奴隷を買おう!
⋇残酷描写あり
⋇胸糞描写あり
初日におぞましい悪夢の口付けを受けた事と、その日の夜にそれを思い出して飛び切りの悪夢を見たことを除けば、極めて順調な馬車の旅。
やっぱり途中に何度か魔物の襲撃はあったけど、それに関しては問題なし。昆虫型の魔物を相方に任せる代わりに、それ以外の総ての魔物を引き受けたからね。まあその相方がたまーにどこからともなく、捕まえた虫をちらつかせて来るのが一番堪えたんだが?
だから三日目からはハニエルと一緒に馬車に乗ったよ。翼がちょっと邪魔だったとはいえ、虫を近づけてもこないし投げつけてもこないから天国だったね。尤もこの世界は天国どころか地獄みたいなクソの極みだけどさ。
あ、そうそう。せっかくだからちょっと気になってたこの世界の地理のことをハニエルに聞いてみたら、手描きのきったねぇ地図をくれたよ。絵心の無さにも驚いたし、この世界の大陸の形にも驚いたね。だって鉄アレイみたいな形してるんだもん。左右が丸くて、間が細くなってるやつ。で、それぞれの大陸の中央に首都があって、それを囲むように幾つかの街があって、まばらに村とかがある感じ。
この世界の成り立ちを考えるに、大陸の形を作ったのはプレートの移動とかじゃなくて女神様なんだよなぁ。せめてもうちょっとマシに作ろ?
「さあ! ついにやってきたぞ、奴隷の街へ!」
何はともあれ、五日目の昼頃。幾つかの村を素通りした馬車の旅の末、僕はついに奴隷の街ドゥーベに辿り着いた。
え、そんな街じゃない? 知るか! 僕にとっては奴隷の街だ!
印象としては首都ほど街は大きくないけど、十分活気があってなかなか賑やかな街だね。正門から見渡す限りでも忙しく行きかう人たちとか、客の呼び込みをする商人っぽい人たちとか色々いたよ。
それと流通の中心って言われるだけあって、街についてから中に入るまで結構な時間がかかった。他にも街に入る馬車とか人とかいたし、どうも身元確認とかも色々してるみたいだからね。ちなみに僕は勇者の証を見せたらろくに調べもせずあっさり通して貰えたよ。
この国の勇者って国の操り人形みたいなもんだから、警戒する必要がたぶん無いんでしょ。詐称とかする意味もほぼないし、大抵黒髪黒目だからか他人が成りすますのも難しいだろうし。
「何だお前、奴隷を買うつもりかよ? 物好きな奴だな」
僕が初めての奴隷を目前にして心を躍らせてると、筋肉ダルマが呆れたような顔をする。コイツは魔獣族に対しての敵意が殺意レベルだから、絶対性奴隷とかはいらない派だろうなぁ。
「何言ってんの? 人間の彼女や恋人にできないことでも、奴隷相手なら平気でやれるでしょ? 僕としてはそういうアレがしたいわけよ。奴隷なら別に壊してもいいんでしょ?」
「ははっ。何だ、勇者様もなかなかいい趣味してんじゃねぇか。そうだぜ、魔獣族の女なんてぶっ壊して使い捨てにしちまうのが一番の使い道なんだよ」
「理解してくれて嬉しいよ。それじゃあ早速奴隷を買いに行こう!」
何だろう、初めて筋肉ダルマと通じ合った気がする。
そっか、僕らは仲間だったんだな。殺す時はなるべく苦しまないように殺してやるか。うん。
「ちょっと待ちたまえ。その前に宿を取るなり街を見回るなり、色々とすべきことがあるだろう? それから私は少々用事があるから、君と一緒に奴隷市場に行くことはできないよ?」
「あ、ごめん。あたしもパス。女の奴隷を買いに行くのに、何が悲しくて女のあたしがついていかなきゃならないんだって話だよ」
「すみません、勇者様……私も、それは……」
「俺もパスだ。反抗的な魔獣族見るとうっかり殺しちまいそうだからな」
「えぇ……」
どうも皆して僕と一緒に奴隷を買いにはいけないみたい。
何だよこいつら、協調性足りないんじゃない? いやまあ、キラに関しては奴隷として扱われてる同族を見ることになるだろうから、避けるのは無理ないだろうけどさ。
