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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第11章:邪神降臨
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淡い恋心




「それで、ギルドからの依頼って何なの?」

「えっ? あっ、そうそう。ギルドからの依頼だよね。うん」


 しばらく顔を真っ赤にしてたセレステルに声をかけると、袖で頬をゴシゴシと念入りに拭ってから真面目な顔を返してきた。どうやらさっきまで自分が頬に食べかすつけたまま話してた事実に気付いたらしい。普通の女の子的にはめっちゃ恥ずかしいだろうしね。


「君ももう知ってると思うけど、邪神とかいう変な奴の力で大陸が歪められちゃったんだ。そしてこっちの大陸と聖人族の国の大陸が合わさって生まれた場所――北の果てに、邪神が城を建てたらしいんだよ。依頼っていうのは、この邪神の城の周囲の調査とか、その辺の事みたい」

「城の周囲の調査かぁ。邪神の討伐は含まれてないの?」

「うん。依頼内容は城の周囲の探索とか、そこに至るまでのルートの確保とかその辺りで、討伐は依頼内容には入ってなかったよ。事前情報だと周囲にはあのエクス・マキナとかいうのがわんさかいるらしいよ」

「なるほどぉ……」


 とりあえずそれっぽく頷いておく。

 せっかく『今なら超弱体化してるよ! 倒すなら今がチャンスだよ!』ってアピールしたのに、まずルートや周辺状況の把握を行うとは、皆さんなかなか慎重なようで。まあ己の力を過信してる馬鹿や愚か者が辿り着けないように、特に城の周りにはかなりの数のエクス・マキナを配置してるしね。まずはそういった下準備から入るのが妥当か。まさかその下準備を他ならぬ僕がやる事になるとは思わなかったが。


「そんな状況で調査に行かせるって事は、武器とかは融通して貰えるって考えて良いのかな?」

「うん。聖人族の奴隷を付けるのはもちろん、<隷器>も支給されるみたい。それに幾つかの冒険者ギルドでの合同依頼だから、結構な人数で挑む事になるんじゃないかな?」

「ふーん……」


 どうやら結構本腰を入れて挑むみたいだ。聖人族の奴隷に加えて、その身体を素材に創った対エクス・マキナ用武装<隷器>も支給されるし。それなら邪神の城にまで辿り着くのも不可能じゃなさそうだな。

 しかし、これって冒険者ギルドが担当する事なの? 国は何してんの? せっかくだから聞いてみるか。


「思ったんだけど、それって本来国が主導でやる事じゃないの? 何で冒険者ギルドがやるの?」

「あれ、君知らないの? 冒険者ギルドは国の傘下にあるんだから当たり前の事だよ? 基本的には放任みたいな形で運営されてるけど、有事の際には国の支持を受けて動く。それが冒険者ギルドなんだよ?」

「あ、そうなんだ。へー」


 気になって尋ねてみると、そんな答えが返ってきてこれにはなかなか驚いた。

 どうやら冒険者ギルドは国から独立した機関じゃなくて、紛れも無く国の傘下にある一組織だったらしい。異世界ファンタジーでは何だかんだで独立権を持ってる組織な事が多いし、実際そうだと思ってたから初めて知ってたよ。へー。


「……え? 本当に知らなかったの?」

「まあね。僕、冒険者ギルドすら無いド田舎の出身だし」

「へー、意外だね……」


 セレステルも僕がこれを知らないとは思ってなかったみたいで、僕よりも驚いてる感じだ。そしてド田舎出身って嘘を口にすると、やっぱり意外そうな顔をしてる。でも信じてないって顔ではないな?

