クルスVS大天使ミカエル3
⋇PCの時刻が止まってて投稿時間が過ぎてるのに気が付きませんでした。申し訳ない。
「魔法封印」
火力で殺せない事が分かったから、今度はその不死性の元を絶つ方向で動く事に決定。つまりは魔法を封じに走る。
ミカエルの異常性は魔将に見られる属人的な能力じゃなくて、手法としては誰でも可能な呪法と戒律の重ねがけによって得られる力だ。尤もここまでのチートを誰も彼も実現できるわけじゃないが。
だから大元である魔法を封じれば、恐らくは不死性を絶つ事が出来るはず。
「どうした、不発か!? 俺は何も感じなかったぞ!」
魔法封印を用いて魔法を封印しても、ミカエルは何をされたか全く分かっていない模様。どうやら魔法を使わないっていう戒律のせいで、身体能力の強化とかもやってないから気付けないっぽい。さっきまでと何も変わらず、黄金の長剣を振るって僕を滅さんと迫ってくる。さては防御力と意志力全振りか?
「そうっすか。じゃあこれはどう? 死」
「がっ――!?」
手を向けて放ったのは『死』という概念そのもの。これを食らったミカエルは過程や原因をすっ飛ばして即死、駆ける勢いのまま前のめりに倒れる。それでも剣は決して手離さない辺り、意志力が死体の姿からも滲み出てて困る。
「魔法を封印した上で、死っていう概念を直接叩きつける。これなら殺せてもおかしくはないはずなんだけど……」
「――まだだぁ!」
「マジかぁ。魔法無効化すら打ち破ってくるよ、コイツ……」
恐ろしい事に、ミカエルは別段さっきまでと変わりなく蘇った。魔法封印で魔法を封じてるはずなのに、それをガン無視して蘇生と完全耐性獲得を両立する理不尽さ。
考えられる可能性としては二つ。一つは魔法の無効化は確かに効いてたけど、数秒で耐性を身に着けて克服した可能性。
原子すら残さず蒸発させても蘇った事、そして蘇生の時に巻き戻るように蘇る光景から考えるに、自身の時間を巻き戻す形か、あるいは過去の状態に復元する感じの復活をしてる可能性が濃厚だ。だから現在で魔法を無効化しても過去にまでは影響しない可能性があるんだわ。何だろう、過去の自分自身の状態をセーブしてロードするっていう効果が、すでにセーブ段階で発動してるって言った方が分かりやすいかな? 自分でも何言ってるか良く分かんなくなってきたけど。
そして二つ目。これは完全に推測だけど、たぶん僕の魔法が格の上で敗北してるから無効化できない可能性。
もちろんこの世界には明確に格が違う魔法は存在しない。魔力とイメージさえあれば大体何でもできる自由度があるからね。精々難易度が高いとかそういう感じの違いしかないよ。初級魔法、中級魔法、上級魔法って感じに体系化されるような性質の魔法じゃないし。
それでも格なんて言葉を出したのは、単純にそこに込められた熱量が決定的に異なるから。僕はヘラヘラ笑いながら無限の魔力でゴリ押ししてるけど、ミカエルの方は燃え上がる果て無き意志力を呪法と戒律で極限まで強化して研ぎ澄ませてる。どちらも不可能を可能にできる所業とはいえ、正直女神様から無限の魔力を譲り受けて他人の力で好き勝手してる僕が劣るのは明白だ。
そして僕がそう思っているからこそ、自分の魔法に影響が出る。ミカエルに魔法封印が効かないのはそういう理由だと思う。そもそも僕自身が効いても数秒くらいだろうなぁって思ってたし。本当にこの世界の魔法は便利なのか不便なのか分からんなぁ!?
「なら、これだ――魂体粉砕」
「ごぁ……!?」
自分の思考とイメージに足を引っ張られながらも、諦めず致死の魔法を放つ。
魂が無ければ肉体が蘇ろうとも空っぽの人形しか残らない。例え殺しきれずとも、物言わぬ人形に出来たなら無力化は達成したも同然。そういう理由で放った魂を粉砕する一撃。これを受けてミカエルはその場に膝を突き、死を迎える。これならいけるか……?
「――いいや、まだだぁ!」
「えぇ……」
なんて思ってたのに、元気満々で蘇る!
もうダメだコイツ、殺しきる事は不可能だ。そして僕がそれを痛感した時点で、僕の魔法じゃあ殺しきる事が出来なくなる可能性が濃厚になる。あーもうっ、今回は僕かなり真面目にやってるのに、相手が反則過ぎて話にならんよ。
というか魔法は魂から生み出される魔力を糧にして発動するはずなのに、大元の魂が粉砕されても蘇るってどういう事……?
