各地の確認
「さあ、まだまだ忙しいぞチクショウ!」
屋敷のリビングに戻った僕は邪神の姿からニカケ悪魔の姿に戻ると、忙しさに悪態をつきつつ予め待機させてた仲間たちに目を向けた。
とはいえ今リビングにいるのはリア、そして故郷の家族と電話で話してるミニスだけだ。レーンは一応勇者召喚の義式に参加してたからまだあの辺にいるし、キラとトゥーラは予め別の場所で待機させてるからここにいない。そしてバールはもちろん自分が治めるアロガンザの街だ。世界平和を実現するための人員がたったこれだけって、やっぱり悲しいなぁ……。
「リア、お前は邪神の城で監視だ。無いとは思うけど万が一城に誰かが侵入したら連絡よろしく」
「分かった! ご主人様、頑張ってね!」
予め役割や流れは説明済みとはいえ、大事な事だから再度説明してリアを邪神のお城に転移させる。世界中にエクス・マキナを放ったのに全て無視して城に特攻仕掛ける輩はいないとは思うけど、一応ね? 国境での一幕を考えるに、大天使とか魔将が本気で飛べば音速を突き破りそうな勢いだし、被害は許容して元凶を真っ先に叩きに来るって選択をする可能性も無くも無い。
まあ大天使も魔将も基本は守護者だから、命令も無しに率先して邪神を討伐に来ることは無いだろうけどね。命令を出すはずの王の周囲もだいぶ混乱してるだろうし。
「次は国境だな――キラ、そっちの様子は?」
リアを送り出した僕は、携帯でキラに電話を入れた。
キラは現在消失をかけた状態で、魔獣族側の国境の砦に送り込んでる。何故そこに待機させてたかというと、大陸結合の影響が最もデカくなる二カ所の内の一つがここだからだ。何せ両種族の国境の砦がぶつかりあったかと思えば、歯車と金属の化物が突如として大量に現れるんだからね。混乱もやむなし。
『国境同士が顔合わせたせい滅茶苦茶な事になってるぜ。聖人族と魔獣族、それからエクス・マキナの三竦みの乱戦になってやがる。一時休戦って言葉知らねぇのか、コイツら』
どうやら大体予想通りの展開になってるみたいで、キラですら呆れ気味の答えが返ってきた。電話の向こうから怒号や悲鳴も聞こえるし、もの凄い状況になってそうだ。
「そんなん知ってたら僕の存在は不要だよ。ともかく何か動きがあったら連絡入れてね」
『あいよ』
国境は予想通りに予想以下みたいだから、問題だらけだけどひとまず今は問題無し。電話を切った僕はすぐさま別の人物に電話をかけた。
「――トゥーラ、そっちの状況はどう?」
『いや~、実に酷いものだよ~。突如として地が裂け揺れ動いたと思えば、敵種族の街と融合したんだからね~。あまつさえそこに大量のエクス・マキナが出現~。三つ巴の泥臭い乱戦が繰り広げられているよ~』
「クソが、そこでもかよ。全くもう、これだからクズ共は……」
安定のバトルロイヤル状態に、僕は深いため息を零す。
ちなみにトゥーラがいる場所はちょっと言い表すのが難しい場所だ。何せ半分だけ崩壊に巻き込まれた聖人族の街と魔獣族の街が結合した、全く新しい街にいるんだからね。
なお、もちろんこれは偶然じゃなくて意図的なものだ。このハーフ&ハーフの街は邪神の城に一番近いから、後々邪神を討伐しに行く奴らの拠点として使って貰う予定なんだよ。あとこの結合した街そのものが、これからの両種族のモデルケースとして重宝するんだよね。何せ街そのものが敵種族の街と合体したわけだから。大陸のミニチュアみたいなもん。
とはいえ現状じゃあ相変わらず予想通りの予想以下って状態みたいだ。まあまだ混乱も冷めやらぬ状態だし、仕方ないと言えば仕方ないか。
「まあ良い! 何か状況が動いたら連絡よろしく!」