 よし、せっかくだからここで更にたたみかけてみよう。できれば反応を確かめたいし。


「あとド田舎じゃ一夫多妻制も結構あったし、闘技場であれだけブーイングされた意味が最初は全然分かんなかったよ。複数の女の子を娶るくらい当たり前だと思ってたからさ」

「へ、へー……」

「まあ、僕は他者からの賞賛もやっかみもどうでも良いから、もう気にしてないけどね。というわけでこれからも気になる女の子がいたら全力で手に入れるさ。すでに四人いるんだから一人二人増えた所でそこまで変わんないし」

「ふ、ふーん……」


 などとたたみかけると、セレステルは軽蔑の目を向けてくる――わけでもなく、頬を赤らめ恥ずかしそうに視線をあらぬ方向へと向ける。

 軽蔑するでもなく、この反応……やっぱり脈ありだな。しかし今ここでがっつく程の好感度ではない、と。まあほとんど会ったばかりなのに、女が四人もいる男に自分もハーレムに加えてとか抜かす尻軽女では無かったようだ。何なら僕への好意の根底に憧れがある分、僕の女たちよりも遥かにマシな恋愛感情な気がするね?


「ともかく、そういう事なら依頼を受けないわけにはいかないね。その依頼っていつからなの?」

「え? あ、えっと……今から、二十日後かな?」

「二十日後……随分遅めだね?」


  確かに僕こと邪神は弱体化してる期間については何も口にして無かった。でもだからって二十日は普通無いでしょ。邪神降臨の時点から数えると一ヵ月だぞ? しかも現地集合が二十日後で、その上討伐じゃなくてあくまでも周辺調査でしょ? 実際に討伐を行うのはいつになんのかなぁ……。


「うん、足並み揃えるために遅めなんだ。一旦あの聖人族の街とくっついた街――ピグロに集合して、そこから皆で出発するから。今は乗合馬車もちょっと乗れるか怪しいしね……」

「なるほど、そういう事かぁ……」


 どうやらそこまで遅くなるのは主に僕のせいだったらしい。そういや街を襲わせる以外に、街道とかにもエクス・マキナは放ってるしね。その脅威と混乱のせいでインフラにも多大な影響が出てるみたいだ。だから余裕を持って二十日、更に現地集合なわけね……。


「分かった。それじゃあ準備でもしておくかな。結構長くなりそうでかなり危険な依頼っぽいしね」

「うん、その方が良いと思うよ。詳しい内容はこれを見てね?」


 などと口にして、セレステルは依頼書らしきものを取り出して僕に手渡してくる。

 その後、僕らは適度に雑談を挟みつつ依頼に関してお話をしたりしました。必要な事は大体依頼書に書いてあったし、僕に好意を抱いてるセレステルがさりげなく個人情報を聞き出そうとしてきたから、雑談が八割くらいだったけどね。とはいえ話してて疲れない感じの子だから苦では無かったよ。どっかの誰かみたいに話が長いわけでもないしね! 聞いてるか、どっかの話が長い誰か!






「それじゃあね、クルスくん! 邪神とかいう変な奴に負けず頑張ろう!」

「うん、そうだね。一緒に頑張ろう、セレステル?」


 大体三十分ほど楽しくお話をした後、僕はセレステルを見送るために一緒に玄関まで来た。結局真面目な話をしてたのは最初の五分くらいだったけど、まあ普通に楽しかったからいいや。話してて疲れない可愛い子とのおしゃべりは嫌いじゃないよ?

 というわけで充実した時間であった事を示すためにも、ニッコリと笑いかけてあげる。どうだ、僕の渾身の笑顔は。惚れるだろぉ?

 なんて思ってたら、本当に頬をポッと染めてもじもじしだすセレステル。ちょっとチョロすぎない? ここまでチョロいと心配になってくるなぁ……。


「えっとね、クルスくん……もし良かったらなんだけど、その……セレス、って呼んで欲しいな……?」


 おっと? どうやら僕の笑顔にあてられて頬を染めたわけじゃなかったらしい。愛称で呼んで欲しいと自分から一歩踏み出そうとしたせいで恥ずかしがってたんすね。僕の女は変な奴しかいないから、こんな初心な反応されると股間によろしくないな?

 しかしそれはさておき、別段僕をイラつかせないどころか楽しい時間を提供してくれた女の子の頼みだ。なら応えるのはやぶさかじゃないな? 


「――セレス」

「ひえっ!?」


 というわけで、僕はセレステルもといセレスに対して、玄関の扉に壁ドンしながら呼んであげました。とっても真面目な表情を作って、耳元で囁くようにね? 途端にセレスは瞬間的に顔を真っ赤にして固まってたよ。やっぱ僕に惚れてんな、これ?


