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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第11章:邪神降臨
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セレスの秘密





「いよいよ明日、出発だね……」

「うん、そうだね」


 すでに夜も更け、宿でそれぞれの床に就いた僕とセレス。

 セレスは意外と寝つきが良いタイプだったけど、さすがに邪神討伐の旅を明日に控えてるせいで眠れないみたい。床に引いた布団に寝転がる僕を、ベッドから緊張した面持ちで見つめてきてる。今夜は良く晴れてるから、カーテンの隙間から零れる月明かりのおかげで表情もバッチリ見えるよ。


「あたしたち、邪神を倒せるのかな……?」

「さあ? ちなみに無理かもしれないっていうのが僕の本音」

「もうっ! そこは『安心しろ、お前だけは俺が命を賭けて守ってやる』的な事を言う所じゃないの!?」

「僕はそういう自己犠牲系台詞は嫌いかな。むしろ『僕と一緒に死んでくれ』とか『僕のために死んでくれ』って言うよ」

「酷い! そんな自己犠牲を辞さないような顔してる癖に!」

「ありがとう。そういう顔をしてる事自体は自負してるし、褒められると嬉しいよ」


 嬉しい事を言ってくれたから、僕は渾身の笑顔でお礼を口にした。そういう顔付きだって事に自信はあったんだけど、某Sランク冒険者三人娘には殴りたい顔とか言われたからね。ちゃんと僕の顔は整った優しいツラだって改めて分かって安心したよ。


「褒めてないもん! クルスくんの鬼畜! 外道! ハーレム野郎!」

「そんな野郎を同じ部屋に泊めてる君は何なんですかねぇ……?」


 ぷりぷり怒りながら枕を投げつけてくるセレスだけど、言ってる事は何も間違ってないから控えめに言い返すしかできなかったよ。鬼畜も外道もその通りだし。ハーレム野郎に関しては、うーん……何か残念な女しかいないんだよね。何でだろ?


「……ねぇ、クルスくん」

「うん?」


 とりあえず枕を軽く投げ返すと、セレスはそれを受け取ったかと思えば胸に抱きしめてもじもじし始めた。そして何故かさっきと打って変わって大人しい声をかけてくる。いきなりどうしたんだろうね?


「もし良かったら……一緒に、寝よ?」


 って、おいおい。とんでもねぇ事言い出したぞ、コイツ……付き合ってもいない男女が不可抗力でも無く、同じベッドで寝るとか倫理的に駄目でしょ。いや、僕にとって倫理は破壊するべきものだからそこは良いんだけどさ、一般常識で考えてだよ。


「えー……それは、セーフなのかな……?」

「君が邪な気持ちで手を出してきたりしなければ大丈夫だよ。ほら、今夜は冷えるし一緒に寝よ?」


 まるで決定事項のように言うと、セレスはベッドの上でもそもそ動いて場所を開けてくれた。

 手を出さなければ大丈夫っていうか、そもそもこの部屋で結んだ契約のおかげで手は出せないんだわ。つまり興奮しても襲いかかったりは出来ないってわけ。尤もセレスが合意してくれればその限りじゃないけどね。ただそれって僕がアプローチして向こうが受け入れる形になるし、負けた気分になるから嫌だなぁ……。


「んー……じゃあ、失礼して……」


 少し悩んだけど、結局僕はセレスの隣にお邪魔した。自分の枕を持って、セレスが開けてくれた場所に横になる。

 実は恥じらうセレスの瞳には羞恥の他に不安の類が浮かんでるのが見えたんだよね。幾らソロでAランクの冒険者といえど、セレスも一人の女の子。邪神と戦って生き残れるか不安なんでしょうよ。まあだからって僕の正体が邪神その人と知らず一緒に寝ようとするとか、滑稽が過ぎて腹がよじれそうになってくるね。

 そんなこんなで、一人用のベッドを無理やり二人で使う。お互いに向かい合って、狭さのせいで息がかかるくらいの距離で見つめ合う形になってるよ。ていうか幾ら狭くてもこれは近すぎだっつーの。ちょっと顔を寄せればキスできる距離じゃん。プライベートスペース狭すぎやろ。


「えへへ……君の恋人さんたちに教えちゃいたい状況だね?」

「ベッドに入っていきなり背筋が凍るような事言うのやめよ? しかも可愛く恥じらいながら」

「か、可愛い……!」


 目と鼻の先で照れくさそうに笑うセレスにそう返すと、その頬の赤みが一気に増してあわあわしだす。

 恋する乙女って良く分かんないよね。驚くほど積極的な行動を取る癖に、ちょっと可愛いって言われただけでこの有様だよ。恋する乙女って攻撃全振りで防御ゼロなのかな? 狂戦士か何か?


