第二段階決行直前
⋇性的描写あり
お姫様たちを捕獲して、屋敷の地下牢送りにした夜が遂に明けた。本日はついに世界平和実現計画を第二段階に進める日。それは世界が再び大きな変革を受ける日だ。下手をすると第一段階である邪神の降臨とエクス・マキナの登場、そして大陸の合併よりも世界に走る衝撃は大きいかもしれない。それくらい大きな事を実行する予定だ。
そんな僕は、作戦決行の時間である朝七時を目前に控え――
「もっふもっふ」
「………………」
膝に乗せた一般村娘ミニスのウサミミをにぎにぎして、リフレッシュタイムに浸ってた。
いやぁ、本当にこのウサミミの感触は堪りませんわ。暖かくてふわふわで、長いから手に巻き付けて楽しむ事も出来る。もちろん夜は手以外に巻き付けて楽しんでる事もあるけどね。ウヘヘ。
「ぐにぐに。もふもふ」
「………………」
僕がウサミミをにぎにぎもふもふむにむにしようと、ミニスは嫌な声一つ上げない。大人しくされるがままになってるよ。これは僕とミニスの距離が以前より遥かに近づいてるって解釈して良いんじゃない?
え、諦めの境地に至ってるだけ? まさかそんな。確かに顔を覗き込んでみれば死んだような目で虚空を見つめてるけどさ……。
「いやぁ、相変わらず素晴らしい感触だ。いつまでも握っていたくなるくらいだね?」
「そう、ありがと。最近自分の耳を引き千切りたい衝動に襲われてるんだけど、本格的に実行したくなってきたわ」
せっかく褒めてあげたのに、とんでもねぇ事を投げやり気味に口にするミニス。そんなに僕に触られるの嫌? その癖全然抵抗はせずされるがままになってるんだから、良い感じに調教が進んでる気がするね?
「ご主人様、ミニスちゃんばっかりずるい! ほら、リアのも触って良いよ!」
などと死んだ目のミニスちゃんを可愛がってると、唐突にリアが頬を膨らませて近寄ってきた。そして頭突きするような勢いで僕に向けてデカい角を差し出してくる。
何だこれ、焼きもちか? 百歩譲って焼きもち焼くのは良いとしても、何故ケモミミに角で勝負できると思った?
「やだ。だってそれクッソ固い角じゃん」
「そうだけど、触り心地ならミニスちゃんのウサミミにだって負けないもん!」
「いや、さすがにそれはない」
「えぇーっ!? 何でー!?」
正直な感想を口にすると、リアは酷いショックを受けたように傷ついた表情を浮かべた。こっちとしては何で触り心地でケモミミに勝てると思ったのか逆に問い詰めたい気分だよ。
「だって固くてデカくて時々刺さるし。正直わりと目障りだなって思ってる」
まあ僕もそこまで鬼じゃないし、本音を語るだけで済ませたよ。その角がデカくて邪魔くさくて目障りな存在だって事をね。欲を言えば某メスガキにやったみたいに破壊したいくらいだけど、さすがにそれは自重して口にするのは止めました。僕って優しいな?
って、おや? リアちゃん、何か涙目でぷるぷる震えていらっしゃる。もしかしてそんなにショックだった? えっ、本気でケモミミに太刀打ちできると思ってたの? 正気?
「う、うぅ――うえええぇぇぇぇぇん!! ミラちゃああぁぁぁあぁぁん!」
「あ、えっと、その……よ、よしよし……」
どうやら本気で傷ついたみたいで、リアは唐突に泣きじゃくり始めた。そのまま近くにいたミラに突撃し抱き着き、そのお腹に顔を埋めてわんわん泣く。
僕に対してはクソほどビビるミラもロリっ子にはわりとまともな対応ができるみたいで、これには優しく抱き返して頭を撫でて慰めてるよ。ていうかリア、そんな泣くほどショックな事だったんだろうか?
「……最っ低」
「えー? だって本当の事なのに……」
リアを泣かせたせいか、膝の上にいるミニスからも気持ちのこもった罵声を浴びせられる。何だろね? 『最低』のたった一言だけなのに、万の言葉で責められたような攻撃力を感じたよ。
「例え本当にそうだとしても、言って良い事と悪い事が――ごめん、あんたはそういうの判断付かない奴だったわね」
「おい、人を良心とかが無いモンスターみたいに見るんじゃない。ちゃんと心を持つ血の通った人間なんだぞ。少しイカれてるだけで」
「少し……?」
ここでミニスちゃん、わざわざこっちを振り向いて僕の顔を凄い怪訝な目で見てくる。こうやって弄ってる時とかベッドで滅茶苦茶にしてる時とかは、出来る限り僕と目を合わせたりしないのにね。それなのに自ら僕の顔を確認したくなるくらい、僕が変な事を言ったって判定なんだろうか……?
