クルスVS大天使ミカエル2
⋇恐らく作中で一番主人公が弾けているお話
「空間拡張」
まず僕が放ったのは戦う場を更に最適に整えるための魔法。ここじゃちょっと本気を出すには狭すぎるから、戦場を限りなく広くする。
玉座の間がどこまでも広々と広がり、壁や天井が猛烈な勢いで遠ざかって行く光景は、まるで僕とミカエルが急速に縮んで行ってるみたいに思える不可思議な光景だ。こんな風に派手に空間を弄るのは女神様に怒られそうな気もするけど、幸い女神様は絶賛目を逸らし中だから問題無し。
それにこのだだっ広い空間は邪神の城の内部を弄って発生させてる限定的な空間だ。ぶっちゃけ結界の中の時間や空間を弄るのに大差ない。だからきっと大丈夫。大丈夫じゃなくてもバレなきゃいい。
「少し手狭だったから、ちょっと広げさせてもらったよ。これで心置きなく全力を出せるってもんだ」
「やってみるがいい。貴様がどのような攻撃を繰り出そうと、何度倒れようと、俺は必ずお前を打ち倒し勝利を掴む!」
「そっちこそやれるもんならやってみろ。さあ、どんな魔法を使おうかな?」
空間を拡張した弊害で、僕とミカエルの間の距離もかなり大きく開いた。だから使う魔法を考える時間も十分にある。遠くから猪突猛進って感じで突っ込んでくるミカエルの姿を眺めつつ、今まで使いたくても使えなかった魔法を頭の中でリストアップ。
うん。いきなり終わったらつまらないし、まずは様子見程度の魔法で行こう。
「まずはこれだ――爆弾帝王」
「……んん? 何だこの物体は?」
無限の魔力をフルに使い、僕がミカエルの進行方向に具現したのは巨大な金属塊。クソデカい太ったミサイルみたいな無骨極まる物体に、思わずといった感じでミカエルも足を止める。まあこの世界には存在しない物体だし、そんな反応も仕方ない。
でもこの物体はあまりにも危険すぎて、さしもの僕も外ではぶっ放せないと諦めてお蔵入りさせたもの。あまりにも強烈な威力を持つ爆弾の中の爆弾。
「爆弾の王様みたいな、途方も無い威力を持つ兵器さ。本当は起爆に原爆を使ったとか聞いた事あるけど、魔力でゴリ押しすればその程度何とでもなるね。ということで――点火」
それを僕は容赦なく起爆した。
瞬間、全てを塗りつぶす白光と耳をつんざく大爆音が鳴り響き、この拡張された空間内に激震が走る。起爆の直前に転移で数百キロ距離を取ってた僕にさえ、猛烈な衝撃が襲い掛かった。威力を控えめにした上で衝撃波が地球を三周したって話は伊達じゃないね! 僕は防御魔法展開してるから効かないけどな!
「フーッ! もの凄い威力だ! どうせならこんな場所じゃなくて、皆に良く見えるようお外で起爆したかったね!」
噴き上がるキノコ雲を遠目に眺めつつ、危険すぎてお蔵入りさせてた魔法をぶっ放した爽快感に叫ぶ。
とはいえ実際アレをぶっ放しても、この星自体は壊れないと思う。問題は聖人族と魔獣族が住むこの大陸がわりと小さい方だから、そこでぶっ放すと纏めて滅びる可能性があるって事。だからお蔵入りさせてたんだけど、実際に使ってみるとやってみたい欲がドンドンと沸き上がってくる。どうしよう、威力控えめにすればちょっとくらい使っても良いかな……?
