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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第2章:勇者と奴隷と殺人鬼
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殺しの試験

 三分後、僕は戦闘に勝利した。

 えっ、早すぎるしあっさりしすぎだって? 仕方ないじゃん、元々武術の腕を見るためだけの戦いだし、殺し合いの経験を積むのはついでだし。

 確認ができれば後は結界を欲望の牢獄(デザイア・プリズン)に切り替えて、動けなくなったところで首を刎ねるだけの簡単なお仕事だもん。今回は魔術師を先に倒しちゃったから、後は脳筋しかいなかったのも原因かな?


「よし。それじゃあリア、コイツを殺してみて?」

「ひ、ひいぃっ……!」


 だから後はリアへのテスト。一人だけ殺さずに残した槍使いの男を指差して、消失(バニッシュ)を解除したリアに殺すよう命じる。

 一応これは強制を伴う命令じゃないけど、従わないなら強制的にやらせるまでだ。まあリアなら殺ってくれると僕は信じてるよ。


「別にいいけど、方法はー?」

「んー、じゃあその短剣で首元掻っ捌いて」

「はーい」


 素直に返事をしたリアは、短剣を握りしめて槍男の前に出る。槍男もこんな美幼女に殺されるなら本望でしょ、きっと。


「ごめんねー、おじさん。おじさんに恨みは無いけど、殺さないといけないんだー」

「た、頼む! 助けてくれ! 俺には帰りを待ってる嫁と子供がいるんだ!」

「そうなんだー。でもリアにだって譲れないものはあるんだ。だからさよなら、おじさん」

「ひっ……!」


 必死の命乞いも通じず、リアは容赦なく短剣を振り被って一刀を叩き込んだ。月の光に一瞬煌めいた刀身が切り裂くのは喉元。ぱくっと水平に切れ目が走って、大量の鮮血が迸る――


「……あれれ?」


 はずだったんだけど、槍男はまだ生きてた。

 それどころか喉元の薄皮一枚裂けてないよ。そしてそれを何よりもリア自身が疑問に思ってるみたいだ。何度も何度も短剣を振るっては首を傾げてるし、やっぱり槍男の首は斬り裂かれない。


「何やってんの? フェイントかけてないで一思いに殺してやりなよ? ちょっと残酷すぎるぞ」

「ご主人様にだけは言われたくないよー! フェイントじゃなくて、何でか目測が合わないの。当たるはずなのに、おかしいなー?」

「目測が合わない……? って、あー、そうかそうか。そういうことか」


 何言ってんだコイツ、殺る気が足りないんじゃない? って思ったけど、僕は攻撃が当たらない理由に思い当たる節があった。

 それはリアの体格。リアは幼女で、身長はたぶん百二十センチ弱しかない。でも僕がリアにコピーした武術の元々の持ち主は、確か僕よりやや低いくらいの身長だった。たぶん身長の違いや手足の長さの違いからくる、間合いの変化が問題なんだろうね。


