

「……うん。実はね――」


 と、ここでお互いに一旦敵意を収めて説明タイム。

 まあ僕が予め話したからトゥーラは知ってるんだけどね。でもセレスからすれば好きな人が昏睡状態でずっと目覚めない状態だ。そして目の前にいるのはその人の恋人(諸説あり)の一人。共に旅をしていた者としては説明責任があると感じてるんだろうね。


「――そういうわけで、目覚めないクルスくんが心配だから、ひとまずクルスくんのお家に連れてきたの。クルスくんの恋人の、あなたたちにも、しっかり説明しないといけないと思って」


 説明を終えたセレスは背負ってた僕の肉人形をお姫様抱っこの形にして、申し訳なさそうな表情を浮かべる。セレスからすれば一ヵ月以上ずっと目覚めないままだし、心配で心配でたまらなかっただろうねぇ? しかし残念ながらそこに僕はいないんだわ。


「なるほどね~。主は随分と無茶をしたようだね~……」


 それっぽい悲痛な顔を演じつつ、一瞬僕の肉人形ではなく僕本体に視線を向けてくるトゥーラ。

 おい、何故消失(バニッシュ)で消えてる僕の位置が分かった? 今バッチリ目が合ったぞ? え、僕ちゃんと消えてるよね? まさかコイツには見えてる……?


「……うん! ご苦労だったね、セレス~! 後は主の恋人たる私たちが引き継ぐから、君はもう帰って良いよ~!」


 疑惑を抱く僕を脇に置いて、トゥーラは満面の笑みを浮かべて両手をセレスに伸ばした。さしずめ僕の肉人形を受け取るように。あるいは『昏睡状態の想い人のお世話をするのは自分だから、邪魔者はさっさと帰れ』と言い放つように。

 いや、これは絶対言ってるな。満面の笑みだけど目が笑ってないし。


「いやいや、そんなわけにはいかないよ! 全然役に立てなかった分、クルスくんのお世話をしてその分のお返しをしてあげないと!」

「おっと、お互いに譲る気は無い! 僕ったらモテモテ!」


 セレスも言外の挑発が分かったみたいで、頬を引きつらせながら僕の肉人形を背負い直す。そして二人は表面上はにこやかに笑いながら、睨み合う最初の状態に逆戻り! いや、むしろ明確にお互いを敵と断定したから、最初よりも作り笑いがだいぶ崩れてる感じだ。女同士の戦いは陰湿で醜いなぁ! もっとバチバチに殴り合った方が単純でやりやすくない?


「ハッハッハ~。なかなか良い心がけだ~。だが寝たきりの主の世話をするのは、主と親密な間柄である私の役目だとは思わないか~い? 少々出しゃばりが過ぎるんじゃないかな~?」

「どうかなー? 寝たきりの人のお世話って結構大変だし、確実に出来る人がやるべきじゃないかなー? 実際あたしはここまでの旅でずっとクルスくんのお世話をしてきたもんね。おはようからおやすみまで、全部ね!」

「ワフッ!?」


 ここでセレスが優位に立った事を確信したようなドヤ顔になり、トゥーラは驚愕に一歩後退る。何? 僕のお世話をしただけで優位に立てるの? この勝負の基準や勝敗がいまいち分からん。やっぱ分かりやすい方が良いし殴り合ってくれない?


「そ、それは、つまり……下の世話も、かな~……?」

「もちろん。ちょっと恥ずかしかったけど……クルスくんのためだもん。毎日頑張ってるよ?」

「おぅ……」


 ぽっと頬を染めてとんでもない事を口にするセレスに、トゥーラよりも先に僕がダメージを受ける。

 そうだよ、冷静に考えたら肉人形は魂入ってないだけで生きてはいるんだ。そして目覚めないように昏睡状態を継続する魔法をかけられているとはいえ、生命活動が続いてる以上は生理現象も避けられない。具体的にはこう、排泄とかその辺ね? やっべぇ、完全に失念してた。

 幾ら肉人形とはいえ、その肉体は紛れもなく僕自身のものと寸分変わらない。そんな肉体の下の世話をされてたとか、ちょっと僕自身にも精神的ダメージが計り知れない。レーンにはちょくちょく考えが足りないとか色々言われてたけど、それをここまで激しく痛感したのは初めてだ……。


「な、な、な~っ!? ずるいぞ~! 私だって、主の下のお世話はした事が無いというのに~!?」


 流れ弾を受けた感じの僕でさえ、ちょっと眩暈がするほどのダメージを受けた会心の一撃。これに対してトゥーラはすっげぇ悔しそうに唇を噛んで涙を浮かべてたよ。ハンカチがあったら噛み千切ってそう。

 ていうかお前、反応間違ってない? 何で泣くほど悔しそうなの? まさか僕の下の世話をしたいんじゃないだろうな……?


「それにね、あたしとクルスくんだって凄く親密な関係だよ。だってクルスくん、別れ際にしてくれたんだ。もの凄く優しくて、だけどとっても情熱的な、一生の思い出に残る……キス、を……」

「~~っ!!」


 そして追撃に放たれる衝撃の言葉。恋する乙女らしく恥じらいながら、とても幸せそうな表情から繰り出された一撃は、さしものトゥーラでも耐えきれなかったらしい。驚愕と絶望の狭間で揺れ動いたかと思えば、その場に膝から崩れ落ちて動かなくなった。

 そっと表情を覗いてみれば、白目を剥いて痙攣してるのが目に入る。え、もしかして気絶してんの? 下の世話と優しいキスがそんなにショックだったの?


「……勝った!」

「勝った! じゃないよ、もう。何でそんな訳の分からない勝負してるんだ、コイツら……」


 拳を握り満足気に勝ち誇るセレスに対して、聞こえないけど思わずそんなツッコミを入れる僕。やっぱりお互いに何かしらの勝負をしてたっぽい。流れから考えて有利なのは僕とエッチな事だってしてるトゥーラのはずなんですがね? 何で負けてんですかね、このクソ犬は。これは後でお仕置きが必要か? いや、でもお仕置きしても喜ぶだけだしなぁ……。


「……もしもし、ヴィオ? 倒れたアホの代わりにお前が客に応対してくれない? 僕がリアルタイムで指示を出すから」


 何にせよ気絶したトゥーラは役に立たず、このままじゃ客人の応対ができないから思念でヴィオに指示を出す。セレスも勝ち誇ったは良いけど、応対に出てきたアホが玄関先で気絶したからどうすれば良いか分からず困惑し始めたしね。とりあえず帰る事にされてこのまま肉人形を持ち帰られるのも困る。


『かしこまりました。倒れたトルトゥーラ様の事はどうしますか?』

「放っとけ」


 役立たずな上に敗北者のクソ犬にかける慈悲は無い。今は冬だけど放っておいてもまあ死にはしないでしょ。クソ犬だし。

 というかヴィオ君、『倒れたアホ』だけで誰の事だかをしっかり察してくれたっぽいね。やっぱ全員からそういう認識なのね、コイツ……。 


 ここから14章。恋する乙女のターンです。はてさてセレスの未来は一体どうなる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 真の仲間の数の少なさ的には味方にしたいが、 現状クルスへの好感度位しか、裏切らない保証にしかならず、 それも聖人族と邪神という面を見せてない仮だからなぁ。 一旦はベルと同じような仮の仲間位置…
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