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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第11章:邪神降臨
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ワン・スモール・ステップ




「……あちゃー」

「協力させんのが目的なのに殺しあいを誘発させちまったな。ドンマイ」


 何故か突然始まった魔将VS大天使の戦いに、僕は額を抑えながら呻いた。

 うん、黒いエクス・マキナでルキフグスの妨害をした所までは良かったよ? 実際一騎当千の活躍をするルキフグスをしばらくは足止め出来たしね。ただそこで叩き切った聖人族奴隷の腕を蹴り飛ばして武器にした現場を、聖人族の砦の方からたまたまザドキエルが目撃してたのが良くなかった。

 同胞への仕打ちにキレちゃったらしいエロお姉さんは微笑をピクっと引きつらせて、空から流星の如く突貫してルキフグスを叩き切ろうとしてたよ。そしてそこからは地上で空中で目まぐるしく動きながら切り結ぶ二人。お互いに殺意をぶつけあってまぁ……今現在の国とか砦の状況忘れちゃったんですかね?

 

「うん、とりあえずここはポジティブに考えよう。これでルキフグスはザドキエルにかかりきりになって、エクス・マキナにまで手が回らないはずだ。結果オーライってやつだよ」

「本当かぁ?」

「お、おう、もちろんさ?」


 僕の背中に覆い被さってるキラが顔の横からジト目を向けてくるから、僕はふいっと視線を逸らした。

 本来の予定では黒いエクス・マキナをまばらに何体も配置して妨害していく予定だったんだけど、これ最初の一体以外必要なくなっちゃったな。せっかく突貫工事で百体くらい創ったのに……。


「……テメェのホラはともかくとして、結局あの黒いエクス・マキナはどんな力を持ってたんだ? 近くで魔法が使えないだけか?」

「いや、それだけじゃないよ。近くだと魔力も使えなくなる。あと聖人族と魔獣族の攻撃を、ほぼ同時に当てないと倒せないんだ」


 黒いエクス・マキナの能力と特性は、大体ルキフグスが見抜いた通り。周囲では魔法、武装術が一切使えなくなり、魔力そのものを用いた行動もできなくなる。更に防御面に関しては両種族がほぼ同時に攻撃を当てないと有効打にならないっていう風に強化した。

 まあそれだとあまりにも強すぎるから、強めの攻撃一発でも有効打になれば倒せるくらいに調整したけどね。


「ほぼ同時って……具体的に猶予はどれくらいだ?」

「猶予は二フレーム」


 ちなみにフレームとは一秒を六十分割した単位。だから猶予は秒数に直すと、ゼロコンマゼロ三秒ぐらいだね。さすがにちょっと猶予が厳しすぎるかもとは思ったけど、世紀末な格闘ゲームやってる人はこれくらい見切れるみたいだし大丈夫かなって。実際ルキフグスは見事に二フレーム捉えてたし……。


「ん……まあ、あたしならそこまで難しくはねぇな。ていうか多少やれる奴ならそこまで苦労し無さそうだな」

「だよね。でも攻撃する相方も同じだとは限らないからね。さっきだって奴隷が足引っ張ってたし」

「あー、もしかしてそれ考えて極端に脆く創ってんのか?」

「そうそう。有効打を入れるのはかなり難しいけど、代わりに一撃で倒せるようにしといたんだよ」


 そこまで説明して、ようやくキラも黒いエクス・マキナの貧弱さに納得したっぽい。

 僕はあくまでも世界平和のために脅威を演出しているのであって、世界を滅ぼすわけじゃないからね。出来る事なら滅ぼしたいっていうのは否定しないけど。だってこの世界の奴ら大概クズなんだもん……。


「とはいえ、せっかく創ったのが無駄になっちゃったなぁ……くそぅ……」

「ドンマイ」

「慰めてくれるのは嬉しいけど耳を噛むのはやめて? こそばゆい」


 頑張って急造した百体近くの黒いエクス・マキナが不必要になった事実に泣きそうになってると、キラが僕の耳をガジガジ噛みながら慰めてくれた。

 ていうかコイツさっきから肉体的接触多すぎん? もしかして周りで悲鳴や血が飛び交ってるから興奮していらっしゃる? 悪いけど今はそういう事してる暇は無いよ?






