天国と地獄
⋇ここから13章
⋇三人称視点
⋇性的描写あり
⋇残酷描写あり
⋇胸糞描写あり
⋇男の子は股間がヒュッとする表現があるので注意
『――さあ、我が声に耳を傾けよ。この美しい星に蔓延る害虫共よ』
「ああっ!? 何だいきなり!? 邪魔すんじゃねぇ、クソ邪神が!」
不意に頭の中に響いた邪神の声に、万年低ランク冒険者である聖人族の男――トラッシュは思いっきり毒づいた。
普段なら恐ろしいと感じて緊張と恐怖の狭間で揺れていたかもしれないが、残念ながら今は別だ。何せ朝から娼館で魔獣族の女を暴力的に犯すという、週に一度の楽しみの真っ最中だったのだから。
しかもよりにもよって今こそ最高潮、という所で邪神の声が響いてきたのだ。まるで部屋で自慰をしている所、母親がノックも無しに扉を開けてきた時のような無限の憤怒を覚えるのも当然だった。
『先日、我が城に初の侵入者が現れた。害虫とはいえ初の客人。故に丁寧にもてなし生きたまま帰してやったが――』
更に邪神の声が轟き、何やら不穏な台詞を紡いでいく。
無視してお楽しみを続けたいところだが、相手は大陸の形を変え、世界中に歯車の化物をバラ撒いた恐るべき存在。幾ら何でも無視するわけにはいかず、やむなくトラッシュは覆い被さっていた犬獣人の少女の身体から降りると、外に出るために軽く衣服を着込んでいった。
「クソがっ! 戻ってきたらこの分の怒りをテメェにぶつけてやるからな!」
「う、ぁ……」
そして着終わったところで、つい先ほどまで犯していた少女の頬に拳の一撃を叩き込む。
少女は痛みに小さく呻くだけで、鼻から血を流しながらも碌に反応を示さなかった。高級な奴隷なら初心で苛烈な反応を楽しめるのだが、万年低ランク冒険者であるトラッシュの稼ぎでは週に一度、こんな反応の悪い奴隷で楽しむのが精いっぱいだった。エクス・マキナが現れた事により奴隷の需要が高まったせいで、なおさら品質の低い奴隷しか買えないのである。
『故に、私が貴様らにも理解できる形で教えてやろう。貴様らが犯してきた罪を。今まで虐げられてきた者たちの怒りを、憎しみを』
「チッ、朝からうざってぇ野郎だぜ……」
外に出て空を見上げると、そこにはいけ好かない整った顔をした邪神の姿。さしずめ水面に反射する光景が如く、青空に巨大な姿として写り込んでいる。
周囲を見回してみれば、トラッシュのように娼館を利用していたと思しき乱れた衣装の男たちが何人も佇んで空を見上げている。どうやらトラッシュと同じく邪神の声と存在を無視できなかったようだ。大多数が恐怖や怯えよりも苛立ちに顔を歪めている辺り、良い所で邪魔をされたと感じているのは皆同じなのだろう。
『さあ、立ち上がれ――スレイブ・リベリオン』
「ひっ……!?」
しかし邪神がそう唱えた瞬間、悍ましい魔力の波動を感じてトラッシュは今度こそ明確な恐怖を覚える。無論それはトラッシュだけでなく、周囲の男たちも同様に魔力に当てられ、強大に過ぎる力に恐怖を覚え震え上がっていた。
大陸を歪め、歯車の化物を生み出す邪神が行使する世界規模の何らかの魔法。一体どのような悪夢が具現するのか、その場の全員が戦々恐々としながら固唾を飲んでその瞬間を待っていた。
「……は? 何だよ、何も起こらねぇじゃねぇか。ふざけやがって……コケ脅しか?」
しかし十秒経過しても何か起きた様子も、あるいは変化した様子も無い。周囲にも、そして街に満ちているのも静寂のみ。
せっかく楽しくなってきた所で邪神の声に邪魔され、わざわざお楽しみを中断して外に出たのにこの結果。ふつふつと沸き上がる怒りを感じているのはトラッシュだけではなく、同じように娼館から外に飛び出してきた他の客たちも似たようなものであった。
「チッ、さっさと戻って続きをやるか。腹が立ったし殴りながらブチ犯してやるぜ」
故にトラッシュはつい先程まで犯していた犬獣人の少女を、今度はその顔面に拳を叩き込みながら犯す事を決めた。同族の娼館では到底不可能な事だが、敵種族の奴隷のみを扱う娼館では殺さなければ何をしても良いのだ。
故にトラッシュは反応の薄い奴隷女の鼻の骨を砕き、前歯をへし折りながら激しく犯す愉悦を思い浮かべ、娼館に戻ろうと踵を返そうとしたその瞬間――ドシュッ!
