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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第12章:呪われた旅路
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節約の代償

⋇性的描写あり




『妙だな……』


 邪神討伐の旅に出発して三日目。高ランクの冒険者である僕ら四人しかいない馬車の荷台の中で、カレイドがぽつりと呟いた。どうやら皆も同じ事を思ってたみたいで、荷台の中の空気がピリっと引き締まる。


「やっぱりカレイドもそう思う? 変だよね、こんなにエクス・マキナが現れないなんて」

「事前情報では道中にかなりの数が蔓延っているはずでしたが、全くと言って良いほど遭遇しませんね。一体どこに消えたんでしょうか……」


 セレスとラッセルが難し気な顔をしつつ同意する。僕はその光景を内心ちょっとビクビクしながら見てたよ。

 だってエクス・マキナをバラ撒いてるのは僕自身で、僕そのものが邪神だからさ。それにエクス・マキナの襲撃が無いのは偶然じゃなくてわざとだしね。しかしもちろんそれを知られるわけにはいかないから、努めて一般魔獣族の冒険者の振りをしないといけない。スパイとかこんなヒヤヒヤしながら人と接してるのかなぁ……。


『お前はどう思う、クルス?』

「そうだねぇ……もしかして罠でも張ってるんじゃないのかな? 油断させておいて、ここぞという場面で纏めて送り付けて来るとか」


 問われて、僕は今正に用意してるその計画をさも予想みたいに語った。知られるのは痛いけど受け答えが不自然になるのも痛いし、何よりコイツらならこのくらい予想はつくはずだ。

 実際三人とも驚く様子も無く、むしろ納得が行ったように頷いてるよ。やりにくいなぁ!


「悪辣なやり方ですね。ですがとても効果的です。アレは数でこられるのが最も厄介ですから」

『そうだな。俺も罠を張られているのだと思う。いつ仕掛けてくるのかは分からないが、油断せずに皆気を引き締めていこう』


 そんなわけで、全員が警戒レベルを引き上げるという状況になりました。ちくしょうめ!

 これで罠が仕掛けづらくなってしまった。やっぱり普通にエクス・マキナに襲撃を仕掛けさせるべきだったかな? でもなぁ、今は馬車の旅の真っ最中でなかなかエクス・マキナを生産できないから、ストックが減って行く一方なんだよなぁ。正直在庫がかなり怪しい。夜に隣で寝てるセレスを魔法で更に深い眠りに誘って、安全な場を整えてから二時間だけ生産作業をしてるとはいえ、やっぱり減るペースの方が早いんだわ。

 いっその事時間を加速して無理やりに時間を捻り出す事も考えたけど、やり過ぎると時間の感覚がおかしくなりそうだからちょっとなぁ……。


「それじゃあ僕はしばらく上で周りの警戒でもしてようかな。よっと」


 ちょっと考える事が多くなってきたから集中できる場所に行きたくて、僕は荷台の後方から身を乗り出して片手懸垂の要領で馬車の上へと上がる。荷台の中だと周りに仲間(敵)がいて集中できないからね。

 走る馬車の荷台の上って事で吹き付ける風が凄いけど、まあ扇風機の風とでも思って無視しよう。そんな事より色々考えないといけない事があるし。


「むぅ……」


 さて、どうするかなぁ? エクス・マキナをケチってたせいで、罠の存在に気付かれてしまったぞ。油断を誘うためにもここは罠を二重にして、一旦安心させるのが正解かな? 

 でもなぁ、そうするとエクス・マキナの消費がクソほど増えるんだよなぁ。ケチってたのにそれをやったら本末転倒じゃないか。かといってこのままだと警戒されたままだし……うーん、困った……。


「――何難しい顔してるの、クルスくん?」


 しかも僕には一人で考え事をする時間も碌にくれないみたいで、セレスまで荷台の上に出てきたよ。ちょっとイラっとして荷台から突き落としたくなったのは秘密だよ?


