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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第13章:最強の敵
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閑話:クソ犬とデート3

⋇性的描写あり

「いや~! とっても楽しかったね、主~!」

「そっすね」


 すでにとっぷりと日も暮れ、門限も当に過ぎた頃。僕らは人気の無い川辺で並んで星を見上げてた。まあ僕の場合は星を見上げてるって言うか、虚空を見つめてるって表現の方が近いけどね。

 だってこのデート――もとい犬の散歩では、終始トゥーラがやりたい放題だったもんよ。それに付き合わされる僕は堪ったもんじゃないね。今日だけで一体何度冷たい視線と陰口を受けた事か……。

  

「この楽しいデートの時間も終わりかと思うと、何だか寂しさに胸がずきりと痛まないか~い?」

「そっすね」

「主は私を世界で一番愛していて、私と結婚して幸せな家庭を築きたいと思っているんだよね~?」

「違うし嫌っすね」

「あ~!? そこはさっきまでと同じく頷く所だろ~!?」

「今回のデートの惨憺たる内容を考えれば、これでも最大限譲歩してるぞ。ふざけたデートしやがってこのクソ犬が」

「わふふ~! いひゃいよ、あるひ~!」


 身を乗り出して頬を膨らませるクソ犬の顔を両手でバチンと挟み、そのまま頬を掴んでこねくり回すように引っ張ってやる。僕が散々針の筵状態だったってのに、滅茶苦茶充実した感じの晴れやかな笑みを浮かべやがって、この野郎!

 ていうかこうして頬を引っ張ってる今も滅茶苦茶嬉しそう! 本当お前何なの!? 無敵過ぎるだろ!?


「全く、一体何度正気を疑ってツッコミを入れた事か。あんまり僕にツッコミ役をやらせるな。僕は本来ボケなんだぞ?」

「すまないね~。愛する主とのデートだから、ついついはしゃいでしまったんだ~」

「つまり普段ははしゃいでないってか? マジ?」


 驚愕の情報に、さしもの僕も空いた口が塞がらない。普段の様子や奇行ははしゃいでる内には入らないってか……平時でアレとか頭イカれてる? いや、普通にイカれてたか。そうだったわ。


「むふふ~。いや~、本当にとても楽しかったな~♪」


 恐れおののく僕を尻目に、ご機嫌極まる笑顔でぴったりと身を寄せ抱き着いてくるトゥーラ。普段なら払い除けるなり鳩尾に拳を叩き込むなりする所なんだけど、その笑顔があまりにも輝いてて幸せそうでさしもの僕も躊躇ったよ。

 まあこれを殴るのは可哀そうってわけじゃなくて、単純に疑問に思ったからだね。本当にそこまで幸せなデートだったのかって意味で。


「マジで上機嫌だね。本当にそんなに楽しかった? 僕の手前、無理してない? 本音をゲロっても良いんだよ?」

「もちろん嘘偽りなく楽しかったさ~! 愛する主と二人きりのデ~トぉ! これが楽しくないわけがな~い!」

「嘘くせぇなぁ? 自分で言うのも何だけど、僕は終始塩対応だったじゃん。そんなのとデートとか本当に楽しいか?」


 頬擦りまでしてくるトゥーラの様子があまりにも行き過ぎてるように思えて、思わずそう尋ねる。

 さすがに人目を考えて殴る蹴るとかの対応まではしてないけど、それ以外の僕の対応は平時とほぼ変わってない。にも拘らず、トゥーラは眩し過ぎて目を背けたくなるほどに幸せそうな笑みを浮かべてる。それがあまりにも異様でいまいち信じられないからこその疑問だった。

 というか心底胡散臭いんだよなぁ。僕がいまいち人を信じられないせい?


「ふ~む……」


 不意にトゥーラは酷く真面目な表情を浮かべ、じっと僕の顔を見つめてくる。何だよ、何見てんだよ。やっぱ演技だったか? あれだけベタベタしてきた癖に『実は全部演技でした!』とかだったら、さすがの僕もそれはちょっと傷つくぞ?

