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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第12章:呪われた旅路
325/527

必要な犠牲

⋇性的描写あり





 何故こんなドラマチックな展開を演出したのかというと、それには幾つか理由がある。

 一つは、セレスたちを生かして帰す事に決めたから。道中で色々考えたけどその方が良さそうなんだよ。だって全滅したのに僕だけ生きて帰って来るとか相当怪しいしね。みんな死んじゃったから邪神討伐には挑まずに尻尾巻いて逃げ帰ってきた、っていう感じなら怪しさも薄れるとはいえ、それはそれで腰抜けに思われそうで腹が立つし。

 でも四人で帰れば、怪しさはギリギリ許容範囲だ。仮に変に疑われたとしても、その場合は四人で均等に怪しさが分散されるから有難い。何よりその場合、僕らは力を合わせて死地を潜り抜けた戦友だ。何か怪しまれたらきっと僕の事も庇ってくれるに違いない。

 そしてもう一つの理由は、僕が邪神を演じなければいけないから。さすがに一場面でクルスと邪神を同時に演技するのは厳しいし、それなら一旦クルスとしてリタイアしておけば邪神の演技に集中できる。それを実現できる状況が『ここは俺に任せて先に行け!』なわけ。あ、もちろんここで死ぬ気じゃないよ?


「見捨てて、って……! そんな事できるわけないよ!」

「そうです! 幾らあなたが強くとも、その強さを支えているのは膨大な魔力です! 限界まで魔力を消費したあなたでは、この数のエクス・マキナを相手に生き残ることは不可能です!」


 そんな僕の企みと本性を知らないセレスとラッセルは、怒り半分心配半分って感じで僕を止めようと言葉をかけてくる。

 この様子を見るに、セレスはもちろんラッセルからの好感度もかなり高くなってそうだな。わりと淡白に捨て駒を任せられるかと思ってた。


「うん、僕が魔力でゴリ押ししてる事は否定しない。でもそれは搾りカスになった僕じゃあ君らの足手纏いにしかならないって事なんだよ。あとこうやって無駄な話をしてる今も、ガリガリと僕の魔力は削れて行ってるからね?」

「とにかく、あたしは反対! クルスくんを置いてくなんて認められないよ!」

「そうです! 死ぬと分かっている場所に置いていくなどできません! 皆で何とか解決法を探りましょう!」


 二人は感情を優先し、残り少ない時間かつどうしようもない状況下なのに他の方法を考えようと提案してくる。

 気持ちは嬉しいんだけど、正直二人への好感度がちょっと下がったかな? 例え愛する人だろうと、必要に迫られたら斬り捨てるくらいはできないと。それができないんじゃあハニエルみたいな頭お花畑の理想論者だぞ。僕そういう奴嫌い。


「……決意は変わらないのか?」


 などと内心の不満を苦笑いに変えて表現してると、カレンが声を荒げる事も無くそう尋ねてくる。

 見た感じカレンはクールフェイスしてるだけで、別に僕の選択に対する怒りとかそういう感情は見えない。ちょっと薄情だなぁと思う反面、現実を良く見据えてる事に好感度が上がってしまう不思議。べ、別にあんたの事なんか好きじゃないんだからね!


「うん。足手纏いを庇って全員が死ぬよりは、一人が死んだ方が良いでしょ。とはいえ僕だって簡単に死ぬ気はないけどね?」

「そうか……ならば、止めはしない」

「カレンさん!? 本気で言っているんですか!?」


 予想通り、カレンは僕の選択を尊重してくれた。それに対して非常に珍しい事に、ラッセルがカレンに正気を疑うような目を向ける。

 しかし本当に珍しい図になったな? もしもの時は雑魚冒険者たちを捨て駒や囮にしようって提案してきたラッセルが反対し、そういう事が出来ないと目されてたカレンが肯定してくるなんて。これはどっちかというとラッセル側の認識が甘かった感じかな。意外と身内に甘くて、かつカレンの人間性を完全には把握してなかった感じ?


「ああ、俺は本気だ。そしてクルスの言う通りだ。ここで全員が死ぬよりは、犠牲を一人に抑えるのが賢明だ」

「犠牲、って……クルスくんが死んでも良いって言うの!?」

「そうは言っていない。だが、最早犠牲無くして勝利を得られるような状況ではない。それはお前たちとて分かっているだろう? 勝利どころか、この場を切り抜ける事すら難しいと」

「それは……!」

「っ……!」


 いっそ殺意すら滲ませてカレンを睨むセレスだけど、状況を理解してないわけじゃないみたい。僕が犠牲にならないとこの場で全滅するって言われて、悔しそうに唇を噛んでたよ。ラッセルも自分の無力感を噛み締めるように震えてるし。

 いやぁ、僕って仲間たちに愛されてるなぁ!


