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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第13章:最強の敵
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キャットファイト

⋇残酷描写あり







「君らさぁ、さすがにもうちょっと時と場合を選んでくれない? 幾ら何でも台本投げ出してガチバトルは無いでしょ」

「うう~、申し訳ない主~……」

「……済まない。私も少し、頭に血が上っていたようだ」

「我も同様だな。面目ない……」

「ケッ」


 僕の目の前にいるのは正座して自分の行いを反省してる(させてる)奴ら。尻尾も犬耳も垂れてしょんぼりしてるトゥーラに、バツが悪そうな顔をしているレーン。そしてイケメン顔を気まずそうに歪めてるバール。好き放題に暴れてた割にはちゃんと反省が出来てて何よりだよ。

 とはいえこの状態に持っていくのに少し時間はかかったけどね。ミニスに渡した魔道具について教えろとかレーンがうるさくてね。わりと忙しいのに面倒な事で絡んでくるから、ちょっと引っ叩いて黙らせちゃったよ。実は初めてレーンに暴力振るったので向こうも意外と戸惑ってた。ちょっとその反応に興奮した。

 ちなみにトゥーラが犬小屋にいたのは、どうもセルフ反省してたかららしい。クソ犬でさえ反省してるんだから、魔術狂いはもうちょっと好奇心抑えて、どうぞ。

 えっ、キラ? うん、コイツだけは胡坐かいて頭ボリボリ掻きながら不機嫌な顔でそっぽ向いてるよ。それでもちゃんと皆と同じように座って反省の形を僅かでも示してるだけマシじゃない? 猟奇殺人鬼に常識とか説いても意味無いでしょ。


「とはいえ僕にも用意した台本がスッカスカだったっていう非もあるし、芯が強固っていうか我が強い奴は嫌いじゃないし、そういう連中を集めてる節もあるからから多少はこういう事が起きるのも仕方ないけどさ。でも次からは気を付けてよ? もし次も台本とか指示を無視して動こうものなら、ベルと睨めっこしてもらうからね。本当の姿で」

「は~い……」

「了解した」

「分かった。分かったからそれだけは絶対にやめてくれ。頼む」

「チッ。うるせぇな、分かったよ……」


 程度に差はあれ、みんな素直に反省してくれてるみたいで何よりだ。一人だけお仕置きにガチビビリしてるイケメンがいるのがちょっと笑う。もしかしてメンタルは意外と弱い方なんだろうか?


「まあお説教はこんなもんで良いか。僕も今は忙しいし、もうそろそろ一時間だしね。もうすぐ奴隷たちがバタバタ死んでいくぞー」

「じゃあ私の仕事はこれで終わりって事よね? だったらもう電話に出ても良い? 一時間前からずっと電話鳴りっぱなしなんだけど」


 今までモニターで奴隷たちの反乱の様子を監視してくれてたミニスちゃんが、携帯を取り出してそう尋ねてきた。マナーモードでずっとブルブルしてらっしゃる。やっぱご両親としては遠く離れた地にいる娘が心配なんだろうね。


「愛されてるねぇ。まあ良いよ。ここから先は一人で出来るし」

「そう。じゃあ私は部屋に戻るわ」


 それだけ言うと、ミニスはこっちに興味なんて欠片も無い感じで去って行った。うーん、真面目で仕事のできるクール系って感じだぁ。他が酷かっただけな気もするが。


「で、お前らは……まあ、好きに過ごしてなよ。でもバールとレーンはまだ偽装が済んで無いから、屋敷の外には出ないようにね」

「了解した。では大人しくミラと話の続きをしているよ」

「我はひと眠りするとしよう。このような明るい時分は好みではないからな」

「う~ん、不完全燃焼だ~。子猫ちゃ~ん、暇ならちょっとやりあわないかい~?」

「面白れぇ。細切れにしてやるよ、クソ犬」


 一声かけると、四人は思い思いの事をしにそれぞれの目的地へと向かっていく。レーンは青い顔をしてるミラちゃんを引きずって、バールは忌々しそうに外に目をやってそれぞれに与えた自室に。犬猫は地下闘技場に。

 やっぱりみんな自由だなぁ。少しくらいは手伝いを申告してくれても良いんじゃないかな? いや、申告されてもやって貰う事は特に無いけどさ……。


「さ、それじゃあ行ってくるか。リアも手伝いありがとね」

「うん! 頑張ってね、ご主人様ー!」


 何にせよ、時間も迫ってるからさっさと行動に移さないといけない。というわけで、最後まで各地の監視をしてくれたリアにお礼を言うと、笑顔で見送られながら地下の牢屋へと転移した。

 地下牢は広々として、正に牢獄って感じの冷たい空気が漂う雰囲気のある場所だ。色々あって地下もそれなりに拡張して広くなったからね。

 ただ階層数自体は全部で地下四階のまま変わってない。だってこれより下には魔王城地下の魔法陣の間が広がってるから、階層増やすと繋がっちゃうんだわ。人んちの地下にまで勝手に地下空間広げるとか、はた迷惑な話だよね?