「――そうか! だがこんなものを使われては我ら聖人族が滅んでしまう! よってそれは決してさせぬ!」
なんて危ない事を考えてたせいか、突如目の前の空間に亀裂が走り、そこから五体満足なミカエルが斬撃と共に現れる。
もちろん僕はそれを見越して距離を取ってたから問題無し。あとコイツ、やっぱりこの転移は魔法を使ってるわけじゃないな。僕が転移した事で空間に残った綻びみたいなものを、斬撃で無理やり切り開いて一瞬だけ繋げてるんだ。魔法を使わないっていう縛りはどうやら真実の様子。この芸当は魔法じゃないのかって突っ込みたくなるけど。
「マジかぁ、水爆でも蘇生する? しかも空間が歪むほどの超高熱の中を平然と突き進んでくる? お前それはさぁ――ますますそそるねぇ!」
だからこそ、僕のテンションは弾けるように昂って行く。だって水爆ぶつけても殺しきれないんだよ? それはつまり、もっと高威力の世界滅亡間違い無しの一撃もぶつけられるって事じゃん? こんなチャンス二度とないぜ!
「なら次はこれだ! 光あれ――恒星創造!」
「っ――」
次に用いたのはバール戦でもやった恒星を創り出す魔法。ただしあの時とは違って、恒星の大きさは自重してない。直径百キロを越える馬鹿でかい恒星を生み出し、その光であらゆる物を焼き尽くす。
煌々と輝く星の輝きの前に、ミカエルは声も出せずに一瞬で燃え上がり灰すら残さず消滅した。まるで吸血鬼みたいだぁ……。
「――く、おおおぉぉぉぉぉ!?」
しかし普通に数秒で元に戻ったかと思えば、今度は恒星の重力に引かれて猛烈な勢いで天に昇って行く始末。リスキルみたいな真似をされて、さすがにこれにはミカエル当人も驚愕の声を上げてたよ。
そうしてミカエルの姿は上空で輝く恒星に呑まれ、見えなくなった。
「この距離で星の光に焼かれた癖に、当然のように生き返りやがる。しかし重力には逆らえず、星に飲み込まれて終わり――」
なんて独白をした瞬間――ズバッ! 輝く恒星が袈裟懸けに真っ二つに切り裂かれ、上下でズレながらその輝きを弱めてく。これマジ?
「なわけないよねぇ! 知ってた!」
「フハハハハハハッ! 貴様、弱体化しているなどという言葉はデタラメだな!? これほどの魔法を涼しい顔で用いる貴様が、弱体化などしているわけがない!」
恒星に飲み込まれたはずのミカエルは、当然のように五体満足で再臨。純白の翼をはためかせ、上空から一直線に僕の元へ飛来してくる。
というかさりげなく弱体化が真っ赤な嘘だって事がバレちゃいましたね。まあ現時点ではそんな事すごくどうでもいいがな! そんな事より次の魔法だ! 更にテンションが上がりつつある僕は、薄れて消滅しかかってる恒星に干渉。すると切り裂かれた恒星は再び一つに戻り、輝きをさっきまでよりも猛烈に強めながら縮小していく。まるで力を圧縮してるかのように。
「消し飛べっ! 超新星爆発!」
そして、解放。
解き放たれるのは星が最後に放つ輝き。既存の兵器を遥かに上回る超威力の爆発が巻き起こり、空間内の全てを一瞬で焼き尽くし吹き飛ばす。当然ながらこれもお蔵入りの類。こんなもん地上でぶっ放したら世界どころかこの太陽系が吹っ飛ぶレベル。そもそも一個人に向けて放つ魔法じゃないよね、これ。自分でやっておいて何だけど。
「――何度やろうと無駄な事! 貴様が俺に勝利する事は決してない!」
しかし当然のように殺しきれず蘇るんだから仕方ない。超新星爆発の余波によって数十億度を優に超える地獄みたいな空間になってるのに、ミカエルはそこを平然と突き進んで剣を振り被って来るんだから、これはもう――堪らない!
「勝利とかそういうの、ちょっとどうでも良くなってきた! 楽しい! 圧倒的な破壊を撒き散らすのがマジで楽しい! これが生きてるって実感かな!?」
神の如き力を振るえてテンション爆上がりの僕は、年甲斐もなくはしゃぎながらその一閃を受け止める。
これが全力を振るう快感……! ヤバい、脳汁ドバドバで論理的思考が出来なくなりそう。えっ、もう出来てない? またまたぁ、僕は冷静だよ! 次はどんな破滅的魔法使おうかな!?