「まあそれはともかく、さすがにちょっと言いすぎたかもしれないな。もしかしたらやっぱり緊張してるのかもしれない」
さすがにリアがガチ泣きしてるのは分かるし、泣かせたのが僕だって事もちゃんと分かってる。普段はこんな失敗しないんだけど、これから作戦を第二段階に進めるから僕も緊張してるのかな? ともかく傷つけたからには慰めてあげないとね。
そんなわけで僕は膝の上のミニスをポイっと隣に放ると、努めて優しい微笑みを浮かべてリアへと歩み寄った。雑に放られたミニスが凄い複雑そうな顔で睨んできたし、僕が近付いて来る事でミラが顔を青ざめさせたけど気にしない。
「リア、ごめんね。ちょっと言いすぎたよ。僕はお前の角、本当はそんなに嫌いじゃないよ?」
「うぅ、ぐすっ……本当ぉ?」
「もちろん。お前みたいに可愛い幼女に無骨な角が生えてるギャップはなかなか堪らないからね。それに――お前にしゃぶらせてる時とか、バックで犯してる時とか、掴むのにちょうど良い取っ手だから無くなるのは困るんだ。そういう意味では、僕はリアの角は大好きだよ?」
「クソ最低でふざけた事抜かすのやめろ。それで慰めてるつもりなわけ? いっぺん死ね、ゲス外道の変態」
せっかく僕の正直な気持ちを伝える事で慰めたのに、背後からミニスの辛辣な罵声が飛んでくる。どうやら僕の慰めの言葉がお気に召さなかった様子。
でもこれが僕の偽らざる本心なんだよなぁ。だってリアの頭の角、ハンドルとか取っ手みたいで掴んで固定するのにちょうど良いんだわ。ぶっちゃけ同じ状況下で髪を掴んだりするよりはだいぶマシだと思うよ? 髪は女の命っていうし。
まあ確かにこれで泣くのを止めるほどロマンチックな台詞では無いか。かといって分かりやすい嘘を吐く気もないしなぁ……。
「本当!? リアの角、大好き!?」
なんて思ってたら、ミラのお腹に顔を埋めて泣いてたはずのリアはがばっとこっちを振り向いてきた。目元から頬っぺたにかけて涙の痕が残ってるけど、何か滅茶苦茶嬉しそうな顔してるよ。もしかしてマジであんな言葉で機嫌治したの? 正気?
「もちろんさ。酷い事言ってごめんね、リア? 許してくれる?」
「うん、許してあげる! ご主人様、だーい好き!」
どうやらマジで機嫌治したみたいで、リアは今度は僕に飛びついてお腹に顔を埋めてきた。そしてこれでもかと頬擦りをして、角でゴリゴリとダメージを与えてくる。皮肉とかそういう感じじゃなくて、どう見てもマジでご機嫌だ。
うーん……もしかするとサキュバスのリア的には、さっきの発言は最大の賛辞なのかもしれない。締まりが良いとかそういう感じの誉め言葉? 異文化コミュニケーションは難しいね?