 それはともかく、僕は牢獄の通路を歩いて目的地へと向かう。途中で僕の姿を見かけた牢の中のサキュバスたちとか、女狐とか悪魔っ子が震えて怯え必死に距離を取るけど気にしない。今日はお前らに用は無いんだよ。

 そうして辿り着いたのは、他の牢からも隔絶された特別な一角。いわゆるVIP用の牢獄だ。とはいえVIP用だから他より豪華で待遇も良い、なんて事をこの僕がするはずも無い。単純に他と隔離した方が良さそうだから別にしてるだけって感じ。


「――やあ、お姫様たち。ご機嫌はいかがかな?」


 牢の前に来た所で、鉄格子越しに親しみやすい笑顔とフレンドリーな声をかける。挨拶は基本だからね。

 そしてこの牢の中にいるのはVIPと言うだけある立場の子。真っ赤な髪と黒い瞳が特徴的な悪魔のロリっ子、魔獣族のお姫様であるアポカリピアことリピア。女神様にちょっとだけ似てる金髪青目のロリっ子、聖人族のお姫様ことジェニシィの二人だ。

 不倶戴天の敵同士である二人を同じ牢にぶち込んでたから、まあ当然のようにしばらく殺しあってたっぽいね。牢の中には至る所に大量の血痕が残ってるし、二人が来てたネグリジェとかもだいぶボロボロになってるし。とはいえ今は二人ともそれぞれ正反対の牢の隅で膝を抱えて蹲ってる。予め僕がミニスにかけたのと同じ自己再生と蘇生の魔法をかけたから、しばらく殺しあって無駄だって事が分かったんだろうね。


「あたしをここから出せ! このゲス野郎!」


 僕の姿を目にした途端、リピアの方は立ち上がって憤怒の形相で鉄格子の所まで走って来た。そうして鉄格子を掴み、今にも噛みついてきそうに生意気極まる言葉を口にする。


「口の利き方がなってないお姫様だなぁ? まだ拷問もしてないのにひんひん泣いてたのを忘れちゃった?」

「うるさい! あたしが自由になったら、邪神もお前なんかもパパがぶっ殺してくれるんだから!」

「ははっ、残念ながらそれはないね」


 どうやら大好きなパパなら邪神にも僕にも勝てると思っている様子。たかが魔王風情にやられる僕じゃないよ。僕をぶっ殺したいなら神様レベルの存在を連れてきな。

 あと邪神と僕が別カウントなのは、僕が邪神の下僕の一人みたいに振舞ってるからだね。コイツら相手には色々楽しみたいし、そうなると邪神にあんまり下世話な行為させるのはイメージ的に良くない気がするからさ。


「それで? 聖人族のお姫様の方は調子どうよ?」

「……最悪ですわ。このような汚らしい所に、穢らわしい魔獣族と一緒に閉じ込められるなんて。まさかこれほど耐え難い拷問だとは思ってもいませんでしたわ」


 現実的なのか、あるいは諦めがあるのか、ジェニシィは牢の片隅で膝を抱えたまま静かに僕を睨みつける。

 とはいえまだ拷問はしてないのに、リピアと同じ牢に閉じ込めただけでかなり辛そう。まあ殺し合いをしてた痕跡もあるし、だいぶ疲れて参ってるんじゃないかな。にっくき怨敵が傍にいるのにどう頑張っても殺せない、っていうのは別方面で精神にきそうだし。


「はあっ!? 誰が穢らわしいってのよ!?」

「当然あなたの事ですわ。オツムだけでなく耳までおめでたいんですの? ああ、それともそのご立派な角が脳みその栄養を吸い上げていらっしゃるんでしょうか? それは実に可哀そうで――がふっ!?」


 怒りを示したリピアに対して、静かに流れるような罵倒を続けるジェニシィ。でも唐突に悲鳴と共にその言葉が途切れた。

 理由は単純。僕の目の前にいたリピアがジェニシィに向かって突進して、体重を乗せたヤクザキックを顔面に繰り出したからだ。かなり良い角度と猛烈な力で叩き込まれたせいか、ジェニシィの口元から血と共に歯が幾つも飛び散り、壁に叩きつけられる形になった後頭部から骨が砕けるような聞こえちゃいけない音が鳴り響く。怨敵同士って事はさておき、女同士だからか完全に容赦無いですね……。


