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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第12章:呪われた旅路
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包囲網突破

⋇残酷描写あり





 全ての準備が整い覚悟を決めた後、僕らはエクス・マキナの包囲網に向けて馬車で突撃を敢行した。前輪の摩擦をゼロにしたおかげで、車輪が回転せずとも馬車はソリのように滑って馬に追従してく。

 ただし、僕らは馬車の荷台には載ってない。荷台の中にいるのは戦力外の雑魚冒険者三人(一人は御者をやらせてる)だけで、僕らは荷台の上に上がってそれぞれの獲物を構え、自分の役割を果たすために気合を入れてる。

 ちなみに聖人族奴隷たちは荷台の横に張り付いて貰ってるよ。さすがにコイツらも上に乗せるほどのスペースは無いし、かといって雑魚冒険者たちと同じく荷台の中に突っ込んでサボらせるつもりも無いし。


「さあ、まずは開幕一発行くぞ!」


 荷台上の中央に陣取り、正面に広がるエクス・マキナの壁を見据える僕は、自らの上空に空間収納を開いた。空間に黒々とした大きな穴が浮かんでいて、傍から見ると非常に不気味な絵面になると思う。

 だけどその空間収納から赤黒い液体がドロォっと垂れて来たから、余計に酷い絵面になったよ。とにもかくにもこのままだと赤黒い液体が僕に降りかかってくるし、さっさとやる事やっちゃおう。


「――血液の弾丸(ブラッディ・バレット)!」


 そう叫びつつ魔法を行使した瞬間、空間収納から垂れてた赤黒い液体が指先くらいの小さな塊に千切れながら、もの凄い速さで前方へと打ち出された。もちろん垂れてた液体だけじゃなく、空間収納の奥からも同じような赤黒い小さな塊がこれでもかと打ち出される。

 まあ魔法の名前で察しはついてると思うけど、この液体はさっき死体から絞り出してかき混ぜた両種族の血液だ。魔法はこれを弾丸のように撃ち出すシンプルなもの。

 何でわざわざ死体から血液を絞り出してこんな魔法を使ってるのかと言うと、エクス・マキナの特性が問題だからだね。両種族で交互にぶん殴らないと攻撃が通用しないから、両種族の混合血液を使う事でその耐性を突破してるんだよ。ちなみにこれは僕じゃなくてラッセルの提案ね。こんな血生臭くて死体への尊厳の欠片も無い対抗策を思いつくなんて、初対面より好印象だぞ。


「――消しとべぇ!!」


 高らかに叫びながら、正面を塞ぐエクス・マキナの大群へと一斉掃射をかます。絞り出した血液の量が量だから、その弾幕はミニガン並みだ。見る見る内にエクス・マキナが壊れ崩れ落ち、地面が抉れ穴だらけになってく。

 とっても爽快な気分な反面、僕がチマチマと頑張って創り上げたエクス・マキナたちがものすごい勢いで吹っ飛んで行く光景に途轍もない悲しさを覚えたよ。あー、今ので何百体壊しちゃったんだろうか……。


「凄いなぁ。自分の血ならともかく、他人の血を使ってあんな広範囲に攻撃できるなんて……」

「羨ましい魔力量ですね。あの半分でも欲しいくらいです」


 明らかな羨望を滲ませたセレスとラッセルの言葉に少しだけ良い気分になるけど、自分で何百体もエクス・マキナを消し飛ばした悲しみは和らがない。包囲網の一部に風穴を開ける事には成功したとはいえ、僕の心にも風穴が出来てしまった……チクショウ、この分を取り返すのに一体どれだけの時間がかかるんだ……。


『お前たち、軽口はそこまでにしておけ。来るぞ』


 などと口にしたかと思えば、カレイドはデカい翼を羽ばたかせて宙に舞い上がる。見ればそろそろエクス・マキナたちの魔法の射程圏内に入る。僕が開けた包囲網の穴しか出口は無いけど、そこに向かえば確実に両サイドから集中砲火を浴びせられる。確かに軽口はここまでだね。ここからは皆で馬車を守る防衛戦だ。

 そして地を駆ける馬車は遂にエクス・マキナたちの射程圏内に入り込み、次の瞬間斜め前方から火球やら土塊やら風刃やらがポンポン飛んできた。おまけにそれは一瞬ごとに数をどんどんと増やしてく。

 さあ、馬車を守る役目の二人はどうやって対応する?


