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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第13章:最強の敵
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修正役

⋇前半レーン視点

⋇後半クルス視点

⋇残酷描写あり

⋇ミニスちゃんは苦労人





「焼き貫け――フレイム・ランス!」


 シュメルツが放つのは幾本もの炎で形作られた槍。それらが上空から雨あられと降り注ぎ、触れた物を貫き焼き焦がし溶解させていく。

 当然周囲の被害など一切考えておらず、ハニエルばかりか目撃者として残さなければならない重傷で転がっている兵士の類にまで降り注ぐ始末。私は即座に上方に結界を展開して炎の槍を防ごうとするが、どうやらそれらは囮だったらしい。途端に私の身体を貫く軌道で、正面から炎の槍が迫ってくる。


「――護れ」


 だが、動揺は無い。何故なら便利な盾であり、剣でもある存在をこの手で操っているのだから。故に私は魔力の糸で雁字搦めにして操り人形と化した魔獣族の元奴隷に、自らを庇う形で炎の槍を身体で受け止めさせる。

 炎の槍が彼の胴体を半ばまで貫き、内臓から始まりあらゆる組織を焼き焦がしていく。どう見ても致命傷、その上で上半身と下半身が微かに脇腹で繋がっているような状態。本来なら戦闘継続は不可能なコンディションだ。


「アッ、ぁ……!」

「かの者を癒せ――ヒール」


 とはいえ、私が即座に治療するのだから即死で無ければ何とでもなる。たちどころに彼の致命傷は完治し、一瞬で戦線に復帰可能な状態となる。

 これほど瞬間的な治癒が可能なのは、私が長年魔獣族の身体を研究しどうやって壊し殺せば良いか調べたからに他ならない。間違っても形だけのインチキ三流魔術師には出来ない芸当だ。

 

「何と恐ろしい女だ。死の安寧を決して許さず、強制的に生に縛り付けてまで操り人形として戦わせるとは……」

「何とでも言いたまえ。そもそも君が仕掛けて来なければ私もこのような真似はしなかった」

「あ……ァ……」


 下半身が吹き飛ばされようと頭の半分が消し飛ばされようと、即座に私が治癒するため操り人形にしている名も知らぬ彼は死ぬ事が許されない。自我を封じ込めるために脳に刺していた短剣はすでに無くなっているものの、度重なる死の恐怖とそこからの強制復帰の反復を経て完全に自我が壊れてしまったらしい。意味の無い声を零しながら焦点の合わない瞳で虚空を見つめている。

 罪悪感が無いわけでも無いが、どうせ私が手を出さずとも暴れ回った上で生命力を使い果たして死ぬのだ。ならば有効活用した方が得というものだろう。


「ふん、まあいい。私は敬愛する邪神様の命に従うのみ、その哀れな魔獣族ごと貴様を滅ぼし、大天使を頂く」

「やれるものならやってみるがいい。三流魔術師風情のこの私が、君を返り討ちにして見せよう」

「では……遠慮なくっ!」


 言い放つと共にシュメルツが地を蹴り、恐ろしい速度で駆けてくる。今まであえて抑えていたのか、これまでに倍する速度の疾走だ。どうやら向こうも本気らしい。


「ディフージョン・ライトニング!」

「あァァあアぁあアァぁぁっ!!」


 こちらは操り人形を起点に電撃を生じさせ、広範囲に雷撃を撒き散らさせながら盾として間に割り込ませる。悪魔の彼の喉から凄まじい絶叫が迸り、瞬く間に全身が電撃によって焼け爛れていくが、それを治癒で捻じ伏せて強引に盾としての役目を果たさせる。

 更に周囲の水分を凝結させ、氷の槍を数十本生成。電撃を放つ操り人形を避けようとした瞬間狙い撃てるよう、それらの切っ先をシュメルツに向けて――


「――そ、そこまでよ!」

「っ!?」

「何だ!?」


 そこで唐突に若干上ずった少女の声が響き、操り人形に使っていた名も知らぬ悪魔族の身体と、待機させていた氷の槍の数々が一瞬にして消滅する。必然的に無防備になってしまった私だが、この展開はどうやらシュメルツとしても予想外だったらしい。これを好機と見て攻める事もせず、足を止めて近くの家屋の上へと視線を向けていた。

 釣られてそちらを見た私の目に映ったのは、この戦いに水を差したと思しき謎の人物の姿。シュメルツと同じ黒白の衣装に身を包み、怪しげな仮面を装着した小柄な少女と思しき魔獣族。そしてその頭頂部には愛らしいウサギの耳が――いや、どう見てもミニスじゃないか。何をやっているんだ、あの子は……。


