表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第11章:邪神降臨
299/527

クルスVS高ランク3人

⋇続きと決着






 ついに幕を開けた、高ランク冒険者四人による大乱闘。しかしその実態は三人の高ランクが哀れな低ランク冒険者に落ちた僕を一方的に囲んでボコるという、リンチそのものとしか思えない酷い戦いだった。


『――雷鳴斧!』


 正面から斬りかかってくるのはカレイド。戦斧からバチバチと電気を撒き散らしながら、僕を真っ二つにする勢いで容赦なく連撃を繰り出してくる。速度こそ遅めだけどそれを補って余りある破壊力、そして効果範囲だ。まともに食らえばそれでザックリ。ギリギリで避けても受け止めても、戦斧から放たれる電撃で身動き止められて終わり。実に嫌らしい戦法だ。


「――ゲイル・スラッシュ!」


 挟み撃ちにする形で背後から攻撃してくるのはセレス。カレイドの攻撃に巻き込まれないよう、そして僕からの攻撃を受けないよう、適度な距離を保って風の刃を放つ武装術や魔法で攻撃してくる。それも僕がカレイドの攻撃に対処するなり避けるなりした隙を狙ってだ。マジで嫌らしくて涙が出てくるよ。


「――ストーン・ピラー! サンド・ホール!」


 そして安全圏からクソみたいな妨害行為を仕掛けてくるのがラッセル。さっきから僕の足元の地面にちょっとだけ障害物を作ったり、突然穴を作ったりして僕の動きを猛烈に嫌なタイミングで阻害してくる。

 しかも魔法で僕の動きを阻害しつつ、短剣やら針やらを投げても来るんだから滅茶苦茶煩わしい。デバフや妨害が一番ウザいってはっきり分かんだね。


「苛めだ! これは絶対苛めだ!」

『喋る余裕があるほど楽に捌きながら何を言う』

「苛めというならこっちの台詞です。三人がかりで攻めていて未だ手傷を追わせられないほど実力に差があると思い知らされているのですから」

「ちょっとだけ! ちょっとだけで良いから当たろう! ね!?」


 僕が半泣きになってみせても、一向に攻めの手は緩まない。さすがに高ランク冒険者。泣きの演技をしたくらいじゃ手加減はしてくれないか。

 まあ実際普通に捌いてるもんね。六十倍の思考や反射神経の加速なら、隙を突かれたって反応するのも訳はない。それに僕だって与えられた力にかまけて努力を一切してこなかったわけじゃないしね。たまに犬猫と模擬戦したりしてたし。だからってリンチされてるみたいな不快な気分は消えないが。


「クソぅ、さすがにもう我慢の限界だ! 嬲る趣味はあっても嬲られる趣味は無いし、ここらでそろそろ反撃に出るぞ! 炎の竜巻(フレア・トルネード)!」

『むっ!?』


 防戦の中に訪れた一瞬の隙を見て、僕は自分を中心に炎の竜巻を生み出した。突然燃え盛る炎が現れたせいで危うく飲み込まれかけたカレイドが、警戒してすぐさま距離を取った。炎の竜巻が壁となって向こうからはこっちが見えないけど、僕は色々できるからそれぞれの位置が丸分かりだぜ。


「まずは君からだ、セレス! 覚悟しろ!」


 僕は炎の竜巻の中でそう叫ぶ。

 え、何でわざわざ狙う敵を教えるのかって? だって狙わないもん。ただのブラフだよ。こうすりゃ全員僕がセレスを狙うって思って隙が生まれるでしょ。

 だから僕は三人が見当違いの方向に警戒を向けた隙に、別の方向へ一気に駆け出し炎の竜巻を突き破った。


「――と見せかけてぇ!」

「なっ!? 狙いは僕か!」


 本命は一番ウザい事をしてくれたラッセル。一番ウザいっていうのは一番脅威だって事だから、まずはコイツを潰そうと思ったんだ。幸いにも三人とも僕がセレスを狙うって引っかかってくれたみたいで、陣形が若干乱れてて狙いやすかった。

 さっきまでカレイドの背後に隠れる形になってて狙いにくかったけど、今なら射線がガラ空きだぜ!


