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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第12章:呪われた旅路

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脱ぎ捨てる鎧




 恋する乙女が秘密を暴露した日の夜。お月様の優しい光に包まれながら、僕らは一つの焚火を囲んで野営中だ。

 つい少し前までは広いキャンプ地と幾つものテントがあったのに、今はちょっと離れた所にテントが二つあるだけ。しかもアレは寝る時に使うわけでも無い。身体を濡れたタオルで拭いたりするのに使うだけのプライベート空間。

 ちなみに今はちょうどセレスとラッセルがそれぞれ利用してて、僕とカレイドは焚火を囲んで何故かじっとしてる。何でか重苦しい沈黙が長れててね……。


『……セレスは、強いな』

「おん?」


 居心地の悪さにそわそわしてると、唐突にカレイドがぽつりと呟く。

 今日の昼間はセレスに先行秘密暴露されて結局タイミングを逃してたから、たぶん物理的な強さの話じゃなくてメンタル面の話なんだろうなぁ。実際女でサキュバスだって事実を隠してるカレイドに比べ、悪魔の中で謂れの無い差別を受けてるニカケの悪魔だって事を隠してるセレスの方が秘密の重さも苦しみもデカいし。


『ずっとひた隠しにしていた、悪魔たちの中では差別対象となっている自らの姿を晒すとは、どれほどの勇気が必要だっただろうか。性別と種族だけを隠している俺がまるで道化のようではないか』

「まるでっていうか、実際そう思った。失礼だけどさ」

『……そういえばお前は最初から隠していなかったな。いや、フードは被っていたが翼や尻尾が無い事を隠してはいなかった。何故だ? 何故お前は隠さなかった?』

「何故って言われてもねぇ……」


 思い出したように尋ねてくるカレイドに対し、何と返したものか考える。

 実際僕はニカケである事は何ら隠してない。正直どっかのメスガキ(分からせ完了)の事を抜きにしても、それで絡まれた事は一度や二度じゃなかったりする。もちろん毎回きっちりとお礼(・・)はしてるけどさ。

 とはいえ僕はそもそも悪魔じゃないから、出来損ないの悪魔とか罵られても全く心は痛まない。ついでに言えば無限の魔力を持ってる最強の存在たるこの僕と、角や尻尾の有り無しで優越感に浸ってるような雑魚共とは存在の次元が違いすぎるから、別にニカケである事を気にしたりはしないんだよね。むしろ見た目はニカケの悪魔である僕に手も足も出ず、ボコボコにされて泣きながら許しを乞う自称完璧な悪魔を見下ろすのが楽しいまである。だから特に隠す必要も無いってわけ。

 ただ……こんな事正直に口にしたら、仲間として築いてきた信頼がガタ落ちだよね? うん、ここはもっとマイルドに、かつそれっぽく答えよう。


「――ニカケがどうとか全部揃ってると偉いとか、所詮はただの都市伝説レベルじゃん。証拠も無ければ科学的根拠も無いでしょ? そんな吹けば飛ぶようなうっすいレッテル貼られたって、僕は何にも気にならないよ。というかむしろ反証をしたくて堪らなくなるね」


 というわけで、ニカケが弱いっていう根拠薄弱な決めつけを力で覆すのが楽しいって答えました。えっ、全然マイルドになってない? うるせぇ、ちゃんと言葉はマイルドにしただろ!


『……そうか。お前もまた、他者からの評価などものともしない強い心を持っているのだな。やれやれ、俺以外は全員心が強いじゃないか。全く、自分が情けない……』


 ちゃんとマイルドにした分、カレイドの心には響くものがあったみたいだ。ヘルム越しに顔に手を当て、大きなため息を零してたよ。まあ今のメンツだと一番心ヨワヨワなのは否定できない。そんな全身鎧に身を包んでて見た目は硬そうなのにねぇ。おっぱいはとても柔らかそうだったが。


「このチャンスを逃したら、一生情けないままだよ? 君はそれでも良いのかな?」

『……良いわけが無いだろう。どうやら、俺も覚悟を決めないといけないようだな』


 お、非常に前向きな言葉が出てきた。どうやら昼に出来なかった秘密の暴露を今度こそやるみたいだな。良いねぇ、ついにおねショタ展開実現か? 何ならテントでしっぽりしてきても良いよ? 