「い、いつまで遊んでるのよ、クソ――シュ、シュメルツ。クソ――邪神、様の命令を忘れたの?」


 演技には不慣れなのか度々普段の口調を晒しつつ噛みながら、ミニスは傍目から見るとシュメルツに対して高圧的に言い放つ。

 ああ、そうか。何故彼女が出張って来たのかと思ったら、台本通りの展開に修正するために来たのか。となると間違いなくクルスの差し金であり、選出だね。どうせ面白いからという理由でミニスにこんな役目を任せたに違いない。全く相変わらずふざけた事を考える男だね。

 いや、待てよ? 良く考えてみれば、私が台本通りに行動していればミニスがこんな大役を強制される事もなかったのではないか? ふむ、となると今回は私の責任になりそうだ。少々頭が熱くなり我を忘れてしまったのは否めないな。これは後でミニスに謝罪をしなければならないか。


「……忘れてなどいない。それより、貴様こそ何のつもりだ」

「ク――邪神、様、直々に命じてきたのよ。遊んでないで、さっさと連れてこいってね。ほら、これで――」


 度々『クソ』と毒づきそうになるミニスだが、それでも何とか取り繕って演技を続ける。そして緊張からか少し震えている指を鳴らすと、私の背後にいたハニエルの姿が先ほどまでと同じように消失した。

 どうやら彼女も私達と同じく、自在に転移を可能とする魔道具を与えられたらしい。


「――仕事は終わり。ほら、さっさと帰るわよ。これ以上私の手を煩わせないで」

「……チッ」


 シュメルツは表面上は舌打ちしつつも素直に従い、同様に転移を行い姿を消した。

 後に残ったのは激しい戦いの爪痕と、それを作りだした片割れである私。そして周囲に転がった死に体の兵士たち。彼らは一様に恐れに満ちた目をミニスに向け、自分に敵意が向かないようにか必死に息を殺して存在を消そうとしていた。

 しかしそれも仕方無い。今のやり取りではどう見てもミニスの方がシュメルツより上位者に見える振る舞いであり、加えて他者をも容易に巻き込む転移魔法の使い手に見えるのだ。実際の人間性や強さを知っている私ならともかく、傍から見れば恐れるなという方が無理な話だ。


「……あんた、あのクソ――シュメルツ相手になかなか頑張ったじゃない。ご褒美にあんたも連れてってあげるわ」

「くっ、何を――!」


 そして、私自身もミニスの手で転移させられる。一応最後まで自分の身を守るような演技をした後、一瞬の暗転を経て私はクルスの屋敷の地下闘技場に立っていた。周囲にはへたり込んで生気の無い目をしているハニエルや、操り人形に使っていた名も無き魔獣族が倒れ伏していて、その近くには仮面を外して若干申し訳なさそうな表情のトゥーラが所在なさげに佇んでいる。

 何故かクルスへの忠誠心が異様に高い彼女としては、こんな事態になってしまった事に少なからず罪悪感を覚えているのだろう。実際私もミニスにまであんな役目をさせる事になってしまったので、罪の意識を感じていないとは口が裂けても言えない。


「――ちょっとあんたたち、そこに正座」


 最後に転移で戻ってきたミニスが、仮面を外すなり私たちにそう言い放った。

 かなり不機嫌そうに眉どころかウサギの耳すらピクピクしているので、私たちの予想以上にご機嫌斜めなのだろう。私とトゥーラはお互いに顔を見合わせ、自分たちに非がある事を受け入れ大人しくその場に正座した。


「何か言う事ある? あんたらのせいで私までこんな恥ずかしい事しなくちゃいけなくなったんだけど?」

「私はちゃんと台本通りにやろうとしたんだが、さすがに少々煽り過ぎたのは否めないね~。そのせいでこんな事になってしまったわけだし~……申し訳ない~」

「……すまない」


 私たちは素直に謝罪する。トゥーラがあのような挑発をしてこなければ、私が怒りに我を忘れなければ、本来裏方で働く事になっているミニスがわざわざ出張る事にはならなかったのだ。彼女の怒りも説教も当然の事だろう。

 とはいえまさかこの私が魔獣族に、しかも成人すらしていない少女に説教されてしまうとは夢にも思わなかったね。


「君の怒りは尤もだ。言い訳はしない。だが一つだけ聞いても良いかな?」

「……何よ?」


 私がそう口にすると、ミニスは不機嫌そうに睨みながらも続きを促してきた。だから私は遠慮なくそれを口にした。


「先ほど君は私の魔法を無力化していたね。それは本来君に出来る事ではない。つまりクルスからそれを可能とする魔道具を受け取ったんだろう? 私も魔道具は受け取ったんだが、あくまでも自在な転移を可能とする機能しか持っていないんだ。出来れば君が受け取った魔道具を見せてくれないか?」


