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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第13章:最強の敵
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メイド長の処遇





「ふぅ……バグキャラの排除終わり。これで最大の不安要素が消えたね」


 殺し切る事が不可能な不死身の化物を宇宙の彼方に放逐した僕は、ベルを連れて一仕事終えた気分で邪神城の玉座の間へと戻る。

 宇宙の彼方にぶっ飛ばすって対応は、完璧に近い物だったと自負してるよ? 無駄に壮大過ぎるって言われそうだけど、実際これ以外に手が無いし。いかに世界最強金属でも、ミカエルなら年数をかければ間違いなく破壊して引き千切る。だから深海や地下深くに埋めるって選択は出来なかった。そんなのオリハルコンの鎖に負荷をかけて余計にその時間を早めるだけになりそうだしね。そもそもあんな化物が同じ星にいるってだけでも安心しづらいし。

 だからこその、果て無き宇宙への放逐。光速の一万倍くらいの速度でぶっ飛ばしたから、三秒で耐性を付けたとしても――三百億キロ? くらい先の距離だな? それだけ離れてれば少なくとも僕が生きてる間に戻ってくる事は無いはず。

 しかもこの距離はあくまでもその場で停止した時の距離で、実際はこれの何百倍も遠ざかってる。何故かと言うと、奴は慣性は消せないから。

 ベルの力を借りるために呼び出した時、その巨体による体当たりを受けたミカエルは吹き飛んだ。そして再生を終えて、耐性を付けてもなお吹き飛び続けてた。つまり耐性を付ける前に加えられた慣性そのものは消せないって事だ。これに気付いたおかげで、宇宙の果てに放逐するっていう策を思いついたんだよ。じゃなきゃ地下深くに生き埋めにするしか無かったね。

 何にせよ、これでミカエルはお終いだ。慣性は消せないから吹き飛び続けるしかなく、吹っ飛ばす直前に射線上の全てを消滅させたておいたから遮るものは何も無い。断言はしないが、僕が生きている間に戻って来る事はまずありえないはずだ。


「――お疲れ様だ、ご主人様。まさかあのような方法で奴を排除するとはな。さすがに私も驚いたぞ」


 疲れと冷めた興奮からため息を零すと、ベルが妙に落ち着いた声音で労いの言葉をかけてきた。視線を向けてみれば、そこにはミニスの2Pキャラに戻ったベルの姿。そして何故か、今にも泣き出しそうなほどに寂しそうな表情が目に入った。


「これで、この世界に残る目障りな存在は、あと一人だな……」


 そんな表情で口にするのは、残ったバグキャラの片割れたる自身の排除を薦めるような言葉。

 当然それが誰かなんて考えるまでも無い。今正に目の前で寂し気に微笑む、不死身で醜悪な化物。魔将ベルフェゴールその人だ。


「始末して欲しいの?」

「……いいや、私はまだ生きていたい。しかしご主人様が私を目障りで排除したいと思うのなら、素直にそれを受け入れよう。短い間だったが、ご主人様のおかげで幸せな日々を過ごす事が出来た。自分の夢も叶えられた。今この場で全てが終わっても、もう悔いは無い」


 僕の問いに対し、ベルはそっと自分の胸に手を当てて目を閉じる。まるで幸せな思い出を反芻するみたいに、さっきとは打って変わって満足そうな微笑みを浮かべながら。

 ミカエルと闘ってる時に口にした言葉が全て本当なら、ベルは自分がいつか始末される事に気付いてる。その上でなお、僕のメイドとして忠実に仕えてくれてる。例え僕がこの場で始末する事を選択しても、きっと微笑んで死んでくれると思う。


「全てあなた(・・・)のおかげだ。ありがとう、クルス(・・・)。私の無為な生に輝きを与えてくれて、本当にありがとう」


 その証拠に、ベルはミニスのツラで満面の笑みを浮かべる。殉教者が浮かべる狂信的な笑みとは違う、心からの純粋な喜びの笑みって感じだ。殺されると分かっててそんな笑みを浮かべる方が、より狂ってるような気がしなくも無いが。

 そして、ベルを始末する事はもう難しくない。今の僕なら問題なく殺せる。


「………………」


 スッと手を伸ばして、ベルの額に指を向ける。

 それに対して、ベルは笑みを崩さずに目を閉じた。どこからどう見ても僕に対する恨みとかそういう感情は欠片も無い。このまま始末しても、間違いなく感謝の念を抱いたまま事切れるのは容易に予想がついた。

 だから僕はそのまま指を丸めると――


「てりゃっ!」

「……ん?」


 わりと本気のデコピンをかました。

 が、とんでもなく固くて弾かれる! 効きやしねぇ! 防御魔法のおかげでこっちの指は痛くは無いけど、足の小指をタンスの角にぶつけたような痺れがあぁぁ……!