「えぇ……」
ちなみにリアが機嫌を治して僕にこれでもかと甘えてくる姿に、ミニスはドン引きしたような声を出してたよ。正直僕も気持ちは分かる……。
異文化コミュニケーションを終えて、ついに作戦実行に動く時。リビングのソファーに腰掛けた僕は左右にロリコンビを侍らせ、背後にベルを筆頭とするメイドたちと執事を控えさせた状態で、遠隔通信用の魔法を起動した。
今回使う魔法は以前の反省を踏まえ、多人数と同時に意思疎通を図る事を念頭に入れた魔法だ。そのためどんな風になったかというと、ウェブ会議みたいなものって言えば分かりやすいかな? 僕の正面に四つの画面が現れ、映像と音声を複数同時にやり取りできるようになりました。顔も見えるしこれはだいぶやりやすいな。やっぱテレワークは偉大だってはっきり分かんだね。
ちなみに映像を消して音声も直接頭の中にぶち込む事で、携帯無しでどこでも自由に連絡を取り合えるから、前回みたいに連絡を逃す事も無い。まあ頭の中で何人もと同時に情報のやり取りをするとかちょっと脳みそ痛くなりそうだけど、そのくらいは我慢しよう。
「さて、レーン。そっちの状況は?」
『予想通りに大混乱だ。何せお姫様が忽然と姿を消したのだからね。早朝から現在に至るまで、大勢の兵士を動員しての捜索が続けられているよ』
まずはレーンに尋ねると、予想通りの答えが返ってくる。
そりゃあまだまだ暗い内にお姫様を誘拐したんだから、明るくなって気が付いたであろう今は大騒ぎだろうよ。どうにも滅茶苦茶溺愛されてる感じだし余計にね。
「一応聞くけど容疑者とかは上がってる?」
『見当もついていないようだ。君が直々に魔法を駆使して誘拐したのだから、千年かけても容疑者は浮上しないだろうね。このまま進めば王族に恨みを持つ者が第一容疑者に浮上しそうだ。彼らにはとんだ災難だね』
「大丈夫、冤罪が降りかかる前には犯人が分かるよ。それじゃあ次はトゥーラだ。そっちはどんな感じ?」
聖人族の国の状況は分かったから、次に知りたいのは魔獣族の国の状況。そんなわけで、今度は別の画面に映ってるトゥーラに尋ねた。察しはつくだろうけど、トゥーラが今いるのは魔王城の中だ。そしてレーンが聖人族の国の方にある王城の中。消失のおかげで隠密行動も不法侵入もやりたい放題だぜ。
『こちらは特に騒ぎにもなっていないようだね~。お姫様の不在は知れ渡っているし、一応兵士も捜索に駆り出されてはいるが、人数も最低限で緊迫感も特に無いね~。やはりいつも通りのただの家出だと思われているんだろ~』
「だろうね。ワガママお姫様は自分の思い通りにならない事があるとすぐに家出するって話だし」
元々家出が多いせいで、こっちのお姫様の不在はあまり大事にはなってないらしい。捜索に当てられてる人員もほんの僅かで、やる気も特に無いそうだ。それでも人員がゼロではない辺り、こっちのお姫様も意外と溺愛されてるのかな?
まあ近い内に、どっちのお姫様も無事でいる事をしっかり教えてあげるさ。盛大なショーとして、ね?
「じゃあ問題は無いみたいだし、そろそろみんな配置についてね? あと重ねて言うけどやり過ぎるなよ?」
『……ハハッ』
『ハハハハハ~!』
とりあえず形だけでも注意を促すと、二つの画面から笑い声が聞こえてくる。もちろん笑い声の主はキラとトゥーラだ。二人とも無駄に良い笑顔をしてるのが困る。まるで邪悪な本心を隠すみたいに眩しい笑顔だぁ……。
「……うん、大丈夫そうだね!」
『ツッコミを放棄するな。どう聞いても笑って流したようにしか聞こえないが?』
『酷く不安だな……』
困るのは僕じゃないからこれで良しって事にすると、途端に残りの二画面から渋面とツッコミが返ってくる。ツッコミはレーンさんで、渋面はバールだ。今回は犬猫が暴走した場合、一番割りを食うのがこの二人だからね。僕と違って流す事ができないのも仕方ない。
「大丈夫だ! 仲間を信じろ!」
『一人の例外も無く仲間たちを契約魔術で縛っている君が言う台詞かい?』
『誰よりも仲間を信じていない貴様が何を言う』
「アッハッハ。何も言い返せねぇな、これ? アッハッハ」
とりあえず綺麗事をほざいてみると、びっくりするくらいの正論で殴り返された。
さすがに言葉では年の劫には敵わんか。片や短命種の癖にズルして三百年以上生きてる奴、片や普通に二千年以上生きてる奴だもんなぁ。それに何より僕が人を心の底から信じる事が出来なくて契約で縛ってるのは事実だしね。
まあ今はそんな事はどうでもいい。重要なのはこれから世界平和実現計画を第二段階に進めるって事だ。下手をすると第一段階の時の何倍もの混乱や被害が出るかもだけど、それくらい必要な犠牲だよね。というわけで僕も持ち場に移動して、第二段階決行だ!
仲間を信じろ、とかいう主人公らしい台詞なのに死ぬほど薄っぺらく感じる不思議。
一応この章はあともう一話あります。その後に閑話が続きますが。