「……いや、いつ仕掛けてくるかも分からないままずっと気を張ってるのはかなりキツイだろうなって。仮に罠が無かったとしても、もうこの時点で僕らが精神的に疲弊するのは目に見えてるよね」

「そうだね。四六時中警戒しないといけないのは辛いなぁ。せめて夜は何も気にせずぐっすり眠りたいよね」

「だねぇ。低ランクのクズ共だけじゃなくて、エクス・マキナの襲撃まで警戒しないといけないのはさすがに辛いなぁ……」


 そして僕の場合は世界中にエクス・マキナをバラ撒く事も続けないといけないし、ジリジリと減って行く在庫に肝を冷やさないといけないし、邪神としてセレスたちの処遇を考えないといけない。やる事多すぎて辛すぎる。

 正直な所、一回何もかも忘れてセレスの身体を貪りストレス発散したいくらいだよ。でもそれをすると更に状況がややこしくなるから駄目だ。これ以上並行して処理しないといけない問題が増えると僕の頭が爆発しちゃう。


「……そうだ! クルスくん、今夜からは交代で眠ろうよ。君が眠ってる時はあたしが警戒するし、あたしが眠ってる時は君が警戒するって感じで。どうかな?」


 名案を思い付いたとでも言いた気な爽快な表情で提案してくるセレス。

 うん、確かに良い考えだ。交代で仮眠を取るっていうのは良くあるやり方だもんね。それなら僕も寝ぼけたセレスに抱き着かれたりしないから、息子もあんまり刺激されなくなるだろうよ。


「いい考えだとは思うよ? でも、それ大丈夫? 僕の前で君が無防備に眠るって事なんだけど?」

「大丈夫だよ、クルスくんのこと信頼してるもん。それに、まあ……ちょっとくらいなら、悪戯しても……良いよ?」


 僕の懸念に対し、セレスはぽっと頬を染めてもじもじしながらそう答える。本当にグイグイ来るなぁ、この恋する乙女……。


「……逆に僕が君に襲われないか不安になってきたわ」

「いやいや! さすがにあたしもそんな事はしないよ! というかクルスくんを襲うなんて恐ろしい事、誰もできないよ!」

「やってきた女の子二人知ってるよ。僕はそいつらに純潔を奪われました……」

「え、えぇ……」


 クソ犬とバカ猫の事を思い出して黄昏る僕に、さすがのセレスも困惑を隠せてなかった。まあ今の発言で僕の初めては惨憺たるものだって理解してくれただろうしね。どう反応するべきか迷ってる感じに見える。


「そ、その人たち、どうしたの……?」

「……今は恋人の二人になってます」

「えぇ……もしかしてクルスくん、そういうのが好きな人なの……?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」


 さすがにこれにはセレスも顔を赤くして引き気味だ。好きな相手に変な性癖があるって勘違いしてるんだし、当然の反応かな? これがリリアナみたいな真実の愛の持ち主だったなら、性癖ごと受け止めてくれたんだろうけどねぇ……。


「はっ!? それってつまり、クルスくんを襲えばあたしも恋人になれるって事!?」

「ぶっ飛んだ発想やめよ? ていうかさっきそんな事しないって言ったよね?」


 とか思ってたら恋する乙女はなかなか強く、そんな暴論に辿り着いてたよ。しかも名案を思い付いたようなわりと真剣な表情で。

 よくよく考えると恋は盲目って言葉もあるし、恋する乙女でも十分に受け止めてくれる可能性はあったか。ちょっと予想外の結論叩き出してきてびっくりしたけど。とはいえ積極的な女の子は嫌いではないが。


「うるさーい! 恋は戦争! 手段なんか選んでいられないんだよ! というわけで、それーっ!」

「ギャーッ! 犯されるーっ!」


 やたらに良い笑顔で飛び掛かってきたセレスに押し倒され、そのままもみくちゃにされる僕。下手に抵抗して突き飛ばしちゃうと地面に落ちるかもしれないから碌に抵抗できなかったよ。まさかそれも承知の上で襲ってきたのか、コイツ……!?