 なんて風に睨むように見つめ返してると、トゥーラは更にずいっと身を乗り出して顔を近付け――って、ちょっとちょっと。近い近い。


「んっ――」


 油断してたのか、僕はそのまま唇を奪われた。

 一瞬引っ叩いてやろうかと思ったけど、そのキスがトゥーラにしては非常に珍しい感じのキスだったせいか、気付いたらそのまま受け入れてたよ。普段は隙あらば舌を捻じ込んで啜って来るのに、ただ唇を重ねるだけのとてもいじらしい感じのアレだったし……君、ちゃんとそういうのも出来るんだ……。


「……どうやら、主はあまり私の愛を理解していないようだね~? 良いか~い? 私は、主の隣にいられるだけでも幸せなんだよ~? それくらいに愛されている事を、主には是非とも理解してもらいたいな~?」

「……その割には、色々エグイ事を要求してきてない?」

「そこはほら~、段々とそれだけでは満足できなくなって行くというか、人間の欲望には限りが無いというか~……」


 何か凄く無欲な事を言ってるように思えたけど、次に出てきたのは欲塗れの浅ましい言葉。おい、目を逸らすんじゃない。良い事言おうとしたならせめて最後まで貫き通せ。


「と・も・か・く~! 私はとても楽しかったよ~。例え主が塩対応だろうが、あまり構ってくれなかろうが、今日は他ならぬ愛しい主の時間を独占し、その目に自分だけを映す事ができた。一般市民に私と主がイチャつく姿を見せつける事も出来たし、それなら私は大満足だよ~」


 そして誤魔化すように叫んだ後、一転して実に満足気な笑みを浮かべて再度僕に抱き着いてきた。チラリと表情を盗み見れば、僕にくっついてるのがよっぽど嬉しいのか最高に上機嫌な笑みを浮かべて頬擦りしてくる。

 前から思ってたけど、コイツ僕の事好き過ぎん? 塩対応だろうと二人きりになれただけで嬉しいとか、滅茶苦茶健気じゃん。


「………………」

「ん~? どうかしたのかい、主~?」

「いや、予想外に謙虚っていうか、随分控えめな事言うんだなって思ってさ。とても二人組で逆レイプ仕掛けてきた馬鹿の発言とは思えなくてね」

「いや~、既成事実は出来てるんだから余裕だってあるさ~。それにあの時は絶対に主の犬にして貰う必要があったから、あそこまでの強硬手段に出たわけだしね~」

「まあ最初は真の仲間候補失格だったしね……」


 トゥーラとのゼロ点落第のファーストコンタクトを思い出し、懐かしさと微かな苛立ちを覚える。

 最初はマジで出会いが悪かったっていうか、百パーこのクソ犬が悪かったからね。冒険者ギルドのギルドマスターとして、見所(クソ生意気とか、悪い奴とか)がありそうな新人をボコボコにするなんて野蛮な事をやってたから……まあ別にそれは良いんだけど、僕を対象にしたのがね? アレが無かったらトゥーラの扱いももう少しマシにしてたんだろうか……?


「だろ~? だからこそちゃんと主の犬になれた以上、多少扱いが悪くても私は幸せだよ~? それはそれで興奮するしね~」

「ド変態がよぉ……」


 ちょっと興奮した感じに息を荒げるマゾ犬に対し、心の底からの罵声を浴びせる。

 うん、無いな。例えファーストコンタクトがまともなものであったとしても、このド級の変態相手なら遅かれ早かれ今と同じ扱いになるね。間違いない。


「……まあ、お前は初対面の印象の悪さと僕を二人がかりで逆レイプしてきた事を除けば、常に忠実で素直で利口な奴か。一生懸命に尽くしてくれてるのは確かだし、たまにはご褒美も必要かな?」

「わふっ!?」


 気まぐれでそんな事を口にすると、トゥーラは驚愕の面持ちでガバッと顔を上げる。

 実際真の仲間内では僕への忠誠心はダントツだからね。僕が死ねと言えば、満面の笑みで死ぬだろうなっていう嫌な確信があるよ。僕としては死への恐怖にガタガタ震えて涙をポロポロ零しながら、それでも逆らう事は出来ずに震える手で自らの命を刈り取る――っていう反応が好きだけどな!

