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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第11章:邪神降臨
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閑話:クルスVS真の仲間たち


⋇リクエストにあった「クルスVS真の仲間全員」回。ハニエルはまだ真の仲間じゃないのでいません。

⋇時が消し飛んだ三ヵ月の間にあったお話です

⋇ちょっと長いですがこれくらいのが数話続きます





 最近、魔法の開発がマンネリ気味になってきた。理由としてはさすがにそろそろアイデアが枯渇してきたっていうのが大きい。いつも暇を見つけて新しい魔法を作ってたから、ストックが尽きてきた感じがある。

 ただそれとは別に、魔法を開発してる環境が悪いってのもあると思う。基本的に机に向かってノートとかスケッチブック開いて魔法を創ってるから、発想も毎回同じになってる可能性があるし。今まではそれでも良かったけど、これからは邪神として世界に脅威を与えるための魔法も必要だ。そして基本的にそういう魔法に求められるのは、見た目とか破壊力とか恐ろしさとか戦いの中で極めて重要な要素だ。

 そういう魔法を創りたいなら、机に噛り付いて頭を悩ますよりもっと最適な方法がある。要するに実戦の中で魔法を創り出す事。そんな素敵なアイデアを思い付いた僕は、毎日研究室にこもってコツコツとエクス・マキナを創ってるうさ晴らしをしようと、真の仲間たちに協力を求めたわけなんだけど――


「覚悟は良いかぁ、クルス。ぶっ殺してやるよ」

「たまには主が受けになるのも良さそうだね~。私がたっぷり攻めてあげるよ~?」

「手加減はしない。私の全身全霊を以て、確実に君の息の根を止める。覚悟したまえ」

「闘技大会の時とは異なり、今度は我が挑戦者の立場か。面白い、あの時の続きを始めようでは無いか」

「うわー、みんな殺る気満々だぁ……」


 地下闘技場に集まった仲間たちは、みんな戦意が迸って可視化しそうなほどに殺る気満々だった。

 キラは僕を殺したくてウズウズしてるし、トゥーラはいつもと立場が反対のプレイができそうで嬉しそうだし、レーンは……うん、何かちょっと興奮してるな? さては<カドケゥス>をフルに用いた戦いができそうで昂ってますね? 闘技大会のリベンジをしたがってるバールが一番マシな反応だよ。


「助けて、ミニスー! みんなが僕を殺そうとしてる!」

「あ、私もぶっ殺す気で行くわよ。もちろん人を殺すなんて悪い事だしできればやりたくないけど、あんたなら何の躊躇いも無く殺せるし」


 仲間たち唯一の良心であるミニスに泣きながら抱き着こうとするも、ただの田舎娘とは思えないとんでもねぇ台詞でぶった切られる。本当に何でこんなに嫌われてるんだろうね?

 それはともかく、これから始まる戦いでは本当に殺しあいをするつもりだ。僕自身を含めて予め自動的に蘇生する魔法をかけてあるから、安全面は何の問題も無いしね。僕が死んでも蘇生できるっていうのは、レーンとの魔術実験の中で色々試してみたし。命の値段が安すぎて路傍の石ころの方が貴重に思えてきたよ。感覚ヤバくなってきてるかな?


「うわーん、助けてリアー! みんなが僕を殺そうとする!」

「ミニスちゃんたち頑張れー! ご主人様をやっつけろー!」

「味方が一人もいねぇ……!」


 リアに助けを求めた結果、返ってきたのはミニスたちへの声援のみ。両手のポンポンを振りかざしてチアガールの如く踊って応援してるよ、向こうを。僕はご主人様なんですが?

 ちなみに戒律の問題で対サキュバス拷問能力以外の全てを捨てたリアは、当然の如く見学だ。ミニスたちを応援してるとはいえ、リア自身は僕を殺したいとか苦しめたいとか思ってないことだけが唯一の救いかな。思ってないよね?


「よし、最後にルールの再確認だ。そっちは縛りは何も無し、勝利条件は僕を殺す事。こっちは直接相手の身体に影響する類の魔法、及び魔法の無効化は禁止。勝利条件は五人全員を殺す事。シンプルで分かりやすいでしょ?」


 一対五な上にこっちはハンデありっていう、苛めみたいな図式の戦いだ。とはいえ無限の魔力を持つ僕からすればこれくらいのハンデが無いと話にならないし、ある程度追い込まれないと魔法のアイデアも出てこない。

 だから協力してくれる仲間たちの望みである『ボコボコにしてやりたい』と、僕の目的を擦り合わせた結果、こんなルールになったってわけ。でもなぁ、相手が相手だから僕も気合入れないとヤバそう……主にレーザーっていう光速の攻撃魔法を覚えたカルナちゃんがヤバい。初めての決闘の時にボコボコのボコにされた苦い記憶は忘れてないぞ……!

