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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第11章:邪神降臨
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一時帰還


 クズ冒険者たちとの顔合わせも終わり、カレイドたちとの模擬戦も終わった後。悔し気に刺突で眉間や心臓を狙ってくるセレスがちょっと怖かったから、僕はその場から逃げるようにして解散した。

 さすがにセレスも本気で殺しにきてたわけじゃないから、逃げる背中に追撃してくる事は無かったよ。いや、刺突には十分殺意がこもってたが……。

 ともかく、あとは夜十一時前にセレスの部屋に戻って寝るだけ。別にあの町で時間を潰してても良かったけど、せっかくだから転移で一旦屋敷に戻ってみる事にした。と言っても今の屋敷に真の仲間は一人しかいないけどね。キラたちはミニスの一事帰郷の付き添いさせてるし。


「ただいまー。ご主人様が一旦帰ってきたぞー」


 というわけで、屋敷のエントランスに転移で戻る。当たり前っちゃ当たり前だけど、エントランスには特に変化はなかった。何せここを出たのは数日前だもんね。ここからピグロの街までは転移で近くまで移動するっていうズルをしたし。

 強いて言えば、初めの頃は剥き出しの床で調度品も一切無しの寂しいエントランスも、今は多少は豪華になってる事くらいかな。地味だけどカーペットも引いたし、要所に綺麗なお花が活けられた花瓶とかもあって最低限の見目は整えられてる感じ。まあ僕がやったわけじゃなく、働き者のメイドが勝手にやってくれたわけなんだが……。


「――おかえりなさいだ、ご主人様」


 噂をすれば何とやら。二階から働き者のメイドことベルが、スカートを翻してスタっと目の前に降りてきた。今日はミニスの姿で、パンツはフリフリの可愛いやつでした。むっちりとした太ももも相まって下半身がちょっと反応しかけたけど、真の姿が思い浮かんで結局は引っ込んだよ。さすがにあんなSAN値直葬する神話生物を抱く趣味は無いな……。


「僕がいない間、何か変わりは合った?」

「いいや、特に何も無いぞ。強いて言えば――」

「――うあああぁああぁぁぁ~!! あるじいぃぃぃぃぃぃ~!!」

「ひえっ」


 何気なく尋ねてみたら、ベルが答える途中で恐ろしい咆哮が聞こえてきた。まるで地獄の底から響く悪鬼の雄たけびが如き激しさなのに、一ヵ月ほど大好きな飼い主と離れ離れになった飼い犬が上げる鳴き声のような、胸を打つ切なさが含まれてた。

 ただしその声の主は控えめに言ってもイカれてて、飼い犬のような可愛らしさは微塵も無い。だって二階から飛び上がって天井に着地したかと思えば、仮にも女性が浮かべる感じじゃないヤバい笑顔を浮かべて僕に飛びかかって来るんだもん。捕らえた美少女を犯す直前の野盗だって、もうちょいマシな顔をしてるわ。


「……強いて言えば、ご主人様恋しさに気が狂ってしまった哀れなメス犬がいる事くらいか」

「残念ながらコイツは元から気が狂ってるんだよなぁ。ほいっと」

「あばばばばばばばっ!!」


 あまりにもキモかったから飛びかかって抱き着こうとしてくる変態――もといトゥーラをさっと避けて、パチンと指を鳴らす。途端にトゥーラは床に顔から激突し、更にその首輪から高圧電流がバチバチと流れ転げ回りながら痙攣し始める。

 いつもならこれで抑え込めるはずなんだけど……ヤベェ、何かビクビクしながらも立ち上がろうとしてるぞ、コイツ……。


「えぇ~いっ! 今の私にこの程度の電流など効か~んっ!」


 そしてあろうことか、トゥーラはしっかりと立ち上がった。電流が途切れてないのはその身体から余波で周囲に迸る電撃と、逆立った髪や尻尾の毛から一目瞭然だ。何か一種の強化形態みたいな見た目になってんな?


「マジかよ、脊髄に直接高圧電流叩き込んでるんだぞ? 何故動ける?」

「これが愛の力だ~! ワゥ~ン!!」


 困惑する僕に対して、トゥーラは電流を纏ったまま突撃してくる。その執念にさすがに根負けして、僕は電流を打ち切ると共に両手を広げて迎え入れた。次回からは更に倍の電圧に調整しようかな。


「クンクンクン! は~!! 主の匂い、主の匂い――むむっ!? 知らない女の臭いがするぞ~!?」

「鼻鋭いなぁ。別に抱いたわけでも無いのに……」


 ガバっと僕に抱き着いたトゥーラは激しく尻尾を振りつつ、狂ったように頬ずりしたり匂いを嗅いできた。かと思えば唐突に目をくわっと開いて上目遣いに睨つけてくる。思い当たる匂いの元はたぶんセレスだな……。