「たぶん体格の問題だね。お前にコピーした武術の技能の元々の持ち主って、僕より少し身長低いだけの子だったから。そりゃこんだけ身長差があれば目測も狂うよ」

「えー? じゃあリアは結局短剣を使えないってこと?」

「いや、エア短剣での剣舞はできてたし、自分で間合いとかを修正すればできると思うよ?」

「なるほどー。こうかな? まだ遠いか。もうちょっと」

「ひっ……! や、やめてくれぇっ!」


 僕の指摘に納得して、槍男の前で素振りを繰り返して微調整を始めるリア。

 魔法的に拘束されて身動きできない槍男は、自分の首に少しずつ近づいてくる致命の刃の恐ろしさに半狂乱になってるよ。酷い拷問だ……。


「えいっ!」

「かはっ……!?」


 何度目かのトライの後、ついにリアの短剣が槍男の首を切り裂いた。鮮血が噴き出して路地の壁やら地面やらを濡らして、失われていく命の輝きを演出する。

 でもこれ野郎のだから美しさが無いな。ただただ汚いだけだ。


「あ、できた。それと……ごめんね、おじさん……」

「……ごぼっ……か、ぁ……!」


 素直に謝るリアと、瞳を見開いたまま悶える槍男。

 嫁と子供に対しての遺言くらいは聞いてあげようと思ったのに、何も言ってくれないな。口から出てたのは泡交じりの血液だけだよ。

 結局槍男はそのまま死んじゃったから、遺言も辞世の句も何も残らなかった。可哀そうだから後で家族を探し出して、同じところに送ってあげようかな? 一緒にいられた方が幸せだろうし。


「うん、何の躊躇いも無く殺せたね。合格だ。これなら僕も安心だよ」

「躊躇いがなかったわけじゃないよ。でもリアは、あのクズ共に地獄を見せるまでは絶対に立ち止まれないから……」


 見れば短剣を握ったリアの手は微かに震えてる。心なしか顔色も悪いね。

 でも淀んだ瞳の奥に映る憎悪と殺意は相変わらずの極限だ。むしろ殺人を経験したことでより深度が深まってるような気もするよ。うん、この様子なら何も問題ないな! 問題しかない気もするけどな!


「大丈夫大丈夫。必ずお前の復讐を成就させてあげるからさ。その代わり、僕の目的にしっかり協力してもらうからね?」

「どうせリアは奴隷だから逆らえないでしょ? でもリアの復讐を遂げてくれるなら、ずっとご主人様の奴隷でもいいかな?」

「まあその辺の話はまたいつか、ね。とりあえずさっさと技能を奪って、宿に帰ってシャワーでも浴びよう」


 返り血はさっさと魔法で綺麗にしたっていっても、浴びたっていう事実に変わりはないんだよね。正直野郎の体液を浴びたっていう事実が嫌すぎるから、一刻も早く洗い流した気分に浸りたい。

 もちろんシャワーは二人一緒に浴びるぞ! レーンとのお風呂も楽しかったからな! やっぱり大勢で入った方が楽しいでしょ。グヘヘ……。


「シャワー……んっ……!」

「ん、どうした?」


 そんなことを考えながら死体の頭に手を触れてたら、突然リアが握ってた短剣を取り落とした。

 見れば何やら顔が赤くて、息も荒い。そして何か妙にエッチな表情してる。おい、さっきまでの顔色の悪さはどこに行った?


「わ、分かんない。何か……お腹の下が、ムズムズしたの……」

「なるほど。身体は覚えてるってやつだな……」


 感度三千倍の状態で身体を洗われたことを、僕のシャワー発言で身体が思い出したみたいだね。白目向いて気絶するくらいの衝撃だったみたいだし、やっぱり本人は何も覚えてないな、これ。


「えっ、覚えてるって何が?」

「いや、何でもない。やっぱ三千倍はやりすぎだったかなって」

「んー……?」


 思い当たる記憶が見つからないみたいで、リアは不思議そうに首を傾げる。

 まあその内説明してやるか、その内。サキュバスと快楽は切り離せないものだから、あくまでも今のリアの健康は一時的なものだからね。また快楽を与えてやらないと体調が悪くなっていくんだろうし。

 快楽が必要になったら僕が手取り足取り色んなことをして悶えさせてやりたいところなんだけど、真の仲間だからできればそういうことして好感度下げたくないんだよなぁ。もしもの時はまた感度を上昇させてハニエルとお風呂にでも放り込もう。うん。

 そんなピンク色なことを考えながら、僕は魔術師を除いた三人の死体から武術の技能を引き剥がしていった。今回入手したのは剣と槍、そして弓の技能だ。どんどん勇者様っぽくなってきてるんじゃない?

 あ、もちろん死体は綺麗に直してから異空間に放り込んでおいたよ。ゾンビ兵に使えるし、何かの実験にも使えるし。証拠隠滅兼、死体の有効活用だね!