「当然っ! 最もウザい奴を真っ先に潰す! 食らえ!」


 ラッセルに向かって一直線に駆けつつ、魔法で牽制する。行使した魔法は地面から鋭く尖った石柱を幾つも飛び出させ、津波のように殺到させる魔法。それを駆ける僕の右側に先行する形で発動した。

 本当なら直接ラッセルの足元を狙う事だってできたよ? でもこれはあくまで牽制だし、そもそもラッセルを狙ったものじゃない。


『させんっ! はあっ!』


 ラッセルに向けて迫る鋭い石柱の数々を、ギリギリで間に割って入ったカレイドが戦斧で薙ぎ払おうとする。うんうん、来てくれたね? 想定通りだ。


「――かかったね?」

『むっ!?』


 最初からこの展開を狙ってた僕は、すぐさま魔法の性質を変更。鋭い石柱を全て泥へと変化させ、カレイドの振るった戦斧を受け止めさせる。そして戦斧ごとカレイド本人を泥に飲み込ませ、頭だけを外に出した状態ですぐさまガチガチに硬化させた。破壊不能だとさすがにおかしいから、硬度は鉄よりやや上くらい。


『ぐっ、これは……!』


 これでカレイドは溶かした鉛に沈められて固まったみたいな状態で身動き取れず、やむなくリタイアだ。

 こんな絡め手で無力化するのはちょっと悪いとは思ったけど、コイツ正面から戦うとかなり面倒そうだからね。ただでさえ巨大な戦斧を軽々扱うパワーキャラなのに、身体や戦斧から電撃を放ってくるんだもんよ。レーンとの模擬戦で瞬殺されたせいで電撃にはちょっと嫌な思い出があるし、下手に本気を出される前に無力化させてもらいました。まだまだ引き出しありそうだったし。


「カレイドさん!? くっ、近づかせません!」


 カレイドを無力化しつつ次の標的へ駆けると、ラッセルはすぐさま僕から距離を取ろうと後退し始めた。それも四本の短剣を僕に向かって一息に投擲して、魔法で小さな風の刃を五本近く放ち、更に地面から拳大の石を十個近く撃ち出しながら。

 散々嫌らしい攻めをされたおかげで、僕はラッセルの大体の実力や能力も把握できてる。ラッセルは魔力を節約する傾向が多いのは確かだけど、その分技術面はかなり抜きん出てる感じだ。何と言っても魔法を同時に複数行使しつつ、暗器を飛ばして攻撃してくるっていうなかなか羨ましい脳の処理能力を持ってる。

 魔力の低さを補うためにそういう技術を身に着けたのか、あるいは才能か。いずれにせよイメージが重要な魔法を複数同時行使できるっていうのは、この世界じゃかなり稀有な能力だろうね。両手両足それぞれでペンを握って、それぞれ違う記号を同時に描けそう。


「別に近付く必要はないよ。視認さえできれば問題無し」

「何を――く、ぁ……!? い、息、が……!?」


 とはいえそんな小細工が通用する僕じゃない。殺到する暗器や魔法をさっと躱した僕は、ラッセルの周囲の空気を奪って窒息へと追い込んでいく。

 一応は僕だって工夫や小細工してるって分かるように、奪った空気は僕の左の掌へと集めてね。しかしどうしよっかな、この圧縮した空気……。


「更に、重量圧(グラビティ・プレス)! これで君は脱落だね!」

「あぐ……!?」


 念には念を入れ、超重力でラッセルの動きを封じる。さすがにここまでやれば、まだ動けたとしても敗北を受け入れてくれるでしょ。じゃなきゃこの結構な圧縮具合の空気弾ぶつけるぞ――って、アレ? 僕もう空気を奪うのやめてるよね? じゃあ何でこんなビュウビュウと風が吹きすさんでるんだ……?


「……うわぁ」


 風が流れる先を辿る様に背後を振り向いた僕は、思わず眉を顰めた。十メートルほど離れた距離にセレスが立ってたんだけど、まあそれ自体は別に良いんだよ? ついさっきまで炎の竜巻は消さずに残して牽制してたしね。

 問題なのはセレスが両手で長剣を握って、僕に向かって突き出すように水平に構えてた事。そして周囲を吹きすさぶ風がその剣に集約され、僕の左手に集まった空気の塊を上回る圧縮具合に至ってた事だ。

 いや、確かに僕はあくまでも空気を奪うのが目的だから圧縮度合で負けても不思議じゃないけどさ……君、ちょっと殺意高くない? 大気が歪んで見えるレベルで圧縮してるよ?