「この期に及んでもまだ飄々としているが、クルスも覚悟を決めてこの場に残る事を選んだのだ。他にこの状況を切り抜ける事ができる選択肢を提示できない俺たちは、その選択を尊重し受け入れる他に無い。無力な自分自身を恨みながら、な……」


 どうやらカレンも僕を捨て駒にするのは心苦しいみたいで、端正な顔を悔しさに歪めながら絞り出すように口にしてた。あー、最高。僕の偽りの姿に本物の信頼を寄せてくれてるとかマジ滑稽。

 えっ、人の信頼を弄んで心が痛まないのかって? この程度で痛む心を持ってたら虐殺を前提とした世界平和なんて実行できるわけないんだよなぁ。


「……クルス、礼を言わせてくれ。ありがとう。お前のおかげで、俺は本当の自分を曝け出す事が出来た。お前と出会わなかったなら、俺は一生鎧の中に閉じこもったままの臆病者だっただろう」


 しっかりと信頼を勝ち取ってる僕は、カレンからまるで最後の別れにも似た言葉をかけられた。まあ普通に考えればどう考えても死ぬ役割だし当然か。


「さあ、それはどうかな? もしかしたら何らかの事情で自分から殻を破ってたかもしれないよ?」

「ははっ、そんな事はありえない。俺を買い被り過ぎだ」


 珍しくも感情を露わに笑いながら、カレンは僕の言葉を否定する。

 でも本当にそうかなぁ? さっきラッセルくんを庇ってた辺り、いつかはラッセルのために鎧を脱いでても不思議じゃなさそう。そこに自分で思い至らないとは、もしや自分の気持ちに気付いてないのか? 鈍感サキュバスめ。


「……それはさておき、僕としても君の事は結構好きだったよ? ちょっと武器に嫌な思い出があって苦手意識があったけどね」

「嬉しい事を言ってくれるな。では、お互いにもし生きて帰る事ができたなら酒でも飲もう」

「そうだね。そうしようか」


 カレンと固い握手を交わし、酒を飲む約束をしてから手を離す。自分でこの状況を演出しておいてなんだけど、死亡フラグ立てるのやめてもらって良いですか? そういうのされると全てマッチポンプでもちょっと不安になるんですよ……。

 などとちょっぴり不安を感じてたところ、カレンと入れ替わりにラッセルが僕の前へと歩み出てきた。未だに僕が捨て駒になるっていう選択に納得できないのか、かなり不機嫌な仏頂面してるね。


「正直なところ、あなたの人間性はあまり好きになれません。ですが今は、恋人を四人も侍らせているあなたを少しは尊敬しています。男女関係というものは果てしなく難解なものだというのに、それを乗り越え四人もの女性と関係を結んでいるのですからね」

「おう、もっと褒めろ。男として完成されてる僕を崇めろ」

「激しくおこがましいですね……ともかく、あなたにはこれから色々アドバイスを貰いたいので、ここで死なれては困ります。必ず邪神を倒してきますので、あなたも絶対に生き残ってください。もしも死んだら、その程度の男として嘲笑ってあげますからね?」


 おっと、珍しい。基本的には真面目で誠実なラッセルくんが発破をかけてきたぞ。しかも皮肉っぽい笑みで。

 やっぱりコイツも意外と僕への信頼が高いみたいだ。それに男女関係のアドバイザーとして随分頼りにされてる感じ。そりゃあ一人の女でドギマギしてるラッセルから見れば、四人もの女をモノにしてる僕は超越者に見えてるだろうしなぁ。それも当然か。


「なかなか言いおる。そっちこそ童貞のまま死なないように気を付けなよ? サキュバスってマジでテクが凄いからね?」

「なっ!? ちゃ、茶化さないでください! 全く!」


 こっそりと有益な情報を耳打ち(犬耳の方に)すると、ラッセルは顔を真っ赤にして僕を突き飛ばすようにして離れて行った。

 でも僕のアドバイスはしっかり心に響いちゃったらしく、チラチラとカレンに視線を向けてるよ。これはおねショタ展開も遠くないな! その実現のためにもやっぱりコイツらは生かして帰さないと!


