フェリア
「いや、本当に驚いたよ。まさか聖人族の奴隷にされてるのに敵意は全然なくて、かと思ったら同族を殺したいほど憎んでるなんてさ。これはもう面白くて他の奴隷が目に入らなかったね」
奴隷市場を見回っている最中はどんな奴隷を買うのか悩んでたけど、コイツを見つけてすぐに『これだ!』って思ったね。場所柄や扱いの問題で他の奴隷は聖人族に対して殺意を持ってたのに、コイツだけ欠片も敵意が無くて同族に殺意を抱いてるんだから。
おまけに貴重でレアなロリサキュバス。これで買わないわけがない。特に病気でもないのに死にかけだったから奴隷商人も持て余してたし、結果的に双方満足の行く取引だったね!
「……あはっ、あははははははははははっ!」
僕の言葉に、リアは突如として狂ったように笑い出す。
おかしいな、こんな狂った笑い方普通見た事なんてないはずなのに、この前どっかで見た事あるぞ。
「そっかそっか、本当にリアのこと分かるんだ? 凄いねー、ご主人様?」
「ありがとう。理由もたぶん調べたら分かるんだろうけど、どうせなら直接聞いてみたかったんだ。そういうわけで、話してくれないかな?」
「リアに拒否権なんて無いんでしょ? 話さなかったら命令するだけだろうし」
「まあね。物分かりが良い子は好きだよ?」
すでにリアは僕の奴隷で契約に縛られてるから、ぶっちゃけ意思の確認なんて必要ない。命令すれば何でもゲロってくれるし、どんなに嫌なことでもしてくれる。
ただ僕としてはそれじゃあ何だか面白みに欠けるし味気ないから、奴隷でも真の仲間になれる素質を持ってる相手にはできるだけ優しく接するつもりだよ。そういうのはここぞって場面で使った方が良いだろうしね。
「はー、仕方ないなぁ。いいよ、話してあげる」
観念したのか、特に隠す理由も無いのか、どうも素直に語ってくれるみたい。長話は嫌いだけど気になる内容だから頑張って聞こう。
「リアはね、サキュバスの集落で生まれたの。始めは何もおかしなことなんてなくて、毎日元気いっぱいに幸せに生きてたの。友達もたくさんいて、人気者だったんだよ?」
サキュバスの集落とかめっちゃエロの香りがする。そりゃまあこっちの国じゃ性奴隷として人気はピカイチだろうなぁ。僕も欲しい。
「十歳くらいになった頃かな? 他の同年代の子たちはすくすく身体が育ってるのに、リアだけ全然成長しなくなったんだ。始めの頃はちょっと成長が遅いだけって大人たちも言ってたし、他の子もからかってくるくらいだったよ」
まな板に使えそうなぺったんこな胸に手を置いて、どこか不満そうに語るリア。
ということは成長しなくなったのは十歳頃か。十歳……ふむ。いけるな!
「でもね、そこから三年もすれば優しかった人たちなんて誰もいなくなったの。大人たちはリアをあしざまに扱って、仲の良かった友達の皆も、よってたかって苛めばっかりしてくる毎日。顔を合わす人誰もかれもがリアのことを出来損ない呼ばわりして、ママでさえ、お前なんて生まなければ良かったって言って……」
おっと、発言に憎悪がこもってきた。
サキュバスの女の子たちの苛めとか凄いエロの香りしかしないけど、たぶんその手の苛めは無かったんだろうなぁ。ハニエルからの話を聞く限りだと、サキュバスにとってエロ知識はある意味生命線みたいなものだし、排斥されてサキュバスとしての教育をしてもらえてないリアに、実践を交えて教えてくれるとも思えない。実際経験人数とか自慰の回数もゼロだったしね。
「リアは……リアは、出来損ないなんかじゃない! あんなに惨めに扱われる筋合いも無い! どいつもこいつも、リアの事を出来損ない出来損ない出来損ないって! リアは自分たちと違うから劣ってるって決めつけて、どれだけ貶めても構わないっていう風に笑いながら、平気で酷いことをして!」
ひえっ!? 目をかっぴらいて叫び出した!