 

「とっとと始めようぜ。テメェの目玉を抉り出してやるよ」

「主の血を全身に浴びたいな~。ヌヘヘ~♪」

「髪の毛一本残さず塵にして、無へと帰してやろう」

「股の間の汚いモノを蹴り砕いてやるわ」

「吸血鬼の真祖の力、とくと味わわせてやろう」

「……ごめん、バール。女性陣が怖すぎて真祖の力が欠片も怖く思えない」


 仲間たちがそれぞれ宣誓とも挑発とも取れる言葉を口にするんだけど、女性陣の台詞が怖すぎてバールの台詞の迫力がもの凄い薄れてる。吸血鬼の真祖ってもの凄い強いイメージがあるんだけど、他の奴らがヤバすぎて駄目だ……。


「……前から思っていたが、女は選んだ方が良いのではないか?」

「選んでこれなの……」

「そうか……我はもう何も言わん……」


 同情とも憐憫とも取れる複雑な視線を向けてくるバール。クソぅ、戦いの前から僕を憐れみやがって! お前だって女運ゼロの癖に! お前に比べたら僕の方がまだマシだぞ! たぶん!


「……えぇい、それじゃあ始めるぞ! リア、開始の合図を任せた!」

「分かった! じゃあリアは観客席に行くからちょっと待っててね!」


 悲しみを振り払うように声を荒げ、僕はリアに開始の合図を促す。リアがデカい翼を羽ばたかせて観客席へと飛んで行く中、バールたちは僕から距離を取り始める。軽く三十メートルは離れて、ようやくそこで足を止めてたよ。

 この距離、さては開始と同時に遠距離から攻撃魔法をバカスカ打ち込むつもりだな? まあ向こうはバールもいるし、<カドケゥス>のおかげで魔力が凄まじい勢いで回復するレーンもいるんだ。そりゃあ魔法を有効に使うのは当然か。

 対策を幾つか頭の中で組み立ててると、そこでようやくリアが観客席に降り立った。


「じゃあいくよー! 位置について――よーい、ドン!」

「それ徒競走とかの合図――」

「――イラプション」

「うおっとぉ!?」


 ついに始まったガチのバトル。そして僕は戦闘開始の合図にそぐわないリアの台詞につい気を取られて、初手からバールによる不意打ちを受けた。

 僕を中心としておよそ半径十メートルの範囲内の地面が縦横無尽に割れ砕け、真っ赤に煮え滾る溶岩染みた炎が噴き出してくる。まるで噴火寸前の活火山みたいな地獄絵図だあ!


「ディフージョン・レーザー」

「はえっ!?」


 しかも放たれた魔法はそれだけじゃない。バールの魔法とほぼ同時に、レーンが<カドケゥス>の先端からレーザー光線を放ってきた。しかも一本じゃなくて十本。貫通力も火力も抜群な一撃が光速で十本飛んでくるとか悪夢だよ。実際一本は僕の頭頂部を掠めて行ったし。

 とはいえリアの台詞に気を取られて、バールのイラプションで足元を崩されて態勢を崩してたのが逆に功を奏したみたいだ。一瞬だったからレーザーが放たれた正確な軌道は見えなかったけど、それでも僕の左右と上方向に広がってたのは見て取れた。たぶん足元が崩れたのを左右か上に飛んで態勢を立て直すと見越してたんだろうなぁ。実際はツッコミを入れてたせいでもろに態勢崩されて、その場に膝を付きかけたんだが……。

 とにもかくにも、戦いはここから。まずはそこかしこから間欠泉の如く噴き上がる炎と、たぶんまだまだ放って来るであろうレーザーを何とかしないといけない。溶岩に見えるけど噴き上がってるのは間違いなく炎、そしてレーザーは集束された事により途轍もない温度になった光。ならこれらを纏めて無効化するには――