「……そもそもの話なんだけどさ、君ちょっと僕に対して好感度高すぎない? 幾ら契約してるから襲われる心配は無いとはいえ、一緒の部屋どころか一緒のベッドにまで入れるなんて相当警戒心薄いよ? 何でそんなに僕のこと信用してるの?」


 ここは指摘しておいた方が誠実な対応になって好感度上がりそうだし、僕はあえてそう口にした。

 実際セレスの僕に対する好感度が異常に高いのは事実だしね。僕が憧れの人だって事を差し引いても明らかに変に好かれてる。その理由もできれば知りたいし、誠実な対応で好感度を稼ぎつつ話して貰えたなら一石二鳥だ。


「そ、そうだよね。でも、それは……いや、うーん……」


 何か微妙に葛藤があるっぽくて、セレスは頬を赤くしたまま百面相を始める。不安、期待、困惑、恐怖……色んな表情が目の前で繰り広げられてて面白いなぁ。感情豊かな子は見てて面白いから飽きないね?


「……まあ、クルスくんなら良いよね……?」


 最終的には話すことを決めたのか、セレスは身体を起こすと透け気味のネグリジェの中に手を入れて、何やら腹の辺りをゴソゴソやり始めた。

 月明かりに照らされてるせいで見えちゃいけない物が見えそうだし、僕も身体を起こして明後日の方向を向いて目を逸らしたよ。本当はガン見したいけど、一応は誠実に振舞ってるからね? え、中身は真っ黒? でもほら、光が無いと影は存在しないって言うし……。


「……もう、こっち見て良いよ」


 ほんの十秒くらいした後、セレスは何やら緊張した声音でそう口にした。

 果たしてその十秒で一体何をしたのか。まさか素っ裸になったわけじゃないよな? 恋する乙女がクッソ積極的なのは、セレスだけじゃなくてクソ犬でもよーく思い知ったから、絶対無いとは言い切れないんだよねぇ。

 何にせよその時はその時だ。覚悟を決めて、僕はセレスの方を振り向いた。


「――ふぁっ!?」


 そして、驚愕に目を見開いた。

 うん、これはびっくりだわ。そうかそうか、そういう事だったか。なるほど、解析(アナライズ)じゃそこまで調べないから分からなかったな。


「騙しててごめんね? 実はあたしも、君と同じニカケの悪魔なんだ……」


 申し訳なさそうに語るセレス。その手に握られてるのはカチューシャと一体型の付けツノ、そしてベルトのような機構がくっついた付け尻尾。セレス本人の身体にあるのは小さめな翼だけ。本人の申告通り、これらのアイテムでニカケである事を隠してたみたいだね。

 だけどこれで、今までのセレスの行動や接し方に納得が行ったよ。ニカケの僕に対して全く軽蔑や侮蔑の反応をしなかったのは、セレス自身も実はニカケだったから。頭を撫でられるのを嫌がったのは、付け角だとバレる事を怖がったから。そして僕にやたら好意を抱いてるのは……まあ、そこは今から自分で語ってくれるか。


「ニカケは蔑みの対象だから、あたしはずっと三つ揃ってる振りを――フローレスの振りをしてたの。見下されるのが嫌で、差別されるのが怖くて、何一つ欠けてない振りをしてた。そしてAランクの冒険者になった今でも、あたしは本当の自分を見せるのが怖かった……このままあたしはずっと、本当の自分を隠したまま生きていくんだって思ったよ……」


 付けツノと付け尻尾を手放し、凍えて縮こまる様に自分の身体を抱きしめ俯くセレス。ちなみにフローレスっていうのは角と翼と尻尾が全部揃ってる悪魔たちが、ニカケと自分たちを区別するための呼称みたいなもん。意味的には完全とか無欠とかそんな感じ。まあ三つ揃ってる奴らの自称なんで根拠とか何も無いけど。

 しかしツノが無いだの尻尾が無いだので差別されるとか、やっぱクソですねこの世界。しかもセレスが単独でAランクの冒険者になったって事は、有り無しは強さに直結しないって事が確定してるじゃん。完全にただの謂れの無い差別なんよ。


「だけど、そんな風に諦めてた時――君を見つけたんだ」


 さっきまでは不安に満ちた口調だったのに、ここでセレスの口調が暖かさを孕んでいく。顔を上げてこっちを見る目にも、安堵というかプラスな感情が見て取れるね。口を挟んだりふざけたりしちゃいけない場面だってのは分かるんだけど、個人的には透け気味のネグリジェ姿を直視しないといけないのがかなり辛いです……。


「君はフードを被ってたからちょっと分かり辛かったけど、あたしと同じニカケの悪魔だってすぐに分かった。きっとあたしと同じように、欠けてるのを隠してる怖がりなんだと思ってた。でも、君は全然違った。挑発的で、煽り全開で、傍若無人で、情け容赦も無くて、自分の力に確固たる自信を持った人間だった。天上天下唯我独尊、この世で自分こそが最も尊い存在だって全身で言い放ってたよね?」

「さすがにそこまでは言ってないかなぁ……」


 闘技大会での事を言ってるってのは分かる。でもさすがにそこまで全身で言い放った記憶は無い。確かに挑発したり煽ったり、情け容赦なく攻撃したりした事はあったけどさ……まあ、この世界の救世主たる僕がこの世で最も尊い存在だって事は確かだね!


