最高のショー
⋇性的描写あり
⋇拷問描写あり
⋇残酷描写あり
⋇三人称視点
「い、いやぁ……! やめて……来ないで……!」
邪神の手によって解放された奴隷たちが革命を起こし、復讐と暴虐の限りを尽くしている現在。魔獣族の国にあるルスリアの街では、男女入り混じった元聖人族奴隷たちが殺意と憤怒に狂いながら、一人の見た目幼いサキュバスを追いかけ回していた。
サキュバスの少女は迫りくる元聖人族奴隷の大群から必死に逃げ惑うが、逃げ切るどころか徐々に数が増えていく有様。哀れな少女には絶望しながら逃げる他に選択肢など無く、何度も転びそうになりながら必死に逃げ惑う。
「へへっ。ちょこまか逃げやがって、ようやく追い詰めたぜ」
しかし運悪く袋小路に逃げ込んでしまい、少女は追い詰められてしまう。背後に逃げ道は無く、正面には殺気立った五十を越える元聖人族の奴隷たち。
彼女に戦う力があるなり、元奴隷たちが普段のように弱っているのなら、正面突破の道もあっただろう。しかし壁を背にして涙目で震え、自身の大きな翼で自らを守るように抱く少女はどこから見ても無力で非力極まる存在だ。虐げられてきた元奴隷たちにとっては支配欲と加虐心、そして燃え上がる復讐心を煽る最高の玩具に見えたに違いない。
「ゆ、許して……私、もう悪い事しないから……!」
「黙りなさい! よくも私たちを性奴隷として散々こき使ってくれたわねっ! その恨みをあんたの身体をズタズタにして返してやるっ!」
「いや、やめて……やめてぇ……!」
「うるせぇ! 俺達の怒りを、痛みを、苦しみを! 絶対に思い知らせてやるっ! その命で贖え! 魔将リリス!」
そうして殺気立った元奴隷たちは、サキュバスの少女――魔将リリスに殺到していく。どこからどう見てもただの幼い少女、戦う力も無さそうなか弱い存在。彼らはそう思い込んでいた。あるいは――思い込まされていた。
「――ボクの虜となれ。アブソリュート・チャーム」
「っ!?」
「あ……!?」
だが元奴隷たちがリリスの下に至る寸前、彼女の桃色の瞳が妖しく輝いた。その光を目にした者たちは凍り付いたように動きを止め、呆けた顔でリリスを見つめたまま動かなくなる。まるで絶世の美女に見惚れるが如く。
「……みんな、武器を下ろして。大好きなボクの事、襲えるわけないよね?」
今までの泣きじゃくる童女の姿から一転、酷く落ち着いた様子でそう言い放つ少女――リリス。
一般的に考えて、激しく殺気立っていた元奴隷たちがそんな言葉を聞くわけがない。魔将などという存在は彼らに理不尽を科した親玉とも言える存在。溢れんばかりの怒りと憎しみはあれど、好意など欠片も存在しないのだから。
「な、何を馬鹿な! 俺たちは、お前の事なんて……!」
「そ、そうよ! 絶対に殺して、殺して……!」
だが元奴隷たちは酷く狼狽え、振り上げた獲物や拳を僅かに下げて躊躇っている。つい先ほどまでは散々痛めつけて犯し殺そうとしていたはずのリリスを前にして。端的に言って異常事態だが、誰一人としてリリスに襲い掛かろうとする者はいなかった。
「ボクのお願いに従って、大人しくしてくれたら……後で、何でも好きな事してあげる」
「何、でも……!?」
そんな元奴隷たちに、リリスは追い打ちをかけるようにどこか婀娜っぽく言葉をかけた。
それに対し、彼らは表情に喜色を浮かべて騒めく。自分たちが今まで何をしていたのか、何を感じて暴れていたのかを忘れたかのように。あるいは、そんなくだらない事よりも大切な何かがあるかのように。
「そう、何でも。自由になりたいなら、それでもいい。あるいは――ボクを抱く、っていうのでも……良いよ?」
「……っ!」
黒のドレスに包まれた自らの肢体を指で撫で下ろしつつ、そんな提案を投げかけるリリス。元奴隷たちは男女問わず一様にごくりと息を呑み、全員で顔を見合わせる。その後、武器を手にしていた者たちは次々とそれを投げ捨てて行った。一人の例外も無く、全員が。
「ありがとう。それじゃあ皆、拘束するけど大人しくしててね?」
「――総員、奴隷たちを拘束せよ!」
「了解っ!」
リリスが悩ましい微笑みを浮かべて投げキッスを決めた直後、周囲の家屋の屋根から続々と魔獣族の兵士たちがその場に降り立つ。元奴隷たちは驚愕を示し中には反抗の意志を示す者もいたが、リリスに微笑みかけられると途端に大人しくなる。
そうして兵士たちは何の問題も無くスムーズに元奴隷たちを拘束し、薬品や魔法で気を失わせてから運んで行った。後に残ったのは一仕事終えて満足気な微笑みを浮かべるリリスと、秘書然とした立ち居振る舞いの悪魔の女性――レタリー。しかし彼女の表情は優れず、罪の意識が浮かんでいた。
