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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第10章:真実の愛
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真実の愛



「ああ……こうしてもう一度会えるなんて、本当に夢みたいだ……」


 時系列戻って地下牢のシーン。僕の隣に来たヴィオは、鉄格子越しに三人娘たちに視線を向けて恍惚の表情を浮かべてる。一度は死んだ身だからまさかかつての恋人と再会できるとは思わなかったみたいで、目の端にじんわり涙を溜めてるよ。

 え? 結局ウサギ娘の話は何だったんだって? うるさい、黙って見てろ。今とっても良いシーンなんだからさ。こんな感動のシーンに野次を挟むとか野暮とかいうレベルじゃないぞ。


「……とびっきりの悪夢ね。もう二度と見たくない顔を、もう一度見る羽目になるなんて」

「こっちを見ないでくれない? 汚らわしいわ。さっさと墓場に戻って腐り死んでくれないかしら」

「あっちへ行けです。お前のような人間のクズなど知りません」


 感極まってるヴィオとは対照的に、三人娘の反応は絶対零度。そもそも同じ人間として見てるかすらも怪しい冷め切った目だ。ここまでの反応されるとか相当だよね。僕でさえミニスとだってまともなコミュニケーション取れるのに……。


「知らない、か……君にそう言われると胸が痛むよ。でもそれも仕方ないかな。だって僕がそうさせたんだから」

「何を言っているんです……?」


 そんな辛い反応をされたヴィオは、ウサギ娘――リリアナだけを真っすぐに見つめてそう口にする。リリアナ自身はヴィオが何を言ってるのかさっぱり分からないっていうか、正気を疑ってる感じの反応だ。

 ちなみにこの時点で真実に気付けた方には五十クルスポイントをあげます。なお、強制付与。


「……クルス様、お願いします」

「オッケー。転移(テレポート)

「なっ……!?」


 ヴィオに頼まれた僕は、魔法でリリアナだけを牢屋から通路に転移させる。一瞬で自分の身体を移動させられて驚愕したのも束の間、リリアナは僕らと牢屋の中の仲間たちに視線を向けてどう行動すべきかを逡巡してた。

 ここは脇目もふらずに逃げて一旦態勢を立て直すべきか、はたまたこの場で僕らと戦って仲間たちを今すぐ助け出すべきか。きっとその間で揺れ動いてるんだろうねぇ。でも心配しなくて良いよ。もうそんな事を考える必要なんて無くなるから。


「命令だよ、リリィ――僕の事を、思い出して?」

「――っ!? う、あ、あっ……ああぁあああぁぁっ!?」


 ヴィオがそう口にした瞬間、リリアナは目を見開いたかと思えば突然悲鳴を上げてその場に膝を付いた。そして頭を抱えて地下牢の床をのた打ち回りながら、喉が張り裂けそうな悲鳴を上げ続ける。正直反響してめっちゃうるさいが、ここは大目に見てやろう。

 なお、この時点で真実に気付けた方には十クルスポイントを強制付与です。


「リリィ!? しっかりして、リリィ!?」

「やめろクソ野郎! リリィに何をしてんのよ!?」

「少し静かにしてなよ。これから感動のシーンを拝めるんだからさ?」


 仲間が尋常でない悲鳴を上げて転げまわる姿を目にして、女狐と悪魔っ子がうるさく吠える。口を閉じてやろうかと思ったけど、これから目が離せない感動のシーンが始まる以上、こんな奴らには構ってられない。

 だから僕は注意だけして、転げまわるリリアナとそれを心配そうに見守るヴィオだけに視線を注いだ。


「はあっ……はあっ……!」

「リリィ……大丈夫かい?」


 そしてしばらくして、ようやくリリアナは落ち着いたっぽい。肩で息をしてたけどもう悲鳴は上げず、床に手を着いてゆっくりと身体を起こしてた。そんなリリアナを気遣うように声をかけて、何の警戒も見せずに近付いていくヴィオ。

 まあ、そんな無警戒に近寄れば当然――パァン! リリアナによる容赦ない平手打ちが炸裂した。正直これは仕方ない。もう気付いた人は大勢いるだろうけど、やった事を考えれば平手打ちの一発くらいは甘んじて受けないといけないしね、これ。


「……どうして、どうしてですか? どうして私の記憶を奪ったんですか? ヴィオと真実の愛で結ばれた、何よりも大切で幸せな記憶を」

「え……?」

「は……?」


 平手打ちを放ったリリアナは、瞳に涙を溜めながらそう口にした。まさかの発言に鉄格子の向こうで女狐と悪魔っ子が馬鹿みたいにぽかんとしてる。

 でも理解できてないのはこの二人だけ。後は相当察しの悪い人くらいじゃないかな。ちなみにここからはクルスポイントは付与しません。もう答えほぼ言っちゃってるようなもんだしね。