『了解だよ~』
電話を切った僕は、再度別の相手に電話をかける。さーて、今度はどんな状況かなー? まあ今度は首都だからそこまで酷い状態じゃあないはずだ。そもそも敵種族どころか奴隷がいない場所だし。
「レーン、そっちの状況は? 忙しいから簡潔にお願いね?」
『素早く倒す手段が無いから当然だが、やはり膠着状態だね。追加のエクス・マキナは必要なさそうだ』
「りょ! 何かあったら連絡よろしく!」
やればできる子のレーンが簡潔に説明してくれたから、即座に電話を切る。
やっぱ聖人族の首都は動きが少ないっぽいね。まあ両種族で交互に攻撃しないと速攻で倒せないエクス・マキナが相手なんだから仕方ないか。あそこは奴隷がいないから粘って時間経過で耐性が切り替わるのを待たないといけないし。心持ち少なめに送っておいて良かった。
「最後ぉ! アロガンザ!」
四度目にして最後の電話。僕は真の仲間の最後の一人に電話をかけた。コイツに関しては消失で姿を消させてないから、電話に出られる状況を作ってたのか呼び出しがやけに長かったよ。まあ立場上仕方ない。
『我だ。現在は部下たちがエクス・マキナと交戦中だ。すでに耐性を見抜き、奴隷たちを使って交互に攻撃する陣形を組んでいる』
「はやぁい! 優秀だね、君の部下!?」
そしてしばらくして電話に出たバールが、簡潔に現状を教えてくれた。どうやらすでにエクス・マキナの耐性を看破し、最も効率的に討伐できる陣形を組んでるらしい。これはちょっと予想外かな?
『単純に奴隷を矢面に立たせ、肉壁にしつつ戦っていた結果だろう。とはいえこのままでは脅威が足りん。街中にあと三百。街の外にあと千の追加を頼む』
「チビチビ用意してたストックが猛烈な勢いで減っていくぅ……!」
挙句追加のエクス・マキナを求めてきたから、悲鳴を上げつつアロガンザの地図を出して、どこにどれだけ召喚するかをササッと決めてく。
全く、千三百体も作るのに何日かかると思ってるんだ。少しは一人でエクス・マキナを創り出してる僕を労わって欲しいよ。今日だけで何万体放出したと思ってるんだ……。
「えぇい、追加したぞ! 何か動きがあったら連絡よろ!」
『了解した。貴様も精々頑張れ』
最後に労いの言葉をかけてくれた優しい兄弟にちょっと泣きそうになりつつ、電話を切る。
とはいえもう始めちゃったんだから泣き言言っても仕方ない! 女神様を手に入れるために頑張るぞ、チクショウ!
「――よし! 第一段階は無事進行中! あー、分かっちゃいたけどめっちゃしんどい!」
およそ三十分後。僕はソファーにドカっと身を投げ出して一息ついた。
何せこの三十分で回数分かんないくらいに電話かけたからね? 主要な街、村、特別な理由で保護してる場所とか、色んな場所に潜ませた従順な兵士(洗脳済み)に電話して状況を聞いて回ったし。
正直この人数だと電話じゃなくてもっと別の連絡方法を考えた方が良いかもしれないな? この電話も元はと言えばレーンと連絡を取るためだけに創った物で、それを継続して使ってるだけだし。文明の利器に頼るのも良いけど、ここはクソとファンタジーに塗れた世界。もうちょい魔法的な連絡方法の方が良いと思う。気付くのが今更だがな!
「お疲れさまだ、ご主人様よ。冷たいジュースでも飲むと良い」
「ありがと、助かる――ふうっ、生き返った」
ベル(リアの2Pキャラ)が差し出してきたジュース(百パーセントのブドウジュース)をグビグビ飲むと、疲れた頭に糖分が補給されて少しマシになった気分がした。うんうん、さすがはベル。素晴らしく気の利くメイドだ。これで中身は姿を見たら発狂しちゃう神話生物なんて信じられないよなぁ?