「ご、ふっ……!?」
とても鈍い音が体内に走り、同時にトラッシュは吐血した。更に腹の辺りに違和感。恐る恐る見下ろしてみると、そこには腹を突き抜けるように顔を出している血塗れの拳。
何の事は無い、要するに何者かに背後から拳で腹をぶち抜かれたのだ。
「ぎ、ぎゃああああぁああぁぁぁぁぁっ!?」
それを認識した途端、燃え上がるような激痛を覚え絶叫する。
次の瞬間には拳が引き抜かれ、血と腸を撒き散らしながら倒れてしまう。火で炙られるような痛みを放つ風穴を押さえつけ、涙や鼻水をぼとぼと零しながらも必死に振り返ったトラッシュの目に映ったのは――
「――死ねっ!!」
頭から犬耳を生やし、尻から犬の尻尾を生やした、一目で魔獣族と分かる少女。その少女が一糸纏わぬ姿で脚を振り上げ、今正に振り下ろそうとしている姿であった。
魔獣族の個体識別など出来ないトラッシュでも、それが誰かはすぐに分かる。何故ならついさっきまで自分が組み伏せて犯していた女なのだから。
「ぐっ、がああああぁああぁああぁぁっ!?」
驚愕を感じる間もなく脚が振り下ろされ、右の太腿が大腿骨ごと一撃で粉砕される。尋常でない激痛に絶叫しながらも、トラッシュの頭の中は疑問と驚愕で埋め尽くされていた。
何故なら魔術契約で縛られ娼館で働かされている奴隷が、客であるトラッシュに危害を加える事など到底ありえないからだ。それに奴隷の姿や様子もおかしい。ついさっきまではボロボロで死んだ目をしていて碌に反応もしなかったというのに、今はまるで生まれ変わったかのように綺麗な肌を晒し、そして怒りと殺意に燃え上がる恐ろしい目をしている。
「死ねっ!! 死ねっ!! 死ねえええぇえぇぇぇぇぇっ!!」
「うぎゃあああああぁああああぁぁぁぁっ!?」
そんな状態で、まるで契約魔術など知らぬとでも言うように、執拗にトラッシュへ暴行を繰り返してくる。その一撃一撃が容易に骨を砕き、肉を引き千切るほどの力のこもった一撃。
このままでは殺される。どうして誰も助けてくれない。激痛と苦しみの中でそう思ったトラッシュが、必死に周囲に助けを求めようとすると――
「――テメェよくもあたしに散々その汚いモンを突っ込んでくれたな、オイ!? そんなに突っ込みてぇなら引き千切ってテメェのケツにぶち込んでやるっ!!」
周囲では現実とは思えない光景が巻き起こっていた。どうやら契約魔術を無視して反旗を翻したのは一人だけでは無かったらしい。娼館で働かされていたと思しき他の魔獣族たちが、怒りと憎悪と殺意を漲らせながら、あまりにも悍ましく激しい暴力の限りを尽くしていた。
「散々拷問してくれてありがとう。お礼にあなたの皮を剥いで肉を少しずつ削ぎ落してあげるね? やられる側の気持ちを味わえこのクソ野郎っ!!」
「アアアアアアアアアァアアァアァァッ!!」
ある魔獣族奴隷は聖人族の男の手足をもぎ取って動けなくした後、果物の皮を剥くように身体の皮をバリバリと引き剥がしている。しかも簡単には死なないよう、治癒魔法を使って丁寧に治療しながら。その男が上げる悲鳴は最早耳を背けたくなるほどに悍ましい。
「ほら、女にここを握って貰うのが大好きなんだろ? 嬉しいだろ!? いつも私に握らせてたよなぁ!? そらっ、喜びの声を上げてみろやっ!」
「ギャアアアァァアァッ!!」
ある魔獣族奴隷は聖人族の男の股間を素手で握り潰し、治癒魔法で再生しては握り潰すという狂気に近い拷問を重ねている。無論再生するまでは休ませるなどと言う事は無く、その間はひたすらに顔面に拳を叩き込んでいる始末。
男として大切な所がトマトのように弾ける様は、思わず目を背けてしまうほどに凄惨だった。
「アハハハッ!! 私たちはもう自由だ! 邪神様ありがとうっ! そうだ、供物を捧げなきゃ! お前らの命を邪神様に捧げろっ!」
背けた先で目にするのは、笑いながら聖人族を殺して回る魔獣族奴隷。娼館の客かそうでないかも一切関係無く、視界に入ったまだ誰も手を付けていない聖人族の胸に貫手を叩き込んで心臓を抉り取り、ぐしゃりと握り潰してその血を大量に浴びてから次の獲物へと向かう。
そんな狂気を煮詰めたような光景が、この場にはひたすら広がっていた。いや、恐らくは街全体に広がっているのだろう。信じられないほどの阿鼻叫喚の悲鳴が、そこかしこから聞こえてくる。もしかすると、世界中で同じ事が起こっているのかもしれない。
邪神の放った魔法が不発やコケ脅しでは無かった事を、トラッシュはここに至ってようやく理解した。奴隷たちの反乱、これこそが邪神の魔法が引き起こした事象であると。何も起きていないと思ったのは、変化をもたらされた奴隷たちが自分の身に起きた変化を理解し、受け入れるまでに時間がかかっただけなのだと。
「――何よそ見してんの? 今からお前もあんな風に無様に悶え苦しむんだよ!!」
「ぐぎゃあああぁああぁああぁぁっ!?」
だが、トラッシュがまともに思考できたのはそこまで。石畳を砕き割り捲れ上がらせるほどの強さで股間を踏み潰され、グチャリと弾ける激痛に泡を吹きながら意識を手放す他に無かった。尤もすぐさま叩き起こされ、再び同等の苦痛を刻み込まれていくのだが。
いずれにせよ、虐げられた奴隷たちの反乱はまだ始まったばかり。エクス・マキナの登場と襲撃が比べ物にならないほどの未曾有の大災害が、聖人族の国も魔獣族の国も問わず、全世界に広がっていた――
ここから13章。この章はめっちゃバトルが多いです。半分くらいはバトルシーンじゃないかな。飛ばした人用に部分的にあらすじを用意するべきかもしれない……。
なお、今回のお話に出てきた男は奴隷たちの反乱の様子を示す事だけが存在理由なので、覚えてなくて大丈夫です。もう出てきません。これと同じような事が世界中で起きているという事だけ分かって貰えれば、彼もきっと喜ぶでしょう。たぶん。