「……分かった、街を見回りつつ一人で行くよ。じゃあまずは宿を取りに行こうか。と言っても僕はこの街知らないから、宿まで案内よろしく」
「了解だ。特に誰も希望が無いのならミマスという宿にしようと思う。あそこは奴隷同伴でも問題がないし、防音もしっかりしている宿だから悲鳴を上げても周囲には聞こえない。君が奴隷と何をしようと周囲に迷惑がかかることはないだろう」
「あ、じゃあそこでよろしく。ご配慮ありがとう」
さすがレーン、素晴らしい配慮だ。奴隷が悲鳴を上げるような人でなしな真似を僕がするって思われてるのが凄い癪だけど、確かにその方が都合が良さそう。
「君への配慮ではなく私の精神衛生への配慮だからお礼はいらないよ。それよりも見たまえ、アレが君の望む奴隷さ」
「ん、どれどれ……」
レーンが顔の向きを変えて視線を向けた方向に、僕もじっくり視線を向ける。そこには僕がこの世界で目にする初の奴隷の姿があった。しかも垂れた犬耳のメス奴隷だ!
ん? 何で奴隷って分かるのかって? そりゃボロ雑巾みたいな服を着て全体的に薄汚れた格好のケモミミ少女なんか、この国では奴隷しかいないでしょ。ご丁寧に首には金属製の首輪を嵌められてるし、それはもう濁った死んだ目をしてるし。
あと台車でも使いたくなるような重そうな荷物を、汗を流して一生懸命に運んでるしね。頑張れ頑張れ。
「おい、何トロトロしてんだ! さっさと来いよ、この雌犬が!」
「はい……ごめんなさい……」
「いいか? 荷物落としたら承知しねぇからな? そん時はまた気絶するまでぶん殴った後、一日飯抜きだからな」
「はい……ご主人様……」
そんな健気な奴隷少女を叱り飛ばして、大股で前を歩いていく主と思しき一般聖人族。
また気絶するまでぶん殴るってことは、すでにやった経験がおありなんですね。可哀そうで可愛いなぁ……。
「テメェ、掃除にいつまで時間かかってんだ! サボってんじゃねぇよ、このクソガキが!」
「ぎゃあっ! ひ、ぐっ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
そんな怒声と悲鳴が聞こえてそっちを見れば、ウサ耳のメス奴隷が一般聖人族にひたすら蹴りを入れられてた。蹲って丸まり理不尽な暴行に耐えながら、何度も何度も必死に謝ってる。ああ、何て可哀そう……ヤバい、興奮してきた。
でも僕と違って、通りかかる人たちは誰もそんな光景を気に留めてなかったよ。スゲェな、尻尾とかケモ耳とかがあるって言っても子供がめっちゃ暴力振るわれてるのに、子連れの奥様たちですら華やかに談笑していらっしゃる。この国大丈夫? 狂ってない?
「さすが異世界。基本的人権が息してないね。この僕でさえドン引きだよ」
「アレでも扱いとしてはまだマシな方だけどね。あたし集落とか村とかで、完全にストレス発散のペット扱いされてるのを見かけたよ?」
「そうだぜ。俺もサンドバッグ代わりに何匹か使った事あるし、それに比べりゃ優しい方だろ」
「えぇ……」
ちょっとこの国、地獄過ぎない? もっとこう、奴隷でも最低限人としての尊厳とか保証されないの? ストレス発散とかサンドバッグに使われる魔獣族たちが可愛そう過ぎる。色々他にも使えるのに、もったいない。
「まあこれが今の聖人族と魔獣族の関係という所さ。一般人ですらこれなんだ。国全体で見ればどれほどかは考えるまでもないだろう?」
「だねぇ……」
うーん、本当にこれは世界平和を実現できるんだろうか。仮に実現したとしても、それまでボロクソに扱われてた奴隷たちは怒りや憎しみが収まらないだろうなぁ。奴隷たちのために適度なガス抜きの方法を考えるか、あるいは皆殺しにして憂いを断つか。その辺も考えとかないといけないな。
「……ヒール」
世界平和が実現した新世界での懸念を考える僕の横で、ハニエルがこっそりさっきの奴隷たちに治癒の魔法をかける。
心優しいハニエルとしてはさすがにちょっと見て見ぬ振りができなかったんだろうね。その優しさは美しいと思うよ?