「――おまたせー! テント空いたよー!」

「次は僕らが見張りをしますので、お二人ともどうぞ身体を清めてきてください。尤も今の状況では濡れたタオルで身体を拭くのが精々ですが」


 なんてちょっとニヤニヤしてたら、幾分スッキリした顔のセレスとラッセルが帰ってきた。濡れタオルで身体を拭いてきただけとはいえ、それでも清々しい気持ちになれたんだろうね。片や女の子、片や真面目な性格のショタだからか、浄化の魔法で汚れや老廃物を落とすだけじゃ物足りないっぽいし。まあ僕もそれじゃあ物足りないんだが。


『……ああ、そうだな』


 しばしの間を置き、カレイドがゆっくりと立ち上がる。

 ついにこの場に、今生き残ってる仲間たちが全員揃った。秘密を暴露するなら今だぞ。オラ、頑張れ! このままじゃ一生無骨な鎧に引きこもった腰抜けチキンだぞ!


『その前に、ラッセル――いや、お前たちに打ち明けねばならないことがある』

「はい? 何でしょうか、カレイドさん?」


 僕が心の中で発破をかけたのが効いたのか、ついにカレイドはそれを口にした。どうやら自らの秘密を今ここで打ち明けるみたいだ。

 よしよし、良いぞ! 勇気出したじゃん! あとはどんな風に明かすかだね。あんまり衝撃が強かったり変なやり方で性別見た目諸々を明かすと、ラッセル君の脳みそが壊れちゃうから注意しような?


『……アーマー・パージ』


 って、おい! コイツやりやがった! 言葉で先に伝えて衝撃を和らげるとかそういう事一切せず、魔法で鎧をパーツごとに分解して一気に脱ぎ去るっていうあまりにも潔い方法を取りやがった! そんなん刺激が強すぎるだろ!

 あーあー! 地面に落ちてく鎧の部品の下から、褐色巨乳高身長銀髪サキュバスお姉さんが現れた! しかも恰好が上はヘソ出しタンクトップ、下は太腿剥き出しショートパンツとかいう癖の塊だ! こんなんデカいケーキの中からストリッパー現れるよりも刺激が強いわ。

 

「……え?」

「うわわっ!? えっ、何!? どういう事!? 突然の美人さん!?」


 厳つい鎧の下から突如現れた褐色巨乳美人に、ラッセルは小さく疑問の声を零し、セレスは目を剥いて驚愕に腰を抜かす。

 ちなみにこの場には聖人族の奴隷も四人くらいいるけど、コイツらはほぼ無反応。そもそも僕らに興味を持ってないし、一人残らず死んだ目をしてるからね。洗脳済みの高級奴隷は全部雑魚冒険者たちに渡しちゃったし。


「……これが、俺だ。男の振りをしていただけで、俺は女だ。それも種族はサキュバス。本来の名前は、カレン」

「あ、名前も偽ってたのね……」


 ここで更に新事実。カレイドって名前は偽名だった模様。姿だけでなく名前も性別も偽るとか徹底してるなぁ。

 まあ僕は偽名だって事も、本名がカレンだって事も知ってたけどね。解析(アナライズ)は大変便利な魔法です。


「この姿では周囲から馬鹿にされ侮られ、正当な評価を受けられなくなる。そう考えて鎧に身を包み隠していたが……それは自分の弱さから目を背けていたにすぎなかったらしい。クルス、お前の言う通りだった」

「あっ、じゃあクルスくんがカレイド――じゃなくて、カレン? とお話するって言ってた事って、もしかして……?」

「いや、さすがに女の子だとは知らなかったよ。何か人には言いにくい秘密があるんだろうなー、ってぼんやりと思ってただけだからね。ただその話をしに行ったら、テント内でちょうど身体を濡れタオルで拭いてる姿を見ちゃったっていうか……」


