慰み者
⋇性的描写あり
⋇軽い胸糞描写あり
日が暮れて空が茜色に染まってきた頃、僕らは馬車を止めて野営の準備に入った。
野営なんてせずにガンガン進めばもっと早く邪神の城に辿り着けるけど、馬や人の体力の問題とかで難しいからね。疲労を回復してやれない事も無いけど、さすがにそこまでするのは怪しいかなって。それに僕だってできればぐっすり眠りたいし、ここは普通に野営に甘んじた方が良さそうだ。
『今夜はここで野営だ。見張りは奴隷たちに交代で任せ、俺達はゆっくり休息を取るぞ。尤もエクス・マキナが大挙して押し寄せてでもこない限り、俺達の出番は無いだろう』
「そうですね。幸いにも道中では襲撃されませんでしたが、闇に乗じて襲い掛かってくるかもしれません」
他の低ランクのクズ共がテントを張る作業をしてる中、僕ら高ランクは集まってちょっとお話し中。カレイドが積極的にリーダーっぽい行動をしてくれるから有難いね?
ちなみに今日は馬車での移動中に何度か魔物に襲撃はされたけど、ラッセルの言う通りエクス・マキナには一度も襲撃されなかったんだ。不思議ダナー。
「僕らはなるべく近くにテント張ったりするべきかな? あのクズ共は信用ならないし」
「うーん……警戒するに越した事は無いと思うけど、たぶん大丈夫じゃないかな? こんな状況下であたしたちを襲うほどの馬鹿はいないだろうし。そこまでしなくても、ちょうど良い捌け口がいるからね……」
高ランクの僕たちはなるべく集まっておいた方が良いかと思ったけど、一番身の危険がありそうなセレス自信が大丈夫そうだと口にした。その視線がやたらに冷め切っててあらぬ方向に向けられてたから、ちょっと気になってその視線の先に目を向けると――
「おら、こっち来い! 俺達でいっぱい可愛がってやるよ」
「ギャハハ! 今夜は寝かせないぜ?」
「い、嫌ぁ! 許してください……!」
数人のクズ共が泣き喚く聖人族奴隷の少女の手を掴み、テントの中へと引きずり込んでく光景があった。よくよく耳を澄ませてみると、そこかしこのテントの中から悲鳴や喘ぎ声が聞こえてきますね……お盛んなこって。
ちなみに聞こえてくる女の子の喘ぎ声は大半がガチで嫌がって泣き叫んでるやつだけど、幾つかはまるで愛しい男と逢瀬を交わしてるような幸福に満ちた声も聞こえるよ。あれはたぶん生まれた時から洗脳教育を施されて育った高級奴隷だろうなぁ……。
「……まあ、別の意味でアイツらとは離れた場所にした方が良さそうだね」
「そうですね。さすがに近くであんなゲスな行為が行われている状態ではゆっくり休めません」
こんな性的な騒音が聞こえる場所じゃ安眠できないし、僕らはなるべくクズ共のテントから離れる事にした。僕に賛同しつつもラッセルくん妙に顔が赤いし犬耳を伏せてるし、これはたぶん童貞ですね。未経験の丁寧語ショタ……これは一部に人気出ますわ。
『とはいえ俺たち全員が同じ場所では、万が一不測の事態が起きた際に対処しきれない危険がある。俺とラッセルはこちらの端にテントを構えるから、お前とセレスはあちらの端にするといい』
「りょ。それじゃあ行こうか、セレス」
「う、うん……」
カレイドの提案でキャンプ地の端と端に分かれる事にして、僕とセレスは向こうの方へと歩き出した。キャンプ地って言ったけど実際には荒野のど真ん中で円形の範囲をキャンプ地に定めただけで、何も上等な物じゃない。
とはいえその円の縁に沿うように見張りの聖人族奴隷を点々と配置してるし、見張りや警戒の必要が薄い分まだマシかもしれないね。しかし聖人族奴隷は見張りもしないといけないし、クズ共の慰み者にもならないといけない。もちろんテントなんてものは与えられないし、正直一番大変そう。まあ同情はしないが。
「よし、この辺で良いかな?」
「そ、そうだね……」
しばらくキャンプ地を横断して端に辿り着いた僕は、テントを張るのに良さげな場所を探して周囲を見回す。でも微妙に歯切れの悪い頷きを返して来たセレスが気になってそっちを見ると、かなり複雑そうな顔をしてるのが目に入ったよ。具体的には罪悪感が三割、怒りが二割、嫌悪が四割、嗜虐が一割ってところかな。ちょっと複雑すぎるな?