「くたばれ、ケダモノ共がっ!」

「うるせぇ! 貧弱なモヤシ共が! テメェらこそくたばりやがれ!」

「ギャアアァアアァっ!! 俺の腕がああぁぁあぁっ!!」

「いっただきー! オッサンの腕は私が武器として使ってあげるよ!」

「クソが! さっさと攻撃しろよ畜生共!」

「何ですって!? 誰があんたたちみたいな屑のために戦うもんですか!」


 キラを引き剥がして砦に残し、次なる場所へ転移した僕を迎えたのは、地獄というのも生温い混沌と汚物の掃き溜めだった。

 エクス・マキナが大量に蔓延り種族を問わず攻撃を加えてるのに、ほとんど無視して敵種族と殺しあってる奴ら。エクス・マキナをちゃんと意識してはいるけど、対抗するために敵種族を襲って手足を切り落とし武器として使う奴ら。奇跡的に共闘のような状況になりつつも、致命的に合わせる気が無くて一切攻撃しない奴ら。まさにこの汚らしい世界の縮図みたいな、おぞましい光景が広がってるね? そしてそんな醜い光景をバックに、悲鳴と怒号と罵声が織りなすBGMがそこかしこから聞こえてくるぅ……。


「うわー……国境は地獄だったけど、ここはそれにも増して酷い……」


 ここは国境の砦と同じく、聖人族と魔獣族の領域を無理やりに合体させて出来上がった新しい街……なんだけど、この様子だとまだ砦の方が遥かにマシだったね。あそこにいたのは訓練された兵士たちだから、どちらかと言えば優先してたのは敵種族ではなくエクス・マキナの排除だし。

 まあ誰かさんが変な横槍を入れたせいで、魔将と大天使が殺しあってたわけなんですが? 全く誰だろうね、そんな余計な事した奴は。


「おや、来てしまったのかい主~。ここは醜く薄汚いゴミ溜めだから、来ない方が良かったのにな~?」


 僕に気付いたトゥーラが軽い足取りで近寄ってきて、さりげなく寄り添うように隣に立った。何ならすりすりと身体を押し付けてくるけど、最早そんな事は気にしてられないね。それくらいにこの場の惨状が酷すぎる。


「僕の使命はそのゴミ溜めの改革だから、来ないわけにもいかないんだよ。しっかし本当に酷いね、これ……」

「エクス・マキナがいるのだからある程度共闘はするんじゃないかと思っていたが、彼らの屑っぷりを完全に見誤っていたね~。中にはエクス・マキナそっちのけで殺しあう奴らもいるよ~……」


 これにはさすがのトゥーラも呆れたようなため息を零してる。このド変態に呆れられるって相当だぞ。

 しかし本当にこれは酷いなぁ。この街には重要な役割を背負って貰おうと思ってるのに、こんな調子じゃ前途多難だよ。


「うーん……これは脅威が足らないかなぁ? 追加で街中に召喚するかぁ。何百体くらいが良いと思う?」

「そうだね~、大体二百体ほどで良いんじゃないかな~? 見て回った感じ、その程度の数ならここの屑たちでも捌けるだろ~。協力すればね~?」

「協力してくれないとこの街滅んじゃうんだよなぁ。何のためにわざわざ地形をグニグニ弄って、街と街をくっつけたと思ってるんだよ……」


 深いため息を零しつつ、魔法でこの街のマップを出してエクス・マキナを召喚する場所を決めてく。

 この街の役割は二つあって、どっちもかなり重要だ。一つはこの世界のモデルケース代わり。敵対する両種族を一つの街に押し込んだようなものだから、世界全体を見回すよりも遥かに状況が分かりやすいんだよ。ここですらまともに共闘が出来なかったらもうダメだってはっきり分かるしね。

 そしてもう一つは邪神討伐の拠点にさせる事。分かりやすく言うとRPGで言うラストダンジョンの前の最後の街って役割だね。最終的に僕こと邪神は倒されなきゃいけないから、そのために装備を整えたり休息を取ったりする場所を用意してやらなきゃいけないでしょ? ていうかここまで介護してんのにこのクソ溜めみたいな状況よ……。


「やっぱりこういう場を創るのは時期尚早だったんじゃないか~い? もう少し邪神の脅威を認識させてからの方が良かったんじゃないかな~……?」

「僕もちょっとそう思えてきたけど、まあ結果的にはそこまで悪くは無いんじゃないかな? こんな状態でエクス・マキナを無視して殺しあうような奴らはさっさと死んでくれた方がありがたいし」

「そうだね~。救いようのない屑は間引いた方が世界は綺麗になりそうだ~」

「そうそう――というわけで、召喚(サモン)


 トゥーラと軽口を叩きつつ、僕は街中にエクス・マキナを二百体召喚した。たっぷりと間隔を開けて、なるべく疎らになるようにね。別に僕は博愛主義ってわけでもないし、このせいで血の気の多い屑が幾ら死のうが知ったこっちゃないよ。むしろ生き残ってると平和になった世界で問題起こしそうだからさっさと死んでほしいまである。


「うわっ!? またあの魔物がわんさか出て来たぞ!」

「クソッ、奴隷の手が足りねぇ! 不本意だがこんな状況じゃしょうがねぇ……おい、畜生共! 一時休戦だ!」

「お?」


 再び数を増したエクス・マキナの脅威に、ちょうど近くにいた冒険者らしき聖人族のオッサンが耳を疑う事を口走った。この場所は二つの街がぶつかり合った境界線だから、ちょうど向こうに魔獣族の冒険者とかもいるんだ。そいつらに向けて一時休戦だとか抜かしたんだよ。これにはオッサンの近くにいた他の冒険者も正気を疑うような目をしてるね?