「……君の事が、何よりも大切だからだよ。だってそうしないと、君は僕と一緒にどこまでも堕ちていくつもりだったよね?」

「当然です。共に悪の道に染まり、共に朽ち果てる覚悟が私にはあったです。何故なら私は――あなたを愛しているからです」


 さっきまでのゴミを見るような目や発言もどこへやら、リリアナは微妙にハイライトが消えたヤンデレ染みた瞳でそう断言した。

 はい、つまりはそういう事です。早い話が、ヴィオが愛するリリアナを巻き添えにしないよう、契約魔術で自分への想いや一部の記憶を封じてたんだよ。それがさっきの命令で解放された結果、抑圧されてた反動と忘れていた間にやらかした自己嫌悪で悲鳴を上げて転げ回ってたってわけ。

 本来のリリアナはヴィオが死ぬほど大好きで、ヴィオの歪んだ性癖も何もかもかなり早い段階で知ってたっぽい。その上でヴィオへの熱烈な好意は一切衰えず、むしろそれを証明するために契約魔術でヴィオへ絶対服従の契約を結ぶ徹底ぶり。あまつさえヴィオが表沙汰にできない欲求に抗い難くなった時は、自らの身を捧げ切り刻ませる事で発散までしてくれたらしいよ。

 そんな健気で愛情深いリリアナにヴィオも心を許して、真の愛情を抱くようになったんだ。それこそ自分の罪が露見した場合は、リリアナだけは絶対に守れるように備えておくくらいにね。

 いやぁ、これぞ真実の愛だよね。話を聞いた時はマジで感動したよ。相手の悪い面も全て受け入れ、何があろうと一途に愛して愛して愛し抜く。特にトゥーラなんかリリアナの献身ぶりを大絶賛してたからね。こんな素敵な真実の愛を語られたら、そりゃあ記憶を封じられたリリアナがやった不敬なんて全部水に流せちゃうよ……。


「それなのに……私の記憶も愛も奪って、あまつさえヴィオが処刑される光景を楽しませるなんて……あまりにも酷いです……! あんな体験をするくらいなら、私も一緒にギロチンにかけられて死にたかったです……!」


 そして真実の愛で結ばれてるからこそ、リリアナはヴィオの仕打ちに怒り心頭って感じだ。一緒に死ぬ事を心に誓ってたのに、自分だけ置き去りにされたようなもんだしね。僕はむしろ一緒に死んでって引きずり込む方だし、リリアナの気持ちは良く分かるぞ。だからこそ今も黙って成り行きを見守ってるわけ。


「……ごめんね。僕は君の事が何よりも大切だから、心から愛しているから、君には幸せに生きていて欲しかったんだ。例え僕の事を忘れて、僕以外の男と一緒に生きていく事になったとしても」

「嫌です! 私にはヴィオしかいません! あなた以外、考えられないです! 健やかなる時も病める時も、そして死ぬ時も一緒が良いです!」

「リリィ……」


 ヴィオの発言に涙を零しながらも、愛と覚悟と狂気を滲ませた瞳で断言するリリアナ。愛しているからこそ、死ぬ時は一緒。そんな深くどす黒い愛情を感じさせる言葉に胸を打たれたのか、ヴィオもうっすらと涙を滲ませてた。


「……うん、そうだね。僕が間違っていたよ。リリィはこんな馬鹿な僕を、許してくれるかい?」

「許さないです! これから一生、ずっと一緒にいて償って貰います!」

「そっか……うん。じゃあこれからはずっと一緒だ。一生君の傍にいて、償っていくよ」

「はい……ずっと一緒です……!」

「リリィ……」

「ヴィオ……!」

「んっ……!」


 そして二人は和解し、抱き合い、熱く唇を重ねた。何せ三十年ぶりの再会、それも本来は絶対にありえない死によって別たれた二人の再開だ。とんでもなく濃厚で激しい口付けを交わしまくってたよ。まるでお互いに食らいあってるみたいだぁ……。


「……どういう、事?」


 僕もちょっぴり貰い泣きしそうになってると、鉄格子の向こうで悪魔っ子がそんな呟きを零す。

 涙なしには語れない感動の再会と真実の愛が目の前で繰り広げられたっていうのに、全く心に響いてないばかりか状況すら掴めてない察しの悪い馬鹿が二人もいるよ。

 いや、一応理解はしてるのかな? 二人とも顔を青ざめさせてるし、女狐に至ってはほとんど凍りついてる感じだ。脳の処理が追い付かないんだろうか? 仕方ない、じゃあ改めて説明してやるか。


