降格処分
⋇性的描写あり
「はー、疲れたぁ……」
邪神の降臨から十日後。忙しない日々がようやく一旦の落ち着きを見せたから、僕は屋敷のリビングでぐでーっとしてた。ちょうど近くにミニスがいたからソファーに座らせて強制的に膝枕させてるよ。ロリにしてはなかなか太腿がムチムチしてて寝心地良いし、上を見上げれば心底嫌そうな顔してるのが目に入ってとても愉快です。
それはさておき、世界情勢について。最初期の混乱自体は大体七日前後で収束したよ。主要な街では奴隷の配備もほぼ完了したし、奴隷の身体を素材にして創った対エクス・マキナ専用武器<隷器>とやらもバッチリ流通してるっぽい。本来は奴隷でも敵種族お断りの聖人族の首都でさえ、今は奴隷と<隷器>でガチガチに武装してるしね。まあ三日に一回くらいの頻度でエクス・マキナに襲撃させてるから、奴隷禁止とは言ってられないか。
あと嬉しい誤算としては、融合した街に加えて国境でもしばらく一時休戦状態になってるらしい。この辺は二日に一回くらいの頻度でエクス・マキナに襲撃させてるから、さすがに敵種族とやり合ってる余裕が無いんだろうね。仮にやり合ったらエクス・マキナたちの半分を引き受ける形になってた相手がいなくなった上、自分たちは大いに消耗した状態で襲撃を乗り越えなきゃいけないんだ。そんなん無理に決まってるよなぁ?
「……敵種族の骨や皮で武器を作って、それでエクス・マキナに対抗するっていうのは予想外で度肝を抜かれたけど、それ以外はまあ想定通りかな?」
何にせよ、特に問題らしい問題も無く第一段階は進んでる感じだ。奴隷の身体で創った<隷器>にこの世界の闇を垣間見たけど、この世界の住人が僕以上のクズなのは今更だから納得の対応だよ。
え、お前の方がクズ? またまたー、僕ほど世界平和のために頑張ってる人はいないよー?
「まさかあんな真似するなんてびっくりよ。同じ人間なのに、何であんな事ができるわけ……?」
などと僕の独り言に応えるのは、ちょっと青い顔をしたミニス。冒険者ギルドで見た<隷器>の製造工程を思い出しちゃったみたいだね? 決して僕に膝枕してるから吐きそうになっているのではないと思いたい。
「そういうお前も初対面で僕を殺そうとしてたじゃん。自分を棚上げにした発言は感心しないな?」
「し、仕方ないじゃない。聖人族は敵だって教えられて育ったんだし、国の命令で徴兵されたんだから、逆らう事なんてできないわよ……それに、正直あんたはあそこで死ぬべきだった屑だと思うし」
「ハハハ、生意気言いやがる。これか? この口が悪いのか?」
「ふぁっ!? ちょっ、やめ――んんっ!?」
ちょっとイラっと来たから僕は起き上がってミニスをソファーに押し倒し、生意気な言葉を吐く口を唇で塞いでやった。そうして生意気な言葉を紡ぐ悪い舌を、僕の舌で締め上げてお仕置きする。声にならない声を上げながら手足をバタバタさせてるのがまた堪らんね? 本気で嫌がってるけど自分に拒む権利は無いって理解してるみたいで、本気での抵抗はしないのがまた興奮を煽ってくる。誘ってんのかな?
「――ご主人様。お楽しみの最中に申し訳ありませんが、ご主人様に客人がお見えです」
「客ぅ? 誰? 僕は生意気なウサギを調教するのに忙しいのに……」
しかし良い所でリビングの扉が開き、ヴィオがそう声をかけてきた。優秀かつ気の利く執事のヴィオは、お楽しみを邪魔された僕に対して申し訳なさそうな顔してたよ。そんな顔するのにわざわざ報告してきたって事は、追い返すことができない類の客かな?
「はい、セレステルと申しています。何でも冒険者ギルドからの使いらしく、ご主人様に下される処分が決まったため伝えにきたとの事です」
「あー、アイツか。それにやっぱり処分が下されちゃうのか。まあ仕方ないな」
どうやら尋ねてきたのは、以前冒険者ギルドで顔を合わせた朗らかで差別意識の無い悪魔っ子らしい。訪問の理由が理由だから、追い返す事は出来なかったんだろう。しゃあない、これはちゃんとお話をするしかないな?