 そう、ミニスはついさっき、私が発動した魔法を消滅させた。本来ミニスにそれを成し得るほどの魔力が無い以上、それを可能とするクルス謹製の魔道具を渡されたと考えるべきだ。

 つまりは誰にでも扱える、他者の魔法を無効化する魔道具。何と素晴らしい。是非私も使ってみたい。一体範囲はどれくらいなのか、連続発動も出来るのか、知的探求心と好奇心が実に疼く。


「………………」

「コイツ全然反省していないね~……」


 立ち上がり迫りながらそう頼むと、ミニスは非常に嫌そうな顔をした後に転移をして姿を消してしまった。そして正座を続けているトゥーラは私の姿を見て、呆れたように肩を竦める始末。

 何故だ。反省ならついさっきしただろうに……まあいい。後で製作者のクルスに直接問い詰めるとしよう。

 






 展開の修正役としてミニスを送り込んだのは、結果的に最高の人選だった。何気に真面目にお仕事してくれるから、僕への態度は脇に置いてもポイントかなり高いよ。まあ反抗的な態度とかは逆にプラスになるから、態度もひっくるめると逆にポイント激増するんですがね?

 それでミニスはハニエルとレーンを無事に屋敷の地下に連れてきた後、リビングで奴隷たちの反乱を監視し続けてる僕の所に転移してきたんだけど――


「――このクソ野郎っ!」


 そこから間髪入れずに罵りながら顔面に飛び蹴りを繰り出してくる! 相変わらず口が悪いし暴力的! 回し蹴りじゃなかったのはたぶん隣にリアがいるからだね。

 とはいえさすがに顔面を足蹴にされるのは勘弁なので、適当に結界を張って飛び蹴りは防ぎました。


「ちょっと、今忙しいから暴力はやめて。画面が見にくい」

「何なのよこれ!? 何で私があんな真似しなきゃいけないわけ!? 私を見てた兵士の人たち、滅茶苦茶怯えてたわよ!?」

「そりゃあ転移魔法を使いこなす謎の仮面少女として現れた挙句、あっさりハニエルとレーンを拉致ったんだもん。向こうからすればお前は化け物に見えてるだろうから当然だよ」

「私は! あんたたちと違って! 化け物じゃないっ!」


 酷く心外だとでも言うように声高に叫ぶミニス。

 確かに肉体のスペック自体はごく普通の兎獣人の域を出ないけど、メンタル面は化物って言って差し支えないと思うんだ。本人が気付いてるかは別として。


「ていうか改めて思ったけど、私もの凄く口悪かった! 何でクソクソ言っちゃってるの!? 私、女の子なのに!」

「そりゃあ普段からクソ野郎だのクソ犬だのクソ猫だの呼びまくってれば、染み付いて癖として出ちゃうのは当然だよ。毒舌幹部みたいになっててウケる。アハハッ」

「笑うなこのクソ野郎っ!」


 怒りに顔を真っ赤にしながら、僕の胸倉を掴み上げてガクガクと揺さぶってくるミニスちゃん。早速クソって言っちゃってるぅ。

 うん、やっぱり遠隔でレーンたちに指示を出すよりも面白くなったな。毒舌幹部になったのは君が普段口悪いのがいけないんだぞ?


「はー、もうっ……次はク――き、キラ、のとこね。アイツのコードネームって何だっけ?」

「今頃必死に直そうとしててマジウケる」

「笑うなっ!! ていうかさっきまで嫌そうにしてた癖に、面白がってんじゃないわよこの破綻者!」

「だって面白いもん。学芸会かな? アッハッハ」

「笑うなぁっ!!」


 一旦離してくれたのに、何か気に障ったみたいで再び胸倉掴み上げて揺さぶってくるミニス。

 いやー、やっぱり面白い。これはキラたちの方の修正に行った後の反応も楽しみですわ。



 一見まともに見えるのにちょくちょくおかしくなるレーンさんに、ミニスちゃんもちょっと呆れ気味。それでも他の奴らが酷すぎるのでかなり気を許してる方。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミニス背丈的に結構小さいはず。 それなのにシュメルツより上位的存在とか ギャップも加味しても恐怖の対象とか 真なる右腕なのでは?
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