「このウサギ娘――リリアナはヴィオの手で記憶を封じられてたんだよ。本当はヴィオの性癖も君らよりずっと前に知ってたし、その上でヴィオを受け入れて愛してた。それこそヴィオが暗い欲求を抑え難かった時は、自らの身体を生贄に捧げて欲求を満たしてあげるほどにね。いやぁ、これぞ真実の愛だね。僕は本当に感動したよ……」

「………………」


 せっかく説明してあげたのに、悪魔っ子まで口をポカンと開けたまま固まっちゃった。脳がバグって処理が追い付かないようで。こんなクソ長い時間ロードしてるとか低スペックな脳みそしてんなぁ?

 なんてコイツらの頭の中を哀れに思ってると、唐突にヴィオたちは口付けを止めて二人揃って僕の方へと歩いてきた。おや、どうしたのかな?


「クルス様、改めてお礼を言わせてください。僕を蘇らせてくださり、そしてリリアナの罪を許して下さり、本当にありがとうございます……!」

「ありがとうございますです。そして……本当に、申し訳なかったです、クルス様。記憶も愛も何もかもを忘れていたとはいえ、ヴィオを蘇らせてくれたあなたに、とても失礼な事をしてしまったです……」


 どうやら改めて礼と謝罪をしに来たらしい。二人とも頬に涙を伝わせながら、何度も何度も僕に深く頭を下げてきたよ。その表情が再会の喜びと僕への罪悪感の間で揺れ動いててちょっと気の毒になるね。僕はもう許したんだから素直に乳繰り合って喜んでれば良いのに。あ、そうだ。じゃあその場を提供してやろう。


「良いんだよ、そんなの。君らは僕に真実の愛っていう尊いものを見せてくれたからね。というか僕にかまけるより、三十年ぶりに再会した恋人と愛を育んできなよ? 空いてる部屋好きに使ってくれて良いからさ」

「ありがとうございます、クルス様! では、その……お言葉に甘えて……」

「し、失礼しますです……」


 僕が遠回しにヤってこいって言うと、二人は微妙に甘酸っぱい空気を醸し出しながら地下牢を出て行った。もちろん二人とも顔を赤くして、恋人繋ぎで手を握り合い寄り添いながらね。かつての仲間たちには見向きもせず、お互いだけをずっと見つめてたよ。二人とも獣人だし、これきっと相当長い間愛を育みそうだなぁ……。


「嘘……嘘よ……こんなの、嘘よ……!」

「ありえないわ……だって、リリィもあのクソ野郎の事は大嫌いで……!」


 ヴィオたちが去ってバグってた二人もようやく再起動したけど、やっぱり現実を受け入れられないっぽい。まあこれに関しては仕方ないかもね。コイツらは同じ男に騙された者同士、三十年間固い絆で結ばれた仲間としてリリアナと背中を預け合ってきたんだからさ。

 それなのに牢屋の中の自分たちの事を全く気にせず、かつての男と仲睦まじい空気を醸しながら去って行ったらそりゃ信じられないわ。記憶を封印されてた時のリリアナは明らかにコイツらと同じクソ女だったしね?

 まあそれはともかく、二人とも良い感じに精神的ダメージを受けてますねぇ? それじゃあここらでお楽しみの時間かな。


「現実逃避はまだ早いよ? だって夜はまだこれからだからね? 僕をイラつかせた分、お前らの身体を徹底的に嬲って壊してやるよ。精々良い声で鳴いてくれると嬉しいな?」

「ひっ!? や、やだ、来ないで……!」

「い、嫌……嫌っ、嫌ああぁぁぁっ!」


 僕がニッコリ笑いながらそう口にすると、女狐と悪魔っ子はお互いに抱き合って恐怖に震えながら悲鳴を上げた。

 さあ、楽しい夜はこれからだ! 盛り上がって行こう!




 というわけで、ウサギ娘は記憶と愛を封じられていただけで、本当は真実の愛を持つ女の子でした。いやー、泣けますねー。

 ちなみに当初の予定ではそんな設定は無く、ミニスと同じく書いてる間に生えてきた設定です。時期的にはこの章の9話「平和のための研究(嘘)」の辺りで。でも結果的に8章の三人娘に関する昔話でのリリアナに関する評価、「ヤンデレ気味」という評価に矛盾が無くなったのである意味良変更……?

 というかミニスも含めると兎獣人だけ二人も命拾いしてるな……私の趣味?

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