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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第12章:呪われた旅路
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秘密の暴露



 エクス・マキナの襲撃を無事(ほぼ全滅)乗り越え、再び馬車での旅を再開した翌日。

 昨日の内にラッセルが修復を頑張ってくれたみたいで、馬車は一応まともに走れるようになった。とはいえあくまでも簡易的な補修で、全速力を出すと確実にすぐぶっ壊れるような感じだけどね。これからちょくちょく補修を加えて十全にしてくらしい。

 雑魚冒険者は全滅したとはいえ聖人族奴隷はまだ四人残ってるから、二人が荷台の上で魔物その他を警戒。残りの二人は荷台の中で休ませるっていうローテーションでこき使ってるよ。それでも夜に乱暴されなくなったせいか、わりと従順だし特に嫌がりはしないね。僕らが完全に一蓮托生って事はしっかり理解してるっぽい。


「……今のところ、追手は来ないみたい。安心したいところだけど、油断はできないかなぁ」

『そうだな。あのエクス・マキナの大群は湧いて出るように突然現れた。同じようにしてもう一度襲撃をかけてくる可能性はゼロではない』

「邪神は酷く力を消耗し弱体化している状態らしいですが、それでも大陸の形を変えるほどの力を有しています。あと一度や二度、同じ事ができても不思議ではありませんね」


 何故か流れで僕が御者を務めて馬を走らせてると、荷台の中から仲間たちの真面目なお話が聞こえてくる。

 エクス・マキナに包囲され、戻るか進むかの選択肢を突き付けられて進む事を選んだ三人。話を聞く限り命知らずってわけでもなく、やっぱり危険性を良く理解した上で進む事を選んだみたいだ。まあ実際邪神を倒さないと生きて帰る事は無理だし、どっちかっていうと一縷の望みを賭けてこっちを選んだ感じかな?


「ぶっちゃけた話なんだけどさ、無事に生きて帰れると思ってる人ってどれくらいいる?」

「………………」

「………………」

『………………』

「……やっぱりいないか。皆わりと現実的だなぁ」


 さりげなく御者台から背後に向けてそう問いを投げかけると、途端に三人は押し黙る。答えは無いけどその沈黙が答えみたいなもんだ。三人とも、自分たちが無事に生きて帰れると断言できるほど楽観視はしてないね。


「……当然ですよ。もう一度同じ数のエクス・マキナに奇襲をかけられれば、今度こそ僕たちも無事では済みません。それが分からない者はここにはいないでしょう」

『道程を半分過ぎた場所であれだけの数に奇襲を受けた時点で、俺達の運命はほとんど決まっているようなものだ。逃げ帰れば確実に途中で仕留められ、進めばまた襲撃を受ける。さすがに次も無傷で済むとは思えん』

「でもあのエクス・マキナは邪神が生み出してるみたいだし、もしも邪神を倒す事ができればあたしたちは無事に生きて帰る事ができるかもしれない。実際に倒せるかは分からないし、そこまで辿り着けるかも不安だけど、あたしたちにはもうそれしか道が無いんだよ」


 一旦の沈黙を挟んで、各々の考えを述べてくる三人。

 さすがは高ランクの冒険者というべきか。やっぱり危機意識もガバガバな雑魚冒険者たちとは違うね? もうほとんど覚悟決まってる所もポイント高い。これは邪神の圧倒的な力で捻じ伏せたとしても、みっともない無様な命乞いとかは無さそうだ。ちょっと残念かも。

 しかしこれは好機じゃないか? 死ぬかもしれないなら、誰だってなるべく悔いは残したくないはずだ。つまりこの状況を利用すれば、カレイドに自分の本当の姿を曝け出す事を促せるかもしれない。そしたらラッセルくんも悔いは残したくないだろうし、もしかしたら二人がくっついておねショタ展開が実現するかもしれない。なるほど、これは是非とも恋のキューピッドになってやらないといけないな?


「……これはただの独り言だけど、どうせ死ぬかもしれないなら秘密を打ち明けておくのも良いんじゃないかなぁ?」

『……っ』


 わざとらしくそう声を出すと、背後で鎧がガションと音を出す。どうやらこの独り言が誰に向けてのものかちゃんと理解してくれた様子。そしてそんな反応をするという事は、少なからず打ち明けたい気持ちがある事に他ならない。


「別に強制はしないし単なる独り言だけど、心残りがあると万一の時に心底悔しいだろうしなぁ? 言っちゃった方が良いんじゃないかなぁ? どうせもうこの旅には奴隷と僕らしかいないんだしさぁ?」

「何の話をしているんですか、あなたは……?」


 いまいち分かってない感じのラッセルの声が背に届くけど、それは完全にスルー。そりゃ秘密も何も無い犬ショタにはさっぱり理解できないだろうよ。


「もしも戦いの最中にそれがバレるような事があったら、他の人が戦いに集中できなくなって危険かもしれないよねぇ? そのせいで万が一致命傷を負ったりしたら……ううっ、考えるだけで恐ろしいなぁ?」


 トドメとして、万が一の状況下でラッセルに危険が及ぶ可能性を指摘する。

 幾らラッセルが真面目で禁欲的な人間だろうと、信頼し憧れてる全身鎧の人の中身が女性だって事が分かったら、戦闘中だろうと少なくない隙を晒す事になるのは確実だ。そこを魔物やエクス・マキナに狙われたら致命的。

 だから今の内にそうなる可能性を排除しておくのが賢い選択だ。見た目と違ってわりと腰抜けな所があるカレイドも、ここまでお膳立てすれば秘密を明かす気になってくれるでしょ。自分の秘密が原因で、自分を慕ってくれてるラッセルが死ぬとか耐えられないだろうしね。


『……俺は――』


 予想通り、だいぶ長い沈黙を経てカレイドが口を開いた。

 さあ、頑張れ! その鎧の下のわがままボディを見せつけて、ラッセル君の性癖をぶっ壊してやれ!