冷房固定(クール・フィクス)!」


 温度を固定する事。だから僕は以前ミニスのコートにかけてあげた常に気温が十八度になる魔法を、自身を中心にしたおよそ五メートルの球体上に展開した。途端に範囲内で噴き上がってた炎は消滅し、レーンが再度放ってきたレーザーも消滅――あっ、消滅はしなかった。まあただの光になっただけだし無害化には成功してるな。


「よーし、今度は僕の番――っとぉ!?」


 いざ、反撃。そう思った瞬間、今度は鋭い空気の刃が飛んできたせいでその場から飛び退く事を余儀なくされた。

 しかも一発二発じゃなくて、怒涛の如く連続して押し寄せてくるんだから回避に専念せざるを得なくなったね。冷房固定(クール・フィクス)は熱に関係ある魔法しか防げないから、風の刃はどうにもならん。いや、厳密にはこれは風の刃じゃないけど、


「ほっ! はぁっ! とりゃ~っ!」

「――ネイル・スラッシュ!」


 これを放ってきてるのは犬猫コンビ。トゥーラが舞踏の如き美しい動きで回し蹴りを繰り出し、キラは殺陣みたいに鉤爪で空を裂き、二人して武装術として斬撃をバンバン飛ばしてくる。キラはともかく、基本的に己の肉体と技術のみで戦うスタイルのトゥーラまで武装術を使うとか、さては本当に一切情け容赦が無いな? どこまで僕を殺したいんだろうね?


「ふむ。炎とレーザーが無効化されたか。しかし高温によって生じた周囲の陽炎さえも消え、レーザーの殺傷能力だけが消失している辺り、恐らく周囲の熱の変動を抑え込む事によって無力化したのだろう。バール、それを加味して追撃だ――ストーン・スピア」

「了解した――ダークネス・レイン」

「ちょ、ちょっと待って!? 容赦なさすぎじゃない!?」


 挙句飛んでくる爪撃や蹴撃の嵐を必死に躱してると、レーンが即座に冷房固定(クール・フィクス)の性質を見抜いて対応してくる。周囲の地面から尖った小さな石柱がもの凄い勢いで僕に殺到してきて、上からは針の用に細く鋭い闇が降ってくる。

 三方向からの息を吐かせぬ波状攻撃はさすがに厳しすぎて、最早新体操でもやってるのかってくらいにアクロバティックな動きをしないと躱せないレベルだ。一応全部物理的な攻撃だから滑る鎧(スリップ・メイル)で対処できるとはいえ、正直これを使うのはかなり悔しいから何とか頑張って避け続ける。バク転からの二回捻り宙返りを決めた後、その場でブレイクダンス染みた動きをして何とか躱す……!


「貴様に容赦や加減が必要とは思えんが? 事実貴様はこの嵐の如き猛攻の中、一撃たりともその身に受けず回避しているではないか」

「私は言ったね。確実に君の息の根を止める、と。あれは比喩や誇張ではなく言葉通りの意味だ。確実に君を殺す」

「そうとも~! 今回ばかりは幾ら主相手でも容赦はしな~い!」

「そらっ、精々無様に踊りやがれ!」


 僕が芸術的な回避方法を続ける中、殺意の漲った攻撃の数々が一切緩む事なく叩き込まれる。まるで三方向からミニガンを掃射されてるみたいな破滅的な状況だ。一発一発がわりと致命的な威力を持ってるだろうし、これなら広範囲高威力の魔法を撃たれた方がまだマシかもしれんな……。


「……私、やる事ない……無くない……?」


 なお、一般村娘は手持ち無沙汰で突っ立ってる模様。

 まあ攻撃的な魔法なら二、三回使えば魔力切れになる奴だからね。ここで魔法で攻撃する意味も無いし、かといって僕に接近したらフレンドリーファイアでボロクソになりそうだし仕方ない。


「くそっ! どうするこれ!? 滑る鎧(スリップ・メイル)を使うか……!?」


 捻りを加えた側転をかまして雨あられの攻撃を回避しつつ、対処法を何とか模索しようとする。でも僕の脳みそは一つだけ。幾ら思考速度や反射神経を加速できても、こんなアホみたいな弾幕を躱し続けながら対処法を捻りだすのはちょっと厳しい。

 しかし地面の土を素材にして石の槍が生成されたり、降り注ぐ闇の針で地面が貫かれてるせいでどんどん足場が悪くなっていってるし、このままじゃ近い内に足場が致命的に崩れて回避に失敗するぞ。ただでさえ初手で地面を崩されて足場は悪いのに!


