表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第13章:最強の敵
359/527

クルスVS大天使ミカエル




 大天使ミカエルの一刀を受け、邪神の身体は鮮血を撒き散らしながら傾き――そのまま大気に溶けるように消え去った。


「……何だと?」


 これにはミカエル自身も困惑を示してる。

 まあ傷はそこまで深くなかったからね。それなのに倒れるでもなく玉座を斬った時みたいに消え去ったんだから、驚くのも無理はないよ。僕としては想定の範囲内だけどね?


「――お見事。邪神に一太刀浴びせるとは、さすがは聖人族の最終兵器」

「っ!?」


 だから()はパチパチと拍手しながら、玉座の間の奥に設置してる隠し部屋から姿を現した。突然玉座の間に現れた聖人族にしか見えない少年の姿に、さしものミカエルも息を呑んでたよ。

 そう、さっきまでミカエルと闘ってたのは僕であって僕じゃない。僕の髪の毛を元にして肉体を再構成した肉人形に、一時的に魂を飛ばして使ってただけの遠隔操縦機体みたいなもの。異なる肉体と魂は拒絶反応を起こすけど、百パーセント同一人物の物ならそんな心配は全くない。だからこうして本体の安全を確保しつつ戦う事ができるってわけさ。

 今回の戦いは骨が折れそうだし、慢心も油断もなく戦うつもりだったから、最初から本体で戦わずに肉人形を使って戦ってたんだ。で、どうせ死んでも良い身体だから、ミカエルの一太刀を浴びたらどうなるかを検証に使ったって事。結果としては一太刀浴びただけで肉人形から魂が本体に戻って来ちゃったよ。やっぱ猛烈に魔法を無効化してくる感じだな?


「じゃあ改めて自己紹介しようか。僕こそが邪神クレイズさ。さっき消えたのは僕が使ってた肉人形だから気にしないで良いよ」

「なるほど。それが貴様の真の姿、というわけか?」

「その通り。これが僕の本当の姿さ。こんなに人畜無害そうな顔してたら、誰も邪神なんて信じてくれないでしょ? だからわざわざあんな姿を作って演じてたんだよ。君の一撃で真の姿を暴かれちゃったけどね」

「なるほど、言葉遣いも演技だったというわけか。確かに貴様より俺の方がよほど邪神と呼ばれるに相応しい顔をしているな」


 などと凶悪なツラでニヤリと笑うミカエル。

 確かにそうなんだよなぁ。僕は自己犠牲系優男主人公フェイスで、ミカエルの方は魔王とか邪神とかそういうのが相応しい凶悪極まるツラと目をしてるもん。僕ら顔を交換した方が良いんじゃね?


「だが、暴かれたというのは正しくなかろう? 貴様、俺の一撃をわざとその身に受けたな? 俺の能力を分析するために」

「まあね。見てるだけよりも実際に受けた方が色々分かる事は多いし。痛いからあんまりやりたくないけどさ」


 どうやらミカエル当人もわざと受けたって気付いてたらしい。随分目ざといなぁ。

 ただ実は検証目的以外にも二つ理由があったりする。一つは疲れる邪神ロールをしなくて済むように、もう一つは自分が守るべき聖人族の姿で戦えば、ミカエルの戦意が多少緩んだり躊躇してくれるんじゃないかっていう盤外戦術。今回は真面目に戦うからやれる事は何でもやっていくスタイルだよ?


「では――何が分かった!?」


 とはいえ盤外戦術の効果は無かった感じだ。相も変わらず吹きすさぶような戦意を迸らせながら、ミカエルは剣を振り被り突貫してくる。 

 それをこちらも長剣(not魔法生産品)で受け止めて、もう一度鍔迫り合いの体勢に持ち込む。


「まず、お前の攻撃には魔法無効化の効果が付与されてる。剣だけじゃなくて、素手での攻撃を行う場合には拳や脚にも。恐ろしい事にどこぞの竜人魔将みたいな刃のみの超狭い範囲じゃなくて、ほぼ全体に作用してるんだね。拳全体や刀身全体みたいに」