「あっ……!」
でも蹴られまくってた奴隷はともかく、荷物を運んでた奴隷は突然自分の体調に変化が起きたせいでバランスを崩したみたい。抱えてたでかい木箱を落として、何かが割れる音が中から聞こえてきたよ。
あーあ、ハニエルのせいであの子失神するまで殴られて一日飯抜きだわ。善意からの行動だったのにねぇ?
「ここが奴隷市場かぁ……」
宿で部屋を取った後、レーンから場所を聞き出した僕はまっすぐ奴隷市場にきていた。
今は各自自由行動みたいなものだから皆好き勝手色んな所に行ってるみたいだけど、ハニエルだけは部屋でお留守番してる。自分の優しさが引き起こした不幸にかなりショックを受けた様子だったから、仕方がないよね。
あの後ハニエルはすぐに主と思しき人に謝って、荷物も何やら弁償してたとはいえ、向こうからすれば結局奴隷が失敗をした事実に変わりはない。それに公衆の面前で大天使様に頭を下げさせたせいか、一般聖人族は明らかに終始恐縮してたよ。そこを考えるとたぶん謝罪とかをしない方があの犬耳奴隷への罰は軽かったんじゃないだろうか。今頃死ぬまで殴られてるのでは?
まあそんなことは今どうでもいい。それよりも僕だけの奴隷だ!
「右を見回しても奴隷、左を見回しても奴隷。正にパラダイスだね……」
至る所で魔獣族の奴隷のお披露目や品評会的なものが開かれていて、雑巾みたいな小汚いボロ切れを纏ってるケモミミっ子から、素っ裸で後ろ手に拘束されてる悪魔っ子までより取り見取りだ。素晴らしい。実に素晴らしい。
こんな市場が白昼堂々街の中で営業してるんだからすごいよね。せめてもっとこう、裏路地とかそういう場所でやるもんじゃない? 今この場所を普通に子供たちが笑顔で駆け抜けてったよ? やっぱこの国狂ってるのでは?
「すみません……何かお探しですか?」
改めてこの国の破綻具合に想いを馳せてると、一人のデブオヤジが話しかけてきた。
たぶん奴隷商人かな? 何か探るような目をしてるのは、僕がこの場に似つかわしくないとっても純真そうな顔をしてるからだと思う。さっきから他のお客さんにも何でこんな奴がいるんだって目で見られてたし。
「そりゃこんな場所見てるんだから探してるものは一つしかないよなぁ? 奴隷を買いに来たんだよ、奴隷を」
「ほうほう、それは。人は見かけによりませんねぇ。ではどのような奴隷をご所望で?」
「うーん、そこなんだよねぇ……どうしようかぁ……」
問われて、僕は頭を悩ませる。
奴隷は欲しい。その気持ちに間違いはない。でも実はどんな奴隷が欲しいかは全く決めてなかったんだよね。愛玩用、性欲処理用、戦闘用、ストレス発散用、家事用。思いつくのは色々あっても、とにかく奴隷が欲しい気持ちが先走っててその辺全く決めてなかったわ。どうするかなぁ。
「お金に特に糸目はつけないけど、どんな奴隷を買うかは決まってないんだよね。ただもちろん見た目が良い女の子じゃないと駄目っていうのは決定してるよ?」
「なるほど。ではとりあえず順番に見て回るとしましょうか。きっとあなたのお気に召す奴隷が見つかるはずですよ?」
そんなわけで、僕は目の色を変えた奴隷商人に案内されて奴隷を見て回ることになった。
ちなみにお金に糸目はつけないっていうのは本当だよ。あの二セロリクソ王妃から渡された金貨がいっぱいあるし、それが無くても魔法で幾らでも偽造できるからね。
え、通貨の偽造は違法だって? うるせぇ、偽造対策してないのが悪いんだよ!