「申し訳ありません。わざわざリリス様のお手を煩わせてしまって……」
「エクス・マキナへの戦力を失う訳にはいかないから、仕方ない。即死させずに無力化する手段が乏しい以上、それが出来るボクが出張るのは当然の事」
どうやらリリスの手を煩わせてしまった事を悔いているらしく、頭を下げてくるレタリー。
しかしリリスは何も気にしていなかった。邪神の魔法で強化された元奴隷たちを、被害を出さずに無力化できるのは自分だけなのだから。絶対的な『魅了』という、サキュバス・クィーンたるリリスのみが持つ力で。
行動を完全に支配するような強制力は無い力だが、この力の真髄は『愛情』である。一度魅了を受けた人物は、リリスへの深い愛情を抱いてしまうのだ。肉親よりも深く、運命の伴侶に対するものよりも激しい愛情を。そんな愛情を抱く相手を害する事などできる訳もなく、また可愛らしいお願いを拒絶する事など誰にも不可能である。そもそも愛情を抱けない破綻者や、愛する人でも容赦なく殺せるような異常者でもない限りは。
「それより、もう他に暴れてる奴隷たちはいない?」
「はい。リリス様のおかげで、大多数の奴隷たちは鎮圧出来ました。多少は残っているようですが、その程度ならリリス様のお力を借りずとももうすぐ――あっ、通信が入りました。少々お待ちください」
レタリーが通信用の魔道具を懐から取り出して少し離れ、街の別の場所で活動中の部下と連絡を取り始める。
すでに何度かリリス自身が囮になって元奴隷たちの集団を引っかけているので、街の中で続いていた戦闘の音も鳴りやんでいる。恐らくは完全に鎮圧に成功した、という連絡だろう。いきなり奴隷たちが反乱を起こした時にはさすがにリリスも度肝を抜かれたが、終わってみれば被害は軽微という素晴らしい結果だった。
「はい、私です。そちらはどうなりましたか? はい……えっ? 急に全員が倒れた? はい……はい……他の場所でも? はい……分かりました」
連絡をしているレタリーの表情が何やら不安げに曇って行く。その口から零れる言葉は非常に物騒な内容であり、これにはリリスも眉をしかめて通信の終わりを待つ他に無かった。
しばらくして通信を終えたレタリーは、やはり浮かない表情のままリリスの下へと戻ってきた。
「……何かあった?」
「はい。それが反乱を起こした奴隷たちが、突然糸が切れた様に倒れて死んでしまったと……」
「ん、納得。明らかに肉体の限界を超えた力を出していたから、恐らくその反動。邪神は元々奴隷たちを使い潰すつもりだったんだと思う」
どうやら倒れたのは元奴隷たちの方だったようで、リリスは軽く安堵しながらそんな予想を口にする。
元奴隷たちは契約魔術から解き放たれただけでなく、その身体能力が大幅に強化されて獣人とも対等以上に渡り合えるほどになっていた。単なる強化魔法だったならともかく、邪神とやらがそこまで優しさを持つ存在とは思えない。何か裏があるのだろうと思っていたリリスとしては、元奴隷たちが死に絶えた事は大いに納得できる結果だった。
「なるほど。邪神はなかなかゲスな事を考えますね。奴隷たちに反乱を起こさせて私たちの戦力を削り、そして奴隷も殺して更に削る。エクス・マキナという脅威が存在する以上、かなりの打撃になりますね」
「でも、ボクらは多くの奴隷たちを生きたまま捕らえる事が出来てる。そこを考えれば他の街よりはマシ」
「そうですね。リリス様が率先してお力を振るってくださったおかげです。ありがとうございました、リリス様」
その場に膝を付き、頭を垂れてくるレタリー。
リリスとしては普段あまり働いていないので、こういう時は率先して動かなければ駄目だろうと思っている。そんなわけで頑張ったのだが、想像以上に効果的だったようだ。有事の際にこれほどの結果を出せば、今まで以上に肉欲に耽っていてもお小言が減るはず。そんな打算極まる事を考えながら、リリスはレタリーの頭をぽんぽんと軽く撫でてあげた。
「どういたしまして。それより、他の街の被害状況はどうなって――」
『――奴隷たちの反乱。楽しんでくれたかな、薄汚い蛆虫の諸君』
「っ……!?」
しかしそこで、唐突にリリスの脳裏に悍ましい声が響く。そしてそれはレタリーも同様だったらしく、弾かれたように顔を上げる。そのまま主従揃って空を見上げると、青空を背景に巨大極まる男の姿が映り込んでいた。黒と白が歪に入り混じった、見るだけで不快感を催す邪神の姿が。