「その通りっ! 俺に魔法の防御など通用しない!」


 実は蹴りを避ける時や、一太刀浴びる時にもこっそり検証を行ってたんだよね。魔法無効化の範囲を探るために、威力を度外視した小さく見えない風の弾を撃ちまくって。

 その結果、どうやら常時無効化とかではなく攻撃行動に移る段階で、その攻撃に使う部位全体に無効化の力が付与されるっぽい。右の蹴りなら右足全体、斬撃なら剣の刀身全体って具合にね。この時点でもうどこぞの竜人魔将の完全上位互換なんよ。


「それについては直接攻撃を受けなければ良いわけだから、さほど問題じゃない。問題なのは即死しても数秒で生き返る事、そして一度受けた魔法への耐性を得る事。こんな風に」


 鍔迫り合いしながら刃の嵐(ストーム・ブレイド)で風の刃を無数に放ち、氷槍(アイシクル・ランス)で氷の槍を四方八方から殺到させ、最後に地獄の炎(ヘル・フレイム)の青い火球で飲み込む。

 普通の相手なら一つでもオーバーキルの魔法だけど、相手は大天使ミカエル。そしてこれらは一度、ミカエルに対して有効打を与えた物。すでに完全な耐性を身に着けてる奴には一切効かず、三つの魔法が直撃しても全く意に介さず、鍔迫り合いには毛ほどもブレが無かった。


「その通り。俺に同じ攻撃は二度通用しない。絶対的な勝利を目指す俺が、同じ攻撃に二度も膝をつく事など、絶対にあってはならないからだ」

「一度膝をついてる時点で、絶対的な勝利にはならないと思うんだけどなぁ……」

「理解できぬのも無理はあるまい。貴様と俺では勝利の意味が違う。そこにかける意志が違う。故にこそ、俺は必ず最後には勝つ(・・・・・・)のだ!」


 迸る気合と共にそう言い放ち、ミカエルはあえて剣を押し込む力を抜いてきた。必然的に僕は前のめりになる形で体勢を崩し、そこに向けて回し蹴りが叩き込まれんとする。

 とはいえ今の僕にはその程度の不意打ちは効かない。そのままむしろ前方に飛び込む形で回し蹴りを避けつつ、転移ではなく足で距離を取る。


「意味……意志……最後……」


 その間に考えるのはミカエルの言葉。

 この戦いにおいて重要なのは、ミカエルの能力の源泉を知る事。そのために言葉の端々に含まれる意味深な単語を繋ぎ合わせて思考を巡らせる。属人的な異能の類だったならともかく、今までの傾向から考えてそういった能力を持っているのは魔将だけだ。だからミカエルの能力はどちらかと言えば魔法に分類されるはず。


「……なるほど、そういう事か。それがお前の生き様って事ね」


 今回ばかりは真面目かつ真剣に戦ってるカッコいい僕だからこそ、すぐにその答えは出た。そして結論から言うと、ミカエルはほとんど何も隠してない。実に分かりやすくその能力の源泉を曝け出してた。


「ほう、理解できたか? ならば、教えてみるがいいっ!」


 ニヤリと一つ笑い、相も変わらず馬鹿正直に真正面から突進してくるミカエル。

 こっちは斬撃を飛ばして首を刎ねて迎撃するけど、数秒後には何事も無かったかのように復活する。そして今の一撃への耐性を身に着け、さっきと変わらない勢いで突っ込んでくる。ただただ貪欲に泥臭く、勝利を目指して剣を振るう。


「お前にとっての絶対的な勝利。それは――何度やられようと、何度斃れようと、最後には必ず敵を倒し勝利する。そういう事でしょ?」

「フハッ! その通りだっ!」


 黄金の一閃を弾きながら指摘すると、あっさりと肯定の言葉が返ってくる。

 そこに含まれるのは圧倒的な自信。自分こそが最強と信じて疑わない狂信に近い激烈な自負。これまで何度も僕の手で殺されたのに、まるで意に介してない強烈極まる意志力。なるほど、これは確かにバグキャラだ。


「泥に塗れようと構わん。無様に倒れようと構わん。どれほどの苦痛に襲われようとも構わん。何度倒れようと、最後には勝利を掴み取る! それこそが聖人族を守護する大天使ミカエル、すなわち最強たる俺の生きざまなのだっ!」