「……クルス、くん……あたしも一緒に、残っちゃ駄目かな……?」


 そうして最後に進み出てきたのは、僕へ想いを寄せる恋する乙女セレス。悲しみに満ちた表情で実質的な心中を提案してくるんだから、その想いがかなりヘビーなものなのは容易に理解できるよね? でも真の仲間たちの捻じ曲がった愛情に比べれば、凄く綺麗で透き通った愛情に思えるのは何なんだろうね?


「悪いけど、この場に残っても魔法が使えないんじゃ単なる足手纏いだ。邪魔にしかならない。だからセレスはカレンたちと一緒に邪神を倒しに行きなよ。コイツらは僕が引き受けるから」

「……やだっ! あたし、クルスくんと一緒に残るっ!」


 冷たくあしらったのに、セレスは泣きながら僕に抱き着いて死地に残る事を断言してくる。

 あー、ここのところ毎晩性欲は自分で処理するしか無いから、女の子の身体の暖かみがヤバい意味で染みるぅ! ていうかセレスの髪とかからヤバいくらいに甘い匂いが漂ってくるぅ……! 

 考えてみれば僕らはかなり長い間、浄化の魔法と濡れタオルで騙しだまし身体を綺麗にしてるんだ。僕以外の浄化の魔法が完璧な物とは思えないし、そりゃあこんだけ濃密なメスの匂いが溜まっても仕方ないよなぁ!?


「やれやれ、しょうがない女だなぁ?」

「――んっ!?」


 あまりにもヤベー匂いに当てられ興奮した僕は、胸に顔を埋めてくるセレスの頭を無理やりに上げさせ、その桜色の唇を奪った。腕の中でびくんとセレスの身体が震え、驚愕に満ちた喘ぎ声が上がる。

 ヤッベー……メスの匂いに興奮して思わずキスしちゃったよ。やっぱり性欲は普段から完全に解消してないと駄目なんだなって。女の子にいきなりこんな事をしちゃったら即通報からの豚箱案件だよ。


「っ……ふっ……ぁ……!」


 とはいえ、相手は僕に恋してる乙女。唇重ねちゃったからもう貪っても同じだと割り切ってガッツリ唇を味わっても、抵抗は一切してこなかった。むしろ気持ち良さそうな甘い喘ぎを唇の隙間から零して、僕の服をぎゅっと掴んできたよ。

 冒険者ギルドで腕を掴もうとしてきたモブは腕を切り飛ばしたのに、僕に対してはこの反応。支配欲と優越感がビンビンに刺激されるね?


「ぷはぁ……! く、クルス……くん……?」


 たっぷり十数秒ほどの長い口付けを終えると、セレスはとろんとした蕩けた表情で身体を崩れさせかけた。やっぱり恋する乙女とはいえ生娘には情熱的なキスはまだ早かったか。舌は入れてないんだけどなぁ……。


「僕の女になりたいなら、僕を信じて行ってきな。少なくとも僕の女たちが同じ状況になったら、絶対的な信頼を以て僕をこの場に置いていくよ。それができないなら、例え邪神を倒せても恋人になれる資格は無いね」

「それって、つまり……あたしの、事……!」


 僕の発言の意味を蕩けた頭で徐々に理解していったみたいで、セレスは顔を赤く染め上げつつ歓喜に身を震わせてる。

 でもそんな反応も仕方ないよなぁ。だってここで僕を信じて行けば僕の女として認めてやる、って遠回しに言ったみたいなもんだし。というかキスしちゃったし流れでこんな事言ったけど、すっげぇ安請け合いしちゃった気がする……どうしよう、これ後で本当に僕の女にしないといけないんだろうか? 今からでも実は冗談だって言っちゃ駄目かな? どう思う?


「……うん、分かった。信じてる。君が絶対生き残るって事、信じてるよ」

「よく言った。僕も君が生きて帰ってくる事、信じてるよ?」


 あー、これ駄目だ。手遅れだ。セレスさん、覚悟が決まった目をしておられる。これは例え四肢がもげようと、喉元に食らいついてでも邪神を倒すって気概が感じられる修羅の目付きだ……。

 僕は信頼の笑みを浮かべつつ、修羅道に落ちた恋する乙女とかいう化物を生み出した事に対して内心冷や汗をかいた。


「……ラッセル、俺達もキスをするか?」

「えっ!? な、何を言っているんですかカレンさん! そんなこと、その……気が早いです!」


 そんな僕らの近くで、何か真っ当なラブコメをしてるサキュバスと犬ショタ。何も考えず好きなようにできる奴らは良いですねぇ? ていうか気が早いだけなんかい……。





 というわけで、セレスたちは殺されない事になりました。まああくまでもこの旅の間だけで、後々殺されないとは限らないが……。

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