『彼らの命の最期の輝きはどうだった? 消え入る寸前の蝋燭が激しく燃え盛るように、その命を削り美しい輝きを見せてくれただろう? それとも貴様らにとっては、奴隷の命など路傍の石くれほどにも価値が無いものか? まあ、私にとっては奴隷共も貴様らも、等しく無価値なゴミ屑に過ぎんがな』
やはり代償ありきの身体強化をかけていたようで、邪神は嘲笑と共にそう吐き捨てる。
奴隷と一纏めにゴミ屑扱いされた事に思わずムッとするリリスであったが、現状ではどう足掻いても邪神には手出しできないので怒りは堪えるしか無い。魅了で従わせて性奴隷にしてやりたい気持ちがあるものの、生憎とリリスはこの街の守護を命じられているため離れられず、また魅了が通用するという確信も無かった。
『だが、私はとても博愛精神に溢れる神だと自負している。だからこそ、奴隷共の革命に疲弊した貴様らの癒しとなる愉快な光景を見せてやろう。きっと気に入るに違いない』
意味の分からない事を口走った邪神が、黒白の翼を翻してその場を動く。すると青空のスクリーンから邪神の姿が消え去り、代わりに別の物が映り込んだ。
それは裸に剥かれ、鎖で戒められ宙吊りにされている二人の少女の姿。片方は長い金髪を持つ少女であり、獣耳や翼、尻尾なども無い事から聖人族だと一目で分かった。だがもう片方の少女は違う。燃えるような赤い髪も、暗黒染みた黒い瞳も、今代の魔王に瓜二つ。実際に何度か目にした事もあるのだから、間違える事などありえない。
「なっ!? ば、馬鹿な、あのお方は……!?」
「……アポカリピア」
隣でレタリーが驚愕に目を見開くのも当然の事。あの赤髪の少女は現魔王の一人娘たるアポカリピアなのだ。言わばこの国のお姫様。そんな存在が聖人族の少女と共に、裸に剥かれて宙吊りにされている。
その姿は青空のスクリーンに映っているため、恐らくは世界中で種族問わずに誰もが目にしている事だろう。今頃魔王は愛娘の哀れな姿を衆目に晒され、怒りのあまり発狂しているかもしれない。リリスはそう思った。
『紹介しよう。左が聖人族の姫君、ジェニシィ・オルディナリオ・テラディルーチェ。右が魔獣族の姫君、アポカリピアだ。さあ、お前たちも挨拶をしろ』
『やだ……見ないで、見ないでぇ……!』
『神を僭称する割にこのような下劣な真似をするなど、とんだ痴れ者ですわね……!』
泣きじゃくりながら必死に身体を隠そうとするも、宙吊りな上に足には重りをつけられているため肌を隠す事など出来ないアポカリピア。そしてその隣で同様の痴態を晒し恥じらいながらも、怒りと屈辱に邪神がいると思しき方向を睨みつけている金髪の少女――ジェニシィ。
どうやら邪神は魔獣族の姫を攫うだけでは飽き足らず、聖人族の姫まで攫っていたらしい。挙句に二人纏めてこのような公開羞恥プレイ。サキュバスとしては多少ゾクリと来るものがあったが、それでも常軌を逸した域の外道な行為に軽蔑の感情を覚えるリリスであった。
『下劣? 痴れ者? なるほど、貴様は何か勘違いしているようだな。まさか貴様らの裸体を衆目に晒し、辱める事が目的だとでも思っているのか? 全くおめでたい頭をしている』
『じゃあ何でっ! 何でこんな酷い事するのよ、変態!』
『そうですわ! 今すぐ私を解放しなさい、下賤な邪神風情が!』
二人の姫は邪神に向けてそう叫ぶ。聖人族の姫であるらしい敵種族への仕打ちはむしろ愉悦を覚える類のものだったが、それでも隣に同族がいるのでリリスとしてもあまり楽しめる光景では無い。それは大多数の者たちが同じ気持ちを抱いているはず。
故にリリスは哀れな姿を晒す二人から目を逸らそうとして――パチン。
『は……?』
『えっ……』
指を鳴らすような音が響き反射的に視線を戻すと、宙吊りにされている二人の真下に真っ赤な炎が生じるのを目にした。燃え盛る炎に舐められ、二人の足を戒める枷から伸びた鎖と鉄球が赤熱していく。あの炎が幻覚や脅しの類で無いという事は、その光景を見れば一目瞭然だった。
『黙れ、薄汚い害虫どもが。貴様らの存在意義など、私に力の源を献上するという一点しか存在しないのだ。さあ、苦痛に泣き叫び我に負の感情を差し出すがいい』
『ひっ――ぎゃあああぁああぁぁぁっ!』
『ああああぁあぁぁあぁぁぁっ!!』
邪神が冷たく言い放つと共に、炎が一気に膨れ上がり二人の下半身を飲み込む。拘束されて身動きの出来ない二人は、初めて味わうであろう火炙りの苦痛に聞くに堪えない絶叫を上げ始めた。
⋇両種族お姫様の全世界全裸拘束火炙り生中継という外道の極み