酬いと期待
⋇性的描写あり
「ちぇりゃあああぁあぁああぁぁぁっ!!」
「はい、いつもの! ぐふうっ!」
ふと気が付くと目の前には憤怒の形相でロッドを振り下ろす女神様の姿! 挨拶も無しにいきなり渾身の一撃! 避けたり捌いたりするともっとヤベー一撃がバカスカ飛んでくるから、僕は大人しく頭蓋のてっぺんで受けました。頭頂部から股間にかけてビリビリとした衝撃が走るぅ……!
「……ついに明日じゃな。ついに明日、邪神が降臨し世界は未曽有の危機に陥るというわけじゃ」
そして頭を押さえて苦悶に転げ回る僕に対して、何事も無かったかのように真面目な話に移る女神様。
たぶんさっきの一発で言いたい事は全て済ませたって事なんだろうね。何をしても良いって言ってたのに説教してくるのは理不尽に思ってたから、これはこれで助かるかな。できればぶん殴るのも無しにして欲しかったけど……。
「全ての準備は整った。三ヵ月の間に色々な問題やそれへの対抗策もできる範囲で考えた。明日からはいよいよ邪神による蹂躙劇の始まりだ。自分たちが争ってる暇なんて無いって事、クズ共の頭に叩き込んでやらないとね?」
世界の平和のために、滅亡ギリギリまであの世界を蹂躙する。そうして自分たちが争っていては生き残れないという事を自覚させ、邪神を撃退するために手を結び力を合わせる事を促す。いよいよ僕がこの世界に送り込まれた本懐を果たせるってわけだ。ここまでえらく時間かかったもんなぁ……。
「……すまない……本当に、すまないのう……」
こんな役回りを押し付ける事になったせいか、女神様は俯いて謝罪の言葉を口にする。
まあ他人にこんな役目を押し付けるなんてありえないもんね。僕みたいな強靭な精神を持つ人間でないと、虐殺や悪事の数々に良心が耐えきれず、それこそハニエルみたいに精神を病んでおかしくなっちゃうだろうし。
「気にしないで、女神様。僕はわりと好きでやってる事だから。女の子の悲鳴とか苦しむ姿をたっぷり楽しめそうだしね」
だから僕は安心させるように女神様の頭を撫でながら、笑顔でそう口にした。実際僕はどれだけ虐殺や悪事を働こうが良心なんてものは疼かないからね。三ヵ月の間に数えきれないほど地下牢の囚人たちを拷問しまくってるけど、寝れない夜を過ごした事なんて一回も無いし。
いや、どっかの犬猫が同時に夜這いをかけて来た時はある意味では寝られなかったか……そこは関係ないから今は置いとこう。うん。
「いや、今のはお主に向けた言葉ではないんじゃが……」
なんて思ってたら、女神様が顔を上げて怪訝な表情で僕を上目遣いに見てきた。
あ、そうですか。じゃあきっとあの世界の奴らに謝ってたんだろうな。勘違い恥ずかしい……。
「……ともかく、始めてしまえばもう後戻りは効かぬ。そして中途半端な結果にもならぬじゃろう。手を取り合うか、仲良く滅びるか、二つに一つじゃ。わらわとしては、手を取り合い平和な世界を築いて欲しいものじゃが……」
「敵意の根が深いからねぇ……僕が相当頑張って情け容赦なく屠って、初めて可能性が出てくるって所かな?」
はっきり言って途轍もなく険しい道のりだ。何せ特に理由も実体験も無く敵種族を憎んでるのが大半だし、中には殺意すら抱いてる奴らもいる。そして相手が敵種族とはいえ、まだ年端も行かない子供相手にすらこの僕が驚くようなえげつない拷問をかます有様。しかもそれを一般市民がやるんだから根が深いとかいうレベルじゃないんだわ。これはもう病気とか呪いのレベルだね。
「……頼むぞ、クルスよ。もうあの世界には荒療治しか残されておらん。何をしても構わん。じゃから、必ずやあの世界に平和をもたらしてくれ……」
苦渋と覚悟の滲む顔で、女神様は改めて僕に頼んできた。
この心優しい女神様が常軌を逸した荒療治を選択するくらいには救いようのない世界だからね。そう考えると、本当に平和を実現できるのかは心底怪しく思えて来るなぁ……。
「もちろん! 女神様のためだし、何より女神様を手に入れるためでもあるからね! 一生懸命頑張るよ!」
とはいえ、成功すれば女神様を自分のモノに出来るとあればやらないわけにはいかない。そして何より女神様の管理下の世界では、魔法は負のイメージすら反映されちゃう難儀な法則がある。病は気からって言う言葉もあるし、まずは平和を実現させられるって強く信じるべきだと思う。
そんなわけで僕は努めて元気よく、明るく頷いたよ。余所行きの人当たりの良い笑顔全開でね。そしてこの僕の自己犠牲系優男主人公フェイスに女神様も感じ入るものがあったみたいで、小さく笑って明るい顔を見せてくれた。
「ははっ。まさかお主に偏執的な執着と歪んだ愛情を向けられている事が、かつてないほど心強く思えてくるとはのう……まともな精神を持つ者ならば、どれだけの褒美を用意しようと決してやり遂げる事などできぬじゃろう。じゃがすでに狂人であるお主ならば、途中で折れずに必ずやり遂げると期待しておるぞ?」
「うん、期待して待っててよ! 必ずあの肥溜めよりも臭う腐りきった世界を平和に導いてあげるよ!」
強靭な男として期待されてるなら更に頑張らないとね! 何かまた部分的に言葉が噛み合ってない気がしたけど、たぶん気のせいだな! うん! 強靭!