「よくも言ったわね、この貧弱なモヤシ女が!」

「がっ、あ、ぐ、ぅ……!」


 挙句にリピアはジェニシィの髪を引っ掴み、床に投げ倒してひたすらに蹴りまくるという狂暴極まる行為に走る。最初の蹴りの痛みと脳震盪で朦朧としてるのか、ジェニシィは抵抗すら出来ない感じだった。


「あたしがこんな目に合ってるのも全部あんたのせいよ! 死ねっ! 死ねっ! 死――がああぁあぁぁっ!?」


 だけどそれはほんの数秒程度の事。自動再生の魔法で即座に脳震盪から復帰したジェニシィは、お返しとばかりに氷の礫を放ってリピアに反撃した。一つ一つは小石くらいの氷の礫だけど、数十個のそれが至近距離からぶっ放されたなら威力は抜群。至近距離でショットガンでも食らったみたいに、リピアは身体中穴だらけになって吹っ飛び壁に身体を叩きつけられた。冗談みたいな量の血が流れて、またしても牢の中が血痕で汚れてく。

 いやー、女同士の喧嘩って怖いわー。本当に血生臭くて容赦がない。


「……お忘れですの? 私たちは邪神の魔法によってどのような傷を負おうとも死なず、すぐに負傷が再生していく魔法をかけられている事を。どれだけ殺しあおうとも無駄だという事は、ほんの少し前にお互い理解したはずではありませんこと? にも拘らずこのような真似をするなんて、やはり魔獣族は低能な畜生ばかりですのね」


 ふらりと立ち上がったジェニシィは、僕の魔法によって顔面陥没も抜けた歯も完全に元通りになってる。もちろんそれはリピアの方も例外じゃなく、チーズみたいに穴だらけだった身体は瞬く間に塞がってく。

 とはいえ治るのは怪我だけで、ヒートアップした殺意や怒りが戻るわけじゃない。


「こ、このクソ女ぁ!」

「きゃっ!?」


 完全に傷が塞がるのすら待たず、リピアは翼をはためかせて素早く駆ける。そしてそのままジェニシィに体当たりして押し倒すと締め技に移行し、首をキめて猛烈な力で締め上げる。

 しかしもちろんジェニシィも負けない。首を絞められながらも魔法を操り、リピアの顔の周囲の空気を遮断して同じように窒息を狙う。


「あっ、ぐ……ぎいっ……!」

「っ……ぁ……っ!」


 とはいえ自動再生の魔法があるから、一瞬で落せない限りは窒息で意識を失う事は無い。そのせいで二人の顔色は赤と青の間で反復横跳びを決めてて、ひたすらに絶息の苦しみを味わってた。そんなに拷問の苦しみを味わいたいなら言ってくれれば良かったのに……。


「分かっちゃいたけどすっげぇ醜いな、これ。もうちょっと監禁方法を考えるべきだったか?」


 一ミリも嬉しくないキャットファイトを眺めつつ、二人の監禁方法に思いを馳せる。

 お互いの傷を舐め合い慰め合うくらいの良好な関係になって欲しいから纏めて一つの牢にぶち込んでるとはいえ、現状の様子を見るとさすがに勇み足感が否めない。正直お互いへの最底辺の好感度が地を突き抜け余計に下がって行くとしか思えないね。アンダーフローして逆にカンストする可能性はあるかな? 無いか?


「まあいいや。どうせ何やっても死ねないんだし、間違いや不測の事態が起こるはずも無いか」

「いっ!?」

「があっ……!?」


 とはいえ今更監禁方法を変えるのも面倒だから現状維持に決めて、とりあえずキャットファイト中の二人に電撃を食らわせて仲裁する。

 というか本当はこんな風になる事を期待して、牢の中では魔法が使える状態にしてるところもあったんだけどね。思ったほど楽しくは無かったなって。あとはお姫様同士の力関係を対等にするためっていう目的もあるけど。

 何にせよ閉じ込めてるだけだから殺しあう余裕があるのかもしれないし、拷問の日々が始まったらそんな余裕も無くなると思いたいね?


「醜い争いはやめようね。そろそろ君たちの出番だからさ」

「出番……? 出番とは、一体どういう意味ですの?」

「ふん! 誰があんたらの思い通りになるもんか! 何をするつもりかは知らないけど、あたしは絶対あんたたちには従わないわよ!」

「こんな畜生と同意見というのは癪ですが、私もあなたたちに大人しく従うつもりはありませんわよ」


 電撃の余韻に若干身体を痺れさせながら、二人して反抗的な目を向けてくるお姫様コンビ。そんな目にゾクゾクと興奮が沸き上がって来るのを感じながら、僕はニヤリと笑った。これはどんな風に泣き喚いてくれるか楽しみだねぇ?


次回、お姫様たちの出番。乞うご期待!

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