「――えぇい! こうなったらもう女は度胸だ! とりゃーっ!」

「なっ……!?」

『っ!?』

「あっ」


 なんて思ってたら、予想外の事態が発生した。背後を振り返ってみれば、そこには荷台の中で立ち上がって自らの付け角をスポーンと外した、気合と覚悟が決まった表情をしてるセレスがいた。

 そっちかぁ! そう言えばセレスも秘密がありましたね! どうやら僕がカレイドに『さっさと秘密を打ち明けろ』って遠回しに言ってたのを、自分への発破だと解釈しちゃったっぽい。それなのにしっかり秘密を曝け出すんだから、この子のメンタルなかなか強いな?


「そう! あたし、実はニカケの悪魔だったんだ! 付け角と付け尻尾でずっと自分を誤魔化してたんだよ! これがあたしの秘密だーっ!」


 若干自棄になったように叫ぶ、潔いセレスさん。衝撃の事実に目を丸くしてるラッセルくん。そして予想外の人物に先を越され、固まってると思しきカレイド。勘違いじゃなければ今正に秘密を明かそうとしてたのにねぇ。タイミングがちょっと悪かったね……。


「そ、そうだったんですか……」

「馬鹿にされるのが怖くて、差別されるのが怖くて、今までずっと誤魔化してたけど……あたし、もうやめる事にするよ。自分を誤魔化さなくても受け入れてくれる人がいるって分かったし、何よりそんな人に相応しい自分になりたいもん。こんな物で自分を誤魔化せば誤魔化すほど、憧れの人からはどんどん遠ざかっちゃいそうだからね。そんな臆病な真似、カッコ悪いからもうしないよ」


 などとスッキリした表情で語るセレスさん。若干カレイドに突き刺さる痛烈な皮肉に聞こえなくも無いが、セレス本人はカレイドの秘密なんて知らないから偶然だろうね。そもそもただ女性である事を隠してるカレイドより、差別対象のニカケの悪魔である事を隠してたセレスの方が秘密は重いし。


「だからこんな物、もういらない! ていっ!」


 一度晒したからにはもうどうでもよくなったっぽくて、セレスは荷台から付け尻尾と付け角を外に放り捨てた。偽装グッズは綺麗な放物線を描いて地面に落ち、そのまま馬車が進むにつれて見えなくなってく。

 思い切りが良いなぁ? うちのウサギほどじゃないけど、メンタルが実に強固だ。いや、そもそもメンタルが強かったら隠してなんていないか? だとすると純粋に恋する乙女のパワーが凄いってだけか。恋する乙女怖いなぁ……。


「……ゴミのポイ捨ては駄目だよ、セレス」

「どうせ死ぬかもしれないんだし、そんな細かい事気にしない! それよりクルスくん、あたし……頑張ったよ!」


 さり気なく入れたツッコミを尤もな言い分で流したかと思えば、御者台の僕の背にぎゅっと抱き着いてくるセレス。あっ、背中に予想外に豊かな膨らみが押し当てられてる! 変な気分になっちゃうからやめて!


「……そうだね。自分の秘密を曝け出すなんて凄い勇気だ。よしよし、頑張った頑張った」

「クルスくぅぅぅぅん!」

「おっふ!」


 離れて欲しいから僕の肩に乗る形になってるセレスの頭を撫でてあげると、より強く抱き着いて頬ずりまでしてくるっていう……あーっ! マシュマロみたいな柔らかさとメープルシロップ染みた甘い匂いが僕の理性を蝕むぅ! あんまり性欲の発散もできない旅の最中なんだからそういう事マジでやめて!?


「驚きですね……まさかセレスさんがそのような秘密を抱えていたとは……」

「ちなみにラッセルはニカケの悪魔に何か忌避感とかある? いや、聞かなくても何となく分かるけどさ。あとセレスさん離れてくださいお願いします」

「やーだー! 頑張ったんだからもっとくっついてるのー!」

「ありませんよ。そもそも僕は獣人なので、角や尻尾の有り無しが偉いと言われてもピンときません。強いて言えばたかが外見上の違いを槍玉に上げ、他者を見下す愚かな者たちに対しての忌避感があります」

「でしょうねぇ……」


 一応尋ねてみたけど、やっぱりラッセルはニカケの悪魔に対しての差別意識はこれっぽっちも無さそうだ。まあ元々悪魔間での風評被害みたいな差別だし、獣人のラッセルには何の関係も無い話か。

 考えてみれば僕との初対面でも、これでもかって痛烈な皮肉で僕をこき下ろしはしたけど、ニカケだのなんだのには触れてこなかったしね。そもそもそういう意味の分からない差別を一番嫌いそうな性格してるし。


『………………』


 なお、秘密を明かす勇気と場所を奪われた形になったせいか、カレイドは機能停止したみたいにずっと固まってたよ。挙句にセレスの秘密の方が自分のものより重いんだから、反応に困ってエラー起こすのも仕方ないね。あれは再起動するまでしばらく放っておこう……ていうかセレス、いい加減離れてくれ……。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] クルスがここで実はニカケの悪魔じゃなくて人間 って暴露していたならどういう反応になるのかなぁ とニヤニヤしてしまう。 案外受け入れたなら真の仲間とは言えずとも 協力者として利用するかな…
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