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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第10章:真実の愛
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決意表明2


「正直平和なんてもんはあたしにとってむしろ邪魔になるんだが、コイツは自分に協力したら理想の殺しをさせてやるって約束してきたからな? そんな魅力的な提案をされちまったら受け入れるしかねぇだろ?」


 偉そうに玉座に腰掛けたキラが、大義も信念も何も無い自身の欲望百パーセントの清々しい言葉を口にしてる。

 改めて皆の意気込みを聞かせて貰おうと思って始めたのに、ここまでカオスで欲望塗れの演説大会になるとは思わなかったなぁ。世界征服を目指す悪の組織だってもうちょっと纏まりとかあるでしょ。それなのにうちはどいつもこいつも見事に目的がバラバラで狂ってる。これを纏めるとか正直胃が痛いね?


「つーわけでコイツとも最初は利用しあう感じの関係だけだったが、今じゃ結構気に入ってるぜ? 何だかんだでコイツの傍は居心地が良いし、一緒にいて退屈しねぇからな。身体の相性も悪かねぇし」

「身体の相性……エッチの相性!?」


 などと口走って、獲物を見るような目で僕を見て舌なめずりするキラさん。やめて、そんな意味深な事言わないで。リアがハッとしたような顔でこっち見てくるから。ていうか相性はどっちかっていうと悪い方だから。人間の僕は素の状態じゃ体力諸々お前に追いつかないから。


「だからコイツが世界平和を目指すってんなら、あたしも最後まで付き合ってやるよ。もし失敗したら、あたしと一緒にこの世界の全ての人間を殺して回ろうぜ、クルス?」

「最後にとんでもねぇ提案してきたな、コイツ……」


 世界平和に失敗したら皆殺し二人旅に出かけようとかいう邪悪なプロポーズに、さすがの僕も顔が引きつるのを抑えられない。まさか僕と新世界のアダムとイヴにでもなるつもりなんですかね? 異常者二人から生まれた子供たちで築く新世界とか地獄の極みになりそうなんですが?


「……はい、次の方どうぞー」

「えぇ……?」


 問題児であるキラが玉座から降りて舞台を空けた所で、気を取り直して次の人に声をかける。でも次の人――ミニスはキラの演説、あるいは全員の演説に相当引いてるらしく、滅茶苦茶気乗りしない表情だった。まあその反応も無理ないわ。僕だってちょっと引いてるもん。

 それでも恐らく一番逃げるんじゃないかって思われてるであろう身としては拒否するわけにもいかないみたいで、ミニスは大人しく玉座の前へと上がった。心なしかウサミミが折りたたまれて縮こまってる。メンタルはともかくとして一般村娘だけあって緊張してるっぽいね。まあコイツ以外は異常者ばっかだから無理も無い。


「えっと――正直私はこの中じゃ場違いも良い所だし、このクソ野郎の事は普通に嫌いだし、歪んだ趣味とか性癖があるわけでもない、普通の村娘よ。途中で逃げるかもしれない奴が誰かって言われたら、それはまあ十中八九私の事でしょうね……」


 やっぱり自分でも分かってたみたいで、自嘲と自棄が入り混じった投げやりな演説が始まった。

 本当にコイツはメンタル以外はすっげぇ普通だもんなぁ。何度かミニスの部屋を漁ってみたけど、変な性癖を示す何らかのモノなんて一つも出て来なかったし。何度もたっぷり丁寧に優しく愛してやってるのに、未だに僕を毛嫌いしてる感じだし。


「でも、私は絶対逃げたりしない。私にはあんたたちと違って守りたいモノがある。何を犠牲にしても惜しくない、愛する家族がいる。お父さん、お母さん、そして可愛い妹のレキ……家族の安全を護るためなら、家族が笑って幸せに暮らせる世界になるのなら、私はどんなに汚れたって構わないわ」


 ただの村娘のはずなのに、愛する者たちを護るために悪に走るという自己犠牲の究極みたいな事を体現するミニス。僕に純潔すら差し出してるから口だけじゃないんだわ、これが。本当にメンタル極まってて好き。 


「だから、家族の身の安全と健康、そして命を保証してくれるこのクソ野郎に、私はどこまでもついていくわ。絶対に、途中で逃げたりはしないから」


 最後に僕とキラをキッと睨みつけて、反抗的にそう言い放つミニス。もうたっぷりねっとり身体を重ねる仲なのに、未だにクソ野郎呼びだからちょっと悲しい。ベッドの上じゃあんなに可愛く鳴いてくれるのにねぇ?


「素晴らしいね。これが村娘の言葉なんだからマジで驚き。世が世なら勇者になれる逸材でしょ、絶対」


 降りてくるミニスに拍手を送ると、他の奴らも程度の差はあれ同じように拍手した。一番付き合いが短いバールとかは比較的感心したような表情をしてたよ。単なるド田舎の村娘がとんでもない覚悟を見せたんだから当然か。


「さて、それじゃあ次は――」

「ついに私の番だね~!」

「うわ出た」


 跳躍してくるりと空中で一回転を決めてから玉座の前に降り立つのは、皆ご存じ変態クソマゾサドワンコ、トゥーラ。待ちかねたとでも言うように無駄に良いキメ顔でポーズまでとってやがる。これ飛ばして次行きたいなぁ……どうせ碌な事言わないよ……。


「私には大義も無ければ信念も無い~! 世界平和などクソ食らえ~!」


 両手を広げ無駄に大仰な仕草で、予想通りの言葉を吐くトゥーラ。

 信じられる? ここにいるのは真の仲間たちなのに、現状三人が世界平和なんて知るか馬鹿って感じなんだよ? こう言っちゃなんだけど、よく今までコイツらを纏められたな、僕?