そんなわけで僕は名残惜しさを感じつつも、ミニスにもう一度だけ熱烈な口付けをしてやった。
「ひう……打ち首に、なれぇ……!」
もちろん何度抱かれても決して僕には屈しないミニスがこの程度で堕ちる訳も無く、口の端から唾液を零しつつ若干蕩けた表情で僕を睨んできたよ。僕は快楽堕ちとか大嫌いだから、この反抗的な態度は本当に好き。
「――あっ、クルスくん! ごめんね、急に押しかけちゃって」
応接間に入ると、ソファーに腰掛けてた悪魔の女の子――セレステルがわざわざ立ち上がって声をかけてきた。細かいかもだけどわざわざ立ち上がる辺り、僕としては好印象だ。礼儀のなってない奴は座ったままだったりするからね?
「いや、構わないよ。それにギルドからの使いなんでしょ? 何で君が派遣されてきたのかは分かんないけど」
「早い話があたしにも責任の一端があるからってことで、報告役に任命されたんだ。『敵前逃亡を見逃したー! お前なら連れ戻す事できたろー!』みたいな感じで」
「それは悪い事をしちゃったな。ごめんね? やっぱり軽くやり合った風に演技でもしておくべきだったかな?」
実はあの時ギルドの加工場を出る前に、セレステルをぶん殴ってそれっぽい演技をしておく事も考えた。セレステルは僕を止めようとしたけど僕が実力行使で出て行った、的な状況を演出するためにね。まあそこまでしてやるほどセレステルに入れ込んでるわけでも無かったから、あえてやらなかったし提案もしなかったんだが。
「いやいや、それこそごめんだよ。君とやり合うとか命が幾つあっても足りないよ。あたしそこまで命知らずじゃないし」
僕の謝罪とあの時しておくべきだった演技への言及に、セレステルは若干顔を青くして拒むように手を振った。何でそんな死ぬほどボコボコにすると思われてるんですかねぇ? やっぱり闘技大会で色々はっちゃけたせいなんだろうか。
「それにあたしにも君と同じくらいの罰則を下そうとしたのはギルマスだけで、サブマスはちゃんと君の実力諸々は知ってたからね。確かあの人も闘技大会観に行ってたし。そういうわけであたしはほとんどお咎めなしだから、心配しなくても大丈夫だよ?」
「それなら良かった。完全にこっちの都合で不利益を被らせてたら申し訳ないからね」
眩しいくらいにニッコリと笑ってる辺り、どうやらセレステルは本当に気にしてないみたいだ。コイツは角も翼も尻尾も揃ってる偉い奴のはずなのに、随分人間が出来てるよなぁ? もしかして闘技大会でやりあったあのメスガキが特殊だったんだろうか? いや、でもたまにニカケってバカにされることあるしなぁ……。
とにもかくにも挨拶を交わした僕らは、向かい合うようにしてソファーに腰掛けた。そしてタイミングを見計らったようにノックして入ってきたヴィオが、僕の分の紅茶とお茶菓子をテーブルに置いてから退出して行ったよ。ちなみにセレステルの分も追加で用意した後にね? どうやら応接間に通された段階で出されてたのを全部平らげてたらしい。意外と食いしん坊かな? よく見ると頬に食べかすついてますね……。
「――それで、僕への処罰はどうなった感じ?」
少し紅茶に口をつけてお互いに一息ついた後、早速僕は本題に入った。途端にセレステルの明るい顔がどんよりと曇るのがちょっと笑いを誘う。さっきまで顔を綻ばせて美味しそうにお菓子食ってたからねぇ……。
「うん……だいぶ重い処罰になっちゃったよ。最初からギルドに来れない状態だったならともかく、ギルドに来て指示された行動を途中で放り出したわけだからね。ギルマスは敵前逃亡だってお冠になってたし……」
「だろうねぇ。まあ覚悟の上での行動だから問題無いよ」
実際敵前逃亡なのはほぼ間違いないし、重い処罰も仕方ない。というかそもそも本当は敵前以前に僕こそが敵そのものだからね? それも分からず敵前逃亡ってお冠になってるギルマスが滑稽で笑えてくるから、別に処罰の大きさなんてどうでも良いかなって。
「……大切な仲間は、ちゃんと助けられた?」
「うん。危ない所だったけど、何とか無事だったよ。君が僕を見逃してくれたおかげだね。ありがとう」
「う、ううん、お礼なんて良いんだよ。助けられたなら良かったよ、本当に……」
などと本気で安心したように、ほっと胸を撫で下ろすセレステル。多少とはいえ自分も迷惑被ったはずなのに、コイツちょっと良い奴過ぎん?