「ふっ、はっ、たあっ! ウィンド・スラッシュ!」


 まず動いたのは右を守るセレス。角や尻尾と違ってそこだけは自前の翼で宙へと飛び出し、長剣を振るって小さな風の刃を発生させ、殺到する攻撃魔法を全て迎撃してる。タイミングが合わない分は指先から風の刃を魔法として発生させる事で対処。多少命中精度は低くしてあげたとはいえ、怒涛の如き数で叩き込まれる魔法をものの見事に捌いてる。

 ミニのスカートを翻し、ポニーテールを揺らしながら宙を舞うセレスの姿は実に美しいねぇ……。


『ふっ……!』


 遅れて動くのは左を守るカレイド。巨大な戦斧っていう小回りの利かない獲物を手にしてるせいか、ギリギリまで動くことは無かった。代わりに限界まで魔法の数々を引き付け、稲妻を纏った戦斧を力強く一振り。

 発生した雷鳴と暴風が荒れ狂い、攻撃魔法の数々を押し流し弾き飛ばし跳ね返す。技のセレスに対して力のカレイドって感じだね。二人とも荷台の上からわざわざ宙に躍り出たのは、自由に動いて加減なく力を振るうためか。

 何にせよ僕の一撃で開いた風穴に入っても、二人のおかげで馬車は守られてる。稀に撃ち漏らしの攻撃魔法が出て来るけど、それは荷台横に張り付いてる聖人族奴隷たちが迎撃してくれたから問題無し。

 この調子なら問題なく通り抜ける事が出来る。そんな風に誰もが思った時だ。ラッセルが左右を見渡し、焦ったような表情を浮かべる。


「……マズいですね。獣型が襲ってきます」


 見れば運動性能の高い獣型が何体も包囲網の縁から現れ、左右から挟み撃ちにするように馬車に向かってくる。

 当然これは僕にとっては想定内の事態、っていうか僕がやってる事だ。何かわりと余裕そうだし、ちょっと脅威が足りないかなって。


「あんまり頼りにされるのは困るかな。これでもわりと神経使ってて忙しいんだ」

「くっ……!」


 とはいえ今の僕は車輪の摩擦を奪う魔法の維持に忙しい体だから、対処は丸投げ。さっきハチャメチャな範囲攻撃をした後ってのも相まって、ラッセルもこれには納得してるっぽい。僕に対しては何も言わず、少し焦った様子で懐から暗器を取り出してたよ。


「吹き飛ばせ! ストーム!」

『轟け! 雷鳴!』


 殺到する魔法攻撃だけでなく迫りくる獣型のエクス・マキナにも対処しないといけないから、左右を守る二人はより広範囲への攻撃にシフトし始める。セレスは凄まじい暴風を巻き起こして攻撃魔法ごと獣型を吹き飛ばし、カレイドは戦斧を中心に周囲へ稲妻を放ち全てを弾き飛ばす。右は暴風、左は稲妻。まるで猛烈な嵐の中にいるみたいな派手な光景だなぁ……。

 とはいえ攻撃魔法はともかく、迫りくる獣型は吹き飛ばしても弾き飛ばしてもほぼ無傷で戻ってくる。ラッセルと聖人族奴隷も応戦してるけど、こんな状況で交互に攻撃して倒すなんて事できるはずもない。


「――マズイ、荷台に入られました!」


 そんなわけで、数々の攻撃を潜り抜けてついに獣型の一体が馬車の荷台に飛び込んだ。これには全員が思わず迎撃の手を一瞬止める。でもその一瞬があれば十分だね(邪神視点)。