「抱いていないのなら何故こんなにも濃厚な臭いが染み付いているんだ~!? これは少し顔を会わせた程度で纏わりつくような濃さではないぞ~!?」

「まあ同じ部屋に寝泊まりしてるからねぇ……」

「なに~!? 私たち以外の女と同居だって~!?」

「そういきり立つなって。所詮は面白い展開にするために親交を深めてるだけの玩具だから、大切なお前らとは比べ物にならないよ」

「わふん! 主~……!」


 険しい顔をしてたトゥーラだけど、僕がそう答えながら頭を撫でると途端にデレデレした顔になって尻尾を千切れそうなくらいに振る。滅茶苦茶チョロいなぁ。でも僕、こんなチョロい奴に襲われて逆レイプされたんだよなぁ……。


「……それで、ご主人様の計画とやらは順調なのか?」

「うーん、順調とは言い難いかな……最初は邪神の城の周辺調査って話だったのに、邪神の討伐を事実上強制されたんだ。しかも戦力になるのは僕を除いて三人だけで、他は使えないゴミ屑連中。幸先悪いとかそういうレベルじゃないよ」

「おいおい、依頼内容の虚偽申告とは穏やかじゃないな~?」


 頭イってるかと思えばちゃんと話は聞いてたみたいで、トゥーラは僕にスリスリしながら呆れたような声を出した。

 一応元ギルドマスターとしては多少思う所があったんだろうね。幾ら素行の悪い冒険者相手とはいえ、罰や指導と称してボコってたコイツがどの口でほざいてるのかは分かんないけど。


「まあ国の危機って事を考えると仕方ないんじゃない? 実際周辺調査ですら碌に質も数も集まらなかったわけだし」

「だからといって虚偽は良くないな~。冒険者との関りで大事なのは信用だというのに、それを蔑ろにするとは信じられないよ~」

「僕としてはお前が正論言ってるのが信じられないんだわ」

「わふ~ん!」


 両手で頬っぺたをわしっと掴んでむにむにしてやると、やっぱり嬉しそうにデレデレと表情が緩む。ほんのちょっと会わなかっただけでこの様だよ。いや、元からこんな奴だったかな? 分かんないや!


「冒険者たちをどうするかに関しては……邪神の城に辿り着くまでそれなりに時間があるだろうし、対応策は道中で考えるかなぁ。邪神目線で見るとむしろ貧弱な戦力の方が好きなように料理しやすくて有難いからね。とはいえ本当は僕こそが邪神なのに邪神討伐しに行くってのは、後々かなり面倒そうで気が重いけどさ」

「主は大変そうだね~? ストレスが溜まっているなら、私で発散しても良いんだよ~? 私はどんな形だろうと、主の役に立てるのなら喜んで受け入れるよ~!」

「お前何したって喜ぶじゃん、このマゾ犬がよぉ?」

「クゥ~ン!」


 瞳を輝かせて実に奉公精神溢れる事を言い放つトゥーラ。僕はそんなマゾ犬の犬耳をぎゅっと掴んでわりと強めに引っ張ってやった。そしたら気持ち良さそうに鳴くんだから手に負えないわ。駄目だコイツは。


「……まあ確かにお前の力を借りる必要も出てきそうだから、その時は頼らせてもらうよ。期待してるぞ、トゥーラ?」


 とはいえ邪神一派は慢性的に人材不足。だからこんな変態マゾ犬でも、場合によっては頼らないといけないのが悲しい所。そういう時にしっかり働いて貰えるように、僕はできるだけ期待を込めて口にした。


「は~!? 主が私に期待を寄せている~!! これは粉骨砕身の気概で頑張らなければ~!!」


 そしたらドロッドロの笑顔で尻尾ぶんぶん振りながら、またしても僕に抱き着いて頬ずりとかしてくる始末。

 今頼れるのがこんな奴しかいないなんて、心底悲しいなぁ。ベルも同意見なのか、甘えまくるトゥーラを困惑気味の顔で見てるよ。


「……ご主人様よ、本当にこれに頼るのか?」

「いや、不安になる気持ちは分かるよ? でもコイツは悔しい事に有能だし頭も良い方なんだよ。こんなイってる笑顔で僕に甘えてる姿見てると嘘にしか思えないけど」

「むぅ……まあ、ご主人様がそこまでの評価を下すのなら大丈夫だろう。しかし手が足りないのなら言ってくれれば私も手伝うからな? ご主人様に受けた恩は到底返しきれるものではないが、だからといって恩返しを諦めて甘受する怠惰な輩ではないぞ?」

「気持ちは嬉しいんだけど、お前は絶対過剰戦力なんだよなぁ……」


 働き者なメイドは協力を申し出てくれるけど、コイツの力を借りる場面が早々思い当たらない。何せ僕でも殺しきる、あるいは封じる方法が未だに思いつかない相手だ。一応幾つか案が無いわけでも無いが。

 ともかく、こんな化物が必要になる場面は無いと思う。無いよね? さすがにコイツの力が必要な場面が来たらちょっと困るぞ?


「……まあいいや。もしもの時はお願いするよ」

「うむ、任せろ! 必要とあらば私の真の姿を解放して、生きとし生ける者全てを蹂躙してやるぞ!」

「物騒の極みだぁ……何かお前の方が邪神っぽいんだよなぁ……」


 真の姿を解放するっていう歩くSANチェック状態になる事を力いっぱい宣言するベルに、僕は反射的にそれが作る事になる地獄絵図を思い浮かべちゃったよ。もうコイツが邪神で良いのでは?




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