「休戦だぁ!? 寝言言ってんじゃねぇぞ貧弱な猿が!」

「コイツら片付けたらテメェらも纏めてぶっ殺してやる! 首を洗って待ってやがれ!」

 

 そして同族でさえ正気を疑う反応するんだから、実際に声をかけられた魔獣族たちの反応は言わずもがな。目の前にエクス・マキナさえいなければ今にも切りかかって来そうなくらい、怒気と殺意のこもった罵声を返してきてるよ。

 せっかくオッサンが平和への小さな一歩を刻もうとしてくれたのに、これはダメかな……。


「……しゃあない。不本意だけどやるっきゃねぇか。コイツらを対峙するまでは共闘しようぜ、オッサン」

「おおっ!?」


 かと思いきや、一人の男勝りな女獣人が境界線を飛び越えてこっちの領域に入ってきた。しかもその口から『共闘』とかいう言葉を口にしながら! マジかお前! 勇者か!?


「おい、正気かよお前!?」

「そうよ! 敵と一緒に戦うとか頭がおかしくなったの!?」

「うるせぇ! だったらテメェは何か良いアイデアでもあんのかよ!」

「あんならあたしにも聞かせてくれよ。このままじゃあたしらの街もヤベェから共闘選んだだけで、本来ならこんな貧弱な奴らと組むとか真っ平ごめんだぜ」


 これにはそれぞれの仲間たちも度肝を抜かれ、考え直すように言われる。でもこのオッサンと男勝り女獣人の決意はわりと固いみたいで、揺れる事は無かった。それでもできれば避けたい手段だったって事は両方の共通認識っぽいけどね。


「そいつらの手足をぶった切って武器として使えば良いだろうが! わざわざ共闘なんてする必要ねぇよ!」

「そ、そうよ! そんな貧弱な奴らの力なんか借りなくても、手足を引き千切ってやれば済む話じゃない!」

「馬鹿が。大人しくんな事させてくれると思ってんのか?」

「同感。やるつもりだってんなら逆にテメェらの手足を素手で引き千切ってやる。それともテメェらは大人しく手足差し出してくれんのか?」

「くっ……!」

「っ……」


 説得は不可能と思い知ったらしく、二人の仲間は忌々し気に二人を睨みつける。

 まあこの二人は自分で判断し一歩を踏み出した主体性抜群の奴らだからね。『敵は滅ぼすべし! 理由はどうでもいい!』なんて流されてる奴らに説得ができるわけもない。もう少し自分の考えを持ってから出直してきな。


「畜生と手を結ぶなんて、このイカれ野郎め! 勝手にしやがれ!」

「裏切り者! 魔獣族の面汚し! あんたなんかもう知らないわ!」


 やがて敵と共闘する気の頭おかしい二人に愛想をつかしたみたいで、二人の仲間たちはさっさとこの場を去って行った。もちろん周囲に蔓延るエクス・マキナは無視する形でだ。そうなれば当然、単純なプログラムしかしてないエクス・マキナは一番近くにいる知的生命体を狙う訳で……おっとぉ、この二人をターゲットにしてわんさか集まって来たぞぉ?


「……さて、邪魔者もいなくなったしさっさとやろうぜ。足引っ張んなよ、オッサン」

「それはこっちの台詞だ。メス犬がどれだけ戦えるか見てやるよ」


 そんなエクス・マキナの集団に対して、互いに軽口叩き合いつつ正面から突っ込んでいくオッサンと男勝り女。

 直後にエンディング曲が流れそうな感じで、善戦するものの死亡確定フラグがビンビンに立ってる絵面だけど、ちゃんと協力してれば一体十秒もかからずに倒せるから問題無いと思う。それにこの状況下で敵と協力をするっていう賢い選択ができる奴らだし、馬鹿ではないでしょ。

 そもそもコイツらは敵種族との共闘を行動に移した貴重な人種だ。血の気の多い屑と違って利用価値も高いし、はっきり言ってここで死なすには少し勿体ない。危ない場面があってもギリ死なない程度に調整はしてやろう。


「……この一歩は彼らにとっては小さな一歩だが、我々にとっては大きな一歩となるだろう」

「ワフ~ン!」


 紛れも無く協力してエクス・マキナを薙ぎ倒して行く二人の姿に、僕は思わず有名な台詞をもじって感動を表した。クソ犬もこのセリフの元ネタとかは分からないだろうけど、苦労が報われる実に感動的な光景に尻尾を振って喜んでるよ。

 うんうん。一歩にも満たないかもだけど、世界平和に向けてほんの少しだけ前進したね?


 ほんのちょっとだけ前進しました。ただし種族単位ではなく個人単位。

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