「うわあっ!? は、入って来やが――がふっ!?」

「く、来るな! あっちへ行け! ぎゃあっ!?」

「ぎゃあああぁあぁっ!!」


 その一瞬の間に、荷台の中で肉を裂く音と三つの悲鳴が上がる。

 どうやら獣型は狙い通りに雑魚冒険者三人を仕留めてくれたみたいだ。下手にこっちに残ってたからどうやって処理したもんか考えてたけど、ここで処理してくれたのはマジで助かる。状況的にも違和感なく殺せてるから、僕としては万々歳だ。嬉しさで自然と頬が緩みそうだからそこだけ気を付けないとね。


「――ウインド・ハンマー!」


 悲鳴が聞こえなくなった瞬間、セレスが魔法で荷台を攻撃した。空気で作られた破城槌みたいなものが宙に見えたかと思えば、それが御者台を通って荷台の中に叩き込まれる。そしたらもの凄い轟音と共に、荷台の後ろから獣型のエクス・マキナと雑魚冒険者三人の死体が吹っ飛んでったよ。

 もしかしてセレスがトドメを刺したんじゃないだろうかって思ったけど、宙を舞う三人の死体は首とか頭が欠けてたからもう死んでるっぽいね。何にせよそれを確認もせずにエクス・マキナごと荷台の中をぶっ飛ばすとか、セレスの思い切りが良すぎる。


「あの、御者いなくなったけど大丈夫……?」

「あんまり大丈夫じゃないですね! 良ければあなたがやってください!」

「クッソ、しょうがないにゃあ!」


 とはいえ御者をやらせてた雑魚冒険者も吹っ飛んでったから、やむなく僕がそれを務める事になった。まあ色んな技術を吸収する過程で乗馬とか諸々の技術も会得したから、やろうと思えば出来ない事も無い。それにこの場でただ突っ立ってぼーっとしてるよりは、多少は頑張ってる風に見てくれるでしょ。

 そんなわけで僕は荷台からひらりと御者台へ飛び降り、手綱を握って馬を操る事になりました。ちなみに振り返って荷台の中を見ると、雑魚冒険者たちの血で真っ赤に塗られて素敵なカラーリングになってました。でも荷台の中自体はほとんど壊れてない辺り、セレスの魔法の精密さがうかがえるね。


「――よし、抜けた!」


 そしてしばらく馬車を走らせると、ついにエクス・マキナの包囲網を突破した。雑魚が三人二階級特進したけど、それ以外には犠牲無し。馬車の荷台横にぶらさがってる聖人族奴隷たちも誰一人欠けてない。素晴らしい戦果だね?


「まだ獣型が幾らか追って来るけど、この様子なら引き離せそうだね!」

『最後まで気を抜くな。アレらは突然現れたのだから、二度目が無いとは限らない』

「分かっています。しかし、奴隷たちを除けばついに僕ら四人だけになってしまいましたね……」

「うーん……あたしとしては、むしろこの方が安心できるかな。毎晩変な声が聞こえてくる事も無いし」


 左右を飛ぶセレスとカレイド、そして荷台上にいるラッセルもちょっと安心したような声音だ。すでに放たれる魔法はほとんど届かなくなってきてるし、獣型のエクス・マキナよりは馬車の方が速いから徐々に距離が開いてる。

 みんなまだ警戒しなきゃって頑張ってるけど、さっきまでは馬車が走れなくなったら終わりみたいな詰み間近の状況だったし、多少気が緩むのも仕方ないよね。僕も雑魚処理がつつがなく終わってほっとしてるし。


『クルス、あとどれくらいこのまま走らせる事ができる?』

「そうだねぇ……一時間くらいなら何とか」

『では頼む。なるべく距離を稼いでおきたいからな』

「了解」


 そう指示されて、僕は休むことなく馬を走らせ続けた。実際は何日でも魔法を維持できる無敵の魔力を持ってるけど、そんな事はおくびにも出さない。むしろちょっと辛そうな演技をしなきゃいけないくらいだよ。