「イカれてんねぇ、君……」


 気合の叫びを上げつつ、何度も何度も愚直に斬撃を叩き込んでくるミカエル。

 さて、ここで一つ魔法という存在について振り返ってみよう。この世界の魔法とは魔力によって想像を具現化する力。魔力の量とイメージの強さ、そして緻密さによって具現化される事象・現象の限界が決まる。面倒だけどとても便利なものだ。

 有象無象はともかくとして、女神様より賜った無限の魔力を持つ僕にはイメージなんてぼんやりとしたもので構わない。不可能だとさえ思ってなければ、無限の魔力でゴリ押しして大概の無理は押し通せる。それは足りないイメージを魔力で補っているから、っていう見方も出来るね。

 じゃあもし、無限の魔力っていうリソースに匹敵するほどの強烈なイメージを抱く奴がいたら? 自分こそが最強、自分こそは無敵。そんな狂信に近い意志の強さで以て編み込まれたイメージが存在したら? 

 うん、要はそういう事だ。コイツ――ミカエルこそがその化物。言わば激しい想念で魔法を強化する呪法使い、その究極系だ。自身の絶対的な勝利を信じて疑わない狂信に近い感情、そして実際に何度殺されようと決してくじけず折れない圧倒的なまでの意志力が、コイツの無敵染みたしぶとさの源泉だ。

 ただし、それだけでこれほど常軌を逸したバグキャラになれるのは少し変だ。それならうちの一般村娘だってもう少し強くなれるはず。つまりはそれ以外にも何らかの要因が存在するって事。


「ついでに言うなら、何らかの馬鹿げた縛りを自分に科してるでしょ?」

「フッ……ハハ、ハハハハハハハハッ! これほど俺を理解したのはお前が始めてだ、邪神クレイズよ!」


 何か自分から喋ってくれそうだし剣戟を弾きながら指摘すると、ミカエルは猛烈に凶悪な笑みを浮かべながら哄笑を放つ。どうやら僕の予想は正しかったみたいだ。

 自分自身に何らかの縛りを設ける事で、その苦難の度合いに応じた力を得る術――レーン曰く、戒律。ミカエルは元々イカれた域の意志力による呪法にそれを重ねる事で、ここまでのバグキャラと化したみたいだ。さてさて、一体どんな馬鹿げた戒律を自分に科してるのかな?


「その通り! 俺は自らに縛りを課している! 一つは――魔法を一切使わぬ事! 男として生まれたからには、この身一つでの戦いこそが至高の極み! 故に魔法など一切使わぬ! 自分の肉体と、鍛え上げた技術で敵を打ち倒す! それこそが最強の証明!」


 などと高らかに叫びつつ、長剣で鋭い一閃を見舞ってくるミカエル。

 剣は拳じゃないけど良いんですかね、なんてツッコミはさすがに無粋か? まあ剣術だって身に着けた技術って言えるからギリギリ範囲内か?

 それはさておき、なるほど納得の内容だ。そして一つ目がそれって事は、当然のような複数戒律。確かにコイツ、接近戦だけで魔法は一切使ってないな。魔法を使わない故に、攻撃に魔法を無効化する力が付与されるってところか? その戒律は攻撃への完全な耐性を得る力についても拘わっていそうだけど、これに関しては他の戒律諸々との複合的な力になってる気もするな。


「魔法が絶対的なアドバンテージになるこの世界で、そんなイカれた戒律を自分に科すとか。控えめに言って狂ってんな、お前? 頭大丈夫?」

「フハハハハハ! 俺を初めて理解したお前も、気狂いには違いあるまい!」

「むぅ。そう言われると困る……」


 初めて自分の事を理解してくれたのが嬉しいのか、妙に上機嫌なミカエル。

 まあそれはそれとして容赦なく殺しに来てるから、飛んだり跳ねたりして躱しながら会話による情報の引き出しを続ける。


「そして俺は、もう一つ自身に誓った。何度倒れようと、どんな苦境に立たされようと、絶対に折れず挫けない事を! そう、俺の辞書に諦めという文字は存在しないのだ! 勝利をこの手に掴むまで、俺はいつまでも進み続ける!」


