依頼偽装
⋇体調不良のため、次の投稿はもしかしたら遅れるかもしれません。投稿前の最期の修正ができないので……。
ちょっと波乱はあったけど自己紹介をつつがなく終えた僕ら四人は、ギルドの人に案内されてギルマスのお部屋へと向かった。
ガショガショ鎧を鳴らしながら歩くカレイドと、その後ろを忠犬みたいに追いかけるラッセルの二人に対して、さりげなく解析を使ってみたら……ラッセルは特に面白みも無い情報しかなかったけど、カレイドに関してはなかなか面白い情報を得られたよ。ネタバレになるから詳しくは言わないけど。
ちなみに言える範囲の情報だと、カレイドが二十三歳でラッセルが十九歳で、実はそこまで年齢差が無いとかその辺りかな。つまりラッセルは合法ショタ。その手のお姉さんが喜びそうだね!
「――良く来たのう? ワシがこのピグロの街唯一となった冒険者ギルドの長、ノックスじゃ。そなたらの事は知っておる故、挨拶は不要じゃ」
そして案内されたギルマスのお部屋で僕らを迎えたのは、実にエロエロしい狐人の女性だ。獣人の実年齢は当てにならないから何歳かは分からないけど、見た目としては二十代半ばくらいかな。
少女じゃなくて女性としての魅力がぷんぷん漂ってくるぜ。女神様に似た口調なのも若干ポイント高い。
「まどろっこしい事は抜きにして、早速本題に入るとするかの。そなたらには下位の冒険者総勢四十四名を率いて、邪神の討伐に赴いて貰う」
「頭おかしいんかこのババ――むぐっ」
「クルスくんストップっ!!」
でもその口から飛び出て来た言葉があまりにもイカれてたから、つい思った事をそのまま口に出しかけちゃった。というか実際出した。最後まで言い切らなかったのはセレスが咄嗟に僕の口を塞いだからだね。段々僕の扱いに慣れてきたね、君……。
「ま、待って下さい、ギルドマスター! 話が違います。僕たちは周辺の調査以来として招集されました。にも拘わらず討伐を命じるなどあまりにも理不尽が過ぎます。それに敵は本来の力を発揮できないとはいえ、大陸を動かし大量の魔物を世界中に放つ事ができるほど恐ろしい力を持った存在です。下位の冒険者では何人いようが無力ですし、五十名にも満たないのならなおさらです」
『その通りだ。これは明確な契約違反ではないか? 少なくとも今回の依頼内容に邪神の討伐は含まれていなかったはずだぞ』
イカれてるって感じたのは僕だけじゃなかったみたいで、僕の口を塞ぐのに忙しいセレス以外は二人とも抗議の言葉を口に出してる。
そうなんだよねぇ。僕らが受けた依頼は邪神の城の周辺調査であって、邪神の討伐は含まれてない。それなのにこの女狐ギルマスは邪神を討伐してこいって言ったから、僕もついつい口が滑っちゃったんだよ。こんなの詐欺じゃんよ。
「そなたらの言い分も尤もじゃ。しかし今は国の存亡の危機。多少の謀も必要悪というものだとは思わぬか?」
「……つまり、最初から邪神の討伐だと教えると依頼を受けない可能性が高いから、あえて周辺の調査依頼として人を集めた――という事ですか?」
「然り。そしてそなたらは騙されたとはいえすでに依頼を受諾し、この場に集った。拒否すれば罰則は免れないのう? 特にそなたは二度目になるのじゃから、降格では済まんのじゃろうなぁ?」
ギルマスがしてやったりと嫌らしい目を向けてくるのは、未だ口を塞がれてて喋れない僕。いい加減手を退けてくれないかなぁ、セレス。手の平舐めちゃうぞ?
しかし随分非道な真似をするもんだ。依頼内容と違う事をギルドが強制するなんて、これはもう詐欺の類じゃないか。しかもさっきの発言から考えるに拒否すれば難癖つけて重い処罰を課す気満々だし、咥えて元々処罰を受けてる身の僕だけはこれを断れそうにない感じだ。まあ本当はギルドを追放されても困りはしないが。
「なんて汚い……! それがギルドマスターのする事ですか!?」
「国の危機じゃ、何とでも言うが良い。ああ、下位の冒険者に関しては相手が相手じゃからな。エクス・マキナとやらの露払いが必要じゃろ? もちろん聖人族の奴隷を二十人ほど、そして<隷器>も可能な限り与えようぞ?」
僕の代わりにガブガブ噛みついてくれてるラッセル君と、てんで恥じないギルマス。
というかこの依頼を出したのって、別にこのギルマスじゃないんじゃないか? 色んな街から冒険者を集めて行う大規模な依頼のはずだし、もしかして冒険者ギルド全体でこの詐欺依頼を出したって事? うわぁ、腐った組織だなぁ……。
「ひゃあっ!?」
さすがにそろそろ僕も口を開きたくなったから、口を押えてくるセレスの掌をぺろりと舐めた。途端に素っ頓狂な声を上げて弾かれたように手が離れてく。悪いとは思うけど、今は結構真面目なシーンだから謝罪とかは後にしよう。
「そりゃあ実にありがたいですねぇ。で? こんな詐欺まがいな真似をする以上、成功報酬とかそういうものは期待して良いんですよねぇ? ギルマスぅ?」
「無論じゃ。成功の暁にはお主らは全員Sランク昇格決定じゃ。加えて金貨三千枚を与えようぞ。全員合わせてではなく、一人につき、な?」
報酬を尋ねてみると、金と名誉の両方を満たしてやるという答えが返ってきた。全員Sランク昇格って事は、僕の罰則での降格が無かった事になるってわけか。これ僕の罰則は最初からこの依頼がある前提で仕組まれてた気がするな? 何かギルマスがドヤ顔してるし。
まあ僕はお金偽造できるし、ランクも別に拘って無いから事実上何のメリットも無いけどな!