 何にせよただ延々と走らせてるのも暇だから、先に逃げた雑魚冒険者たちをエクス・マキナに襲わせて処理しておいた。所詮は低ランクで人間性も最底辺なクズ冒険者の烏合の衆だし、ものの数分で全滅させられました。これで残ってるのはここにいる面子だけだ。


「――ふうっ、ここまでが限界かな?」


 そして一時間と少し馬車を走らせ、なるべく疲れた顔をしつつ馬を止まらせた。

 ちなみに包囲網に使ったエクス・マキナたちは全部回収済みだから、追手は来ない。二回目の襲撃のメンバーに再利用しないとだからね。さすがにあの数を一回で全部失うのは痛すぎる。


『そうか、ではここでしばらく休憩としよう。テントは……使わない方が良いかもしれんな』

「あー、そっか。上から降って来たもんね……」


 そう口にしたカレイドは空間収納から色々取り出して、あっという間に焚火を作って簡易的な休憩スペースを確保する。テントの方が休めるけど、エクス・マキナが突然音も無く上から降ってきたから警戒してるんだろうなぁ。セレスも残念そうとはいえ納得してるし。

 そんなわけで焚火を僕ら四人、そして聖人族奴隷四人で囲む。最初は五十人以上いたのに、いつのまにか十人以下になっちゃった。一体誰のせいだろうなー?


「残っているのは僕たち四人、そして奴隷が四人。襲撃は警戒していましたが、まさかほぼ全滅するとは思いませんでしたね……」

「ここからはこれまで以上に気を付けないとね。ところでクルスくん、疲れてない? だいぶ魔力を使ったんだよね?」

「うん、正直な所クッソ眠い。できればもう眠らせて欲しいかな」


 ちょうどいい感じに話を振られたから、欠伸をする振りをして眠気と疲労を演技する。

 実際アホみたいな範囲の攻撃魔法を撃った後、一時間以上に渡って繊細な魔法を発動・維持し続けたんだからね。一般目線から見ればそろそろぶっ倒れてもおかしくないはず。だからそこまでは行かずともちゃんと疲労してるって人間アピールをしないと。


『そうだな、お前は休むと良い。今の馬車の惨状ではお前の力が無ければ移動できん。しっかりと睡眠を取り、魔力を回復させてくれ』


 その甲斐もあって、満場一致で睡眠を取る事が許されたよ。まあ壊れた馬車をまともに動かせるのが僕しかいないから仕方ないって所が大きいかな? 何にせよ眠れるなら万々歳だ。というわけで僕は地面に空間収納から取り出した寝袋引いて横になりました。本当はお布団の方が良いけどさすがに目立つ……。


「それじゃあお言葉に甘えてそうさせてもらおうかな。君らはどうするの?」

「僕らは何とか馬車を修理する方法が無いか考えてみます。いつまでもあなたの魔法で動かし続けるのは賢い選択とは言えません。魔力の無駄です」

『警戒は奴隷たちに任せる。生き残っているのはこの人数だからな、十分にカバーできるだろう』

「だからクルスくんは安心して寝てて良いよ! 今度はあたしが守るからね!」


 じっと馬車の損傷を確認しながら答えるラッセル。周囲の奴隷に警戒の命令を出し、僕らの安全を確保させるカレイド。そして気合の入った笑顔で僕に語り掛けてくるセレス。

 うん、とっても良い仲間たちだ。間違いなく僕を信頼のおける仲間の一人だと思ってくれてる事がはっきりと分かる。一緒に命のかかった危機を乗り越えた事もあって、心なしか更に絆が深まった気がするね?


「そっか。じゃあ任せたよ、みんな?」


 とはいえ僕にとって、真の仲間たち以外は五十歩百歩の有象無象。僕の正体や目的も知らず信頼を深めてくるその様子があまりにも滑稽で、僕は必死に笑いを抑えながら三人に背を向け眠りに着く事にしたよ。

 いやぁ、人の心を弄ぶのはマジで楽しいなぁ?




安定のクズ主人公

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