 そして明らかになる第二の戒律。それは恐らく、『諦観』の禁止というある種最もイカれた縛りだった。

 つまり、コイツは決して何事も諦める事ができない。どれほど強大な敵が相手だろうと、例え自身の身体が満身創痍で動かなくとも、勝てる可能性が存在しなくとも、勝利に向かって進み続ける事を止められない。諦めるという選択肢が存在しないから。まるで暴走機関車みたいだぁ……。

 というかコイツの戒律は明らかに本人の気質というか生き様に沿ったもので、毛ほども縛りって感じがしないんですが? それなのにこんなに馬鹿みたいな力を得られるの? もしかして自身の性格や信念とかに合致した戒律の方が効果的だったりする?


「たった一度の勝利を掴むまでどこまでも突き進む怪物。何度でも蘇り耐性を身に着け、魔法の無効化が宿った一撃で全てを屠る最強の存在。なるほどな、これ何てチート?」


 ようやく力の源泉を理解できた所で、もの凄い面倒臭さに戦いを続ける気が急激に失せてくる。

 自分が最強と信じて疑わない狂信に近い自負と、圧倒的な意志力によって効果を跳ね上げた呪法。それを二つの狂った戒律で強化する事で天井知らずに効果を跳ね上げ、チートか何かとしか思えないほどの力を得る。そりゃこんな奴とまともに戦うとかあまりにもアホらしいよね?

 何が一番酷いって、呪法でも戒律でも無くミカエル個人の『最強』の認識が一番酷い。コイツにとっての『最強』は『何度倒れても最後に勝利を掴み取る事』。だから何度倒されようと決して『最強』の自負は折れない。それどころか倒され蘇る度、華々しい勝利を得るための踏み台が増してる認識なのか、徐々に力が増していってる気もする。率直に言ってクソふざけてない? 女神様ちゃんとバランス調整して、どうぞ。

 とはいえ今回ばかりは僕にも諦めるっていう選択肢は存在しない。何故なら世界を平和にしなければ女神様を僕の物にする事ができないし、コイツを完璧に無力化しないとレーンを好みの種族にカスタマイズできない。今の所無力化する手段がさっぱり思い浮かばないけど、それでも諦めるつもりは一切無いね!


「……まあいいさ。お前みたいな奴が相手なら、僕も遠慮なく本気を出せる。今までは人に向けるには威力や規模が過剰だったり、世界が壊れかねないからセーブせざるを得なかったけど――お前みたいな化物が相手で、この城の中なら話は別だ」


 それに、これはまたと無い機会。相手は何度殺そうが耐性を付けて蘇るバグキャラの極み。つまり力をセーブする必要が一切無い。無限の魔力を存分に振るい、破滅的な魔法を容赦なく行使できる最大最後の機会だと思う。

 今まで幾つも魔法を作って来たけど、使うと世界が壊れかねないからあくまでも理論上で終わった魔法が数多く存在する。でも相手はバグキャラの極みだし、ここは僕が作った城の中で外界から隔絶された空間。だったら最早躊躇する理由はどこにも無い。女神様から授かった無限の魔力、初めてここでフルに使わせてもらうぜ!


「フハッ! 面白い、面白いぞ! 邪神クレイズ!」


 魔力の隠蔽を止め常軌を逸した域の超高濃度の魔力を垂れ流す僕に対し、諦観を知らない化け物は不敵に笑いながら突撃してくる。恐れも怯えも一切無く、むしろどこまでも楽しそうに凶悪な笑みを浮かべて。

 全く、一人で楽しそうにしやがって。今度は僕も楽しませて貰うぞ? はてさて、まずはどんな魔法を使おうかな?


バグキャラの戒律


・魔法の使用禁止(魔力そのものも含む)

・【諦観】の禁止


ちなみに元ネタの方でも信念や生き様に沿った戒律なら、効果は鬼畜な縛りと同等かそれ以上に高くなったりします。あと元ネタの方に比べればこれでも縛りは緩い方。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