「わ、悪いけど、こんな忙しい時期に大事なメイド長を手放したりはしないよ。お前にはこれからも働いて貰わないといけないからね」


 右の中指を右手ごとぶるぶる振って痺れを取りつつ、別に今は殺さないと伝える。

 オリハルコンを集め回ってる時にも考えたけど、やっぱりベルを排除するのは止めにしたんだ。多少は愛着が湧いたって言うのもあるけど、有能なメイドだからいてもらわなきゃ困るしね。

 それにコイツがいないと僕の屋敷、クッソビビりなメイドがメイド長に繰り上がっちゃうんだよ? 昇格を告げたらそれだけで失神しそうな予感がするし、部下を統べる立場とか絶対あの蚤の心臓には無理でしょ。いなくなられるとマジ困る。


「い、良いのか? あなたにとって、私は目障りな存在だろう?」


 驚愕に瞳を揺らし尋ねてくるベルは、特に額に触ったりはしない。わりかし本気のデコピンを打ち込んだのに何ら痛痒を感じなかったっぽい。解せぬ。


「まあ目障りっちゃ目障りかな。お前は遠くない未来に、平和になった世界で暴れ出して暴虐の限りを尽くしそうだし……」


 そもそも僕がベルの始末を考えてたのはそれが原因だ。せっかく平和な世界を創り上げても、僕がいなくなったら暴れ出して破滅に導きかねないから。

 自由に変身できる魔道具を与えたからこそ、ベルの全ての生物への殺意と憎しみは抑えられてる。だけど僕が死んだ後、あるいはこの世界を去った後も、僕の魔法の影響が残り続けるのかは定かじゃない。というかぶっちゃけ無くなる可能性が高い。弄った大陸の形とかは元に戻らないだろうけど、魔法でゼロから創り出した物体とか、僕の無限の魔力で強引に実現させてる魔道具の効果とかは駄目になると思う。

 そうなれば人の皮を被ってご満悦だったベルは、再び冒涜的な神話生物に逆戻り。希望や幸福を抱いてれば抱いているほど、それを無くした時の絶望は深い。聖人族も魔獣族も殺したいくらいに憎いベルがそんな目に合えば、まあ生きとし生けるもの全てを滅ぼしたくなるでしょうよ。だから今までは始末しておかなければマズイと思ってたわけ。


「だけど、僕の目的は女神様を手に入れる事。そのための条件が世界を平和にする事であって、厳密に言えばこれは手段だしね。女神様が納得して僕に身を委ねた後なら、別に世界は滅んでも構わないよ。恒久的な平和なんて土台無理な話だし」


 でも冷静に考えてみれば、目的を達成した後なら別に世界が滅ぼうが消滅しようがどうだって良い事に気が付いた。

 そもそも女神様との契約の内容に、世界平和を永遠に維持するって内容は入ってない。そして僕自身、どっちかと言えばこの薄汚い世界は滅べば良いと思ってる。僕がいなくなって即滅ぼされるのは困るけど、女神様が平和な世界に納得して僕に身を預けた後なら、ベルが幾ら破壊や虐殺をしようが僕には止める気微塵も無いね。


「まあそんなわけで、お前を始末する理由は特に無いかな。強いて言えば僕がいなくなっても、向こう千年くらいは大人しくしててくれると助かるよ」


 ハニエルに次いで頭お花畑な所のある女神様の事。それくらいの期間平和が続けば納得してくれると思う。

 正直こんな事を口に出すのはかなりリスキーかもしれないけど、当の女神様は現在全力で目を逸らし耳を塞いで引きこもってるから問題無し。あの女神様に限ってこっそり覗いてるとか無いだろうしね。


「そうか……つまり、私はまだあなたのメイドとして日々を過ごす事が出来るのだな?」


 僕の言葉を理解して、ベルはもう一度嬉しそうに微笑んだ。今度はその瞳からポロポロと涙を零しながら。

 状況的に感極まって喜びの涙を流してるんだろうけど……マジか。そんな理由で涙を流せるんだ。声と姿形以外はかなりまともな方っすね。何だろう、お前の心はベルの外見より醜いって突きつけられたような気がする……。


「その通り。ま、精々こき使ってあげるから覚悟しときなよ。あの時始末されてた方がマシだったって思うくらい、仕事を押し付けてやるからな?」

「ふふっ。不眠不休で働くのはやめろと言うご主人様が、本当にそこまでの仕事を押し付けるのか? もちろん私は一向に構わないがな?」

「そこで何故強キャラ感を出す?」


 腕を組み胸を張り、自信満々に強者の雰囲気を醸し出すベル。でもその姿はミニスの2Pキャラだし、頬っぺたにもしっかり涙の痕が残ってる。端的に言って気丈に振舞ってるロリにしか見えないね。唐突に引っ叩いてもう一度泣かせたくなる感じ。


「それにしても、うーん……こうなったらお前も真の仲間の一員に加えるべきかな?」


 少し悩んだ後、それを提案してみる。

 始末する必要が無くなったのなら、ベルはとても忠実で強力な駒になる。ミカエルとの戦いを見ても分かる通り、協力者として遊ばせておくのは勿体ない。今更な気もするしメンタル面でどこかぶっ飛んでるわけでもないけど、真の仲間に加えても良いんじゃないかって思えたんだよ。