「では生き返った所で悪い知らせだ。冒険者ギルドの人間が来たぞ。何でも高ランク冒険者に召集をかけているだとか何とか言っていたな」
「なるほど、クソが。じゃあ行かないとダメだな、チクショウ」
コップを返すと、ベルは実に腹の立つ事を知らせてくれた。
どうやらエクス・マキナの襲撃が原因で、高ランクの冒険者には緊急招集がかけられてるみたいだ。冒険者ギルドの規約によると、緊急事態にはSランクとAランクの冒険者には招集がかけられる可能性があるってあったんだけど、まさかそれほど切迫した事態なわけ? 少なくともここは聖人族の国の首都と違って奴隷がたくさんいるはずだし、そこまで脅威ではないはずなのになぁ?
ちなみに何が一番ムカつくって、クソ犬のせいで僕はその招集かけられるランクにギリギリ入っちゃってる事。本当にあのクソ犬はよぉ?
「とりあえずお前らは留守番をよろしく。エクス・マキナはこの辺来ないはずけど、避難してきた愚民が来るかもしれないから、もしそういう奴らが入ってきたら一応保護してやって?」
「さすがご主人様。邪神として行動しながらも、表向きの姿と偽りの人柄の良さを演じるのに余念が無いな?」
褒められてるのか貶されてるのか良く分かんないけど、従順で働き者なメイドであるベルはこくこくと頷いてた。
まあ僕の顔は人柄の良さを全力で語ってくれてるとはいえ、それはあくまでも見かけ上の話だからね。内面もちゃんと人柄の良さをアピールしないと、それこそ詐欺だって言われちゃう。
「はあっ……心配してくれるのは嬉しいけど、実情を知ってるせいで凄く胸が痛いわ……」
などと独り言を零してるのは、ソファーで一人膝を抱えて縮こまってるミニス。どうやらいつの間にか故郷の家族との電話を終えてたっぽい。ただその割には妙に疲れた表情してるね?
とはいえそれも仕方ないか。家族は自分を本気で心配してるのに、自分はこの状況が全部演出されたものって分かってるからねぇ……たぶんちょっとした罪悪感みたいなものを抱えてるんだと思う。繊細な奴だなぁ? 対人関係なんて騙してなんぼでしょ?
「クソ田舎の様子はどう? 大丈夫そうだった?」
「クソ田舎言うな。わりと平気そうだったわ。ただ他にもエクス・マキナが来るかもしれないから、警戒は欠かさないって」
「なるほど。だとしたら後でもう一、二体くらい送るのもアリかな?」
真の仲間であるミニスのために、コイツの故郷にはエクス・マキナを一体しか送り込んでない。幾ら小さいド田舎でも住人は全員身体能力の高い獣人だから、特に苦も無く応戦出来てるみたいだ。
とはいえあの村には魔獣族しかいないせいでエクス・マキナの耐性を時間経過で突破するしかないから、倒すのには時間がかかるだろうけど。
「それくらいなら案外大丈夫そうよ。ちょっと村の人たちを舐めてたかも」
「何にせよお前の故郷が大丈夫そうなら問題は無いね。じゃあさっさと冒険者ギルドに行こう。僕はとても忙しいんだ」
「あれだけ準備してたのにここまで忙しないとか、本当に世界平和なんて実現できるのかしらね……?」
とても忙しない僕に対して、ミニスは胡乱気な目をジトっと向けてくる。
何だその目は。さては僕を信じてないな? 一応女神様が望む展開じゃなくても良いなら、すぐさま世界平和を実現する方法だってあるんだぞ? 一回魔獣族も聖人族も皆殺しにした後、全部纏めて洗脳して仲良しこよしにしてから蘇生させるっていう……女神様が絶対拒絶するからやんないけど。
⋇一応その方法で世界平和は実現できない事も無いが障害が無いわけでも無い