「そんな君にあたしは嫉妬した。正直悔しかった。ちょっとヤキを入れてあげようかと思った。だからあの生意気なフローレスの女の子にやられて恥ずかしい真似をしそうになってる姿は、もの凄く笑えたんだ。そのまま無様に負けちゃえって思ったね?」

「何だとこの野郎」

「か、過去の話! 今はそんな事思ってないよ!」


 反射的にキレそうになった僕に、セレスは慌てて訂正してきた。まあ今は僕にベタ惚れだって事は分かってるから許してやろう。

 しかし、僕にヤキを入れるつもりもあったのか。もし本当に来てたら惨たらしく返り討ちにしただろうし、奇跡的に命拾いしてるな、セレス。


「……負けちゃえって思ったけど、君は勝った。ギリギリまで追い詰められてたのに、土壇場で逆転を決めて完全な勝利を収めた。信じられないくらいの逆境から、誰にも負けない不屈の精神で逆に嬲り倒して打ち勝った。その姿があまりにも鮮烈で、魅せられたあたしは嫉妬や悔しさが全部裏返っちゃったんだ」


 そっかぁ……小悪魔のメスガキを僕が嬲り倒す光景で惚れたのかぁ……言っちゃ悪いけど趣味悪いな? いや、それだけこの世界ではニカケの差別が酷いって事かな。差別しまくって偉そうに振舞ってた奴がボコボコにされたら、差別されてた人たちからすれば愉快痛快な出来事だろうし。


「あたしと同じニカケなのに、あたしと全然違う君が、とっても眩しくて、羨ましくて……憧れと、ちょっとした恋心を抱いちゃったの。まあ、恋心に関してはそのすぐ後に打ち砕かれちゃったけど……」


 ついさっきまでは恋する乙女みたいに生き生きと語ってたのに、今度は唐突に燃え尽きた様に語り始める。本当に感情が豊かで見てて飽きないね?

 それはさておき、恋心が打ち砕かれたのはたぶんクソ犬のせいだね。メスガキを嬲ってたらクソ犬が乱入して邪魔してきた挙句、キラたちを呼び寄せて自分たちは僕の女だって高らかに言い放ったもん。恋心を抱いた瞬間にぶっ壊されるとか、どうやら僕は観客にも多大な精神攻撃を仕掛けていた様子。まるで純愛好きに寝取られ見せつけるみたいな事しちゃってたかぁ……。


「あー……うちのクソ犬がごめんね?」

「ううん、良いんだよ。すぐに思い知らされたおかげで、ダメージは少なくて済んだし……」


 などと乾いた笑顔で口にするセレスさん(燃え尽き)。

 もしやトゥーラがあの場面で乱入して僕にはすでに女がいるって事を知らしめたのは、セレスみたいにあの場で惚れた子の心を打ち砕くためだった? 道化みたいな振る舞いのせいで忘れがちだけど、アイツ計算高い所があるから無いわけじゃなさそう。闘技大会で優勝したのに女の子がキャーキャー言いながら寄ってきたりはしなかったし、可能性は大いにあるな。


「……というわけで、あとは砕けた恋心が君に再会して蘇ったっていうか、燃え上がったっていうか……まあ、そんな感じかな?」

「なるほどねぇ……」


 話を纏めると、僕はセレスと同じニカケなのに闘技大会で優勝した希望の星であり、そして憧れで恋心を抱いた人。出会う前からすでに好感度を稼いでただけで、別にセレスが尻軽ってわけじゃなかったか。

 しかし実情を考えるとセレスがあまりにも滑稽で可哀そうになってくるよね? 何せ惚れてる相手は実はニカケでもなければ魔獣族でも無く、そもそもこの世界の人間ですらない。挙句の果てに正体の一つが討伐しに行く邪神その人なんだからさ。ヤベェ、全てを知った時のセレスの反応が楽しみで堪らん……!


「あ! 返事はまだしないでね!? というかあたしもまだ告白したわけじゃないし、ここでいきなり答えを言われたら絶対に明日からの旅に影響が出るからさ!」

「もうほぼ告白してんだよなぁ……」


 思い出したように慌て始めるセレスに、僕は若干呆れながら呟いた。あれだけ積極的だったのに、告白自体はまだしないってマジ? 透け気味のネグリジェで露骨に誘ってくる大胆さはあったのに、何故そこで一歩踏み出す勇気が出ないのかな。恋する乙女って本当に謎……。







というわけで、セレスの好感度が妙に高かった理由です。高い所から落ちた方が衝撃はより大きいよね!

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[一言] ジェットコースターしかり、 バンジージャンプしかり、 スカイダイビングしかり高い所から 人が落ちる様はついついニヤニヤしちゃう。
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