「行くよっ! エアロ・ブラストぉ!」


 そして、空気弾が発射される――いや、アレ空気弾とかいう可愛いものじゃないな? 普通に僕の身長より直径デカそうだし、そんな化物みたいな大気の塊が地面を抉りつつ猛烈な勢いで僕に向かって真っすぐ飛んでくる。どう考えても殺傷力抜群で殺す気満々じゃないか。

 しかもセレスは空気大砲を撃ち出すや否やその反動をバク転一つで消すと、自らが撃ち出した空気大砲を追いかけるようにして突っ込んでくる。躱そうとすれば即座に追撃してくるだろうね。怖いなぁ。


「こんな所にちょうど良い空気弾が! ていっ!」


 そんなわけで実質回避を封じられてる僕は、ちょうど持ってた空気の塊を真正面から投げつけて相殺を試みた。

 とはいえもちろん圧縮度合も大きさも向こうが上だから、何の工夫も無くぶつけたって意味が無い。意図的にやってるのか偶然そうなってるのかはともかく、空気大砲は銃弾みたいに螺旋を描きながらすっ飛んできてるから、ちょうど逆方向にもの凄い回転を加えた上でぶつけてやったよ。圧縮空気の塊同士が正面からぶつかり合って、周囲に衝撃波染みた暴風が発生する。


「――嘘っ!? 相殺された!?」


 幸いにして過剰に加えた回転が良い働きをしてくれたみたいで、無事に相殺する事ができた。周囲に弾けた暴風も、体勢を崩すほどじゃないから問題無し。精々服の裾や髪を強くなびかせるレベルだ。

 とはいえ自慢の空気大砲が消し飛ばされた事で、セレスはちょっとショックを受けたっぽい。明確とは言わないまでも若干集中が乱れて走る速度が落ちてる。それでも滅茶苦茶速いから遅いわけじゃないけどね。


「じゃあ、これでどうだぁ! ウィンド・ブレイドぉ!」

「おっと」


 そしてセレスは何をトチ狂ったのか、まだ明らかに五メートルは距離があるのに長剣を振るう。当然そんな距離じゃあ槍だって届かないんだけど――キィン! 首を守るように構えた僕の剣に明確な衝撃が伝わってきた。間違いなくセレスの斬撃は五メートル先から届いてる。

 その秘密はセレスの長剣から伸びる風の刀身。ちょっと見えにくいけど、風で刀身を形成してリーチを伸ばしてるっぽいね。しかも風の刀身は竜巻みたいに激しく渦を巻いてるせいか、防いでる剣がチェーンソーでも受け止めてるみたいにギャリギャリ音を鳴らしてる。

 さっきから使ってる魔法で分かる通り、セレスは主に風や空気に関しての魔法を得意としてるんだ。あの素早さは風で自分の身体を押して素早く動いてて、無音の太刀は恐らく空気抵抗をどうこうして剣速を上げた結果音が聞こえないんだと思う。刀身伸ばしたりもしてる辺り、なかなか使いこなしてるよね。カレイドは電気、セレスは風に何か思い入れでもあるんだろうか。


「まだまだ行くよっ!」

「うおっと!?」


 などと考えてると、セレスは一端鍔迫り合いをやめて猛烈な連撃を繰り出してきた。

 ただの連撃なら防ぐのは簡単だけど、セレスが繰り出してくるのは注意して見ないと視認できない風の刀身による連撃。それも刀身は五メートル以上あるのに実際は八割以上が風で形作られた剣だから、まるでその長さを感じさせない化物みたいな速度で斬りつけてきやがる。それでいて遠心力はしっかり反映されてるんだから凄いパワーで恐ろしいわ。どんだけ僕を殺したいの?


「いや、本当殺意高いなぁ……でも君みたいな容赦無い子はわりと好みだ! 好感度が上がったぞ!」

「ふえっ!?」


 あまりの容赦の無さに好感度が上がった事実を口にすると、セレスは顔を真っ赤にして剣戟の手を止めた。そういうつもりは無かったんだけど、どうやら精神攻撃をしちゃったみたいだ。恋する乙女の反応しちゃってまぁ……隙だらけだぜ!