「……さて。それでは――レガメント」
「おうふっ!? ちょ、何!?」
なんて意気込みも新たに気合を入れてたら、唐突に女神様が魔法を発動して僕の身体の自由を奪った。まるで見えないロープにがんじ搦めにされてるみたいだ。一体何故にこんな真似を!? 僕に縛られて喜ぶ趣味は無いぞ!
突然の拘束プレイに困惑の極みに至ってると、女神様は僕の真ん前へと歩み寄ってきた。最早密着状態と言っても差し支えない距離から、僕を愛らしい瞳でじっと見上げてくる。
「幾らお主が好き好んで自ら飛び込んで行くと言っても、わらわはお主を冥府魔道に送り込む罪深き存在じゃ。これまでも精力的に活動し、そしてこれからも身を粉にして平和のために邁進するお主に対して、報いの一つでも与えなければ女神の名が廃るというものじゃろう」
そしてそんな事を口にしたかと思えば、僕の両肩に手を置いて背伸びするようにして更に顔を近付けてくる。わぁ、女神様の愛くるしい顔が視界いっぱいに広がってるぅ……!
「お、キス? キスか? 女神様の口付けか? 女神様ったら積極的ぃ!」
「えぇい、うるさい。口を閉じんか、バカタレ――んっ」
寸前に顔を赤くしてジトっと睨んでから、女神様は僕の唇を奪ってきた。ぷっくりと柔らかくて可愛い唇が、くにくにと僕の唇を蹂躙してくるぅ……! 拘束した上で唇を奪うとか、女神様のヘンタイ!
「ぷはぁ……」
このまま舌を絡めてもっと激しく貪り合いたいって思ったのも束の間、少しの間唇を触れ合わせただけで女神様はキスをやめちゃった。残念。
でもまあ女神様が唇を許し、なおかつ向こうからキスしてきてくれるなんて途轍もなく珍しい事だ。贅沢言っちゃいけないよね? 何より少し上気した頬で小さく口を開け、とろんとした表情をする女神様がドチャクソエロいから十分過ぎる。ごちそうさまでした。
「……おお、女神様との口付け。それはまるで天上の甘露の如き甘美な味わいで、僕という存在が世界に溶けて消えていくような――」
「意味の分からん事を言うでない。それに――まだ終わりではないぞ?」
「なん……だと……?」
食レポならぬキスレポを口にした所、女神様は途中で遮ってきたかと思えば非常にワクワクする事を口にしてきた。もちろんクッソ恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらね。
マジか。今のキスで終わりじゃない? じゃあ次はディープな方か! よっしゃ、女神様との体液交換のお時間だ!
「……良いか? これはあくまでもお主の今までの頑張りに報いるためのもの、そしてお主のこれからの働きに期待してのものじゃ。まだ身体をお主に捧げたわけではないのじゃから、そこは勘違いするでないぞ?」
「え? 待って、女神様? 何で僕のズボン脱がせるの? ちょっと?」
なんてキス待ちしてたら、唐突に女神様はその場にしゃがみ込んだ。そして何故か僕のズボンを愛らしいお手々で脱がしにかかってきてる。今にも火が出そうなくらい顔を赤くしながら。
待て待て、どういうことだ? ディープキスじゃない? 待って? 突然の事態に語彙力が消失しそう。
「……一応断っておくが、わらわは経験など無いからな? 上手くできるかも分からんし、報いに値するものになるかも自信が無い。じゃが、精いっぱいやってみよう」
「あ、ちょっ、待っ――!!」
僕の制止も聞かず、女神様は神々の黄昏を開戦した。
うん。あまり詳細な事は言えないけど、とりあえずこれだけは言っておこう。神をも貫かんと雄々しくそびえる神槍は、駄女神の柔らかな口付けにより地に倒れ伏したと。
ヤバそうなので明言はしません。ただ口だけでそれ以上はしてないとだけ。