「死と破壊を撒き散らす事でしか生の実感を得られぬ破綻者め!」
「そういう君は、進み続けて勝利する事でしか自身を証明できない異常者だね!」
「――フハッ」
「ハハハッ――」
「ハハハハハハハハハハハハハッ!!」
お互いイカれた者同士、何か波長が合ったのか同時におかしくなって笑い合う。何だコイツら。
だけどその間も攻撃の手は緩めない。ミカエルは猛烈な剣撃を繰り出してくるし、僕はそれを捌きながら更なる魔法を繰り出すため、超新星爆発の残骸に干渉する。
その結果、上空に浮かんでた小さな中性子星が更に小さく圧縮されていき、同時に周辺に満ちてた数十億度を越える熱をも吸い上げるように取り込んで黒っぽく変色していく。そう、それは全てを飲み込む超重力の穴だ。
「総てを飲み込め――事象の地平線!」
「グッ、おおぉぉぉぉぉぉぉ!?」
バールが以前使ったような紛い物とは違う、正真正銘のブラックホール。突然顕現した吸引力の変わらないただ一つの黒渦に、ミカエルの身体はあっという間に吸い込まれて圧縮されて見えなくなっていく。
さっきの恒星で超重力に耐性がついてたはずだけど吸われてるのは、これがさっきとは別の魔法だからだ。どれくらい変化させれば別種って判定になるのかは分からないけど、まあちょっと変えた程度じゃ駄面なんだろうね。あるいはミカエル側の認識の問題かもしれない。
なお、当然ながらこれも地上でぶっ放せないのでお蔵入りの魔法だ。そもそも使う相手がミカエル以外に思いつかない件。とはいえ盛大にダウングレードさせれば使いようは無くも無いか。
「光すら逃れられないブラックホール! 例えその中で蘇生したとしても、中はほとんど異空間みたいなものだ! さあ、これでも戻って来られるか!?」
事象の地平線の向こうに消えたミカエルの行動を、期待に胸を高鳴らせながら待つ。
あれ、戻ってこれない方が僕としては助かるんだっけ? ちょっと良く分かんなくなってきた。まあ楽しいから良いか! オラッ、どうせ生きてんだろ! さっさと戻ってこいや!
「――応とも! 何故なら俺は何度倒れようと、必ず勝利をこの手に掴むからだっ!」
予想通り、ブラックホールが切り裂かれてその中からミカエルが姿を現す。
相も変わらずその姿は輝いていて、純白の軍服に汚れ一つ見受けられない。光すら逃れられず、その向こう側は時空が捻じ曲がったブラックホールの中から当然のように帰ってくる始末。こんなもん性質の悪い悪夢でしょ。
「ハハハッ! ブラックホールすら突破しやがった! コイツもう力技じゃ殺せねぇな!?」
ここまでやって、力技ではミカエルを殺しきれないっていう結論に到達した。
一応他にも威力だけなら凄まじい魔法はあるよ? でもこれだけやってダメだったんだし、何をしても純粋な火力や破壊力じゃ無意味なのは明白だ。マジでこれどうすれば良いんだろな?
「では潔く諦め、俺に首を差し出すか?」
「冗談。せっかく最高にテンションが上がってきたんだ。こんな楽しい時間を投げ出すわけないだろぉ?」
ニヤリと笑ったミカエルに対し、こっちも笑みを深めてそう答える。
ぶっちゃけかなり困ってるけど、それ以上に楽しさが胸の中に満ちてるからね。遠慮も容赦もなく力の全てを存分に振るえるこの機会、楽しくないわけがない! まだまだ振るいたりないぞぉ!
「そうか。ならば好きに足掻くが良い。尤も――勝つのは俺だがなぁ!」
向こうもだいぶ楽しんでるみたいで、三割マシくらいの凶悪な笑みを浮かべて相も変わらず突っ込んでくる。さてさて、どうすればコイツを無力化できるかなぁ?