「これでも君はまだ優雅に踊れるかな? 狂え重力――グラビティ・コンフュージョン」

「ぬあっ!? 何じゃこりゃあ!?」


 何やらレーンが新しく魔法を使った瞬間、文字通りに僕の周囲の重力が乱れた。巨人に上から押さえつけられてるみたいに身体が重くなったかと思えば、吹けば飛びそうなくらいに軽くなったりしてまともに動けなくなる。

 これはマジで周囲の重力を乱してるな? って、うわ、今度は無重力だぁ! 身体が浮いて動けない!


「――滑る鎧(スリップ・メイル)!」


 やむなく僕は滑る鎧(スリップ・メイル)――身体の表面の摩擦をゼロにする、物理攻撃にはめっぽう強い防御魔法を展開。一拍遅れて上空から降り注ぐ闇の針や、飛んでくる鎌鼬染みた爪撃や蹴撃が躱しきれず僕の身体に触れ、そのままつるりと滑ってあらぬ方向に飛んで行く。

 これで物理攻撃は無効化できたわけだけど、正直重力が乱れてるせいで碌に回避も移動もできやしない。一歩動いただけで重力が何倍にもなったり無重力になったりしやがる。片足だけふわりと浮いたかと思えば、もう片方の足は高重力で地面にめり込むっていう……。


「どうだい? いかな君でも変則的に上下する重力の変化には適応しづらいだろう?」

「性悪女ぁ……!」


 遠くでニヤリと笑うレーンの姿に思わず悪態を吐く。実に的確で嫌らしい真似をしてくるよね?

 しかし悪態を吐いてる暇はない。あまり時間を与えればレーンの事だし、滑る鎧(スリップ・メイル)の弱点もすぐさま見抜いてまた嫌らしく攻めてくるに違いない。そもそも犬猫はこれの弱点知ってるし。


「その魔法は以前にも見せて貰った。弱点はこれだろう?」

「いってぇ!!」


 なんて考えてたら、滑る鎧(スリップ・メイル)を見た事のあるバールが容赦なく弱点をついてくる。今まで上空から降り注いで地面を貫通し穴だらけにしてた闇の針が、突然地中から真上に放たれ始めたんだよ。

 滑る鎧(スリップ・メイル)の弱点は足裏、靴裏だけは摩擦を弄って無い事。無敵の鎧もそこだけは守ってない。その上攻撃を察知しにくい場所だから、両足を闇の針でバスバス貫かれたわ。足を穴だらけにされたから立ってられなくなって前のめりにすっ転んじゃうし、滑る鎧(スリップ・メイル)を纏ったままだからクルクルとその場で滑り回るという滑稽さ。

 しかし解除すると身体が穴だらけになった上で細切れにされそうだから、無様に回り続けるしかないという……これが世界を破滅に導く事で真の平和を実現しようとする救世主の姿ってマジ?


「……さすがにちょっと可哀そうになって来たかもしんない」

「君は随分酷い目にあわされてきたはずだというのに、この程度で良く同情できるね……」


 猛烈な攻撃の嵐に晒されつつクルクルと回転する僕の姿に哀れみを感じたのか、珍しい事にミニスが同情を示してくれた。それ自体は嬉しいんだけど、僕もどっちかというとレーンの意見に賛成かな。散々魔法の実験台にされたりしてたのに、心が広いですねぇ……さすがはミニス。さすミニ。

 ん? 待てよ、ミニス……? そうだ! この状況を切り抜ける手段が浮かんだぞ!


「――ミニスはとっても優しいからね! 僕はミニスのそういう所が大好きだよ! いっそ正妻にしたいくらいさ! 愛してる!」


 なので僕は飛翔するガ●ラの如く地面の上で回りながら、ミニスへの熱い愛を叫んだ。嘘は二割くらいしか含んでないからかなり迫真の愛の叫びに聞こえたと思う。


「あ~!? 何だって~!?」

「おいクソウサギこの野郎」

「何で私にキレんの!?」


 そしたらトゥーラがキレてミニスを睨みつけ、静かにブチ切れたキラがミニスに詰め寄り胸倉掴み上げるという暴挙に出る。この理不尽な怒りにミニスは逆ギレするどころかまずツッコミを入れてるよ。やっぱツッコミ役なんだなって。

 そして、これで怒涛の如く叩き込まれてた二人の武装術が途切れて道が出来た!