「――はい、君も脱落ね?」

「あっ!?」


 そんな隙を見逃すわけも無く、僕はさっさと肉薄してセレスの喉元に剣の刃を突き付けた。

 何か自分でもあんまり納得いかないけど、真剣勝負の最中に集中を乱す方が悪いって事で。一応セレスもこの状態から反撃してくる事も無く、すぐに風の剣も収めてくれたよ。顔真っ赤にして震えながら恨みがましく睨みつけて来てるけど。


「う、うぅっ……クルスくんの卑怯者ぉ……!」

「僕は悪くない」


 何にせよこれで僕の勝利。無事に高ランク冒険者三人を下すことができたぞ。そこそこまともな戦いもできて満足だし、ある程度セレスたちの戦い方や実力も把握できたし、結果としては申し分ない戦いだったね? これなら万が一邪神としてこの三人と戦うことになっても、煮るなり焼くなり好きに出来そう。いやまだどうするかは決めてないが。



 



『まさかこれほどとは思わなかった。潔く敗北を認めよう。俺たちの負けだ』

「悔しいですが、力の差は歴然のようですね。認めないわけにはいきません」

「こう言っちゃなんだけど、お前ら見た目に反して物分かりとか潔さが段違いだよね。ぶっちゃけかなり好印象だよ」


 戦いを終え、聖人族奴隷による治療が済んだ後。カレイドとラッセルはその見た目に反して滅茶苦茶素直に自分たちの負けを受け入れ、僕の勝利を称えてきた。

 無骨な全身鎧を纏って巨大な戦斧を使うパワーキャラと、ちょっと生意気そうで神経質そうに見える犬獣人ショタだし、見た目だけならどっちも素直に敗北を受け入れ無さそう。でもこの二人は見た目に反してかなり真面目で誠実だしなぁ。


「ぶー……」

「それに比べて、こっちの子はさぁ……」


 逆にいまいち敗北を受け入れてない、というか納得してないのはセレスだ。素直に敗北を認めた二人と違って、頬を膨らませて機嫌悪そうに地面を足でザクザク削ってる。まあセレスはちょっと負け方が悪かったからね……。


「一太刀くらい受けてくれても良かったのに……クルスくん酷い!」

「挙句あんな殺意漲る一刀を身体で受け止めろと? 僕に死ねって言ってる?」

「だって擦り傷の一つも与えらなかったんだもん! こんなの悔しい! クルスくん、今からでも一太刀受けて!」

「嫌ですが? 何を言ってるんだ君は、サイコかよ」


 相当悔しかったのかセレスは再び獲物を取り出し、戦意を漲らせながら構える。あまりにイカれた事言っててちょっと引きそうになったよ。おかしいな、セレスは僕の真の仲間たちと違って普通の恋する乙女だったはずなのに。


「一回だけ! 一太刀だけで良いから!」

「構えがどうみても斬撃じゃなく刺突なんだよなぁ――って、ちょっ!? マジで突いてきやがった!?」


 冗談かと思ったらわりと容赦なく刺突を繰り出してきてマジで焦ったよ。しかも眉間を狙ってきたし殺す気満々じゃん。危ねぇ、獲物取り出した段階でもう一度反射神経その他を加速してたから何とか助かったわ。やってなきゃ頭貫かれて死んでたかもしれん……いや、死んだって大丈夫なように備えてはいるけどさ……。


『ふふっ。負けた事は悔しいが、それほど悪くない気分だ。今回の依頼はなかなか賑やかになりそうだな?』

「そうですね。行き過ぎて少々騒がしくなりそうな気もしますが」

「せいっ! そりゃっ! たあっ!」


 そんな僕とセレスのやりとりを眺めて、微笑ましそうに語るカレイド。若干呆れながらも同じような気持ちを抱いているらしいラッセル。魔法や武装術こそ使わないものの、わりと全力で鋭い刺突を繰り出してくるセレス。

 うんうん、確かに賑やかな旅になりそうだね? でも見てないでそろそろ助けてくんない?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