「上で騒がないでください! 何をやってるんですか、あなたたちは!」

『ハハハ。仲が良くて何よりだな』


 荷台の上でガタガタやってたせいか、下からラッセルの怒鳴り声が聞こえてきたよ。カレイドさん、笑ってないで助けてくれません……?






 襲われはしたけどさすがのセレスもこんな状況と場所で性的に襲ってきたわけじゃなく、僕はしばらく身体をくすぐられてから解放された。もちろん解放された後は反撃としてこっちもくすぐりまくってあげましたよ、ええ。妙にエロい声で喘ぐからちょっと下半身がムズムズしました。


「……しかし、交代で仮眠と警戒かぁ。良い考えなんだけど、ちょっと問題があるな」

「え、何が問題なの? クルスくんさっきは賛成してくれたのに」


 お互いに笑いや興奮が過ぎ去った後、隣り合って座った状態で再び話の続きを始める。火照った身体に身を切るような風が気持ち良いねぇ?

 それはそうと、僕が問題あると口にしたせいで手の平を返したように思われたみたい。セレスはちょっと目を見開いて尋ねてきたよ。だから僕はなるべく声を潜めて答えた。風切り音や馬車の走る音が凄いけど、耳が良い相手なら聞こえるかもしれないからね。


「いや、問題は僕らじゃないよ。カレイドたちの方」

「カレイドたち? えっ、何で? あの二人こそ問題無さそうな気もするよ?」

「みだりに話して良い事じゃないから詳細は言わないけど、あの二人が同じテント内で過ごすのはちょっと厳しそうなんだよ。それこそ交代の仮眠とかしないで常時警戒してる方がまだマシなくらいに」


 そう、実はあの二人は同じテント内で過ごすのがかなり厳しい理由がある。ネタバレになるから詳しくは触れないが。

 セレスがこの秘密を知ってるか分からなかったから濁して言うことになったけど、ここまで言ってもいまいち分かってないみたい。つまりはセレスも知らないって事だろうな。知ってれば色々楽だったのになぁ。


「そうなんだ。じゃああの二人には交代の仮眠と警戒は勧めないの?」

「うーん……これからの事と疲弊具合を考えると、できれば僕らと同じようにやって欲しいんだけど……やっぱりちょっとカレイドの秘密が厳しいかな?」

「カレイド? カレイドに何か秘密があるの? あっ――も、もしかして、カレイド……小さい男の子が好き、とか……?」

「君もそういうの好きなのね……」


 どうやら恋する乙女であろうと、腐向けのアレは別腹らしい。セレスは満更でも無さそうに顔を赤くしてたよ。狭いテントに男二人、何も起きないわけがなく、ってか? コイツ、腐ってやがる……。

 まあそう思われても仕方ないくらいに、カレイドは非の打ち所がなくて秘密を抱えてるようには見えない人種だしね。真面目で誠実、そして強い。特に性欲に振り回されてるようにも見えない。だからって衆道認定するのはさすがの僕も酷すぎるとは思うけどさ。


「……秘密の内容はさておき、あの二人は貴重な戦力だから万全の状態でいて貰わないと困るな。ちょっと面倒だけど、僕が今夜カレイドと話してくるよ。もしかしたら問題無く同じテント内で過ごせるかもしれないし。可能性は薄いけど」

「分かった。頑張ってね、クルスくん」


 セレスが知らなかった以上、僕がやるしかない。そんなわけで、もの凄く面倒だけど今夜僕が説得なり懐柔なりする事になりました。はてさて、一体どうなる事やら……。


「ところで、その……カレイドの秘密って、やっぱりそういう趣味なの……?」


 えぇい、興味津々に尋ねてくるな! そんなに男同士の絡みが好きか!? 理解できないね!

 でも僕だって女の子同士の絡みは大変興奮するし、これは性別の違いって事なんだろう。理解はできないけど排斥はしません! 性癖には寛容で行こうな!




全身鎧の人の秘密。ある程度察しが良い人というか、分かっている人ならまあ予想はつくでしょうね……。

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