「魂まで修復すんの? キッショ」
「タマシイなどという物は知らぬ! ぜああぁぁっ!」
しかし攻撃自体は愚直に接近して剣を振るうか、蹴りを放つのみ。その攻撃に魔法無効化が付与されてるとはいえ、速すぎて対処できないわけでもなければ重すぎて受けられないわけでもない。今だって簡単に剣で弾いて受け流せたし。この点はまだ救いだね。
「うーん。じゃあ次は……駄目そうだけど試してみよう。次元放逐」
「っ――」
迫りくるミカエルに対して指を向け、異次元に繋がる扉を開く。突然目の前に開いた空間に対処する時間も無く、ミカエルはその中に飲み込まれて消える。この魔法は空間収納に対象を放り込む魔法――じゃなくて、マジで別次元に放り込む魔法だ。
ただしその別次元がどこでどんな場所なのかは僕も分かんない。不法投棄するだけだし別に知る必要は無いかなって。万が一パラレルワールドとかだったら、ミカエルが二人存在する次元になったりするんだろうか。パラレルの僕、マジですまん。君にこれの対処を任せた!
「――無駄だっ! 俺は魔法を使えんが、貴様が開いた空間を切り裂き無理やりに開く事はできる! 強制的に転移させようと、俺は絶対に舞い戻る! 勝利をこの手に掴むために!」
とはいえ相手は転移の痕跡を切り裂き、飛び込む事で自身も無理やり転移を果たすミカエル。空間に黄金の斬撃が走ったかと思えば、そこから当然のように帰還してきた。チッ、パラレルの僕に押し付けたりは出来なかったか……!
「別次元への放逐も駄目か。うーん、正直段々面倒になってきたかもしれない。麻痺、猛毒、睡眠、石化、盲目、沈黙――」
上がってたテンションも段々下がってきて、面倒になってきたから状態異常のオンパレードで攻めてみる。
全身を麻痺させ動けなくする麻痺、常人なら一瞬で即死する毒を与える猛毒、一瞬で昏倒する睡眠、瞬く間に石像と化す石化、視覚を完全に機能停止させる盲目、声を発せなくなる沈黙、エトセトラ、エトセトラ……。
死病患ってる人の方がまだ元気そうな状態に陥る魔法の数々に、ミカエルの身体はそれぞれの異常を反映した姿になるけど――
「――無駄、だぁっ!!」
「状態異常系も数秒で完全耐性、と。こんなんナーフ確実でしょ。女神様バランス調整サボってないでちゃんとして、どうぞ」
どれもこれも数秒で完治&完全耐性獲得。マジでこれどうすればいいんかなぁ? 何かすればするほど耐性が増えてくから、その内こっちの手札が無くなりそうだ。それなのに向こうはこっちの首を切り落とすなり心臓貫くなりすれば勝ちとかズルいよね? まあこっちもそれくらいじゃ死なないようにはしてるけど。
「しゃあない。これならどうだ――時間停止」
「――――」
マジで手札が無くなってきた僕は、容赦なく絶対的な魔法を行使した。他者の時間そのものを停止させる最強の魔法。アニメや漫画でも使う奴は強キャラ間違い無しの時間停止だ。世界そのものの時間を弄ると後で女神様に怒られそうだから、あくまでもミカエルの時を止めるのみ。
時間を停止させられたミカエルは何をされたのかも分からないまま、僕に剣を振り下ろさんと凶悪なツラを浮かべた状態で凍り付いた。
「願わくばこのまま永遠に止まってて欲しい。時よ止まれ、君は煩わしい」
「――ぜりゃあああぁぁぁぁっ!!」
「うーん、これも駄目か。マジで殺す方法無いな?」
だけど結果は散々。当然のように時間停止の理をぶち破り、完全耐性を付けた上で何事も無かったかのように鋭い一閃を放ってくる。
やっぱりコイツは僕の目的を阻む最大最強の壁だな。時間停止も効かず、転移で逃げても空間を裂いて追いかけてくる。だからここで殺し切るしかないのに、それを可能とするビジョンが全く見えない。太陽系崩壊レベルの火力を叩き込んでも駄目、異空間に放逐しても駄目、魂を砕いても駄目、魔法を無効化しても駄目。何をしても駄目で完璧にお手上げ。投げやりになった僕は剣をポイっと捨て、降参を示すように両手を上げた。
「ククッ。ついに万策尽きた、というわけだな?」
「そうだね、お前を殺し切るのは正直無理だと思うし」
僕の様子から諦観を悟ったのか、勝利を確信したような笑みを浮かべて攻撃の手を止めるミカエル。
まあ諦めという文字が辞書に存在しない無敵の存在を相手にすれば、折れるのは必ずこっちだろうね。生憎と僕の辞書には諦めって文字はちゃんとあるんだ。だからコイツを殺しきるのはもう諦めた。
「だから――殺さず無力化する方向で行くよ。そっちなら手が無いわけでもないしね」
だけど僕はニヤリと笑う。敗北を受け入れる気も無ければ、勝利を諦めたわけでもない。諦めたのはあくまでも完全に殺しきる事だけだから。