「挑発に乗るな! これは罠――」

「遅ぉい! 暴風加速(アクセル・ストーム)!」


 狙いを見抜いたレーンが叫ぶけど、時すでに遅し。地面にうつ伏せで回ってる僕は自分の身体がレーンたちの方を向いた瞬間、足の方に向けた両手から猛烈な暴風を放った。滑る鎧(スリップ・メイル)を纏ってる僕がそんな事をすれば、どうなるか分かるかな? 答えは簡単。まるで市場を滑る冷凍マグロ――違う! ミサイルのように地面をかっとんでいくのさ! 


「クッ! ストーン・ウォール!」


 乱れる重力圏をあっさりすり抜けて突貫する僕に対して、レーンは自分たちの手前の地面を隆起させる事でクルスミサイルを止めようとする。

 だが遅い。すでに僕らの距離は十メートルも無いし、そもそもこのまま地面を滑ってダイレクトアタックする気は欠片も無い。だから僕は自分の前方すぐ目の前の地面を僅かに隆起させて、上り坂を創り上げた。もの凄い勢いで滑る僕の身体は綺麗な放物線を描いてかっとび、レーンが創り出した壁を容易く飛び越える。

 壁の先で一番近くに見えたのは、驚愕の表情を浮かべたレーン。僕はその顔を睨みつけながら、さっきまで受けてたリンチの恨みつらみを拳に固く握り込んだ。僕は愛し合った女だってグーで殴れるんだからな!


「しゃあぁぁぁぁい!!」


 そうして滑る鎧(スリップ・メイル)を解除すると共に、その端正な顔面目掛けて全力で拳を放つ。無敵の鎧の欠点はこっちからの物理攻撃も意味をなさなくなる事だから、解除しなきゃ攻撃には移れない。

 防御を捨てるのは不安だけど、僕が放ったのはアホほど加速を得た状態で空中から振り下ろす、威力を魔法で強化しまくった神速かつ全力の右ストレートだ。幾らレーンとて対応が間に合わないはず。そう思ってたんだけど……。


「――私の愛を利用するだなんて、主は酷い男だね~? でも私は主のそんな所も大好きさ~! さあ、ここからは拳で語りあお~!」


 瞬時に間に割って入ったトゥーラが、片手で僕の拳を受け止めてニンマリと笑う。

 この野郎、めっちゃ強化した超パワーの一撃をあっさりと受け止めやがって……衝撃こそ操作してなかったけど、それでも人体なんて木っ端みじんに吹き飛ぶレベルに膂力を強化して放った一撃なんだぞ? それを威力を余さず殺してふわりと包み込むように受け止めるとか、このクソ犬はよぉ……。


「――ひゃあああぁぁぁっ!?」


 なんて一瞬イラっとしてたら、横合いから悲鳴を引いてミニスミサイルが飛んでくる。どうやらキラにぶん投げられたっぽい。

 正直一人仕留めるチャンスだったけど、さすがにぶん投げられて迎撃されて死ぬってのはあまりにも可哀そうだし、僕は優しいからそのままさっと後ろに避けて見送ってあげたよ。ただ交錯する瞬間、一瞬だけミニスの薄い胸に触れてちょっとだけ|《仕込み》《・・・》をさせてもらったけどね。まああくまでも保険だし、使う時が来ないことを祈ろう。

 そしてウサギ弾頭はそのまま降下して地面にぶち当たるかと思いきや、突然巻き起こったつむじ風に絡めとられるようにして軌道が捻じ曲がる。最終的には距離を取ってこっちを睨むレーンの傍に着地した。レーンが自分の傍に来るように操作したっぽいね? 何か助けて貰った形になったせいか、ミニスがレーンをキラキラした目で見てる……。


「テメェは良い男なんだし、あたしも同時に相手してくれるよなぁ? さあ、楽しもうぜ?」


 そんな声に左を向けば、そこにはミニスミサイルを放った張本人。鋭い鉤爪に嫌らしく舌を這わせ、とっても邪悪な光が輝く瞳を僕に向けてくる。ベッドの上なら大歓迎の台詞なんだけどなぁ……。


「……やっぱ止めといた方が良かったかもしれんな、これ」


 左右から同時に襲い掛かってくる恐るべき犬猫を前に、僕はこの戦いを始めた事をちょっと後悔し始めた。どいつもこいつも殺意満々で怖いよぉ……。



今の所何もしてないミニスちゃん。ミサイル代わりにされた挙句何らかの怪しい仕込みをされる。


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