 いやー、アレは凄かった。元々初めて会った時に解析(アナライズ)してたから性別も種族も分かってたんだけど、まさかこんな見事な女性だとは思わなかったもん。めっちゃ良いもの見せて貰いましたわ。


「えっ!? 何それ、覗き!? 駄目だよクルスくん、そんな事しちゃ!」

「いや、女の子だって知らなかったから不可抗力だよ。不可抗力」


 何故か僕が覗きをしたって所に激しく食いついてくるセレス。そんな事言ってもカレイド――じゃなくてカレン当人は性別を男と偽ってたんだし、そういう状況になるのも仕方ないじゃん?


「そ、そんなに覗きたかったから……あたしなら、良いよ……?」

「不可抗力って言ったよね? 聞いてる? もしもーし?」


 どうやら別に責めてるわけではないみたいで、頬をぽっと染めながらもじもじとそんな事をのたまう。目の前で手を振りながら声をかけてみたけど、もじもじしたまま反応は一切無し。これはちょっと自分の世界にトリップしちゃってますね……。


「……俺が特大の秘密を曝け出したというのに、無視して甘酸っぱいやりとりをするか。やはりセレスは大物だな」

「僕もちょっとそう思う」


 セレスにスルーされた形のカレンは少し呆れたような顔をしてる。ただちょっと安堵も見える辺り、受け入れて貰えるか少しは不安に思ってたんだろうね。結果がこれじゃあ呆れるのもやむなしだ。


「……ラッセル。お前は俺の男らしさに憧れを抱いていたようだが、俺は見ての通りに女だ。それも種族はサキュバス。怯えて鎧に閉じこもっていただけの弱い女で、お前が憧れるような存在では無い。お前の憧れを壊して、済まなかったな」


 トリップしてるヤベー女は無視して、カレンはラッセルにそう謝罪し頭を下げた。その動きだけでタンクトップ下のデカい膨らみがゆさゆさ揺れてるんだからすっげぇ目の毒だ。うちのメイド長とは別の意味で視覚の暴力だな?


「………………」

「……ラッセル? どうした?」


 とか目の保養を楽しんでたら、ラッセル君の反応が無い。カレンが更に数歩近付いて、その整った美しい表情で顔を覗き込んでも全く動かない。何だろ、全く堪えてないってわけじゃないよね?


「んー? どれどれ……」


 気になった僕が間に割り込み、ラッセル君の顔の前で手を振ったり指パッチンしてみる。しかし反応は何も無い。呼吸すら忘れたみたいに小さく口を開けたまま、ただただ虚空を見つめて凍り付いてるよ。そしてその視線の先にあるのは、ついさっきまでカレンが立っていた場所。具体的にはカレンが鎧を脱ぎ捨てた場所だ。


「あー、これはちょっと衝撃の事態に脳が壊れちゃってますわ……」


 どうやらラッセルくんはあまりの事態に認識が追い付かず、頭がバグってフリーズしちゃってる模様。そりゃあ憧れの男の人だと思ってた全身鎧の中から、美人の褐色サキュバスが出てきたらバグりもするわ。純情なラッセルくんには刺激が強すぎたようだ。


「そうか……やはりショックだったのだろうな……」

「いや、ショックっていうかなんて言うか、刺激が強すぎたっていうか……」


 やっぱりメンタルは弱い方なのか、目に見えて沈んだ表情を浮かべるカレン。鎧兜が無くなったから表情が普通に見えて分かりやすいなぁ。めっちゃショック受けてるのは君自身なんよ。


「だ、駄目だよ、クルスくん……! 見るだけって言ったのにぃ……! えへへ……!」


 なお、バグってるラッセルくんもなかなか重傷だけど、変な方向に妄想がトリップし始めたらしいセレスもかなり重症でした。妄想の中で僕に何をやらせていらっしゃるんですかねぇ……?





 わりとコイツらもキャラが濃くなってきた今日この頃。ちなみにここを書いていた時点だとまだ殺すか生き残らせるか迷ってました。

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