ベストなのは殺し切って無力化する事だったとはいえ、それが無理そうならさっさと見切りを付けるのは当然の事。そして殺さず無力化するだけなら、幾つか方法を思いついてる。問題は少し準備に時間がかかる事くらい。
うーん、あまり頼りたくなかったけど仕方ない。化物には化物をぶつけるのがセオリーだもんね。ここは素直に助力を求めるとしよう。なので僕は自分の右隣に別地点と空間を繋げる巨大なポータルを開き、その言葉を口にした。
「――ベル、力を貸せ」
『……クククッ。待っていたぞ、ご主人様よ! その言葉をっ!』
ポータルの中からそんな可愛らしくも覇気に満ちた声が轟いたのも束の間、次の瞬間とても巨大で長大、そして何よりも悍ましい見た目をした化物が凄まじい勢いで飛び出してきた。
『オオオォォォォォオオオォォォォッ!!』
「なっ!? コイツは――っ!!」
突如現れ、雄たけびを上げながら突進する大質量の生物にさしものミカエルも驚いたみたい。凍り付いてる所にそのまま突進をまともに受け、潰れたトマトみたいに全身をグチャグチャにして吹き飛ばされた。
それを成した化物はもちろん我が屋敷のメイド長。そして魔獣族を守護する使命を帯びていた原初の魔将、ベルフェゴール・カイツール。今回ばかりは2Pキャラの姿ではなく、真の姿。一見するとただの馬鹿でかい毛虫みたいに見えるけど、毛の一本一本がそれなりの太さの触手になっていて、それぞれの先端に鋭い牙と単眼を持つ、SANチェック必須の悍ましき怪物。そしてミカエルと対を成すバグキャラの片割れだ。心強い事この上ないね?
『ご主人様よ、命令を』
ベルは忠実にそう問いつつ、単眼を持つ触手がびっちりと生えたデカい顔を向けてくる。聞き取りにくくなるからか声だけはミニスと同じ声にしてるな? そういう気遣いが出来るなら正直こっちを見ないで欲しい。僕だってあんまり直視したくない姿なんだからさ。
「しばらく時間を稼いでくれる? コイツを無力化するために必要な素材を手に入れてくるから」
『うむ、了解した』
短く頷きを返し、鎌首をもたげて正面に馬鹿でかい顔を向けるベル。
その幾つもの目が注がれる先には、吹き飛びながら再生を遂げるミカエルの姿があった。ベルの突進の衝撃がデカすぎて、完治してもまだ吹っ飛んでるらしい。地平線の向こうまで行く勢いだ。
しかしアレだね。以前はベルとタメを張るとかどんな化物だよって思ってたけど、実際やりあってみると納得だわ。ある意味では不死身同士だからこりゃあ決着がつかない。
「……魔将ベルフェゴール。貴様、自らの使命を放棄し、邪神の下に降ったか?」
『その通りだ、大天使ミカエル。所詮は女神に押し付けられただけの無意味な使命。そんなものを律義に守るより、私は私のやりたいようにする』
しばらくして飛んで戻ってきたミカエルが、天空よりベルを冷たく見下ろしながらそう毒づく。お互いに因縁の顔合わせなせいか、二人ともめっちゃ殺意に溢れてて最高に機嫌が悪そう。さっきまで凶悪な笑みを浮かべてたミカエルは侮蔑のツラになってるし、表情の分からないベルは酷く冷めた声音だ。
まあベルはともかく、ミカエルは散々やり合って勝利に辿り着けてないんだから不機嫌になるのも仕方ないだろうねぇ。敗北こそしてないけど実質ベルとの戦いは引き分け扱いで強制終了みたいなものだったらしいし。もしくは単純にベルの姿が醜くて堪らないからかもしれないが。
「なるほど、随分と耳通りの良い声になったな? さてはそれが邪神に授かった力か?」
『その通りだ。ご主人様は自由に声や姿形を変える力を授けてくれた。故に私はその恩義に報いるため、どのような命令でも忠実に遂行しよう』
「声と姿形、か。その割には、醜悪な外見は変わらぬようだが?」
『当然だ。何故なら私はご主人様のためならば、この呪われた身体で戦う事も辞さない』
「面白い! ならば俺はここで貴様との決着を付け、その上で邪神を倒し、完全なる勝利を手にする!」
『やってみろぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
巨体をうねらせ猛烈な勢いで突進するベルと、黄金の長剣一本を手にそれを迎え撃ちにかかるミカエル。まるで恐ろしい怪物とそれに立ち向かう勇者のような、神話に残りそうな光景だ。実際はどちらも対処に困る不死身の化物だけど。
「……楽しそう。僕も混ざりたいなぁ」
そんな最終戦争染みた究極の戦いに後ろ髪惹かれながらも、僕は転移魔法で以て一度この場を離れる事にした。ベルが時間稼ぎをしてくれてる内に、ミカエルを無力化するために必要なものを集めに。ベルのおかげでより完璧に無力化できる方法のヒントも見つかったしね。クククッ……。
次回、バグキャラVSバグキャラ