「……して、そなたらはどうするのかえ? 依頼を受けるか、拒否するか。この場で決めてくれるとありがたいのう?」
そして全員に対してそう尋ねてくるギルマス。
事実上ほぼ強制なんだよなぁ。何せ拒否したら罰則食らうっぽいし。そのせいかセレスもラッセルも苦渋の滲んだ顔してるよ。カレイドは全身鎧で兜もガッチリだから表情分からん。
「……まあ、僕は受けるよ。成功報酬に興味は無いけど、さすがに資格はく奪は困るしね?」
「えっ、受けるの!? でもこれ、かつてないほど危険な依頼だよ!?」
とりあえず選択肢の無い僕が率先して依頼受諾を口にすると、セレスが酷く不安そうに僕を見てきた。さっき掌舐められたことも忘れて、ただただ純粋に僕の身を案じてくれてるね。やっさしー。
「分かってるよ。でも邪神とかいう奴を倒さないと、いつか僕の恋人たちにも危害が及びそうだしね。どれだけ危険でも弱体化してる今の内に討伐するべきかなって」
『……一理あるな。露払いは下級冒険者たちに任せ、俺達は少数精鋭で邪神と戦う。危険だが有効な手段であるのは確かだ』
どうやらカレイドも僕と同意見っぽい。弱体化してる今の内に叩くのは賛成らしいね。でもそんな命知らずな行為にラッセルが目を剥いてるよ。
「カレイドさん!? まさかこの依頼を受ける気なんですか!?」
『ああ。討伐どころか調査依頼ですら、引き受けた高ランク冒険者はここにいる四人だけのようだしな。俺たちが拒否すれば他に受ける者はいないのだろう。だからこそ金貨三千枚などという法外な報酬を用意しているに違いない』
「然り。調査以来と偽ったにも関わらず、引き受けて集まった高ランクの冒険者たちはそなたら四人だけじゃ。しかも内一人は半ば強制。まさか冒険者たちがここまで腰抜けだとはのう……」
あまりにも人が集まらなかったせいか、ギルマスは呆れたようなため息をついてる。
そのせいで僕はちょっと居心地悪かったよ。だって高ランク冒険者の何人かは僕のせいで再起不能になったり、二度と日の目を見られなくなったりしてるし……たぶん人数少ないのは少なからず僕に原因があるな……。
『つまり弱体化している邪神を討伐できるとすれば、それは俺たちを除いて存在しないというわけだ。故にこの機を逃すわけには行かない。俺は引き受けるぞ、ギルマス』
「さすがじゃな。他の高ランクとは一味違うのう?」
カレイドの勇気ある発言に上機嫌になるギルマス。しっかり大局を読める知恵のある奴がやる気になってくれたんだ。ギルマスとしてはさぞ嬉しいだろうねぇ? これで少なくとも僕とカレイドの二人は邪神討伐に向かうの確定だし。
「……して、そなたらはどうするのかえ?」
「っ……」
「あ、あたしは……」
ギルマスが目を向けたのはもちろん残り二人、ラッセルとセレスだ。片やBランクで戦力としては若干の不安があり、片や依頼を受ける理由も特にない。
それにさっきのギルマスの発言からすると、セレスは僕と違って依頼を拒否しても冒険者ギルドから追放されたりはしないはずだ。だから邪神討伐なんて危険な依頼を受けるより、自分の命を優先するのが当然のはず。
「……決めた! あたしも行く! クルスくんだけじゃ不安だしね!」
しかしそこは恋する乙女。僕だけだと不安だからっていう理由で邪神の討伐に参加を決めてたよ。しかし僕のどこに不安な要素が?
「……僕のどこに不安な要素が?」
「全部っ!」
「ふぁっ!?」
気になって尋ねてみると、僕の全てを否定する酷い言葉が返ってきた。そんな馬鹿な、強さと優しさ、魔力とずる賢さと容赦の無さ、そして人当たりの良い面差し、ありとあらゆるものを持つ完璧な僕がどうしてそんなに不安なんだ。コイツから見て僕は一体どんな人間に見えてるんだ……?
「はあっ……仕方ありませんね、僕も行きましょう。あなたたち三人だけでは不安ですし」
『助かる。お前がいてくれれば心強い』
完全無欠で究極完璧な僕がいるっていうのに、何故かラッセルも不安に思ってるみたいだ。凄い仕方ないって感じで邪神の討伐への参加を決めてくれたよ。どいつもこいつも僕の何がいけないっていうんですかねぇ……。