「それじゃあ気を付けて帰ってね? 機会があったらまた会おう?」

「あ、ぅ……は、はい……」


 やたらに大人しくなったセレスは、僕が促すと素直に帰って行った。もちろん顔は赤いまま、ちょっと心配になるふらふらした足取りで。

 面白いからやってみたけど、少しやり過ぎたかもしれないな? でもあんな普通の恋する乙女そのものな反応、正直言って新鮮で凄く愉快だったし……。


「む~……」

「おう、どうしたそこの変態ワンコ」


 セレスを見送ってエントランスに戻ると、階段の陰からじっとこちらを睨むクソ犬の姿があった。コイツにしては珍しい事にちょっと機嫌が悪そうだ。いつも道化みたいにアホっぽいのにね?


「主は気付いているのかい~? あの女、きっと主に気があるよ~?」

「もちろん気付いてるよ。まあお前らほどのクソ重激デカ感情じゃなくて、この人ちょっと良いかもくらいに思ってる感じだよね」

「む~……!」

「何だ、嫉妬? レーンの時の反応といい、お前も意外と独占欲強いな?」


 どうやら機嫌が悪いのはセレスが僕に好意を寄せていて、なおかつ僕がそれに気付いていて拒んでいないのが原因っぽいね? そういや闘技大会で大々的に僕の女発言をしたのもコイツだし、意外とそういうの気になるのかな?


「心配しなくてもアレが真の仲間になったり、恋人になったりする事は無いよ。そもそも真の仲間の適性も無いしね」

「その割には随分仲が良さそうに話していたね~?」

「盗み聞きしてたんか、お前……」


 犬耳をぴくぴくと動かし、半目で睨みつけてくるトゥーラ。仲良さそうに話してたのを知ってるって事は、応接間での会話も全部聞いてたんだろうな……いや、聞かれて困るような事は話してなかったから別に良いんだけどさ……。


「まあ何かに利用できるかもしれないし、好かれて損は無いでしょ?」

「だからといって~……」


 打算百パーセントの関係である事を伝えても、トゥーラはなかなか不満気だ。僕に従順なメス犬にしては珍しい反応だね。珍しく可愛らしく思えてくるよ。

 だからセレスとの楽しい会話で機嫌も良かった僕は、ニコニコ笑いながらトゥーラを手招きした。ちょっと不服そうにしてるけど僕の命令は絶対だし、トゥーラは逆らわずに僕の元へ歩み寄ってくる。普段ならこんなことはしないけど、トゥーラの頭を胸に抱きしめるようにしながらナデナデしてあげました。


「クゥ~ン! こんな事で私は騙されたりはしないよ~!」

「めっちゃ騙されてるじゃん。何だよその蕩けた顔」


 口では何かほざいてるけど、途端に表情が崩れてデレデレになってるから笑う。フサフサの尻尾もブンブン振られちゃってまぁ……やっぱメス犬だな?


「それにほら、自分に出来る限り惚れさせた後で邪悪な正体を現すっていうのも、ちょっと楽しそうだし。惚れた相手が実は屑で外道なイカれ野郎って知った時の絶望はきっと見物だぞ?」


 頭を撫でてやりつつ、他に考えてた後ろ暗い目的も話す。

 セレスをたっぷり僕に惚れさせた上で、正体と目的をバラして絶望のドン底に叩き落す。そういうのも案外楽しそうだよね? まあ確定事項では無いから結局どうするのかはまだ決めかねてるけどね。利用するだけ利用してゴミのように捨てるのも楽しそうで実に悩ましい。


「あ~……それは楽しそうだ~! ネタ晴らしをする時は私も呼んでくれたまえ~!」


 この答えはトゥーラもお気に召したみたいで、胸の中で満足気な笑みを浮かべながら見上げてきたよ。ついでに絶望のドン底に叩き落す時は見学したいから自分も呼んでくれってさ。全く、趣味が悪い女だなぁ? 



 新キャラ出す度に「コイツいつ死ぬのかな」って思われてそう……。


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