これは相当陰湿で下種な苛めを長期間に渡って受け続けてたね。殴る蹴るの暴行だけじゃここまで血走った狂気的な目にはならないでしょ。虫を食べさせられるとか水攻めとか、拷問染みた真似でも受けてたんじゃないだろうか。
そんな責め苦を長期間受けて、しかも周りは全ていじめっ子で母親すら育児放棄。こんなん狂いそうな殺意を覚えても仕方ないわ。
「だから、リアは絶対あいつらに復讐するの! リアが味わった悲しみを! 苦しみを! 絶望を! 一人残らず、魂の芯にまで刻み付けてやるの! ふふふ、あはははははははははははっ!!」
そうしてまたしても狂ったように笑い出す。一度目はドン引きした僕だけど、今度は少しもそんな感情は覚えなかった。だってそのちっちゃな身体に溢れそうなほどの憎悪と殺意を宿す姿が、凄く眩しく映ったから。
何より眩しく映ったのはその意志力。リアのボロ雑巾からシルクのハンカチへの変わりようを見る限り、サキュバスにとっての快楽は必須な栄養素というより生命維持に欠かせないものだと思う。
でもリアはそれが欠如した状態で何年も生きてきた。復讐を果たすために、恨みを晴らすために、意思の力で必死に生にしがみついていたんだろうなぁ……ヤバい、惚れそう……。
「……なるほどね。魔獣族を殺したいって言っても、お前が殺したいのはサキュバスだけってことか」
「そうだよ? でも復讐できるなら魔獣族くらい幾らでも殺せるよ? リアはそのために生きてるんだもん」
ニッコリと笑うリア。
今はとても純真無垢な笑顔に見えるけど、その裏に隠れてるのは悍ましいほどの憎悪と殺意。ああ、こういう激情を秘めた女の子っていいわぁ……。
「いや、素晴らしい。素晴らしいね、感動したよ。その決して折れない心。燃え上がるような憎悪の念。あまりにも眩しくて心惹かれるよ。だからどうかな? 僕と取引をしない?」
「……取引?」
「そう。僕が復讐に手を貸してあげるよ。その代わり、そっちも僕に手を貸して欲しいんだ。僕はちょっとこの世界の真の平和のために、聖人族と魔獣族の共通の敵になって、種族を問わず虐殺と破壊をもたらす邪悪の化身にならないといけないからね。できれば仲間が欲しいんだよ」
そして僕は自分の目的を余すところなく喋った。
何故ってリアとは真の仲間になりたいから。レーンとはまた違った方向に狂ってて、とっても僕好みの子だからね。できれば誠実なお付き合いをしたいよ。まあそれがダメなら有無を言わさず性奴隷になってもらうがな!
「えぇっ、何それー……あんた、勇者様じゃなかったの……?」
「勇者だよ? でもそれはあくまでも表の顔。本当はこの世界を創り上げた慈愛に溢れる女神様の下僕さ。女神様にこの世界を平和にして欲しいって頼まれたから頑張ってるんだ」
優しい顔をした勇者のとんでもない本性にドン引きしてるリア。
頑張ってるとは言ったけど、正直まだ下準備とか水面下での働きばっかりなんだよね。真の仲間も現状レーン一人しかいないし。でも頑張る気概はあるから嘘じゃないよ?
「女神っていうのはよく分かんないけど、リアはあんたの奴隷なんだから言う事聞かせればいいだけだよね? 何で対等な取引をしたいの?」
「そりゃお前が僕の真の仲間になれる素質を持ってるからだよ。僕は真の仲間とは誠実な肉体――もとい恋愛関係を築きたいんだ。凌辱とか強姦は幾らでもできるから、こっちはなかなか貴重で難しいしね」
現状そんな関係を築けそうなのはレーンくらい。ハニエルはどっちに転ぶか分かんないし、キラに至っては謎だ。だから二人目になれそうなリアを、一時の欲望に任せて襲うなんてあまりにも勿体ないじゃないか。
それに性知識がだいぶ欠如してるはずだし、僕の色に染めやすいからな!
「リアと、恋愛関係……? あんたはリアのこと、魅力的に思ってるの……?」
とか思ってたら、何やらリアが声を震わせて尋ねてくる。
おっと、さては僕の事をロリコンの外道勇者と思ってドン引きしてるな? だが構わん! 僕は自分の性癖に正直に生きる!
「当たり前だ! 見ろ、この雪のような白い肌! すべすべで滑らか、かつふにふにと感触も良い。ほっぺなんかマシュマロみたいじゃないか! 加えてこの綺麗な髪! 幾ら触ってても飽きない魅惑の手触り! 顔だってお前、すっごい整ってておっきな瞳もこれまた綺麗で――って、どうした!?」
僕が目の前のロリサキュバスの頬っぺたや髪を撫でつつ魅力を正直に並べ立ててると、当人がいきなりボロボロ涙を零し始めたからびっくりしたよ。
え、なに? そんなキモかった?
「だ、だって……! リア、いつも出来損ないって言われて……こんなに褒められたの、凄く久しぶりで……! うわあぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁん!!」
どうやら忌避感とか嫌悪の涙じゃなかったみたい。育った環境が環境だったから自分を否定するような言葉をかけられまくってて、甘い言葉に飢えてたんだろうね。号泣しながら僕に抱き着こうとしてきたよ。
「はいはい、鼻水つくから近づかないでね。ばっちぃ」
「うわああぁぁぁぁああぁぁん! ここは抱きしめてくれるところでしょおぉぉぉぉおぉぉおぉっ!?」
でも幾ら美少女だろうと美幼女だろうと、顔を鼻水と涙でぐしゃぐしゃにした状態で近づかれるのはごめんだね。
だから僕は自分の周りに結界を張ってリアが近づけないようにした。ガンガン結界を叩かれてるけど知らんよ、そんなお約束。顔を洗って出直して来たら考えてやるよ?