 ただ、僕の提案に対してベルはふるふると首を横に振った。


「光栄な事だが、私は今のままの立ち位置で構わない。メイドとして働くのは生きがいのようなものになっているしな。もちろん私の協力が必要というのなら、いつでも力になるぞ?」

「じゃあいっか。何で魔将がメイド業に目覚めちゃってるのかは果てしなく疑問だけど」

「うむ、それでいい。では今後もよろしくな、ご主人様?」

「うん、よろしく」


 まあ本人がそれでいいなら問題無いかと考えて、結局は今のままで行くことにした。表面的にはともかく、内部的には実質真の仲間みたいな状態だしね。というわけで改めての挨拶を交わし、固い握手をして笑い合いました。


「……よし。これで万が一アイツが戻って来た時のための保険も用意できたな」

「おい、聞こえたぞ? さては私を見逃した理由の大半はそれだな?」


 そしてぽつりと聞こえないくらいの小ささで呟いたのに、ベルはしっかり僕の呟きを聞き取ったっぽい。睨むように目をジトっとしたかと思えば、握手する手にとんでもない力をかけてきた。防御魔法が無かったらトマトみたいにベチャって弾けてたな……。

 そんなゴリラの握力はともかくとして、ベルを生かす事に決めたのは保険としての意味合いもかなり大きい。まかり間違って僕が生きてる間にミカエルが帰ってきた場合、時間稼ぎを出来るのはベルを置いて他にいない。だからベルを始末するのはデメリットが大きすぎるってわけ。今の僕は油断と慢心を捨て去った完全無欠の状態だから、どれだけ低い確率だろうとそれがゼロじゃない限りは無視しないよ?


「全く、ご主人様は本当にご主人様だな。少し感動しかけた私が馬鹿だったか……」

「実際そう。何騙されちゃってるの? 僕がそんな情に流されるタイプだと思ってた? 考えが甘いよ。何千年生きてんだ」

「ハッハッハ。殴って良いか、ご主人様?」

「ダメ。お前の膂力で殴られたら色々馬鹿にならない。ダメージが無いにしても生理的に嫌――っとぉ!?」


 眩しい笑顔を浮かべつつ、握手してない方の手でビキビキと音がするほど固く拳を握るベルに対して、即座に握手を止めて距離を取る。直後に抉り込むような拳が空を走り、猛烈な暴風と衝撃波が巻き起こって僕の服や髪を激しく揺らす。

 危ない危ない。一瞬早く動いてなかったら顎を打ち抜かれてたな。当たってたら脳震盪とかいうレベルじゃなくて、普通に首から上を全部持ってかれるくらいの一撃だったぞ。大丈夫だとしても受けたくないわ、そんな一撃。

 しかし、あのベルが僕に暴力を振るおうとするか……何だかちょっとお互いの距離が縮まった気がするね!


「しかし保険まで考えるとは、もしやご主人様はアレが本当に戻ってくると思っているのか? 宇宙の彼方に放逐したというのに」

「実際に戻って来れるかどうかはさておき、アイツは最大の障害で意志力の化物だからね。だったらこれで終わりなんて油断してないで、対抗策を考えておいた方が良いかなって。どっかの誰かにも詰めが甘いだの油断しがちだの言われたし。だから徹底的に考えて対策を用意するのは当然でしょ?」


 まず間違いなく帰ってこれないとは思うけど、今の僕はそれで慢心するような小悪党じゃない。そもそも殺し切る事が不可能だったからこそ代替案の放逐を選んだわけで、この時点でいまいち完璧っぽくない。だからこそ、より完璧を目指すために不測の事態を考え保険を備えておくのは正しい選択だ。

 それに何より――ここまでやれば、レーンも間違いなくご褒美くれるだろうしね! 僕、頑張った! どんな種族でどんな外見にするかも決めたし、屋敷に変えるのが楽しみだぜ! フゥーッ!!


「むぅ……やはりご主人様は多少油断していた方が良いかもしれんな。やる事成す事がシャレにならんぞ……」


 冷酷で有能な参謀の如き雰囲気を醸し出す、正に悪辣な邪神たる僕の姿に、ベルは恐れおののくような呟きを零した。

 まあ頭の中では変身させたレーンを組み伏せる妄想を繰り広げてるんだけどね! 意志力の化物を相手して精神的に疲れたし、リラックスタイムに突入してぇなぁ!? 辛抱溜まらん!



 ということで、ベルは生存。確かに厄災みたいなものだけど、少なくともクルスが生きてる間は有能で忠実だからね。女神様を手に入れた後なら世界が滅んでも良いって事で……。

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[気になる点] クルスの魔法は無限の魔力と想像力で出来上がるとして、 ベルの変身用魔道具をこの世界の物質でかつ 最大限効率良く空気中の魔力と ベルの魔力で補うように改良したとしても、 クルス亡き後も壊…
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