「よし! それじゃあ帰って一緒にシャワーを浴びよう!」

「あれ? ご主人様は誠実な関係を築きたいんじゃなかったの?」


 返り血や飛び散った汚れを魔法で処理して隠滅した後、僕らはまた消失(バニッシュ)で姿を消して帰路についた。

 目指すは宿屋、そしてお風呂。魔法で綺麗にしたとはいえ、野郎の血を浴びた事実は消えないからさっさと流して綺麗にしたい。ロリサキュバスとくんずほぐれつしながらな!


「そうだよ? でも僕の中では突っ込まなければ裸で抱き合うのもセーフってなってるから」

「裸で抱き合う!? だ、駄目だよ! 裸で抱き合ったら子供ができちゃうんだよ!?」

「えぇ……」


 僕の発言に対して、顔を真っ赤にして間違った知識を披露するリア。

 いや、ある意味では間違いではないか。それにキスで子供ができるって言うよりはマシだし。どのみち決定的に性知識が欠けてることに変わりはないが……。


「……色々言いたいことはあるけど、キャベツ畑じゃなかった部分だけは評価しよう。裸で抱き合っただけじゃ子供はできないよ」

「えっ!? じゃ、じゃあどうやってできるの!?」

「そこは後でハニエルにでも聞けば良いんじゃないかな? アイツが一番詳しいぞ。たぶん」


 生まれてこの方百万回近く自分を慰めてきたみたいだし、ああ見えて案外性知識は豊富だと思う。サキュバスに関しての詳しい知識もあったし。

 あれ? もしかしてアイツ、案外むっつりなのでは?


「そ、そっか。あの天使か……うん、分かった。聞いてみる……」


 サキュバスとして性知識は気になるみたいで、リアは何度も深く頷いてる。

 これはハニエルが質問攻めされて、顔を真っ赤にして慌てる姿が目に浮かびますね。是非ともその光景は間近で見せてもらわないとな! 

 そんな風に夜のオカズについて考えてると、僕はふとあることを思い出した。リアは目が覚めてから何か食べたっけ? 快楽で復活して肌もつやっつやで超元気になってたからその辺忘れてた。本人も特に申告しなかったし。


「ところでさ、もしかしてお前お腹減ってたりする?」

「え? うん、もちろん減ってるよ? 奴隷商人たちのおかげで命は繋げたけど、あんまり良い食べ物は出してくれなかったから……」


 悲し気な顔をしながら、お腹に手を当てるリア。

 一瞬奴隷商人たちを血も涙もない冷血漢って思ったけど、ボロ雑巾みたいになって半分死んでるような奴を世話してたんだよなぁ。僕が買わなかったら近い内に殺処分してたらしいとはいえ、あんな状態でも世話してたとかむしろ優しい方なのでは?


「そっか。じゃあそこらの屋台で何か買ってあげるよ。何が良い?」

「えっ」


 そんな優しい言葉をかけてあげたのに、あろうことかリアは信じられないものを見る目で僕を見てくる。

 いや、これはむしろ正気を疑ってる目かな? 何だよ、僕だって見た目通り優しいことくらいするんだぞ。ましてや真の仲間相手なんだから当然でしょ?


「な、何かの実験? それともリアの目の前であえて自分が食べて見せて、リアの絶望と空腹を煽ってあざ笑うため、とか……?」

「僕を何だと思ってるんだ。そこらの一般聖人族と一緒にするなよ、全く」

「一緒にしてないよ? ご主人様だからこそ、ただで優しいことをしてくれるわけがないって思ってるんだよ……?」


 あれ? てっきり同族に虐められた挙句、生きるためとはいえ奴隷に落ちたから他人を信じられなくなってるんだと思ったのに、まさかの僕個人が信じられないっていうのが真実だったよ。

 おかしいな、僕はリアには特に酷い事してないはずなのに……。




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