「しか~し! 私の胸の中には、溢れんばかりの主への愛と忠誠心が宿っている~! 主の幸せこそが私の幸せ~! 主の目的こそが私の目的~! あの衝撃的な出会いと全身を包み込んだ主の激しい愛情に、私はこの身に流れる血の一滴までも余さず主に捧げると決めたのだ~!」


 その場に片膝を付き、胸に手を当てもう片方の手を僕に伸ばして歌うように言葉を紡ぐトゥーラ。

 衝撃的な出会いと全身を包み込んだ僕の愛情って何? もしかして冒険者ギルドで半殺しにした事言ってんの? あれを愛の営みか何かと勘違いしていらっしゃる? マジ引くわ。


「故に、善悪も倫理も法律も関係など無~い! 私は愛する主のため、主の望みを叶えるために全身全霊を尽くすと誓お~う! どうかこの哀れなメス犬を、未来永劫あなたのお傍に置いてくれ~! 主よ~!」


 そうしてトゥーラは僕の足元に跳んでくると、跪いて僕の手を取る。その騎士がお姫様にやるような恭しい所作に、全身に鳥肌が立っちゃったよ。もちろん悪い意味で。一応真面目なシーンである事を考えて横っ面を引っぱたいたりしなかった僕を褒めて欲しい。


「……はい、それじゃあ最後よろしく」

「あ~!? 何のコメントも無いのか~い!?」


 悲し気に叫ぶトゥーラはスルーして、最後の一人に声をかける。最後の一人はもちろんバール。僕の声を受けて、悠々と玉座の前へと上がって行った。歩く姿さえ様になるイケメンだからちょっとムカつくのは秘密。


「――大義や信念、か。残念ながら、我もそのような崇高な理念を抱いているわけでは無い。加えて言えば、この場の誰よりも我の手は血に塗れているだろう。屠った聖人族の数など、千や二千などという数では足りん」


 そして玉座の前に辿り着くとマントをばさりと翻して振り返り、比喩的な意味で汚れた手に視線を注ぎながら自嘲気味に言葉を紡ぐ。

 しかし殺した数は千や二千じゃ足りないのか……良かった! じゃあまだ百人も殺してない僕はセーフだな!


「だが、だからこそ我は知っているのだ。争いが無益で虚しいものだということを。そして聖人族も、魔獣族も、行きつく果ては物言わぬ骸。そこに種族の違いは無い。絶対的な死という概念の元、あらゆる者は平等だ。辿り着く先が同じならば、争いに意味など何もない」


 次いでバールが語ったのは、何だろうな……どうせ皆最後には死ぬんだから仲良くやろうぜ、的な? メメント・モリって感じ? 確かに男も女も老いも若きも聖人族も魔獣族も、死ねばただの肉塊だ。死体愛好家の吸血鬼が言うと説得力があるね?


「故に虚しい争いなど終わらせなくてはならない。敵を討つ事しか考えぬ蒙昧共の目を覚まさせなければいけないのだ。そのために我は貴様らと共に世界を壊そう。どのような犠牲を払おうとも。人は争いで傷つき死を迎えるのではなく、綺麗な姿形を保ったまま死を迎えなくてはならないのだ」


 そして陶酔したような表情で最後に欲望を出すバールさん(死体愛好家)。

 これアレだわ。どちらかというと争いが虚しいから平和を求めてるんじゃなくて、綺麗な死体を求めてるから平和を実現したいんじゃないかな? 真の仲間内ではまともな方だし話も合う方だと思ってたけど、やっぱコイツもイカれてるわ……。


「うん……うん。ちょっとレーンと被ってるね? まあ別にそれは仕方ない事だよね、うん……」


 玉座の前から降りるバールを尻目に気の利いた感想を捻り出そうとするけど、全然出てこなかったよ。最後のバールを含めて、あまりにも散々な決意表明に自然とテンションが下がっちゃうね。初期のア●ンジャーズだってもうちょっと纏まりがあるわ。

 ていうかこれ、僕がいなくなったら簡単に離散するくらいの貧弱な結びつきだなぁ。滅茶苦茶不安だ……こんなんで世界平和を実現できるんだろうか……?


「……何にせよ、これで僕らの中に途中下車するような腰抜けがいないって事は分かってくれたと思う。何か一部世界平和よりも僕個人に対して執着してる奴らがいる気もするけど、まあ目的のために力を貸してくれるなら些細な問題だよね」


 とはいえ、中心でありトップである僕が不安を見せる訳にもいかない。なので僕は努めて平静と余裕を装いながら、再び階段を上がり玉座へと腰かけた。土足で上がった奴がいるからちゃんと綺麗にしてからね。

 改めてみんなの顔を見下ろすと、そこにはやたら自信に満ち溢れた挑発的な笑みが幾つかあったよ。これはきっと『自分は絶対逃げたりしないぜ?』って得意げに示してるんだろうなぁ。自信があるのは良い事だけど、まずはこの目的ガバガバな奴らで世界平和を実現しなきゃいけない現実を心配しよ? その辺理解してるミニスは顔が青くて不安気だし、レーンもバールも微妙そうな顔してるよ……。

 

「レーン、リア、キラ、ミニス、トゥーラ、そしてバール。この腐ったゴミ溜めみたいな救いようのない世界を、皆で頑張って平和に導いてあげよう。そのために、皆の力を僕に寄越せ」


 だからこそそういう奴らを安心させるためにも、なるべく高圧的かつ尊大に眼下の仲間たちにそう命令した。さすがに空気を読んだのか、みんな跪いて了承の言葉を口にしてくれたよ。うんうん、不安しか無いけどみんなで頑張ろうな! ダメだったらもうこんな腐った世界滅ぼそうぜ!



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