「……聖人族は嫌いだし、死んでも心は痛まないけど……さすがに、ああいうのはちょっと可哀そうかな。もしかしたらあの奴隷たちにも、好きな男の人がいるのかもしれないし……」
どうやらクズ共の玩具にされてる聖人族奴隷の女の子たちに、少々思う所があったみたい。まあキャンプ地を横断したせいで、そこかしこから悲鳴や嬌声が聞こえて来たもんね。あと嫌らしい水音とか、男たちの下卑た声とか。
今まではセレスも奴隷の扱いがそこまで気にならなかったっぽいけど、僕に対して恋心が燃え上がってる今はやっぱり女として気になっちゃうんだろうなぁ。
「あの奴隷たちはまだマシな方だと思うよ? ちゃんと自分を持ってる人間だからね。一番ヤバいのは生まれた時から洗脳教育されてる高級奴隷だよ」
「……そうだね。ああいう奴隷は、恋の素晴らしさとかも知らないのかな……」
返事しにくい事をぽつりと呟き、悲し気に目を伏せるセレス。
でも高級奴隷は魔獣族に奉仕する事こそが自分の存在意義であり、唯一にして最大の幸せって刻み込まれてるからなぁ。ある意味ではずっと恋をしているようなものなのでは? まあ惚れ薬飲まされたような偽の感情なのは否めないが。
「さ、早い所テントを出してゆっくり休もう。ずっと馬車乗ってて疲れたよ、僕」
「……うん、そうだね」
この話を続けるとややこしかったり面倒になりそうだから、さっさと話を打ち切った。セレスもあまり話を続けたくないみたいで、静かに頷いてくれたよ。最後に聖人族の女の子たちが犯されているであろう、クズ共のキャンプ地に悲し気に目を向けてからね。
でもそれで気持ちを切り替える事はできたみたいで、次に僕に向けられた目はいつもの元気いっぱいで明るいものだった。
「――よし! それじゃあクルスくん、テントを張るの手伝ってくれないかな? あたしも君のを手伝ってあげるから」
「いいよ。まあ僕のは手伝いいらないけどね」
「え? それってどういう――えぇーっ……」
首を傾げたセレスの言葉の途中で空間収納からテントを出すと、途端に呆れたような声と表情を向けられる。
別にそこまでおかしい事はしてないよ? 普通にテントを空間収納からボスっと落としただけ。ただテントを張るのが面倒だから、土台を用意してその上にテントを張った状態で空間収納に突っ込んでたんだよね。ちなみにいっその事テントじゃなくて小屋みたいなのを突っ込むのもアリかと考えたけど、さすがにそれは悪目立ちしそうなのでやめました。
えっ? もうすでに悪目立ちしてるだろって? うるせー、知らねー!
「この通り。テントは展開した状態で空間収納に突っ込んであるからね。出せばそれで終わりなんだよ」
「こんなでっかいテント、取り出すだけでかなりの魔力を使うよ? 君の辞書には節約とか節制って言葉は無いの?」
どうやらセレスは僕のものぐさ加減に呆れてたんじゃなくて、魔力の盛大な無駄遣いに呆れてたっぽい。
空間収納の消費魔力は空間に開けた穴が大きければ大きいほど、そして開けてる時間が長ければ長いほどモリモリと魔力を消費するらしいからね。テントを畳まず展開したままのを出した僕は相当イカれた事してる認識なんだと思う。魔力弱者の皆さんは小物を瞬間的に出し入れする節約術がが当然みたいですけどねぇ!
「そんなもん無いよ。僕はそういうせせこましい真似をしなくても魔力が有り余ってるからね?」
「ずるい! クルスくんの卑怯者!」
「ずるくない。それより君のテントさっさと張るよ」
「ぶー……!」
分かりやすい魔力量の違いを目にしたせいか、セレスはちょっとご機嫌斜め。頬を膨らませて不貞腐れてる。ぶーぶー言っちゃってまぁ……豚さんになっちゃった? 種族は悪魔じゃなかったっけ?
「……そうだ! クルスくん、あたしもそのテントの中に入れて欲しいな? 結構大きめだし、二人でも使えるよね?」
「えー……いや、それはちょっと……」
そして豚になってた割にはすぐさま明るい笑顔を浮かべて、さも名案とでも言うように提案してくる。もちろん僕は控えめにお断りしたよ。そしたら悲し気な目で見られて困っちゃう。そんな縋るような目で見られたら興奮してきちゃうじゃないか。
「えー、何でー? あたしも君を部屋に泊めてあげたのに……」
「それは分かってるんだけどさ……ほら、僕ってお年頃の男の子でしょ? 普段は恋人たちをとっかえひっかえして、沸き上がる性欲を発散してるわけで……でも今は恋人がこの場にいないから、一人で発散しないといけないというわけでして……まあ、言いたい事は分かるよね?」
「あ……そ、そうだよね。クルスくんも男の子だもんね……」
要するにテントをセレスと二人で使っちゃうと、僕が下半身で張ってるテントの処理ができなくなるんだ。さしもの僕も恋人でも無い上、少なくとも今は仲間である女の子の隣で息子を喜ばせるのは少々辛いものがあるね? それ何て罰ゲーム?
一応セレスも理解はあるみたいで、頬を赤く染めて視線を彷徨わせながらも納得してくれたよ。さりげなく僕の股間の辺りに視線を向けた気がするけど、まあそれは見なかったことにしよう。
「……じゃあ、あたしの時と同じように、寝る時だけならどうかな? 周りがあんなだから、一人で寝るのは不安なんだ。ダメ……?」
しかし納得はしても諦める気は無いみたいで、もじもじと恥ずかしがりながらもお願いしてくる。上目遣いに悩ましい感じで、しかも周囲が聖人族奴隷の女の子を犯してる奴らばっかりで不安だっていう論理的な理由まで加えて。恋する乙女は理論武装までするのか……。
「……分かったよ。寝る時だけね?」
「やった! ありがとう、クルスくん!」
さすがにここで断ったら人でなしのクソ野郎だ。まあ僕は実際そうなんだけど、現状はそれを悟られるわけにはいかないしね。やむなく寝る時だけなら一緒のテントで構わないって了承したよ。セレスめっちゃ喜んでるなぁ……。
グイグイ行く恋する乙女。
セレスは普通のお話なら余裕でヒロインになれそうなのに、このお話がそもそも普通じゃないって事がやっぱり何よりも口惜しいな……。