 まあ何にせよ、真の仲間たちのご機嫌取りも多少は必要だし、ここらでご褒美の一つや二つ与えても罰は当たらないでしょ? 心情的にはちょっと面倒だけど。


「というわけで、特別に一つだけ、お前の望む事を何でもしてやろう。何が良い? 言ってみろ」

「な、何でもだって~!?」

「うわ、食いつきすっご……」


 相当心惹かれた言葉らしく、ずいっと身を乗り出しお互いの吐息がかかるほどの距離まで顔を寄せてくるトゥーラ。近すぎて見えづらいけど、興奮に顔が緩んでますね。獲物を見つけた肉食獣みたいな目してるぅ……これはちょっと早まったかもしれないなぁ……。


「むふふ~、何でもか~……そういう事なら、私が望むのは――」


 そしてニンマリと笑いながら、トゥーラが口にした恐るべき望みとは……!






 デートを終えた夜、僕はベッドの上でトゥーラと抱き合って横になってた。僕が仰向けで寝そべり、その上にトゥーラがうつ伏せで甘えてくる感じでね。ちなみにお互い服は着てるからセーフです。

 えっ、ヤってるわけじゃないなら何してるんだって? それはね――


「――愛してるよ、トゥーラ。愛してる」

「わふうううぅぅぅん♡」


 トゥーラの身体を優しく抱きしめ、頭を撫でてあげながら耳元(犬耳の方)で甘く愛の言葉を囁いてます。途端にトゥーラの尻尾は爆速で振られ、幸せそうなメスの鳴き声が上がる。

 えっ、気でも狂ったのかって? 大丈夫、僕は正常だよ。気が狂いそうなのは確かだけど。


「お前の強さ、忠誠心、麗しい見た目、何もかもが素晴らしい。お前ほどの女をモノに出来て、僕は最高に幸せだ」

「くううぅぅぅぅぅん♡」


 一言一言甘い囁きを耳に届ける度、テンションが天井知らずにぶち上がって行くトゥーラ。反面恥ずかしいやら吐き気がするやらで死にたくなってくる僕。本当マジで何やってんのかな、僕……。


「この可愛らしい尻尾も、犬耳も、まるで血統書付きの名犬みたいな愛らしさだ。撫で心地は絹のようで、触り心地は綿のよう。ペット自慢コンテストに出したら間違いなく優勝を狙えるだろうね。まあ僕はお前を独り占めしたいから、そんなコンテストに出して他の男たちに見せてやるつもりはさらさらないけど」

「あおおおぉぉぉぉん♡」


 心にも無い事をつらつらと並べ立て、愛の言葉として口にする度、僕の中の何かがガリガリと削られていく。

 マジで何やってんのかって? いや、これがトゥーラの望みだったわけよ。『自分が眠りにつくまで、ぎゅっと抱きしめて頭を撫でながら愛の言葉を囁いて欲しい』っていうね。三日三晩ノンストップでエッチ三昧、なんていう恐ろしいお願いじゃなかったから心底ホッとしたけど、正直今はそっちの方がまだ良かったかもって思ってます。


「……ねえ、もういい? そろそろ愛の言葉のボキャブラリーが尽きてきたんだけど?」

「いいや、まだ駄目だ~! 私が寝付くまでという約束だぞ~!?」

「全然眠らずメスの声出してるだけじゃんかよ、お前ぇ……」


 愛を囁く度にテンション上限突波してる奴が簡単に寝付くわけもなく、その後もかなり長い間、僕はトゥーラを愛する恋人みたいに甘やかすっていう苦行に従事させられました。

 まあその内全てが面倒になって魔法で強制的に眠らせたけどね。それでも三十分は頑張った僕を褒めてくれ……。



 以上、誰得なクソ犬のお話でした。コイツこれでもかってくらい好き勝手してんな……。


 次回から14章。恋する乙女が猛烈に拘わるお話だぞ! デュエルスタンバイ!

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