「それで? 具体的な処罰の内容は?」
「……AランクからCランクへの冒険者ランクの降格。及び、ギルドからのとある依頼を受ける事。従わない場合、冒険者ギルドを永久に除籍とする……だって」
「ふむ……」
セレステルが若干俯きつつ口にしたのは、一般目線から見ればかなり重そうな感じの処罰だった。二階級特進どころか二階級降格な上、強制的に依頼を一つ受けさせられる。受けなきゃ冒険者ギルドを永久追放。セレステルが晴れない顔をしてるのも分かる内容だ。
でも考えてみて欲しい。僕は元々はCランクになる予定だったのに、クソ犬の要らぬお節介のせいでAランクになった。つまりこの降格はそれが予定通りに戻るだけで、別に痛くも痒くもないね? むしろ有難いまであるレベルだ。
とはいえ強制的な依頼に関してはちょっと不安だな。これ幸いと変な依頼をしてきそう。どっかのジャイアントな益虫――もとい害虫駆除の依頼を押し付けて来るなら僕は冒険者やめるからな?
「ま、敵前逃亡したにしては軽い方じゃない? 世が世なら切り捨てられてもおかしくないし」
「でも、君は怖くて逃げだしたわけじゃないじゃん! 大切な人が危ないから助けに行っただけでしょ!? それなのにこんな処分だなんておかしいよ!」
尤もセレステルからすれば信じられないくらい重い処分に感じたらしい。明らかに怒り心頭って顔で身を乗り出してきたよ。僕の代わりに怒ってくれる気持ちはまあ嬉しくなくも無いけど、真剣な顔してる癖に頬にお菓子の食べかすついてるの何とかなりませんかね?
「真偽は確認できないから仕方ないよ。それに僕は冒険者ランクにそこまで拘りも無いしね。除籍されなかっただけマシだと思ってるよ」
理不尽に対して憤るセレステルに、僕は嘘八百――いや、わりと真実しか含んでないな? ともかく真実を並べ立てる。ランクに拘りないのは本当だしね。あのクソ犬が勝手にAにしただけだし。
「それに、君だけは僕が仲間を助けるために飛び出して行ったって信じてくれてる。まるで我が事みたいに処罰に怒ってくれてる。それだけで十分に報われた気持ちさ。ありがとう」
「わっ……!?」
せっかくだからニッコリと微笑んで感謝を伝えつつ、ポケットからハンカチを取り出してセレステルの頬を拭ってあげた。途端にセレステルは顔を真っ赤にして飛び退く様にソファーに戻る。
えっ、何してるのかって? いや、真面目な話してるのに食べかすがどうにも気になったから。ちょうどポケットにベルが捻じ込んできたハンカチもあったし。いつ捻じ込まれたものかは分からんけど。
「うわぁ……ずるいなぁ、これ……」
人当たりだけは良い僕の笑顔と、誠実っぽい言葉で紡いだ感謝、そしてお菓子の食べかすを僕に拭われた事実から、セレステルは頬を押さえて恥じらいと戸惑いを露わにしてた。
さすがに異性相手に踏み込み過ぎたかと思ったけど、意外と満更でもない様子だ。僕の闘技大会での活躍の話で大興奮してたし、もしかして僕に憧れみたいな感情を抱いてるのかもしれないね? それが根幹にある軽い恋心的なものもあるんだろうか? ふむ……何かに利用できないかな?
真っ先に好意を弄び利用する事を考える安定のクソ主人公